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グリム童話を読む配信。『三枚の羽根』❺

ドイツ語の復習のために、グリム童話を原文で読んで配信する試みをしています。まずは『三枚の羽根』のお話を8回に分けて読んでいます。その5回目です。

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Brüder Grimm „Kinder - und Hausmärchen“

美しい絨毯を探しに行った三兄弟。遠くまで出掛けたのにもかかわらず、ぼろ切れを持ち帰った兄たちと、城の地下にいるヒキガエルから見事な一枚をもらい受けた末っ子のとんま。というのが、前回の配信です。詳しくは、ひとつ前の記事にて。

5回目の配信で読んだ部分を引用します。その下にある日本語は拙訳です。

◇ グリム兄弟の童話集Die drei Federn(5/8)

Zu derselben Zeit kam auch der Dummling zurück und brachte seinen schönen Teppich. Als der König den sah, staunte er und sprach: >>Wenn es dem Recht nach gehen soll, so gehört dem Jüngsten das Königreich. << Aber die zwei anderen ließen dem Vater keine Ruhe und sagten, unmöglich könne der Dummling, dem es vor allen Dingen an Verstand fehle, König werden, und baten ihn, er möge eine neue Bedingung stellen. Da sagte der Vater: >> Der soll das Reich erben, der mir den schönsten Ring bringt! << Und er führte die drei Brüder hinaus und blies drei Federn in die Luft, denen nachgehen sollten.

Brüder Grimm „Kinder - und Hausmärchen“

ちょうど同じ頃にとんまも城へ戻り、持ってきた美しい絨毯を差し出しました。それを見た王様は、あまりの見事さに感心して、こう言いました。
「取り決めたことに従うのなら、この王国は、末の王子のものとなる」。
しかしほかの二人は、あらゆることに分別の足りないとんまが、王位を継ぐなんてことはあり得ないと、間髪を入れず王様に言いつのり、王位継承者を決めるための別の新しい条件を、自分たち息子に与えるよう乞うのでした。
そこで父である王様は、「我に最も美しい指輪を齎した者が、この王国を受け継ぐこととする」と言って、三兄弟を城の外に連れ出し、指輪探しの道行きへと彼らを誘う羽根を三枚、空(くう)に吹き飛ばしました。

QULICO|意訳

これは、末っ子とんまの優勝でしょう。明らかに。だって、父の言いつけどおり、この世でもっとも上等な絨毯を持ち帰ったのですから。ただ入手した経緯を問われれば、まあ、二人の兄より平和的ではあるものの、(人間ではないけれど)誰かの所有物を自分のものにして帳尻を合わせたという点では、違いはないような。笑

ということで、ここのセクションの、気になる箇所をみてみます。引用と拙訳。

>>Wenn es dem Recht nach gehen soll, so gehört dem Jüngsten das Königreich. << 

取り決めたことに従うのなら、この王国は、末の王子のものとなる」(意訳)

『独和大辞典 第2版』小学館

これは王様の言葉ですが、何かまわりくどい。笑。さらに単語をみていきます。

das Recht|中性名詞
       ① 権利、権限、権能
       ② 正しいこと、公正(正当)なこと、道理、正義
       ③ 法、掟、判決、裁判
         前置詞 nach 〜|nach geltendem Recht 現行の法により
       ④ 法(律)学|複数形

『独和大辞典 第2版』小学館

俺こそ法だ、と言わんばかりに王様は、競い合いのルールと勝者の条件を示したわけですよね。三人の息子のなかから王位を譲る者を決めるにあたって。その定めに則れば、王位継承者は末っ子とんまにすんなり決まるはずなのに、上の引用にあるように、確かそういうルールだったよねぇ、となぞりはするものの断言はしない。さらに兄たちの言い分を聞き入れ、別の条件を加えて競い合いを続行してしまう。

そもそも、この物語(というか、多分におとぎ話)には、登場人物の感情や思いを伝える情報は多くありませんが、はたして末っ子とんまは父の後を継ぐ気はあるのでしょうか。そして王様は三人の息子をどう思っているのでしょうか。

末っ子とんまについていえば、その気はあるように思います。父が飛ばした羽根がすぐそこに落ちたとき、その場にしゃがみ込んでしょんぼりしたわけですから。それはつまり、自分も遠くにある素晴らしい何かを探しに行きたかった。自分の手で見つけたものを認めてもらいたかった。そして何より、父の思いに応えたかったのではないかと……。

それでは、父である王様はどうなのでしょう。なぜ息子たちを競い合わせるのか。自らの約束を履行しないで、兄弟に勝ち負けを続けさせるのか。それはおそらく、信頼できないからではないですかね。末っ子とんま、だけでなく、三人の息子を。いやむしろ、自分自身のことを……。

その一方で、本心がだだ漏れですよね。上の息子たちは。笑。人間臭さでいっぱいの彼らですが、その半面、影のような実体のない存在にも思えます。いったい誰の影かというと、それは、迷える王様と、頼りない末の王子のです。

物語のなかでは語られない、この二人の本音の部分を、兄たちの人格にぎゅぎゅっと詰め込んで、読み手の子どもたち向かい代弁している気がするわけですが、なぜそのように思うのかについては、また改めて。

*参考*
アプリ版『独和大辞典 第2版』(小学館)
池田香代子訳『完訳クラシック グリム童話』(講談社)

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