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究極のテーマと向き合えるか【J1第17節】浦和レッズvs名古屋グランパス

代表期間で一時中断していたリーグ戦が再開しました。3月の磐田戦以来勝利から遠ざかっているレッズはホームで名古屋グランパスと対戦しました。

名古屋は長谷川監督が今シーズンから就任し、昨シーズンとは微妙にチームカラーが変わっています。両チーム共にリーグ戦後半に向けて勝利をして上位進出の足がかりにしたい一戦でした。

マッチレポート

スタメン

浦和: 4-2-3-1
名古屋:5-3-2

レッズは大久保が今シーズンリーグ戦初先発となり、明本がトップに入りました。名古屋はランゲラックが怪我のため武田が入り、今シーズンから鹿島から加入したレオシルバや鳥栖から加入の仙頭らがスタメンに名を連ねました。

試合内容

最初のチャンスはレッズ。前半3分に江坂のクロスに宮本が飛び込むが頭にヒットせず。その1分後の4分には名古屋がマテウスのグラウンダーのクロスに稲垣がシュートを放つも西川がビッグセーブでゴールを許さない。9分にショルツの縦パスを受けた大久保がキレのあるドリブルからシュートを放つも武田がセーブ。20分にレッズは左CKのチャンスで岩尾が蹴ったボールをショルツが頭でゴール右隅に流し込み、レッズが先制に成功。その2分後には、再びレッズのCKから明本がニアでスラしてファーサイドに伊藤が飛び込み、レッズが追加点をあげる。勢いに乗るレッズは35分に関根が伊藤とのワンツーで抜け出し、武田の股を抜く技アリシュートでレッズの3点目が決まる。40分には宮本のアーリークロスに関根が頭で合わせるも僅かにゴール右に外れる。前半はレッズの3点リードで折り返す。

ハーフタイムでのメンバー交代はなく、前半と同じメンバーで両チーム後半に臨む。後半は名古屋がボールを持つ時間が増え、レッズがブロックで守備を固めつつカウンターを狙う構図に。63分に名古屋はこぼれ球を拾ったレオシルバがループシュートを放つが枠を捉えられない。83分には名古屋がCKの流れからマテウスが鋭いシュートで狙うも僅かにゴールの上に外れる。88分にレッズはショートカウンターから江坂がミドルシュートを放つが枠の右に外れる。その直後に名古屋は相馬がコントロールショットで狙うがシュートはゴール右に逸れる。90+1分には岩尾のクロスに明本がヘディングシュート、しかしクロスバーに当たりゴールには繋がらず。90+3分にはレッズはカウンターから松崎のミドルシュートはゴールポストに当たり、跳ね返りをモーベルグが詰めるも武田がセーブし追加点は奪えず。このまま試合は終了し3-0でレッズが3月以来のリーグ戦勝利を手に入れた。

試合結果

明治安田生命J1リーグ 第17節
2022年6月18日(土) 19:04キックオフ・埼玉スタジアム
浦和レッズ 3-0(前半3-0) 名古屋グランパス
得点者 21分 アレクサンダーショルツ、23分 伊藤敦樹、36分 関根貴大
入場者数 28,699人

・試合ハイライト動画


・試合スタッツ


マッチレビュー

馬鹿にならない20%

レッズは先制点と追加点をCKから奪いました。サッカーで生まれるゴールの内、約20%〜30%のゴールはセットプレーから生まれると言われています。それだけにセットプレーに着手することは欠かせません。

レッズはリカルド監督が就任してからセットプレーに色々なアイデアを持ち込み、力を入れてきました。そして、この試合ではCKから2得点を奪い勝利を手にしました。まさに練習の賜物と言えると思います。

名古屋はCKの守備時にゾーンディフェンスとマンマークディフェンスを取り入れたハイブリッドな陣形でした。それに対してレッズは名古屋の守備陣形の弱点を上手く突いた形で得点を奪いました。

・1点目
1点目は岩尾の蹴ったボールをショルツがマンマークで守備をしていたレオシルバに競り勝つ形でゴールを奪いました。多くのチームがGKの前に立つアタッカーに対して、GKとアタッカーの間に1人ディフェンダーを入れています。ディフェンダーを入れることでGKへのプレッシャーを減らしたり、アタッカーに自由にプレイさせない意図があります。

しかし、近年では敢えてディフェンダーを入れないチームもあります。ディフェンダーを入れることによって今回のゴールのようにGKが自由に動けなくなったり、GKに対するアタッカーのファウルを取ってもらい辛くなるからです。そういったメリット、デメリットがある中でレッズはGKとアタッカーの間にディフェンダーを入れるデメリットを上手く突いた形でした。

また、しっかりとレオシルバに競り勝ちゴールを決めたショルツの空中戦の強さが光りましたし、この試合の岩尾のキックの質は見事でした。

・2点目
2点目の伊藤のゴールは名古屋の陣形の穴を利用したゴールでした。名古屋はゾーンとマンマークのハイブリッドですが、レッズがニアに人を集めたことで名古屋の守備陣形がニアに偏りました。そして、明本がタイミングよくニアに入り込んでボールをスラし、ファーでフリーとなった伊藤が押し込みました。

レッズは第9節の神戸戦での柴戸のゴールでも似たような形から得点していますし、この試合でも伊藤のゴールよりも前に似たようにニアで明本がスラそうとしたCKがありました。レッズの得意なCKの形と言えるかもしれません。

レッズはCKでの空中戦の勝率は良いと思うので、「いかにシュートを枠(狙った所)へ飛ばすことができるか」、そして「いかに良い形でボールを合わせられるか」が今後のセットプレーからの得点率を上げるカギになると思います。

似てる両者

システムや選手の特徴は異なる両チームですが、この試合での両チームはいくつか似たような狙いを持ってプレイしていたように思います。

・ひっくり返す
「相手を引き出して開けたスペースの背後を使う」というところでレッズは明本や関根が積極的に背後を狙い、名古屋はマテウスが背後に抜けるシーンがいくつかありました。

3:13のように名古屋は3バックの一角がハーフスペースにいるレッズの選手を捕まえに飛び出す場面が多くありました。この場面では江坂に対して中谷が飛び出してプレス、江坂はすかさず背後へボールを送り、名古屋のプレスをひっくり返しました。

3:13のレッズのプレス回避

名古屋もレッズのSBの背後を積極的に狙ってきていました。レッズはSBが名古屋のWGを捕まえるために高い位置を取っていたので、SBの背後にスペースが生まれやすい状況でした。4:31のように名古屋の3バックはSBの背後のスペースにボールを送り、マテウスがスピードを活かしてサイドの高い位置で黄y点を作る場面がいくつかありました。

4:31の名古屋の攻撃

・前線からのプレス
両チームともに高い位置で奪うことを目指して前線からプレスをかけました。得点力不足に苦しむ名古屋もレッズも効率的に点を取るための手段として、なるべく高い位置で奪って素早いショートカウンターを狙っていたと思います。ですが名古屋はプレスで連続性が欠けていたことや、ビルドアップではレッズの方が開いているスペースを使いながら前進することができていたのでプレス回避ではレッズの方が上回っていたと思います。

8:53では岩波がボールを保持している時に稲垣が大畑まで飛び出す準備をしていました。それを察知した岩波がサイドを変えてショルツへとボールが渡り、ショルツの持ち上がるスキルでプレスを回避しました。宮本のピン止めや伊藤が大外に流れてショルツのドリブルするコースを確保してあげるなど全体として上手くビルドアップできました。

8:53のレッズのビルドアップ

そして、持ち上がったショルツからボールを受けた大久保がキレのあるドリブルでシュートまで行くことができました。

しかし、後半は名古屋がプレスの強度を強めたことでいくつかビルドアップで危険な場面がありました。

名古屋が3-4-2-1でプレスをかける枚数を増やし、WBを前に飛び出させるプレスに変えたことでレッズは余裕を持ってボールを回すことができなくなり徐々に名古屋がボールを握る時間が増えました。47:04では大畑のところで奪われそうになりましたが紙一重で森下をかわし前進することができましたが、ハメられてしまった場面でした。

47:04のレッズのビルドアップ

時間が経つにつれて運動量が落ちて、立ち位置の調整や動き直しが効かなくなりボールを握れなくなる傾向にあるので、運動量の担保と動き直しの回数を維持することは今後の課題になりそうです。

一方でレッズのプレスではサイドへ誘導しなるべく狭いエリアに追い込んでボールを奪うレッズの得意な形が機能しました。24:41では江坂が片方のサイドを遮断して、連動するように大久保が前に飛び出して丸山までプレス。宮本とい大久保で挟み込むようにして相馬からボールを奪いました。この時にしっかりと伊藤と明本が名古屋の中盤を捕まえて選択肢を潰していたことも大きかったです。

24:41のレッズのプレス

この試合の明本のレオシルバを監視するタスクは重要で名古屋がなかなかレオシルバを起点とした攻撃をさせませんでした。34:24では明本が一瞬レオシルバの監視するタスクを遂行できなかったために、中谷からレオシルバへ縦パスが通り右サイドの森下に展開されてピンチを招きました。

34:24の名古屋の攻撃

このシーン以外は明本を中心にレオシルバをフリーにさせずに守れていたので明本の貢献は大きかったと思います。

一件落着?

この試合で3得点を奪い勝利したレッズですが、これで得点不足解消とはいかないと思います。

レッズはこれまでアタッキングサードの攻略に苦戦していて得点を奪えませんでしたがこの試合では改善しようとしているようには見受けられました。特に「ゴール方向へ動き出す」ということは多くの選手が意識していたように感じられました。

27:51の江坂にボールが入った時には明本、伊藤、岩波が背後を取ろうと動き出していましたし、3点目の場面では関根が伊藤とのワンツーで抜け出した動きはゴール方向へのスプリントでした。

しかし、後半はゴール方向への矢印が弱くなり、いつものレッズの『安全第一』のパス回しや攻撃が出てきてしまいました。特に江坂はもう少しゴール方向を意識して欲しいなという場面があり76:09や83:59ではゴール方向への選択肢がありながらサイドを優先したりと攻撃の迫力や鋭さが欠ける決断に感じられました。これは江坂だけではなくチームとしての課題でもあります。

この試合に関していえば名古屋も同様に76:54のサイドチェンジに成功した後の局面などでゴール方向への意識が低かったので、レッズからするとあまり怖さがない名古屋の攻撃だったと思います。両チーム共に得点力不足の課題を抱えていますが、ゴール方向への意識の低さが1つの要因と言えるかもしれません。

最後に

レッズとしてはまず1つ勝利ができたことは大きいと思います。内容的に何か大きく変わったかと聞かれると大きな変化は感じられませんが、勝利したことでメンタル的には少し楽になると思うので結果を出せたという点では良かったと思います。また、レッズがずっと取り組んできたセットプレーでの2得点というのはチームの自信に繋がる部分だと思うので引き続き取り組んでいけば更なる成果に繋がると思います。

しかし、「どうやって点を取るか」という部分では取り組みは感じられましたが、すぐに解決ということにはならないのではないかと感じました。再現性のある攻撃を構築するにはゴールからの逆算が必要になってきますが、「誰が、どこで、いつ、どうやってフィニッシュをするのか」という肝心な部分が抜けているので、フィニッシュまでのプロセスのところに着手してもなんだかしっくり来ない現状があると思います。ユンカーがいると攻撃に迫力が出るのは、ユンカーによってフィニッシュの部分が明確になるので攻撃を組み立てやすくなるということだと思います。

勝点が詰まっていて混戦模様のJ1では今後勝点を確実に積み重ねていくことが必要になってきます。そのためには「得点をどう奪うか」という究極なテーマに対して向き合っていく必要があります。まずはこの勝利をキッカケに色々な側面で回復改善を図って今後の試合に繋げていってほしいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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