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固い守備の秘訣

0-0、固い守備が自慢のアビスパ福岡vs浦和レッズの試合はどちらも得点奪えずスコアレスドローに終わった。

試合はボールを保持する浦和が「どうやって福岡の4-4-2のミドルブロックを攻略するか」という構図が多く、福岡は奪ってからのショートカウンターが1つの攻め手となった。そこで今回は福岡の4-4-2ミドルブロックについてまとめていく。

基本の徹底

この試合では福岡の強固な守備が目立っていた。福岡は4-4-2のコンパクトな守備からショートカウンターに繋げていく形が多く作れていたのだが、福岡の強固な守備の秘訣は基本の徹底にあるのではないかと感じられた。

福岡のハイプレス

福岡はミドルブロックをベースに守るが、浦和のゴールキック時や浦和の深い位置でのボール保持に対してはハイプレスを敢行。

福岡は浦和のLCBホイブラーテンのサイドへ誘導する形でプレスをかけることが多かった。ショルツよりもホイブラーテンの方がプレス回避の能力が低く、ボールを取り上げやすいという狙いだろう。4:17では下の図のように福岡の2トップごアンカーの位置にいる岩尾を消しながらCBに圧力をかけてサイドへと誘導。福岡のダブルボランチは浦和の安居と伊藤を監視して中央を閉鎖。ボールがSBへ渡ると福岡のSHが飛び出して圧力を強めてボールを奪う。この場面ではLSBの荻原からパスを受けようとした岩尾に対して、重見が飛び出してボールを刈り上げた。

(浦和のユニフォームの色が白ではなく赤になっています。)

福岡の1つのサイドへと誘導してハメ込むハイプレスは一定の効果があった。ハイプレス時には全体が2トップのプレスとリンクすることができていた。また、ホイブラーテンのサイドへ上手く誘導して、サイドで奪い取るというような狙いを持ったプレスになっていたことも評価できる。

ミドルブロックの3つのポイント

もし仮にハイプレスがハマらなかったとしても、福岡はミドルゾーンにブロックを作って我慢強く守る。福岡のミドルブロックが非常に強固で隙が少ないのは3つの基本的なポイントが徹底されていることだ。

①プレスバック
6:32では浦和がRCBのショルツからRSBの明本へ福岡の2列目を1本のパスで越えるタッチダウンパスが供給されたが、LSHのルキアンが慌ててプレスバックして対応。

福岡のミドルブロックとプレスバック

福岡の選手はプレスバックの意識は相当高く、浦和が福岡の守備ラインを越えても、福岡のプレスバックによって押し戻されたり、ボールを失う場面が多々あった。

②サイド誘導&圧縮
福岡は2トップの山岸と佐藤がサイドへと誘導する役割を担い、片方のサイドへ誘導するとボールサイドに圧縮することで、相手から時間とスペースを取り上げてボール奪い切る。福岡の山岸と佐藤は浦和のアンカーポジションにいる選手を消しながらCBへとプレスをかけてサイドへ誘導、その後しっかりとプレスバックをして中盤の選手をサポートということが徹底されていた。FWの選手があそこまで守備をしてくれるとMFの選手はタスクが減ってボールハントしやすくなる。

9:13は福岡のミドルブロックの守備が狙い通りいった場面だった。福岡の2トップがホイブラーテンのいる浦和の左サイドへ誘導して、そのままサイド圧縮。荻原に対して紺野がプレスしてパスコースを限定。荻原は岩尾へパスを出して打開しようとしたが、佐藤がプレスバックで戻ってきて、浦和がサイドチェンジをすることを許さなかった。

9:13の福岡のミドルブロック

またボールサイドを見てみると、この局面では福岡がサイド圧縮したことによって、4vs3の状況となり、福岡が数的優位でボールを奪いやすい状況だった。浦和はスペースの狭い方へ強いられて、この場面では広いスペースにボールを持っていくことができなかった。

③ライン間の封鎖
福岡の4-4-2のミドルブロックはライン間への対応もしっかりとオーガナイズされていて、ライン間へのパスに対して4バックの1人がタイトに対応して、中盤の選手がプレスバックをすることで自由を与えない構造になっていた。

25:47のようにライン間でボールを受けようとした関根に対して、RCBのグローリがタイトなマークでボールロストを誘発した。

25:47の福岡のライン間封鎖

このプレーの少し前にはRSHの大久保がライン間でボールを受けた場面があったが、重見がプレスバックをして自由にボールをコントロールさせなかった。

福岡は使われたくないライン間への対応はタイトに対応することで、浦和のボール保持をブロックの外側に誘導。そしてボールサイドへ圧縮をかけてボールを奪うという守備の徹底が見事だった。プレスバックやサイド圧縮、ライン間の封鎖といった守備には基本的なことの徹底ぶりが福岡の固い守備の秘訣ではないかと思う。基本的なことを当たり前にやるのは意外と難しいのだが、福岡はチームとして全員が徹底してやれているから強固な守備へと繋がっている。

『コンパクトな守備』をさせない

ラインを越えるタッチダウンパス

福岡のコンパクトな4-4-2のブロックに対して、浦和が攻撃の活路を見出したのはCBからSBへと繰り出されるタッチダウンパスだった。下の図のように右サイドから左サイドへ展開した時に、福岡のスライドが間に合わなくなるのでCBからSBへの1本のパスで2列目を越えるようなタッチダウンパスは有効だった。

6:52の浦和の攻撃

6:52では浦和は荻原がRSHの紺野の斜め後ろでボールを受けて関根とのワンツーでPA内のポケットへと侵入してチャンスを作った。荻原がボールを受けた位置が絶妙で、RSBの前嶋が荻原と関根の2人を対応しなければならなくなり、福岡は後手を踏む形となった。

中央→外

また、15:37の場面は浦和が中央で起点を作って、サイドへと展開したことで福岡がコンパクトな守備を保てなくなった。岩尾からふんわりとした浮き玉のパスがライン間にいる関根へと渡り、関根が安居へと落とす。そして安居が後方から上がってきた荻原へとパス展開した。

15:37の浦和のライン間を使った攻撃

ポイントとしては岩尾が福岡の2トップの背後でボールを受けられたことと、関根がライン間で起点になったことで、前嶋が釣り出されてサイドにスペースが生まれたこと。基本的にゾーンディフェンスはなるべくスペースを狭めてコンパクトに守るのだが、狭いスペースの中でも浦和が失わずにテンポ良くでボールを動かしたことで、荻原のところで広大なスペースが生まれた。この試合で荻原にフリーでボールが入るケースが何回かあったが、浦和の前線のアクションと荻原のクロスのタイミングやボールの質が合わないことが多く、福岡としては助かった場面も多かった。

33:55の安居の幻のゴールとなった攻撃も右サイドの大久保から中央にいた関根へとパスが渡り、関根が岩尾へバックパス。中央を見せたことで福岡は中央を閉じようと人が密集するのでサイドに大きなスペースが生まれる。十分なスペースと時間が荻原に与えられて、精度の高いボールが興梠へと配球された。

『コンパクトな守備』をさせないために浦和はもう少しダイナミックにボールを動かした方が良かった場面もあった。例えば、8:45の場面ではホイブラーテンがボールを受けた時に対角の右サイドでは浦和が数的優位を作っていた。LSBの荻原に出すよりも、対角への斜めのボールを右のコーナー付近に送り込むことで福岡の守備陣形は引き伸ばされるので、『コンパクトな守備』を崩すキッカケになったかもしれない。

8:45のサイドチェンジができた機会

仮に対角のパスが通らなくてもクリアされたボールを浦和が拾う可能性が高いので、もう少し積極的に福岡の守備陣形を引き伸ばすようなロングボールを有効に使えれば効果的に攻めれたはずだ。後半は相手の嫌なところにロングボールを入れる数も増えていたので、後半立ち上がりの15分くらいは浦和が押し込む時間帯が続いた。

後半に入ると浦和はボランチの1人が最終ラインに下りて、後ろを3枚にしてビルドアップする機会が増えた。福岡の2トップをボランチのケアで中央に寄せておいて、2トップの外側からボールを運び、大外のSHへラインを越えるパスで前進する機会が多かった。

52:09ではショルツから右のワイドに開いていた大久保へとパスが渡り、その瞬間に明本がLSB小田の背後へとランニング。明本の動きによって奈良が引っ張られたので、興梠へのパスコースが拓けたが、大久保のパスは興梠には通らなかった。

52:09の浦和の攻撃

この試合では特に大久保は良い位置でボールを受けれていた場面は何回かあったがラストパスの質が伴わない場面がほとんどだった。決定的な仕事をすることは今後彼の課題になるだろう。

前を向くより、前向きの選手を

現代サッカーにおいて定番になっているのが前向きの選手を使うプレーだ。特にライン間でボールを受けた選手は厳しいチェック受けることが多く、ターンするよりもボールを落として前向きの選手にボールを預けた方が効率が良いのだ。

プレミアリーグで旋風を巻き起こしているブライトンは前向きな選手を作るのが非常に上手なチームで、ピンボールのように「縦パス→落とし→縦パス」というような『アップバックスルー』が構造的に落とし込まれているチームだ。

浦和も今シーズンボールを受けた選手がターンするよりも、前向きの選手を使おうという意識は見えるのだが、動きが噛み合わずにロストに繋がる場面が多々ある。福岡のようにコンパクトに守ってくる相手に対して、ライン間はあまりスペースがないので、「縦パスが入った時に前向きの選手にボールを落とせるように3人目のサポートが作れたら」という場面がこの試合でも散見した。

62:09の場面ではホイブラーテンから興梠へとパスが入り、興梠の落としのパスがズレてボールロスト、最終的に佐藤の決定機を招く形となった。この場面では福岡の守備が素晴らしく、FWの佐藤がしっかりとサイドを限定してプレスをかけて、中央でボールを受けた興梠に対してタイトな寄せで自由を与えず、前、重見、山岸の3人が良い距離感にいたことで、ボールを奪ってからショートカウンターという局面を作ることができた。

62:09の浦和のビルドアップと福岡のハイプレス

一方で浦和は興梠にパスが入った時に3人目のサポートが作れていないこと、LSHのシャルクが内側を取りに行ってしまったことで、ホイブラーテンのパスコースが限定されてしまっていることなど、立ち位置で上手くいっていないことがわかる。

79:03の場面ではシャルクがハーフスペースでボールを受けたが、前のプレスバックに捕まりボールロストとなった。

79:03の浦和のビルドアップと福岡の守備

この場面でのシャルクの技術的な物足りなさは前提であるとして、浦和が縦パスが入った時に「受け手の選手にどうサポートするか」ということが課題として残る試合となった。

もちろん縦パスが入った時に上手く3人目のサポートに入れている場面もあった。例えば41分の場面では、下の図のようにショルツから安居へと縦パスが入った時に、大久保が外側から内側に入ってきて安居がボールを落とすことができた。そこから興梠を経由して左サイドでフリーになっていた荻原へとパスが渡った。

41:25の浦和の攻撃

この場面ではRSHの紺野がプレスバックして荻原からボールを奪い取ったが意図していた部分は見えた攻撃だった。こういった3人目のサポートを作れていた場面もあったので、チーム全体として共通理解を深めていけばどんどん良くなっていくとは思う。しかし、現状では3人目のサポートで『落とし』の選択肢がないことが多いので、前線で起点を作れる興梠がいないとボールを前進できない局面が多くあることも事実だ。

もう少し、浦和のチーム事情を話すとこの試合では伊藤がRCBのショルツの右隣に下りて3枚で最終ラインを作ることが多かった。伊藤は1番3人目のサポートを作ることが上手い選手なのだが、伊藤が最終ラインに入ったことで3人目のサポートが作れずにライン間でのボールロストが目立った試合となった。また、伊藤が最終ラインに入るとダイナミズムが生まれづらく、この試合では伊藤がチャンネルランを見せたのは39:58の一回だけだったように思う。アタッキングサードでダイナミズムをもたらせる伊藤をゴールから1番遠い場所に配置してしまったことは悪手だったように感じた試合だった。

福岡の話をすると、ミドルブロックは非常にコンパクトで、全員がプレスバックやライン間を潰す意識が高いのでボールを奪うことができているのだが、ボールを奪った後の最初のパスがズレていたり、技術的な部分でミスが出たりともったいない場面が沢山あったことも確かだ。失点が0であるうちは相手も攻めなければいけないので、福岡のストロングである強固なミドルブロックからのショートカウンターが発揮しやすいが、1失点すると福岡も前に出ていかなければならなくなるので、「どうやって能動的に得点を奪うか」という課題も見られた。

この試合は両チームの取り組んでいる良い部分と課題の両面が顕著に現れた試合となった。

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