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『ラストピース』は必要か?【J1第12節】柏レイソルvs浦和レッズ

ACLを無事にグループステージ通過を決めたレッズは久しぶりのリーグ戦。再開後の初戦はリーグで上位に付けている柏レイソルとアウェイでの一戦でした。

柏は今シーズン若手が躍動していて前節の広島戦でも21歳の森が2得点。20歳の細谷も既に4得点をマークしており昨シーズンとは印象が大きく異なるチームとなっています。レッズはここまでリーグ戦のアウェイで勝利無しと嫌な流れがあるだけにこの試合に勝利してその流れを払拭したい一戦でした。

マッチレポート

スタメン

柏: 5-3-2 (3-5-2)
浦和: 4-2-3-1

ホームの柏は前節の2得点をあげた森が先発起用。一方のレッズは左SHに関根が入り、シャルクがトップに入った。古巣対戦となる江坂にも注目が集まる。


試合内容

5分にレッズは古賀のクリアボールを江坂がハーフボレーで狙うがゴールの上を大きく超えていく。6分にレッズはクイックFKで平野のリスタートから江坂がスルーパス、モーベルグが背後に抜け出すも古賀が戻ってきて対応しシュートまで行けず。13分にもモーベルグが平野のスルーパスから背後に抜け出すも三丸の素晴らしいカバーによってシュートまで持ち込めず。22分には馬渡がこぼれ球をスライディングパスで繋ぎ、最後は関根が左足でシュートを放つもGKキムスンギュの正面に。27分に柏は細谷が岩波のコントロールを狙い高い位置でボールを奪い、森へラストパス、森がダイレクトでシュートを打つがショルツがブロックしボールは枠外へ。38分にも柏は細谷からパス受けた森がシュートを放つも西川がしっかりとキャッチ。41分にレッズは江坂のクロスにシャルクが飛び込み頭で合わせるもキムスンギュがファインセーブで凌ぐ。両チーム前半にゴールは生まれず0-0で折り返す。

両チーム同じメンバーで後半に臨む。56分にレッズは平野のロングフィードから背後に抜け出したシャルクが細かいタッチでカットインしてシュート、ボールはゴールに吸い込まれたがVARでオフサイド判定となりノーゴールに。60分に柏は椎橋が遠目からゴールを狙うが西川がキャッチ。65分に柏は細谷がサヴィオのふんわりした背後へのパスからシュート、西川が弾いてピンチを逃れる。67分にレッズは江坂の放ったシュートがブロックされ、そのこぼれ球を拾ったモーベルグが馬渡へスルーパス、そのスルーパスからPAのポケットに侵入した馬渡が折り返すもキムスンギュが素早く反応してシャルクまでパスが通らず。75分にレッズはPA手前からのFKをシャルクが直接狙うが枠の上に外れる。78分にシャルクのパスミスを奪った細谷からM.サヴィオにボールが渡り、そのままシュートを放つがゴール左に外れる。86分にも柏は素早い攻守の切り替えで小泉からボールを奪うと、細谷を経由して最後は途中出場のアンジェロッティが右足でシュートを放つがボールはゴールの上を超えていく。90分+5にレッズ柏がクリアしたボールをショルツがダイレクトボレーシュートでゴールを狙うもクロスバーに当たり得点には至らず。


試合結果

明治安田生命J1リーグ 第12節
2022年5月8日(日) 16:03キックオフ・三協フロンテア柏スタジアム
柏レイソル 0-0(前半0-0) 浦和レッズ
入場者数 13,418人

・試合ハイライト動画


・試合スタッツ


マッチレビュー

鉄は熱いうちに打て

レッズは試合立ち上がりから主導権を握り、柏の5-3-2のブロックに対しても上手く攻略するところまではできていました。スカウティングの段階で「柏の守備陣形に対してどう立ち位置を取るか」を上手く設計することができていたので試合開始から25分くらいまではレッズが良い形でビルドアップすることができました。

1:08では柏がハイプレスをかけてきましたが、西川を使って上手く柏の2トップの背後を取ることができました。平野はボランチの選手の中で1番安定して良い立ち位置を取れるので、この試合でもレッズの頭脳として機能しました。

1:08の西川を含めたビルドアップ

柏の2トップの背後を取ると、次に柏の2列目の攻略になります。この試合では関根と江坂が柏のアンカーである椎橋の両脇を取ることで捕まりづらいポジションをキープしていました。平野が1列目のラインを超えると、椎橋は江坂をケアするためにポジション修正した結果、関根へのパスコースが開き、平野から関根へ縦パスを入れることができました。

1:11の平野の縦パス

関根からシャルクへのスルーパスをつながりませんでしたが、柏の5-3-2の守備に対して後ろからパスを繋いで1列目、2列目を超えていくというところはできていました。

16:23では岩波から江坂へ鋭い縦パスが入りました。江坂は中村と椎橋の間のスペースにポジショニングし縦パスを引き出すことに成功。出し手である岩波の持ち味である質の高い縦パスが活きたシーンでした。

16:23の岩波の縦パス

13:10の場面では得点に値するようなビルドアップからの崩しが生まれました。前半は3-1-5-1でのビルドアップの形がレッズは多く、ボランチ(柴戸もしくは平野)が最終ラインに加わり、もう1人のボランチの所で1列目を超えて前進する形が機能しました。13:10ではライン間から下りてきた関根を経由して平野へとパスを繋ぎ、柏の1列目の背後を取ることに成功。平野にボールが渡るとシャルクがボールを引き出そうと下りたことで古賀の背後にスペースが生まれ、そのスペースにモーベルグが飛び出しました。平野から質の高いスルーパスがモーベルグへと渡りましたが、三丸が素晴らしいカバーでレッズの攻撃に対応したことで得点には至りませんでした。

13:10のレッズの攻撃

モーベルグが背後を取るところまではレッズの狙い通りの形でボールを動かすことができましたし、三丸が良い対応をしていなければ得点することができていたような場面でした。

正直なところ、柏が守備を修正し始めた25分までに柏の2列目を超えるところまでは上手くいっていたので1点取っておきたい時間帯でした。「鉄は熱いうちに打て」ということわざがあるように、柏の守備が整っていないうちに得点を奪うことができていれば勝点3に近づいていたのではないかなと思います。

しかし、この試合に関して言えば2列目を超えてからのスルーパスのクオリティー(精度、パススピード、受け手がコントロールしやすいパス)が欠けていたのでなかなかシュートまで持っていくことができませんでした。「どうやってシュートまで持っていくか」は技術的にも戦術的にも課題が残る試合でした。


『ラストピース』の存在

柏は攻守で明確な狙いを持って試合に臨んできましたし、その狙いを柏の選手たちはよく表現していたと思います。

守備では「レッズの前線の起点となる江坂を潰すこと」は「ショルツの持ち上がりをさせないこと」徹底して行ってきました。

・起点潰し
この試合では終始江坂へのマークは厳しいものでした。6:01では岩波から江坂への縦パスに対して椎橋、高橋、上島の3人がアプローチをかけていましたし、柏にとって江坂は最も警戒していたプレイヤーだったと思います。

16:16では西川からパスを受けたショルツに対して細谷が江坂への縦パスのコースを消しながらプレス。この時に中村が江坂と馬渡のどちらも対応できるような立ち位置を取り、三丸が馬渡までプレスに出られる準備をしていました。ショルツはこのまま前進するとハマってしまうことを察知して西川にバックパスをしてやり直す選択をしました。

柏のプレス

試合を通じてショルツの判断も良かったので右サイドでハマってカウンターを受ける場面がほとんどありませんでしたが、それと同時に右サイドから前進する機会は少なくなりました。この試合ではショルツが持ち上がることができた場面が1回のみだったと思います。レッズのストロングポイントであるショルツの持ち上がりを消してきたのはネルシーニョ監督の手腕が光る結果となりました。

・頭脳封じ
江坂を封じたかった柏ですが、レッズの平野を経由したビルドアップから江坂へ縦パスが入る場面が再三あったので、柏は25分くらいから前線の守備のタスクを少し変えてきました。25分を過ぎたあたりから柏の2トップがレッズの頭脳である平野を監視する形を取り、あまり積極的にレッズのCBへプレスをかけることが減りました。その結果CBからライン間にレッズの2列目へのパスが増え、25:36では岩波から江坂への縦パスを高橋に奪われましたし、26:35では岩波から関根への縦パスを椎橋に狙われました。

後半に入ると柏の2トップの守備タスクはより明確になり、森を最前線に置き、細谷をその下に配置してボランチをケアするやり方に修正してきました。後半開始直後の45:40では下の図のようにこれまではフリーになっていた平野に対して細谷がマーク、結局平野のパスミスを誘発しました。

柏の後半の守備

・レッズの適応力
柏の修正に対して初めは苦戦しましたが、次第に解決策を見つけていきました。61:20のようにダブルボランチが細谷の両脇にポジショニングすることでCBからのボールを引き出して前進をサポート。このシーンでは岩波からの縦パスを受けた柴戸がターンしてシャルクへ縦パスを入れることができました。

61:20のレッズのビルドアップ

シャルクは柏の選手が多くいる右サイドのモーベルグへ展開したので窮屈な格好になり、スピードアップすることができませんでしたが、柏の修正してきた守備陣形に対してすぐに適応して良いポジションを取りながら前進することができた場面でした。

・ラストピース
個人的には柏の組織的な守備に対してレッズはとても上手に人を配置して、ボールを動かし、前進することができていたと思います。ただ、あまりチャンスシーンが多くなかった理由として、ほとんどの攻撃が柏のDFラインの前でのプレイだったことが原因でDFラインの背後を取ることに苦戦したことが影響していると考えられます。

この試合ではシャルクがトップに起用されましたが、彼の得意なプレイエリアは1.5列目のように見受けられ、「DFラインと駆け引きして背後に飛び出すラインブレイカー」でも、「CBとデュエルで勝利してボールを収めるポストプレイヤー」でもないように思います。オフサイドで得点が取り消しにはなりましたが、シャルクがDFラインの背後へ抜け出してシュートした場面のように求められる役割を表現しようとしていましたが、彼の特長が1番発揮できるタスクではないように感じました。

この試合は全体的に背後への抜け出しが少なく、最前線でボールが収まる場所もなかったので、なかなか柏のDFラインが下がらずにレッズの選手達も高い位置を取りづらい状況でした。その結果、2列目からのピンポイントで合わせるようなスルーパスかサイドに展開してからのクロスしか攻め手がなく、ゴール前に人数をかけることが難しくなってしまいました。

実際にヒートマップを見てもレッズはアタッキングサードに侵入する機会が少なかったことがわかります。また、シュートゾーンを見てみるとPA内からのシュートは少なく、相手陣内深い位置まで侵入することに苦戦した試合だったことがわかります。

残念ながら攻撃面では『ラストピース』の存在が待ち遠しく感じさせられるゲーム内容になってしまいました。


左SB明本の取説

明本はFW、SH、SBと様々なポジションをこなせるポリバレントでタフな選手です。この試合で明本は左SBで起用されました。左SB明本に課せられていた攻撃でのタスクは「左サイドからのクロスとゴール前でのフィニッシャー(もしくはスクランブルを起こすプレイヤー)」で、守備でのタスクは「幅を取ってくる右WBへの対応とマテウスサヴィオの対応」だったと思います。

守備面では大南と対等に戦える空中戦の強さとマテウスサヴィオへの粘り強い対応で素晴らしい働きを見せました。一方で攻撃面では明本の良さがイマイチ出ないものになりました。

その原因として考えられるのが明本の立ち位置が低かったことにあると思います。明本の攻撃のタスクを遂行するには明本が高い位置にポジショニングして、彼が受け手である必要があります。しかし、この試合では先程説明したように柏のDFラインを下げさせることができなかったことや、明本が上がるための時間を前線で作れなかったことで明本が高い位置を取ることができませんでした。

19:47では明本が岩波からパスを受けますが大南に強いプレッシャーをかけられて蹴らされる格好となりました。

19:47のレッズのボールロスト

岩波が左足でボールを持てないので「岩波が右足でパスを出した時に相手に引っかからない角度」に明本は立ち位置を取るので、自然と立ち位置は低くなってしまいます。また、仮にここで明本がボールを受けたとしても、明本は前線に質の高いパスを供給する必要があるので彼に期待されているタスクとは異なると思います。

40:19では平野からパスを受けた明本は中央の江坂へパスを選択しましたが、パスは繋がりませんでした。関根がDFラインの背後を取っていたので関根にボールが渡っていれば面白い場面だったかもしれません。

40:19のレッズのボールロスト

パスの質に関しては明本も向上させなければいけないとは思いますが、明本に期待されているプレイというは受け手としての役割が大きく、出し手ではないと思います。レッズのビルドアップの設計的に関根が内側に立ち位置を取るので明本がもっと高い位置を取り、よりゴールに近い位置でプレイさせてあげるべきでしたが、岩波とのコンビだったことや前線で起点ができなかったことも影響して明本の良さが攻撃面では活きない形となりました。

ボランチを左に下して明本を高い位置に上げることや関根を外、明本を内側に配置してシャルクと2トップ気味にふるまわせて、江坂をリンクマンとしてプレイさせるなどの工夫があるとまた違った展開になったのかなと感じました。


最後に

ACLで中断していたリーグ戦が再開し、初戦はドローという結果になりました。守備面ではショルツを中心に危険な局面で粘り強く対応して無失点に抑えました。一方で攻撃面では停滞感が漂い1点が遠い内容でした。リカルド監督がレッズに就任した時から現時点までで、杉本、武藤、ユンカー、興梠、江坂、シャルクなど様々なタイプの選手をトップに起用してきました。そうして中で、「やはり9番タイプの中央で起点を作ることができる選手がいると全体を押し上げて人数をかけることができるので、攻撃も活性化しますしネガティブトランジションも機能するのでは」と感じざる負えないのが今回の試合でした。リカルド監督は最前線にはラインブレイカーよりもポストプレイヤーの方が好みそうだなと印象を受けるので、そういったタイプの選手がいないという点で『ラストピース』が欠けているのが現状だと思います。噂に上がっている選手はいますが、現状はユンカーの復帰が一番攻撃の活性化に繋がりそうです。

リーグが混戦となっているだけに引き分けを勝ちに持っていくことができると順位も上がってくると思いますが、現在は14位と危険な順位でもあります。過密日程で試合が進む中で広島、マリノス、鹿島のホーム3連戦はレッズの今シーズンを占う重要な試合になると思います。この3チームはリーグで上位につけているので簡単に勝てる相手ではありません。しかし、勝つことができれば上位進出の手掛かりにすることができますし、チームに勢いをもたらす試合になるはずです。

次節は久々にホーム埼玉スタジアムでの広島戦です。チーム、個人としての課題は沢山ありますが、レッズが積み重ねてきたものをピッチで表現して勝利を手にしてほしいところです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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