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必然だった結果【ACLラウンド16】ジョホール・ダール・タクジムvs浦和レッズ


ACLの東地区では日本での集中開催となり、中立地扱いではあるものの、レッズのホーム埼玉スタジアムでラウンド16の試合が行われた。

レッズの対戦相手は川崎や蔚山などがいたグループIを1位で通過したマレーシアのジョホール・ダルル・タクジムFC (JDT)。近年、東南アジアのサッカー発展が著しく、決して侮れない相手であった。

マッチレポート

スタメン

浦和: 4-3-2-1
JDT: 3-4-1-2

試合内容

この試合の立ち上がりに早くもゲームが動く。レッズの右からのCKからの流れで酒井の蹴ったボールに反応した松尾が頭でゴールを狙った際にJDTのGKにレイトタックルを受けてPK獲得。このPKをショルツが落ち着いてゴール右隅に流し込み、レッズが幸先よく先制に成功。12分にはモーベルグがカットインから左足で狙うがシュートは僅かにゴールの左上に外れる。14分には酒井の鋭いクロスに松尾が反応するもボールは枠の上に外れる。15分にJDTはカウンターでRWBの42番のアイマンが右サイドをえぐりクロス、45番のフォレスティエリが飛び込むもシュートは足にミートせず。18分には大久保が倒されて中央の位置でレッズがFKを獲得。このFKをモーベルグがゴール右上に流し込み、レッズに追加点が入る。38分には松尾の右サイドからのクロスをファーサイドにいた小泉が折り返して、最後はモーベルグがきっちりとゴールを決めて、レッズが3-0とする。40分には岩波の縦パスを受けた大久保が華麗なターンで相手をかわし、左サイドの松尾へ展開、松尾がドリブルでPA内に持ち込んだ後グラウンダーのクロスをあげ、モーベルグがファーサイドで詰めるがシュートは枠を捉えられない。45+1分には松尾のシュートがDFに当たり跳ね返ったボールをモーベルグが狙うが、シュートに勢い無くGKにキャッチされる。前半はレッズの3点リードで折り返す。

後半からレッズは大畑、伊藤、大久保を下げて明本、安居、江坂を投入。後半最初のチャンスはレッズ。47分に西川のロングフィードから松尾が左サイドでボールキープから上がってきた明本にパス、明本がシュートを放つもGKに弾かれる。55分にレッズは安居が右サイドからクロスを入れ、松尾がニアで合わせるも上手くミートできずにシュートはゴールから外れる。60分にレッズはビルドアップから小泉のバックパスを狙われて、最後は9番が頭で押し込むが岩波が間一髪のところで掻き出して難を逃れる。62分にレッズは小泉が明本とのワンツーからPA内に侵入し、クロス気味のシュートは僅かにゴールの上に外れる。81分にJDTは9番が左足で強烈なミドルシュートを放つがゴール右に外れる。84分にレッズはモーベルグのパスから江坂が背後に抜け出し中央のユンカーへパス、それをユンカーが冷静にゴールを沈めてレッズに4点目が入る。90+1分には西川のパントキックから江坂、明本、江坂と繋ぎ、ゴール前でフリーのユンカーがゴール左隅に流し込み追加点。その後試合は終了し、5-0でレッズが準々決勝へと駒を進めた。

試合結果

AFCチャンピオンズリーグ2022 ノックアウトステージ ラウンド16
2022年8月19日(金)20:00・埼玉スタジアム2〇〇2
ジョホール・ダルル・タクジム 0-5(前半0-3) 浦和レッズ
得点者 8分 アレクサンダーショルツ、19分 ダヴィド モーベルグ、39分 ダヴィド モーベルグ、84分 キャスパー ユンカー、90+1分 キャスパー ユンカー
入場者数 20,691人

マッチレビュー

必然的な成功

レッズは前半立ち上がりの5分こそややボールを握れなかったが、それ以降はレッズがボールを保持して完全に試合の主導権を握った。この流れは必然だった。

基本的なレッズのビルドアップとJDTのハイプレスの構図は下の図のようになっていた。RWBの42番が高い位置を取り、LWBの22番は最終ラインに加わる左右非対称のハイプレス。そうなるとレッズが自陣でボールを保持している時にOMFの21番が1人で酒井と岩尾のケアをする必要がある。レッズは岩尾が空けば岩尾を経由して前進、岩尾がマークされていれば酒井から前進すればハイプレスを掻い潜ることは容易だった。

レッズのビルドアップvsJDTのハイプレス


25:31ではJDTが岩尾を捕まえるためにRDMの30番を飛び出させてプレスをかけてきた。すると今度は小泉が空くのでレッズは小泉に当てる。RWBの42番が小泉を埋めようと絞ってくるのでレッズはショルツを経由して大畑へ。大畑のところへはRCBの2番が長い距離を飛び出してきたが、そうすると2番の背後には広大なスペースが生まれることになる。最終的に岩尾をからそのスペースに走り込んだ小泉へロングフィードが通り、ハイプレスを無効化した。常にどこ(人やスペース)が空いているかを把握しながらボールを動かして前進することができた完璧なビルドアップだった。

25分のレッズのビルドアップ

JDTは常に最終ラインに+1を作りながらハイプレスを行ってきたが、前線には数的不利でレッズのビルドアップを阻止できなかったJDTはマンツーマンでハメようとする。

37:48の場面ではJDTに成す術を無くさせれるゴールキックだった。下の図のようにマンツーマンでハメようとしたJDTに対して西川の正確なフィードがモーベルグへと通り、一気に3vs3の状況へ。最終的にこの試合3点目となるモーベルグへのゴールへと繋がった。

37:48のレッズのゴールキック

47:51にも似たように西川のロングフィードから松尾がキープして最後は明本までシュートまで持っていった場面があった。また前半の40分には岩波から縦パスを受けた大久保が華麗なターンで喰いついてきたCBの34番を剥がして一気に擬似カウンターに持っていった。マンツーマンでハメに行くということは1vs1で勝てないければ一気に数的不利な局面になる。JDTの選手が1vs1で簡単にレッズの選手に出し抜かれてしまったので、ハイプレス×マンツーマンは破綻した。

数的不利でのハイプレスがハマらず、数的同数でのハイプレスも無力化させられてしまうということは、明らかに両チーム間で実力の差があった証拠である。レッズの両CBのビルドアップ能力、中盤3人の練度の高いローテーション、前線3人の質的優位などレッズのビルドアップはようやく高いレベルに到達した。JDTのハイプレスを無力化したレッズのビルドアップは必然的な成功だったと言える。

5枚が並ぶだけ

レッズがJDT陣内に押し込んだ際にはJDTは5-2-1-2で守備陣形を作った。しかし、JDTの5バックはただ5人が並んでいるだけで、前に飛び出してチャレンジしてこなかった。その結果、DFラインとダブルボランチの間は使いたい放題だった。

4:45では伊藤とモーベルグがワンツーを使ってライン間へ侵入し、伊藤のスルーパスから右サイド深い位置まで酒井が侵入することができた。

4:45のレッズの攻撃

4分の攻撃が伏線かのように似たような局面が16:25にも生まれた。酒井から伊藤へライン間のパスが入り、横の小泉へ展開。大久保へのスルーパスが渡りそうになったところで、大久保が倒されてFKを獲得し、モーベルグの美しいゴールへと繋がった。

16:25のレッズの攻撃

スタンダードの高さを示したプレス

ここ数試合で松尾と小泉によるチェイシングは目を見張るものがある。そして、彼らはこの試合でもボール失った瞬間や全体でボールを奪いに行く際に1stディフェンダーとして猪突猛進にプレスをかけてJDTに自由を与えなかった。

レッズの基本的なプレスは下の図のように、左右どちらかのサイドに相手を誘導するためにニュートラルな状態から始まり、相手がサイドに展開した瞬間に蓋をしてサイド圧縮をかける。レッズの左サイドにボールが展開されれば大久保が2番まで前に飛び出し、それとリンクするように大畑が42番を捕まえる。この時に中盤にも小泉がプレスバックして岩尾と一緒に中央へのパスコースを潰しておく。逆サイドのモーベルグも中央に絞ってきてLDMの55番を警戒して盤面をロック。JDTはボールを失うかボールを捨てるようなキックを強いられた。

レッズのサイド圧縮プレス

そして、このプレスはボールを失った瞬間のネガティヴトランジションでも発揮された。特に前半はネガティヴトランジションからボールを取り戻す場面が多かった。

20:48では右サイド深い位置でボールを失うとすぐにレッズがプレスをかけ始めて逆サイドへの展開を許さなかった。しかし、JDTもFWの45番がボールキープに成功しカウンターのチャンスになりそうだった。前進を許したレッズの選手たちが凄い勢いでプレスバックし、最終的に大久保が相手からボールを奪いカウンターを防いだ。

レッズのネガティヴトランジション

この試合ではボール保持の時間が長く、ボール保持時の局面に目が向きがちだが、ボール非保持でのレッズのスタンダードの高さが光った。ボール非保持のスタンダードが高ければ自然とボールを奪い返す確率が高くなり、ボール保持の時間が増える。前半はまさにそんなゲームだった。

表裏一体

後半は前半とは違ったゲーム展開で『表裏一体』と感じる場面が多かった。

・JDTのハイプレス
まずはJDTのハイプレス。後半は前からどんどん選手を捕まえて、DFラインから果敢に前に飛び出してレッズの縦パスを警戒してきた。5枚をただ並べただけの5バックではなく積極的にボールを奪いにいく攻撃的な5バックだった。

その結果、レッズは前半ほどボール保持する時間は長くなく、プレイエリアも自陣での時間が長かったように思う。特に江坂へのマークは激しく、80:51のようにLCBの14番が江坂を潰しにかかる場面はいくつか見られた。

一方でマンツーマン気味で前からプレスをかけてボール奪いにくるJDTを利用して、レッズが上手く背後のスペースを使ってチャンスを作った場面も多く見られた。

63:48では小泉にRCBが食い付いた背後のスペースに明本が抜け出して、小泉からのパスを受けた明本が左サイドからチャンスを作った。

63:48の左サイドのプレス打開

また、この試合の4点目となった83:07の場面も似たように、モーベルグに食い付いた背後のスペースを江坂が抜け出してユンカーのゴールを演出した。

83:07のレッズの攻撃

マンツーマン×ハイプレスでより攻撃的にボールを奪いにでたJDTは前半よりも、より高い位置でボールを奪う機会が多くなった。しかし、その一方で背後のスペースをレッズに上手く使われる場面も少なからず見られ、まさに表裏一体であった。

・ユンカー×江坂
また、レッズサイドもユンカーや江坂の起用は表裏一体であった。松尾と小泉に比べるとこの2人のプレスの強度や守備でのカバーエリアは劣ってしまう。その結果、ボールホルダーに圧力をかけきれずに前進を許す場面はいくつかあった。

松尾×小泉ペアに比べて松尾×江坂ペアでは30番のところを消しきれずにレッズのプレスの逃げ口にされる場面があった。下の図のように江坂のマークが甘く逆サイドに展開されてしまう場面が何回かあった。

またユンカー×江坂ペアではプレスはあまり期待できない。とは言えこの2人が松尾や小泉よりも優れているところはゴールに絡むプレイであり、実際にこの試合でもゴール/アシストを記録している。この2人の起用もまさに表裏一体で使い所が今後試されることになるだろう。



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