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葛藤が財産に【コーチングログ#10】女子U-19コーチ、2021/22シーズン総括

2021/22シーズンにヘッドコーチとしてPontypridd Town AFC Women U-19を指導させて頂きました。今回は2021/22シーズンの女子チームでの活動や取り組みを振り返り、シーズン総括としてまとめていきたいと思います。

この女子チームのトップチームはウェールズ女子リーグのトップに所属していて、そのトップチームのユースチーム(U-19)という扱いです。今シーズンからウェールズサッカー協会が女子サッカーに力を入れ始め、U-19のカテゴリーでもリーグ戦を行うことに。そして、ウェールズ女子リーグのトップに所属しているクラブはU-19のチームを作りリーグに参加することが要件として盛り込まれました。そして、私が指導することとなるU-19チームが作られることになりました。ですので、U-19のチームとしては今シーズンから発足した新しいチームになります。


入団と初陣

2021年9月に私はPontypridd Town AFC Women U-19がコーチを募集していることを知りました。それまでは女子サッカーとはあまり縁の無かった私ですが、なるべく上の年代のカテゴリーを指導したかったので応募しました。

そして、実技テストとして1セッションを担当しU-19のヘッドコーチとして9月の中旬からチームに加わりました。実技テストの様子は過去にまとめているので、ぜひそちらの方も見てみて下さい。

初めての試合は実技テストを行った週の週末にリーグ戦の初戦があり、早くもベンチ入りすることになりました。相手はリーグ優勝候補のCardiff City Ladies U-19。私はチームの方針やプレイスタイル、選手たちの名前すら覚えていないような状況でしたので、その試合では主に選手たちのモチベーションを高めるような指導でした。結果は2-17で大敗。チームとしても選手個人としてもCardiffとは大きく差があり、衝撃的な初陣だったことを覚えています。監督に話を聞くと「ちょっと前にCardiffと練習試合を行った時は0-19で1点も取れなかったから、まだまだ相手との差はあるけど今回の試合では成長が感じられた。」と言っていたので、これはハードな挑戦になると実感しました。

Cadiffとの初戦は綺麗な夕空でした。
試合前のミーティング



監督への信頼感

私がチームに加入してから2週間後にもう1人コーチが加わりました。そのコーチは私と一緒にサウスウェールズ大学でフットボールコーチングを学んでいたので、すぐに打ち解けました。今シーズンは監督と同級生のコーチと一戦に働くことになりました。それから日々の練習や試合をこなしていく訳ですが、毎回の練習は基本的に私と同級生のコーチで指導を行いました。最初の方は監督から「仕事の電話があるから今日の練習を担当して欲しい。」と頼まれていましたが、次第に「今日の練習は何するの?」と私と同級生のコーチが練習を担当することが当たり前となり、監督は練習を見守っていることが多く、時には「仕事の電話がある」と言って練習中は自分の車で過ごし、ピッチに顔を出さない日もありました。監督はそのことについて「今は若い2人(私と同級生のコーチ)に指導する機会を与えて、私は後ろからチームを支えている」と選手たちに説明していました。しかし、試合は監督がメンバーを決め、指揮を取っていました。私と同級生のコーチは練習で指導をしていないのに何故、試合で指導する気になるのか疑問を感じていました。

監督はチームのキャプテンのお父さんでこのチームで監督をする前は地元の少女サッカーをパパさんコーチとして指導していたそうです。試合での指導は主に「Well done!(ナイス)」「下がれ、上がれ」「クリア!」「集中しろ!」「何をやっているんだ!」のような抽象的なものが多く、選手たちに向けて攻撃的な指導も散見されました。そんな監督の振る舞いを見て私達は監督への不信感を抱きはじめました。


コーチとしての責務

監督は試合以外のことに関しては全て私達に委ねていました。私は個人的にコーチである以上、「サッカーを楽しんで欲しい」、「選手たちを上手くさせてあげたい」、「試合で勝たせてあげたい」、「1人でも多くトップチームに呼ばれるような選手を育てたい」という想いで日頃の練習に取り組んでいました。しかし、チームの練習は週一しか確保できずに、チームとして積み上げに苦労したのが正直なところです。そこで、私は知人の分析官をチームに加えて、パフォーマンス分析を設けました。試合後に私が気になった点(課題や良いプレイ)を分析官に分析動画を作ってもらい選手たちにフィードバックする取り組みを始めました。また、私と同級生のコーチは監督に「フィットネス向上のために"オンラインフィットネストレーニング"」を提案して、月曜日にオンラインフィットネストレーニング、水曜日に練習、金曜日に試合というサイクルでチームの向上を図りました。出来る限りの選手のサポートやチームの強化はコーチとしての責務だと私は個人的に思ってので、分析やフィットネスの向上は積極的に取り組んでいきました。

左:同級生コーチ、右:分析官

同級生コーチや分析官はチームのパフォーマンスを向上させるために尽力してくれました。オンラインフィットネストレーニングは私が提案しましたが、同級生コーチも一緒に行ってくれましたし、分析官は私がリクエストしたプレイを試合映像から抽出してフィードバックをして頂きました。分析官が加わる前までは私が分析も行っていて、手が回らずになかなか細部まで分析できない状況だったので彼の加入はとても助かりました。

上がらないスタンダード

私がこのチーム加入して感じた大きな壁はチームとしてのスタンダードがなかなか上がってこないことです。冒頭で説明しましたが、このU-19のチームは今シーズンから発足したこともあり、選手のレベルに大きなギャップがある状態です。世代別ウェールズ代表に選ばれる選手もいれば、基礎技術から練習が必要なレベルの選手もいました。そういったチーム状況だったので、上を目指す競技志向の選手とただサッカーを楽しみたい趣味志向の選手との間で、モチベーションやサッカーに対する姿勢で統一が取れない状態でした。私達コーチは常に「このチームはトップリーグにいるチームであり、趣味としてサッカーをやる場所ではない。当然、選手同士での競争もあるし、それ相応の振る舞いが必要。」ということを選手たちに伝えて続けていましたが、伝えたことで練習の態度が変わった選手もいれば、あまり変化が見られない選手もいて、スタンダードの設定は常に難しいタスクでした。

選手の中でレベルにギャップがあったので、個人的にコーチングで意識していたことは各選手それぞれに目標やチャレンジを設定するということです。チームとして目標を設定した場合どうしても中間レベルの難易度設定になるので、目標達成が簡単すぎる選手と難しすぎる選手が出てきてしまいます。ですので、各選手に求めるプレイの質を変化させることでそれぞれが最適な目標を練習や試合で持つことができたと思います。


監督との衝突

・監督の影響力低下
月日が経つにつれて監督の練習での振る舞いは更に怠惰なものとなっていきました。ある日は練習中に自分の車でプレミアリーグの試合を観ていたり、ある日の練習では知り合いの少年と空いているスペースでサッカーをしていたりと練習にはほとんど関心を示さなくなりました。しかし、試合で大敗をした次の週には「俺が今度の練習を担当する」と言い出して、いざ当日になると「予想していた人数よりも選手が少ないから、2人(私と同級生のコーチ)に任せるよ」と練習を放棄したりと酷いものでした。一方で試合では相変わらず監督が指導しており、「お前たち(選手たち)が言われたことをやっていないから負けたんだ。お前たちが集中していなかったから失点したんだ。」のようなことをハーフタイムや試合後のチームトークで話していました。すると当然、何人かの選手から監督に対する批判が私や同級生のコーチに届くようになりました。しかし、私や同級生は所詮ただのコーチであり、監督が全権を担っていたので、私達ができることは練習で選手を上達させることと、試合中に個別に指導する程度でした。

そういった背景から徐々に私と同級生のコーチは試合でも自分たちが監督を抑えて指導することを目指すようになりました。監督に相談して試合のメンバー選考を私達の方で決めるように直談判したり、チームトークでも私達が選手達に話す機会を設けたりと私達の試合での介入度が上がり、監督の影響力は低下していきました。このことに関して監督は良く思っていなかったみたいで監督と私達コーチの間で亀裂が入り始めました。

・サッカー人生で一番辛い瞬間
2月に入ったあたりから私と同級生のコーチで話し合って少し戦術的な練習を行うことを決断しました。これまでは選手の個々の基礎技術を向上させるような練習が多かったのですが、チームとして組織的に戦うために戦術的な練習を取り入れる決意をしました。どうしても戦術的な練習を行うと練習のテンポがスロウになったり、選手が好まない練習(ディフェンス練習など)が入ってきます。私自身もボールローリングタイムの向上やスムーズな練習の回し方などは改善していかなければいけない部分であると認識していました。

そして、戦術練習行い始めてから2週間くらいたったタイミングで、監督から「練習の冒頭で選手たちとミーティングする時間を設ける」と言われて、20分くらい選手たちと監督とでミーティングが行われました。その間に私達はその日の練習の準備を進めていました。

そして、トレーニング1、トレーニング2と行い、SSGを始めたところで監督から「お前たち練習を止めて、コーチ含めて集まれ!」と怒号が飛びました。何事かと思い集まってみたら「何だこのクソな練習は!」と監督から言われました。「お前たち(私と同級生のコーチ)、選手たちがお前たちのコーチングをどう思っているか耳を傾けろ。」と続けて言われました。しかし、選手たちは黙りこんでしまいました。すかさず監督が「お前たち(選手たち)、練習前のミーティングで言ってたコーチへの文句を言うんだ。じゃないとこのコーチたちはいつまでもつまらない練習をすることになるぞ。」と捲し立てました。これは推測ですが練習前のミーティングは選手たちから私と同級生のコーチへの不満を募り、それを選手たちの前で私と同級生のコーチへ半強制的にぶつけるためのものだったのかなと今となっては思います。

確かに、私自身のコーチングに関してはまだまだ改善の余地があるので選手からのフィードバックはとてもありがたいものです。そして、選手たちが抱えていたストレスも理解できます。戦術的な練習行い始めてからどうしても個々の技術よりもユニットとしての動き方や機能を追求し過ぎた点はあったと思います。そこは、私や同級生のコーチが改善しなければいけないポイントでした。

しかし、そのミーティングは選手からのフィードバックだけで終わらず、監督からの罵詈雑言が続きました。「お前たちは大学でサッカーを学んでるかもしれないが、ここはお前たちの知識を見せつける場じゃない。」、「コーチングのCライセンスはただのバッジでお前たちの力を証明するものじゃない。」、「シーズン始めはお前たちのコーチングは輝いていたが、今ではその輝きは失われた。」、「チームの結果が出ないのは、お前たちの戦術や采配がめちゃくちゃだからだ。」などなど、監督から選手たちの前で散々に言われました。これまで監督との関係性に亀裂が入り続けていたのが、ついに表面化して完全に溝ができる形となりました。

個人的にこのチームに対して自分の持てる限りのものをぶつけていたつもりではありました。しかし、この件を境に私はこのチームでコーチとして働くことのモチベーションや情熱を失ってしまいました。私がプレイヤーだった時を含めて、サッカーに携わってから1番辛くて悲しい瞬間でした。


シーズン終盤での退団

その一件で同級生のコーチと話し合いトップチームの監督(事実上クラブのトップ)に相談しにいくことにしました。トップチームの監督に今回の一件を相談しにいくと、前々から監督の振る舞いや汚いワードを使った攻撃的な指導は問題視されていて、実際に何人かの選手からも監督の批判はクラブの方に届いていたことが明らかになりました。今回の一件も含めてトップチームの監督は何か大きな変化が必要と言っていました。

私はトップチームの監督と相談してU-19のヘッドコーチを辞めさせていただきました。辞めた理由としては分析としての仕事を始め、U-8のコーチも行っていて多忙を極めていたことや、私自身がヘッドコーチとして「チームにどれだけの貢献ができているか」を考えた時に、シーズン序盤に比べてチームに与えられるものが減少していたことも影響しています。ですが、監督からのリスペクトを欠いたスタッフ、選手への振る舞いや言動は辞める決断をした大きな理由でした。

今でも選手たちにはシーズン残り2試合というところで辞めてしまったことは申し訳ないと思っています。また、私のコーチとしての実力不足も痛感しています。「もっと選手たちに何かしてあげることがあったのではないか」、「このタイミングで辞めることはコーチとしての責任を放棄することになるのではないか」と辞める際にとても悩みました。しかし、監督との関係性が歪みだし心からチームの成長を喜べなくなり始めている自分に気が付き辞める決意をしました。例えば、試合でしか指導を行わない監督が試合でチームを指揮して勝利した場合に素直に喜べない自分がいました。スタッフの中で足の引っ張り合いがあるとチームに良い影響はありませんし、私が他のコーチの足を引っ張ってしまうような指導者になりたくなったのでチームをやめる決断に至りました。ありがたいことに辞めた後も何人かの選手たちからは戻ってきて欲しいというメッセージを頂きましたが、来シーズンは他のチームで働くことになると思います。

監督に関しては分析官から聞いた話によると、私達がトップチームの監督に相談して依頼、人が変わったように態度を豹変したらしく汚い言葉や攻撃的なコーチングは無くなったらしいです。また、監督から同級生のコーチへ"日頃の感謝"という奇妙な名目で戦術ボードのプレゼントもあったらしく、そこまで人間性が豹変すると逆に信頼ができないなと感じてしまいます。

貴重な経験

このチームでコーチとして働かせていただけたことで、私のコーチ人生で様々な貴重な経験を積むことができました。女子チームということで選手との接し方は男子に比べて非常に繊細なものになることがわかりました。また、選手たちとの良い関係性を築くことができた反面、監督とは対立する形となりました。コーチングに関してはまだまだ力不足を痛感することが多かったですが、その中でも選手へのアプローチのかけ方を多方面で掴むことができましたし、セッションのレイアウトや引き出しを増やすことができました。また、女子サッカーは技術面、戦術面、フィジカル面において男子サッカーとは違う視点を持つことが必要だと知ることができました。この女子サッカーの特徴についてはまた違う記事でまとめようと思っています。私のコーチ人生はこれからも続いていきますが、このチームで指導することができたことは間違いなく有意義な経験でしたし、かけがえのない期間でした。

どちらかと言えば大変なことの方が多かったですが、壁にぶつかるたびにその壁をどう乗り越えようかと考え、挑戦することができたと思います。振り返るとこのチームでの葛藤は今後の指導者人生において、大きな財産になると思います。この財産を次の挑戦で活かしていければいいなと思っています。ここまで読んでいただきありがとうございました。


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