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10人での戦い方

1-3
今シーズン4回目の対戦となるガンバ大阪対浦和レッズの『ナショナルダービー』は意外にも10人と劣勢になった浦和がチャンスをモノにして勝利を手に入れた。

この試合で明暗を分けたのが1人多くなった時のガンバの振る舞いと1人少なくなった浦和の振る舞いだろう。ガンバは+1のアドバンテージを上手く利用できない場面が多く、逆に浦和は-1になったことでリスクを負う場面と割り切って守るところでチームの意識が統一されていた。今回はそんな両チームの振る舞いも含めて振り返っていく。


ゾーンディフェンスの歪み

試合の立ち上がりは浦和が攻め込む時間帯が増えた。ガンバは4-4-1-1のブロックを作り、最終ラインと2列目の4-4のブロックはゾーンで守りながらブロックの中へ入ってくる相手に対して追い出すような守備で対応した。

浦和はそんなガンバのゾーンディフェンスに対して下の図のようにLCBのホイブラーテンからのサイドチェンジでアタッキングサードへと侵入した。関根、小泉、安居の2列目の選手たちがポジションを入れ替わりながらハーフレーンに立つことでガンバの両SBとダブルボランチは中央へ矢印を向ける。そのため大外のレーンでボールを受ける浦和の酒井と荻原は良い状態でボールを受けることができた。

ホイブラーテンからのサイドチェンジ

ガンバのOMFファンアラーノとCFジェバリはボールを奪いに行くというよりかは穴を開けない守備を心掛けていて、浦和の両CBへは強くプレスに行かずに岩尾と中央への縦パスを防ぐ役割を担った。従ってホイブラーテンとショルツのところにはあまり圧力はかからずホイブラーテンからは高い精度のロングフィード、ショルツからは持ち運びを許す格好となり押し込まれることになった。

11:39では上の図と同様にホイブラーテンから酒井の対角へのロングフィードから、酒井が頭で後ろから飛び出してきたボランチの伊藤へと繋ぎチャンスを作ったが中の動きとクロスが合わずにシュートまで持ち込むことはできなかった。

ガンバの前線のプレスの強度が低く、ボールホルダーへプレッシャーがかからないため、浦和の最終ラインでは顔が上がった良い状態でボールを持つことができた。それに伴い、受け手もタイミングよく顔を出してボールを受けることができた。7:49では伊藤からの縦パスを小泉が2列目から下りてきてボールを受けて反転。RSBの酒井が斜めの動きで背後を取ろうとしたが、ガンバのLSB黒川も良い予測でインターセプトして対応した。

7:49の浦和の攻撃

ガンバは前線のプレスのスイッチが入らずにパスコースを限定することができなかったので、中盤や最終ラインが浦和の2列目を捕まえることに苦労。しかし、ギリギリのところで踏ん張り前半立ち上がりの劣勢を凌いだ。

そして少し落ち着きを取り戻したガンバは14:53に浦和と同様にRCB佐藤からLSB黒川への対角のロングフィードから前進。ガンバと似たように浦和も4-4-2の守備ブロックを作りゾーンで対応しているため、サイドチェンジでワイドにいる選手には多少の余裕がある。黒川がコントロールからスピードを上げ、プレスバックしてきた小泉を振り切り、遅れてカバーに入った酒井をかわしたところで倒されてFKを獲得。そのFKを宇佐美が直接決めてガンバが先制した。

ガンバのサイドチェンジ

このサイドチェンジの場面ではハーフレーンにいたファンアラーノが外から内側への斜めの動きで酒井を黒川から遠ざけていることからわかる。その結果、小泉がプレスバックして対応を強いられることとなった。オフザボールの動きで味方の選手にスペースを与えるクレバーな働きだった。

ゾーンディフェンスの1番難しいところは「いつ人を捕まえるのか」「いつ捕まえた人を放すのか」という点だろう。ガンバの得点に繋がったサイドチェンジも酒井がファンアラーノに付いて行ったことで黒川はフリーになった。自分のゾーンにいた相手が移動した際にいつ味方の選手に受け渡すのか非常に判断が難しい。

これはガンバも例外ではない。例えば29:38の場面でRCBのショルツがドリブルで持ち運んだところから背後を取った酒井へとスルーパスを送り、浦和はチャンスを作った。

29:38の浦和の右サイドからの攻撃

この場面もハーフレーンにいた安居が下りるアクションをした時にLSBの黒川は受け渡さずに付いていく決断をした。そして酒井をマークしていた宇佐美はショルツの上がりを見て酒井のマークを黒川へ受け渡して飛び出す決断をしたが、このマークの受け渡しが上手くいかずに酒井がフリーで抜け出し形となった。「もともと自分の担当するゾーンにいる選手をどこまで面倒見るのか」という判断は非常に難しく、共通意識が必要となる。

特にJリーグではこのゾーンディフェンスの際の自分の担当ゾーンにいたマークが他のゾーンへと移動した時に「付いていく」「受け渡す」という判断力が鈍い傾向にあるのではないかと感じる。マンツーマンで「特定の人を捕まえる」という基準はシンプルなので上手くいく傾向にあるが、『ゾーン』という基準で守る時には状況判断の要素が加わるため苦手にしているの選手が多いのではないかと思う。

+1と-1の戦い方

このゲームが大きく動いたのは58分のホセカンテの退場だろう。しかし、ガンバは+1のアドバンテージを上手く利用することができずに浦和に勝ち越しを許す結果となった。

+1の使い所

例えば、浦和の2点目はガンバのハイプレスを浦和が剥がしたところから始まった。ショルツの縦パスを受けた安居がボランチの岩尾へと落として、途中出場のリンセンへと楔を入れる。リンセンが福岡と入れ替わり形で前を向き、浦和のゴールへと繋がった。

浦和の2点目に繋がったビルドアップ

ガンバのダブルボランチは中央に立ち位置を取り、人を捕まえていない。ボランチの岩尾に対してはプレスバックしてきたジェバリが対応している。ガンバのプレスは浦和のビルドアップに対して+1を作ってハメている訳ではなく、常にボールホルダーに対して1人ずつ対応するマンツーマンだとわかる。ということは、ガンバは+1のアドバンテージがありながらも、そのアドバンテージを活かせずに福岡のところでリンセンに入れ替わられてしまったことで失点のキッカケを作ってしまった。

個人的にはダブルボランチがもう少しボールサイドによってボールサイドへ圧縮しても良かったのかなと感じた。ボールサイドへ圧縮することで仮にマンツーマンで対応しているところで入れ替わったとしてもボランチがカバーすることができるからだ。しかし、この場面ではダブルボランチの距離がボールから遠くフィルターの役割を担えなかったように見受けられた。

そしてディフェンシブサードの対応でもガンバにミスが出る。岩尾から伊藤へのパスに対してCBの佐藤が飛び出して行ったことによってゴール前にはCBがおらず、中野+ダワンvs髙橋+岩尾の2vs2の状況が発生した。この局面を見てみると黒川がプレスバックで戻ってきていたため、佐藤が慌てて伊藤へ飛び出してゴール前に穴をあける必要はなかったように思う。

67分の浦和の得点シーン

ガンバとしては1番危険なエリアを防がなければいけなかったが、プレスを剥がされて擬似カウンターのような状況になったことから慌てて対応したことで失点することになってしまった。ガンバは+1の使い所がハッキリしないまま失点をしてしまったことは痛恨だった。

-1の戦い方

浦和はホセカンテが退場してからの振る舞いは非常に素晴らしかった。-1という状況を感じさせないくらい好戦的であり、積極的だった。

例えば、59:51の浦和の守備陣形を見てみるとガンバにプレスに出ていく格好となっている。浦和は1人ひとりの選手がガンバの選手たちの間に立つことでマークをシェア。ガンバのSBはフリーの状態にさせておいて、そこに入るボールへはSBが飛び出して、最終ラインがスライドする形か、SHのプレスバックで対応した。

浦和の1人少ない状態での守備陣形

多くのチームは1人少ない状況であればプレスは諦めて自陣でリトリートすることを選ぶだろう。しかし、この試合の浦和はボールを奪いに行く守備も行っていた。

そして、浦和は1人少ない状態でのプレスから3点目を決めることとなる。下の図のようにボールサイドで4vs4の数的同数の局面を作り、石毛のミスパスを安居がすかさずリンセンへ配球してリンセンがゴールを決めた。

84分の浦和のハイプレス

まず注目すべきはLSHの髙橋が逆サイドまで圧縮してきたことで数的同数を作り出していることだ。リンセンが上手く浦和の右サイドへと誘導してパスコースを限定、サポートに下りてきた石毛に対しても酒井がピタッとくっついてミスを誘った。浦和は-1という状況ながら上手く数的同数の状況に追い込んで、ボール奪取からショートカウンターで得点と理想の流れだった。

ガンバはこの場面でボールサイドに拘る必要はなく、逆サイドに展開することができれば数的優位が保証されていた場面だった。しかし、クォンは1点ビハインドしている状況からか前へ進むことを選択して浦和のトラップにハマる形となった。+1というアドバンテージがある中でボール保持時にはGKを含めると+2のアドバンテージとなる。しかし、焦って前に攻め急いだことでボールロストの原因をつくってしまうこととなった。

安全なボール保持の弊害

ガンバはホセカンテが退場してからボール保持時間を徐々に増やし、浦和陣内でプレーする時間が増えていった。その中で浦和の4-4-1のローブロックをなかなか攻略することができず、PA内への侵入回数もあまり多くなかった。

ガンバは浦和の守備ブロックの外側でボールを動かす時間が多く、中央(特に浦和のダブルボランチの前)から攻める機会が少なかった。72:49の場面ではLCBのクォンギョンウォンが佐藤からボールを受けた時にクォンギョンウォンの前には大きなスペースがあったが、ドリブルで持ち運ぶことなくLSBの黒川へとパス。黒川に対して酒井が中央を消しながら寄せていき、石毛がサイドに流れてボールを受けたが苦しい体勢+ゴールから遠い距離からのクロスでホイブラーテンに簡単に跳ね返されてしまった。

72分のガンバの攻撃

浦和は4-4-1のブロックで中央を閉じながら守る。ブロックの外側でボールを持たれる分には恐さはなかったはずだ。大外からのクロスに対しても浦和の方が高さで分があり、しっかりと構えた状態であれば高い確率で跳ね返すことができる。

ガンバはCBの攻撃参加が消極的で安全なプレーが目立った。特に先程のような場面で前に運ぶプレーがなかったため、攻撃陣に+1を作ることができていなかった。CBの安全なプレーは浦和にとっても安全なプレーになっていた。1人多いことやビハインドの試合状況を考えるともっと積極的にプレーしても良かったかもしれない。

93:41では本来ガンバがやりたかった攻撃だろう。クォンギョンウォンから横パスを受けた山本が前に運んだことで、浦和のダブルボランチはボールに釘付けとなりライン間のマーカーを見失う。山本から倉田へと縦パスが入り、倉田の柔らかい背後へのボールから背後を取った唐山がシュートを放った。

93分のガンバの攻撃

この場面を見てみると浦和の選手たちが自分のマーカーを見失っていることがよくわかる。中央から攻め込まれるとどうしてもボールホルダーへ対応する必要があり、ボールとマーカーを同一視できない状況が生まれやすい。この場面はそれが顕著に現れた。

ガンバはもう少し早い時間帯からこういった攻撃を見せたかったが、+1の状況を上手く利用できなかった。一方で浦和は-1の状況ながらリスクを負いながらプレスをかけるところ、割り切ってブロックを作るところとオーガナイズがしっかりされていた。1人少ないからか全員のプレスバックやスライドといったポジション修正の意識が高く、組織的な守備が体現されていた。1人少ない浦和の戦い方が上回りアウェイの地で3ポイントを手に入れた。

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