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グリム童話を読む配信。『三枚の羽根』❽

ドイツ語の復習のため、グリム童話を原文で読み配信する試みをしています。まずは『三枚の羽根』のお話を8回に分けて読んできました。今回はその最終回です。

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Brüder Grimm „Kinder - und Hausmärchen“

王位を継ぐための三つ目の条件、それは美しい娘を見つけ出すこと。またも地下の太ったヒキガエルの全面的協力を得て、父である王様に命じられた通りの娘を連れ帰った末っ子のとんまです。前回読んだ内容については、ひとつ前の記事にて。

それでは8回目の配信で読んだ部分を引用します。その下の日本語は拙訳です。

◇ グリム兄弟の童話集|Die drei Federn(8/8)

Seine Brüder kamen nach, die hatten sich gar keine Mühe gegeben, eine schöne Frau zu suchen, sondern die erstbesten Bauernweiber mit-genommen. Als der König sie erblickte, sprach er : >>Dem jüngsten gehört das Reich nach meinem Tod.<< Aber die zwei ältesten betäubten die Ohren des Königs aufs neue mit ihrem Geschrei : >>Wir können’s nicht zugeben, daß der Dummling König wird !<< Und sie verlangten, der soll den Vorzug haben, dessen Frau durch einen Ring springen könnte, der da mitten in dem Saal hing. Sie dachten : >>Die Bauernweiber können das gewiß, die sind stark genug, aber das zarte Fräulein springt sich tot.<<
Der alte König gab auch das noch zu. Da sprangen die zwei Weiber durch den Ring, waren aber so plump, daß sie fielen und ihre groben Arme und Beine entzweibrachen. Darauf sprang das schöne Fräulein, das der Dumm-ling mitgebracht hatte, und es sprang so leicht hindurch wie ein Reh, und aller Widerspruch mußte aufhören. So erhielt der Dummling die Krone, und er hat lange in Weisheit geherrscht.

Brüder Grimm „Kinder - und Hausmärchen“

兄二人は後からやって来ましたが、彼らは美しい娘を探すのに汗をかこうとせず、道端で最初に出会った百姓の娘二人を連れて帰りました。
その娘たちを一瞥すると、王様はこう言いました。「末の息子にこの国を譲ることとしよう。私が死んだ後には……」。
けれど上の二人は、「末っ子のとんまが王位を継ぐなんて認められない!」と、王様の両耳をマヒさせるほどわめき散らし、大広間の真ん中に吊り下げられた輪の中に娘たちを飛び込ませて、見事通り抜けられたほうを有利にとりはかって欲しいと新たに要求しました。「百姓の娘らならやり遂げるだろう。十分丈夫なのだから。だがあのように華奢な娘は飛び落ちて死ぬに違いない」と企みながら……。
王様は彼らの言い分をまた認めたので、百姓の娘二人は輪の中に飛び込みましたが、飛ぶ姿があまりに不恰好で娘たちは落ちてしまい、いかつい腕と脚を真っ二つに砕いてしまいました。続いて、末っ子のとんまが連れ帰った美しい娘が飛ぶと、今度は文句のつけようがないほど、ノロジカのごとく軽やかに輪の中を通り抜けたのでした。
こうして末っ子のとんまは王冠を譲り受け、知恵を持って末長く国を納めました。

QULICO|意訳

我らが主人公、末っ子とんまは幸せをつかんだようですね。安心しました!笑

さて、この物語を訳してきて、印象に残ったこと、疑問に思ったことを書いてきましたが、その答え合わせ?として、こちらの書籍を参考にしたいと思います。

河合隼雄著 『昔話の深層ーユング心理学とグリム童話ー』(講談社)

この本の最終章に『三枚の羽根』が取り上げられています。理由は「グリム童話によく生じる典型的な主題を多くもつ物語」だからとか(つまり、まとめ的な)。

それでは、物語のうすのろな主人公、三枚の羽根、地下の世界、ヒキガエルの意味とはいったい何でしょう。また三兄弟は、父親から探してくるよう言われたものが3つありました。それぞれの象徴として、次のようなことが考えられるそうです。

まずは、主人公であるうすのろな(三兄弟の)末っ子「自己に至る道の入り口に立つ者」の現れ。河合氏曰く、「愚かな者、無為の人は自己への最短距離にいる」のだとか。

三枚の羽根。風に吹かれて、あちこちへと飛んでいくことから、「自我の及ばない作用」ととらえることができ、そこから「偶然性」

地下の世界。心における「無意識」の領域。非日常。

(太った)ヒキガエル「無意識的な衝動で意識化されるはっきりとした傾向を備えたもの」。無意識の領域における補償作用。「アニマ」(男性の中の女性的傾向ないし女性像)。

1つめの絨毯。遊牧民にとって大地の連続性の意味があり、そこから「母性」
2つめの指輪。形状からくる円環性により「自己」の象徴。「統合」「束縛」
3つめの(未婚の)娘。「アニマ」(同上)。

上の内容を確認したうえで、続いて、これまでの記事を振り返ろうと思います。

まず、↑3回目の配信↑の記事で、ヒキガエル(die Kröte|女性名詞)とカエル(der Frosch|男性名詞)の名詞の性の違いに興味をもち、それについて書きました。上述の本によると、神話の世界では、ヒキガエルは女性的要素、カエルは男性的要素として扱われるとのこと。であるならば、それがそれぞれの名詞の性の根拠になっていて、ゆえに違っているのかもしれないと思いました。

↑4回目の配信↑の記事では、地下に居すわるヒキガエル(die Kröte|女性名詞)の意味するところはもしかして「埋蔵金」??と書きましたが、河合氏によると、ヒキガエルは「無意識の領域における補償作用」を象徴しているとのこと。内側の見えないところに蓄えられた有用な何か、という意味では、見当違いではなかったかな?と思ったりして……。

そして、↑5回目の配信↑の記事では、王である父親と王位を継ごうとする息子たちについて書きましたが、物語の骨格となる彼らの関係性は、上述の本によると、人間の成長する過程の現れと言えるようです。

自分を成長させようとするとき、人は自我(意識)を確立させようとします。けれど自我を強固にするだけでは不十分で、無意識という、つかみどころのない領域を掘り起こさなければならない、というのが、上述の本の『三枚の羽根』の章で語られていることです。つまり、意識(自我)と無意識は「生命の両面」であると。その相互作用で鍛えられたものが自己であり、壊れることのない全体である、というのです。

このようにして自己(個人)がつくられるわけですが、ただそのプロセスにあるのは、おのれを個性化(一般化できないものに)することであって、自己実現を成就することではない。ある域に到達したと感じても、それは人生におけるひとコマに過ぎないのだと、河合氏は釘を刺します。

なるほど。しかし耳が痛い。このあたりで荷を下ろして楽したいと思いがちですが、休憩はあっても解放はないということですかね。命を終えるまでは……。苦笑

◇ ◇ ◇

ということで、『三枚の羽根』はこのへんで終わりにします。次はディズニー映画『眠れる森の美女』でお馴染みの『いばら姫』を読む予定です。

*参考*
アプリ版『独和大辞典 第2版』(小学館)
池田香代子訳『完訳クラシック グリム童話』(講談社)

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