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誰も得のしないゲーム【J1第6節】コンサドーレ札幌vs浦和レッズ


前節、磐田に快勝したレッズはアウェイでコンサドーレ札幌と対戦しました。札幌はここまで5分と全て引き分けで勝ちが欲しい状況です。レッズもここで勝利して今シーズン初めての連勝といきたい試合でした。


マッチレポート

スタメン

札幌: 3-4-2-1
浦和: 4-3-3

札幌は前節のセレッソ大阪戦からメンバーを5人変更。トップにガブリエル・シャビエルを配置し駒井と荒野の2シャドー、右のWBに金子というトリッキーな配置となった。

一方のレッズは前節の磐田戦からメンバーを4人変更。伊藤と酒井が怪我でメンバー外となり、小泉と関根はベンチスタート。右SBに馬渡が入り、柴戸と明本が岩尾と共に中盤に入り、磐田戦で鮮烈なデビューを果たしたモーベルグが右WGに入った。


試合内容

最初のチャンスはホームの札幌。前半6分に金子がサイドをえぐりクロス、ショルツのクリアボールをガブリエル・シャビエルが狙うがシュートはゴールの上に外れる。レッズは16分に江坂の左足でのクロスに明本がヘディングで合わせるがゴール右に外れる。レッズは25分に馬渡のクロスボールがPA内での福森のハンドを誘発しPKを獲得。このPKをモーベルグが落ち着いてゴール右隅に流し込みレッズが先制する。38分にレッズは江坂の折り返しにモーベルグが反転しながらシュートを放つもボールの威力は弱く、菅野がキャッチ。43分にレッズはカウンターからモーベルグのクロスにユンカーが上手くアウトサイドで合わせるがGK菅野がファインセーブで凌ぐ。このプレイの直後のCKからレッズが波状攻撃で柴戸やユンカーシュートを放つが札幌DFにブロックされる。前半はレッズの1点リードで折り返す。

ハーフタイムの選手交代は両チームともになく、同じメンバーで後半に臨む。59分に札幌はFKから深井がシュートを打つが犬飼がブロック。72分に札幌は高嶺のクロスを金子がコントロールから素早いシュートでゴールネットを揺らし札幌が同点に追いつく。77分に札幌の荒野が途中出場の松尾への危険なファウルで退場となる。79分にレッズは左サイドで松尾のドリブル突破からクロス、関根のヘディングシュートは明本に当たり枠外へ。数的優位となったレッズは84分小泉がミドルシュートを放つが高嶺がブロック。85分に札幌はカウンターから途中出場の中島が抜け出すが西川が何とか先にボールをキャッチ。90分にレッズはCKから江坂が高い打点でヘディングするも枠を捉えられない。90分+12には小泉のパスから江坂がボレーシュートを打つも僅かにゴール右に外れる。長い戦いとなった試合は1-1の引き分けで終了。


試合結果

明治安田生命J1リーグ 第6節
2022年4月2日(土) 19:03キックオフ・札幌ドーム
北海道コンサドーレ札幌 1-1(前半0-1) 浦和レッズ
得点者 30分 ダヴィド モーベルグ、72分 金子拓郎(札幌)
入場者数 11,345人


・試合ハイライト動画


・試合スタッツ


マッチレビュー

特殊vs特殊

この試合の大きなポイントとしてレッズが対札幌作戦を行ったことです。札幌のボール保持時にはレッズは4-3-3のシステムで対抗しました。札幌はボール保持時には4-1-5気味に可変し幅を使った対角線へのロングボールを主体に攻撃を組み立てきました。

・特殊タスク
下の図のように明本がIH気味にプレイし、江坂、ユンカー、モーベルグの3トップで札幌の最終ラインに圧力をかけました。モーベルグは福森を切りながら高嶺に圧力をかけるという外切りのプレスを行う特殊なタスクがありました。

レッズの4-3-3のプレス

高嶺は左利きなので外側から寄せてくるモーベルグに対しては自然と体が内側に向くので、福森へのパスが出しづらく、左足の精度が高く危険な福森を消すことに成功しました。

その結果、高嶺から対角線へのロングボールが非常に多くなりました。札幌はフィジカルの強い金子を起点にロングボールを送り込みました。

ロングボールが入るとレッズは江坂、明本、大畑の3人でサイドで囲い込み、ボールを奪うポイントにしました。下の図の3:53では田中に入った際にしっかりと囲い込みボールを奪うことに成功しました。

3:53のレッズの囲い込み

明本もIH気味に振る舞う特殊なタスクでしたが1対1で粘り強く対応し守備での貢献度は非常に高かったと思います。札幌のロングボール攻撃に対してしっかりとレッズが対策を行い、準備したものを表現できていたと思います。

実際にヒートマップをみても札幌は右からの攻撃が多く、レッズが上手く誘導できていたと思います。

前半のヒートマップ
後半のヒートマップ

しかし、札幌も後半は高嶺を右CBのポジションに下りるようにタスクを変えたことで、高嶺から菅へのボールも出てくるようになリました。

レッズの失点シーンでは菅へのサイドチェンジが起点となり、高嶺のクロスから金子に決められる形でした。前半ではあまり見られなかった場面でレッズとしてはDFの枚数が揃っていただけに悔やまれる失点でした。

・抑止力
この4-3-3のシステムの良さとしてはカウンターの脅威を常に与えることができることです。レッズがボールを奪った際には江坂、ユンカー、モーベルグの破壊力抜群の前線が控えているので、札幌は不用意に最終ラインの選手が前に出ていくことができません。その結果、福森をあまり攻撃参加させない抑止力に繋がったと思います。

また、43:36のようなモーベルグとユンカーのワールドクラスのカウンターはレッズの1つの武器になると感じました。2人のスピードとテクニックだけで攻撃を完結させることができてしまうので、あの場面はプレミアリーグを観ているかのようなスピード感で圧倒されました。

その一方でレッズの選手たちは「奪ったら前」という意識が強すぎてボールを保持して全体を押し上げるような場面が減ってしまったことも考えなければいけないと思います。特に「奪って直ぐに攻撃、攻撃をやり切れずにボールを失う」というトランジションの速い展開だと岩尾や小泉といったボールがオンの時に活きる選手の良さが出ないので選手の構成を含めて考える必要があると思います。札幌戦に関しては前線が同数なので前に急ぎたくなる気持ちも理解できますが、試合の流れの中で「急いだ方が良い場面なのか?」を判断する力が必要かなと感じました。

1vs1を行う場所

レッズがボールを保持している際には札幌はマンツーマンでディフェンスしてきました。レッズも札幌がマンツーマンでディフェンスをしてくることはわかっていたので、それを利用した組み立てを行っていました。

レッズは下の図のようにあまりリスクを負わずに主に左サイドの明本と江坂をターゲットにロングボールでプレスを回避し、セカンドボールを回収するような戦い方をしました。

レッズのプレス回避

西川以外はマークされている状況なので、フィールドプレイヤーがボールを持つ時には1対1になります。しかし、レッズは1対1をする場所をなるべく高い位置(主に前線の3人)に設定したので、下から繋ぐことに拘らずにロングボールを送っていました。下から繋ぐことで発生する1対1でロストしてのショートカウンターのリスクをリカルド監督は嫌ったのだと思います。

ただ個人的には下から繋ぐだけの力をレッズは持っていると思っていてこの試合でもいくつかビルドアップから良い攻撃がありました。

下の図のように19:05では柴戸が外に流れて中央のスペースを空けておいて、そこにモーベルグが下りてきて動きながらボールを受けたことで一気にチャンスになりかけました。

19:05のビルドアップ


12:24では西川がガブリエルシャビエルを切り返しでかわしてから犬飼がドリブルで前進しました。

12:24

マンツーマンディフェンスは1人を剥がすことができれば数的優位になるので一気にチャンスに繋がります。この試合でも1人剥がしたことで擬似カウンターのような場面がいくつかありました。もう少しリスクを負ってトライしてみても良かったのかなとは思いますが、リカルド監督のリアリストの一面が出た試合だったかなと感じました。

芸のない攻撃

77分に札幌の荒野が退場しレッズが数的優位になりました。やはり1人多いのでそれからの時間帯はレッズが敵陣に押し込むことになりました。しかし、レッズの攻撃は芸のない単調なものになってしまったかなと感じました。

札幌が5-3-1でブロックを敷いてきましたが、レッズはサイドに展開してクロスという単調な攻撃が多くなりました。特にサイドで松尾や馬渡がボールを持っている時にサポートにくる選手が大畑や小泉だけでサイドで孤立している状態でした。前線の選手たちはPA内でクロスを待っているだけで流動性がなく、クロスを入れても札幌に高さで跳ね返される形となりました。

個人的には下の図の89:55のような場面でサイドで松尾がボールを持った時に大畑だけでなくもう1人絡みにきた方が良かったかなと感じました。特に札幌の中盤は3枚なので選手間でギャップがある状態だったので大畑が走って作ったスペースを経由してからバイタルエリアを使うなどの工夫があっても良かったかなと思います。

89:55のレッズの攻撃

また前線の選手もクロスを待つのではなくて、札幌の左右のCBを動かすようなアクションを起こしても良かったかなと思います。左右のCBを外側に引っ張り出すことができればゴール前にはスペースが生まれ、そこに他の選手が飛び込んでくるような攻撃ができます。前線でアクションがないと相手もゴール前に留まることができるので、空中戦では札幌が優位だったことを考慮すると、単調なクロス攻撃ではなく工夫が必要だったかなと思いました。

最後に

この後、清水戦を挟んでACLの過密日程が待っているレッズとして勝点3が欲しかったですし、何より犬飼の長期離脱が痛い結果となりました。札幌サイドも荒野が退場し両チームにとってまさに痛み分けという試合でした。

札幌の特殊なサッカーに対してレッズも特殊な戦術で対応し、途中までは上手くゲームをコントロールしていましたが、ユンカーとモーベルグを下げたあたりからカウンターの脅威も減り、札幌に主導権を渡す形となってしまいました。コンディション的な部分であの時間帯での交代になったと思いますが、今シーズンはコンディションでレッズは苦しんでいるなと感じました。

これからの過密日程は総力戦になってくると思うので、全ての選手の奮起が必要です。まずは1つ一つの試合に全力で戦ってレッズが軌道に乗っていければ良いなと思います。

ACL前最後のリーグ戦、勝ってタイに乗り込みましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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