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4年間が集約された一戦【カタールW杯:グループE】日本vsコスタリカ

0-1。初戦のドイツ戦での劇的勝利から一転、試合を支配しながらも82分の自陣でのミスから失点を喫して敗戦となった。思い返してみればこの試合のように長い時間ボールを保持しながらも攻略の糸口を見つけられず、90分が過ぎ去っていった試合はこれまでにもあった。4年間の集大成を見せるW杯で悪い意味でこの4年の日本代表の戦いぶりが集約された形となった。

ドイツ戦からの勢い

試合立ち上がりの日本はドイツ戦の勢いのままハイプレスでコスタリカに圧力をかけた。下の図ように日本は鎌田が前に出て上田と2トップでコスタリカの3バックに対してプレス。中盤は4人を2列に並べた4-4-2の日本がこれまで愛用してきたベーシックなプレスだ。コスタリカは意外にも繋ぐ意欲を持っていたが、プレスをいなせるほどの技術はなくナバスのミスキックを誘発させ、インターセプトから最後は堂安のシュートまで繋げることができた。

日本のハイプレス

コスタリカのビルドアップと伏線

コスタリカはかなり不思議な陣形でのビルドアップを展開してきた。自陣深い位置でボールを持つとCBのワストンが立ち位置を前に移しアンカーのように振る舞う。基本的にはテヘダがボールの捌き役で、LSHのキャンベルが自由にポジションを変える。テヘダとコンビを組みボランチを形成するボルヘスはRCBのドゥアルテとRWBのフレールの間に流れてビルドアップに参加することが多かった。この少し特殊なビルドアップの陣形に対して、日本はしっかりと人を捕まえることごできていたときはプレスがかなり有効だった。

コスタリカの特殊なビルドアップ

日本はドイツ戦での対3バックへのプレスの成功体験をもとに積極的に選手を前に出して縦にスライドすることで圧力を強めた。14:17のように上田がCB→GKまでプレスをかけて、LCBにパスが出ると堂安が飛び出し、それとリンクするように山根がLWBまで飛び出して蓋をした。この時にコスタリカは立ち位置を上げたワストンがフリーなのだが、そこを使って展開する意識はなかった。

日本の縦スライドするハイプレス

そして、日本の失点への伏線が前半に体現される。33:47の場面で日本はミドルブロックからプレスに出て行ったが、コスタリカにプレスをいなされ前進を許す形となる。下の図ようにボルヘスがRCBとRWBの間に流れてプレイ。上田がプレスに出たことで、アンカーの位置にいるテヘダが浮き、テヘダを経由して逆サイドまで運ばれる。堂安が中途半端な飛び出しをして背後に穴を空ける形となり、LWBのオビエドから再びテヘダへとボールが渡る。遅れて守田が飛び出して対応したがCFのコントレアスへの縦パスを許し、最終的にビルドアップからキャンベルにシュートを許す形となった。

コスタリカのビルドアップと日本のプレス

日本がミドルブロックからプレスをかけに行った際にアンカーが浮いてしまうのが、日本代表の課題とされていた部分の一つで、この場面でもその課題が顕著に浮き彫りとなっていた。

そして、後半の79:27に失点のシーンへと繋がるコスタリカのビルドアップが始まる。日本はミドルブロックからプレスをかけにいった。この時のコスタリカの選手の陣形は先程の33:47と全く同じ。日本はコスタリカの3バックに合わせにいく形で5-2-3でプレスをかけたが、コスタリカはアンカーの位置にいるテヘダを経由して外側に流れたボルヘスへと展開。そこから前進を許して押し込まれる形となった。

79:27のコスタリカのビルドアップと日本のプレス

ミドルブロックからプレスに出た時のアンカーの消し方は前半から上手くいってなく、失点に繋がった場面でも守田が遅れて対応したがもののテヘダに仕事をさせてしまった。更には前半から度々見せていた「ボルヘスの外側に流れる動きをどう対処するのか」が放置されたまま時間が過ぎていったので、肝心な場面で対処しきれなくなってしまった。

この時にはコスタリカがやや前に出ていく姿勢を見せており、既にゲームが少しオープン気味なっていたので日本は警戒が必要だった。しかし、この局面では5バックはプレスをかける準備ができていなく、前線の3人はプレスをかける気満々で前に飛び出していった。その結果中盤に大きなギャップが生まれていて、守田がテヘダに寄せきれなかった原因にもなった。ボールを奪って点を取りたい気持ちとしっかりと守備の体制を整えて点を取られない気持ちがチーム内で存在してしまったが故に統率が取れていないミドルブロックとなっていた。当然、三笘のキャンベルへの対応の緩さや吉田のパスミスなど反省が必要だが、チームとして抱えていた課題が原因となり失点してしまったことは非常に辛い現実だ。

得点<無失点

前半立ち上がりのハイプレスで流れを掴んだ日本は徐々にボールを保持する時間を長くしていく。しかし、日本のボール保持はボールを失ってカウンターを受けるリスクを回避する意識が強く、コスタリカの5-4-1のブロックの外でボールを回すことが多くなった。その結果、なかなか前線までボールを届けられず、サイドにボールを回してはCBまで押し戻される展開が続いた。下の図のようにブロックの外に追いやられて、サイドでハマってしまう場面もいくつかあった。

日本の消極的なボール保持

日本が前半で唯一活路を見出せそうだったのがSBからライン間へ入れる楔のボールで長友が1回、山根が2回ほどトライしていた。残念ながらSBからライン間にいる上田へのパスは即興性が強く、上田にボールが入った時に7:15のように3人目の動きでサポートに入る場面がほとんどなかった。

7:15の山根から上田への楔

5-4-1で守るコスタリカだがめちゃくちゃコンパクトに守る訳でもなく、DFラインと2列目の間にはスペースが生まれることが多々あった。なのでSBからライン間へ流し込むボールは有効だったのだが、選手のアイデアに依存していて「その後にどうするか」という部分が抜けていた。

しかし、36:29にこの試合で初めてブロック内への侵入に成功する。板倉から守田への斜めのパスが入り、ボルヘスが寄せたが、守田は1タッチで上田へと縦パスを入れて3人目の動きで遠藤が反応して前向きの状態で遠藤がボールを持つことができた。この瞬間に右サイドでは3vs2の局面になったのだが、遠藤はドリブルで相手DFへ突っ込んでいってしまい、ボールロストしてしまった。

36:29の日本の攻撃

正直なところ前半のうちに5-4-1の攻略法を見出して、後半からその攻略法を徹底的にトライしていくぐらいの流れになれば良かったのだが、攻略のヒントは掴んだもののぼんやりとしたまま前半が過ぎてしまった印象を受ける。

攻略の糸口は中央なのかサイドなのか

後半からの日本の変化は大きく2つあった。1つ目は前半の37分辺りからLWの相馬の立ち位置を守備はLWBにして、5-2-3(3-4-2-1)にシフトチェンジしていたが、後半から長友に代えて伊藤を投入して、明確に3バックにした。そして2つ目の変化はシャドーの選手が3バックの両脇とWBとの間に下りてきてリンクマンの役割をすることだ。

45:13では早速その変化が見られた。伊藤かボールを持った時に鎌田が相馬と伊藤の間に下りてきてボールを引き出した。鎌田に対してボランチのボルヘスが対応したのでフリーになった守田へ横パス。遅れてテヘダがスライドして守田へ対応したが、守田は素早く浅野へ縦パスを入れた。その後、浅野と守田がスイッチして最後は守田が左足でシュートを放った。

後半立ち上がりの日本の攻撃

3バックにしてコスタリカのSHを引き出すことと、そしてCBのサポートとしてシャドーがコスタリカのボランチ脇に流れてプレーすることで中央にギャップを作る意図は感じられた。前半ほとんどなかった中央から攻撃を展開する形をもっと作りたかったのだろう。

55:43にも似たような場面があった。LCBの伊藤とLWBの相馬の間に流れてきた鎌田が守田からボールを受ける。RSHのトーレスが慌ててプレスバックしてきたが、コスタリカの2列目前には大きなスペースがあり、鎌田は横パスを使って大きなスペースに立ち位置を取っていた遠藤へと展開する。遠藤にボールが入った時には前半と同様に右サイドで数的優位な状況があった。しかし、遠藤はプレスバックしてきていたキャンベルを気にして安全に吉田へのバックパスを選択して、攻撃のスイッチを入れることはできなかった。

55:43の日本のビルドアップ

その後もゴールに近づくことに苦戦する日本は82分に自陣でのミスから失点をしてしまう。失点を喫した直後に日本は相馬を下げて南野を投入。84:41の場面では日本が上手く遠藤を経由して右サイドの南野へと展開した。この時も南野はRCBの板倉とRWBの伊東の間に流れてボールを引き出した。ボールを受けた南野はバックパスで板倉へと戻したが、板倉の前には大きなスペースがあり、右サイドでトライアングルを作って前進できそうな雰囲気はあったが板倉は吉田への横パスを選択してしまい、コスタリカに守備陣形をリセットする時間を与えてしまった。

失点後の日本の攻撃

失点してからも日本の頼みの綱である三笘にボールが入る機会が少なかった。RWBのフレールが三笘を警戒して監視していたこともあり、伊藤がボールを持った際に三笘へボールが出なかったことは多くの人が指摘している。個人的に気になったことはコスタリカの5-4-1のローブロックに対する攻略法である。

61分に三笘が投入された訳だが三笘が最初にドリブルで仕掛けた場面は79分まで時が流れる。また1vs1の状況で三笘がドリブルを仕掛けたのが42分の日本の決定機へと繋がる場面でこれが三笘の2回目のドリブルだった。W杯までの日本は三笘と伊東の個人戦術が攻撃の鍵を握っており、そこからしかチャンスは作れていない現状が続いていた。それにもかかわらず、この試合はどこか複雑に論理的にコスタリカの5-4-1を崩そうとする場合が多かった。これまでWGの個人戦術で勝負してきたのだから、シンプルに三笘や伊東の1vs1でゴール迫れば良かったのだが、そこの意識統一はされておらず綺麗に崩そうとボールを回して時間が過ぎていった。日本が攻略の糸口をどう考えていたかも不鮮明でサイドでのWGの1vs1だけでなく、中央から縦パスを入れてコンビネーションで崩すことも考えていたように見えた。特に失点してからの残り時間は一貫して自分達のストロングポイントである三笘を使うというプランに変更しても良かったように思うが、丁寧に攻め込む姿勢が顕著だった。もちろんこの大会までにWGの個人戦術という武器しか携えてこなかった日本の実力不足は承知の上だが、その武器を変に温存するような形になってしまったことは非常に残念だ。

選手のキャラクターとタスク

・遠藤のタスク
この試合での1つの論点が遠藤のタスクだろう。前半はCFのコントレアスと2列目の間で受けることを嫌がり、コントレアスの前に下りてボールを受けたり、コントレアスの横でボールを受けてサイドへボールを展開することが多かった。遠藤からするとCFと2列目の間でボールを受けようとすると360°からプレスが来るので視野の確保が難しいのでこういうプレーになったのではないかと推測する。その結果、前半はコスタリカの中盤を遠藤のところまで釣り出すことができずにコンパクトな陣形を保たれてしまった。後半からは守田がCFと2列目の間でボールを受ける意識を強め、遠藤は右サイドに流れてボールを受けたり、DFラインと2列目の間でボールを引き出そうとしていた。遠藤がライン間でボールを受けてチャンスになりかけた場面もあり前半よりは遠藤が機能していた。

ただ、ここで考えなければいけないのは遠藤に与えるタスクは正しかったのかということだ。最後まで森保監督が遠藤を残した理由として、カウンターのケアであったり、セカンドボールの回収の部分で期待していたように思う。しかし、この試合はコスタリカが試合の75分は引いて守ってきたこともあり、セカンドボールは遠藤に頼らずとも容易に回収することができていた。一方で遠藤はオンザボールで違いを作る選手ではなく、ボランチにとってオンザボールでのタスクが多くなったこの試合は「遠藤に何をさせたかったのか」が不透明のまま終わってしまった。展開力のある柴崎を入れるオプションもあり、ライン間で仕事をさせるのであれば南野や久保と言った狭いスペースで仕事ができるタイプもベンチにいた。

・相馬と伊東の共存
不可解な采配は堂安を下げて伊東を投入した場面でも感じられた。相馬も伊東もサイドで張ったところからドリブルやクロスを武器としている選手でキャラクターは被っている。しかし、森保監督は伊東をシャドー、相馬をWBに配置して巻き返しを図った。案の定、右サイドから相馬が勢いよくドリブルする場面や伊東とのコンビネーションで抜け出すシーンがないまま時間は流れていった。伊東に関してはシャドーでもプレーはできるが、狭いスペースを細かいタッチで掻い潜るようなタイプではなく、良い状態でボールを受けれた場面はPA前でファールをもらったあの場面のみだった。南野が投入されてからはだいぶ右サイドでの立ち位置と役割がハッキリしたが、それまでの相馬と伊東の共存はお互いの良さがでない配役だったように感じられた。

ドイツ戦での采配が見事に的中しただけに、この試合での采配ミスは日本を苦しめる結果となったことは明らかだった。

ゲームシナリオがもたらしたインパクト

元々スケジュールは決まっていたが、スペインvsドイツが日本の試合の後に行われたこともこの試合へのゲームプランに大きく影響したことだろう。もし仮にドイツがスペインに勝った場合、ドイツが3戦目でコスタリカと対戦することを考慮すると日本はこの試合で3ポイントが必要だった。ただ、ここでドイツがスペインに負けたり、引き分ける結果であればコスタリカに1ポイントでも最低限の成果を上げることになる。

日本がコスタリカ戦で1番警戒していたのは無理に攻めてカウンターから失点するケースで、この試合での消極的なボール保持を見てもカウンターのケアを入念に行っていた。しかし、0-0の時間が続く中で、コスタリカの力量と戦い方を考慮すると「3ポイント取れるのではないか?」「3ポイント取らないといけない」という心理状態が強くなったはずだ。残り30分のところで三笘を投入した辺りから、日本の勝ちに行く姿勢は強まっていき、実際にベンチからもそういうメッセージの選手交代であったはずだ。しかし、コスタリカもそこまで前に出てこないことやゴールに近づけない時間が続く中で焦れていったのは日本の方だった。考えてみれば0-0で試合が終わって困るのはコスタリカの方で、日本はむしろドイツ戦での3ポイントというアドバンテージを3戦目に持ち込める形となる。ただ、日本が意識していたのはドイツの方でコスタリカの心理状況など考えていなかったことだろう。0-0では困るコスタリカは残り15分で前にエネルギーを持ってきたところからの82分の決勝点。あの時間帯で明らかにコスタリカは前に圧力をかけていてスローインも前からハメに行ったり、日本の最終ラインにプレスをかける姿勢を見せていた。日本は得点を取ることにフォーカスし過ぎて、ゲームシナリオが薄れていた時間帯に失点してしまった。まさに日本がドイツ戦で見せた弱者の戦い方をコスタリカに体現されてしまった。

この試合で勝点を取れなかったことは日本のグループ突破を苦しめる結果となる。日本の3戦目はスペインということもあり、非常に難しい試合が予想される。ドイツvsコスタリカの試合も攻略すると、絶対にグループ突破できる条件は勝利のみで引き分けでは通過が微妙なところだ。この1週間の間に歓喜と悲劇が起こった日本の3戦目は果たしてどのような結果が待ち受けているだろうか。

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