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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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なぜ哲学を勉強しているのですか?

■他者:なぜ哲学を勉強しているのですか? ■自分:自分は、どう生きるべきか、どう生きるべきでないか?根本的に考えた上で生きたい=行動したいからです。 ■他者:その答えは出たのですか?あるいは出そうですか? ■自分:出ました。 ■他者:答えは? ■自分:「答えはありません」というのが答えです。 ■他者:それでは、哲学の勉強は無駄でしたね。 ■自分:無駄ではありません。「答えはありません」という答えが出たので、とてもスッキリしています。 ■自分:もうちょっと詳しく

部族の掟はコーランに優先する「イトコたちの共和国」 書評

<概要>アラブ社会におけるヴェールや女性隔離、女性への相続権の放棄などの慣習はイスラームという宗教がもたらしたものではなく、古くからの北アフリカ・中東社会における「部族社会=イトコたちの共和国」を守るためのルールがもたらした慣習だということを紹介したフランス人女性民俗学者ジェルメーヌ・ティヨンの著作。 <コメント>一橋大学の国際政治学者、福富満久先生紹介の著作ということで通読。イスラーム教よりも部族社会を守ることを優先しているのがアラブ社会ということで、ここではイスラーム教

「読み解き古事記 神話編」 書評

<概要> 古事記上巻を中心に、日本の神々から皇統に至る神話の数々を、丁寧に解説した新書。 <コメント> 古事記の専門家、三浦佑之さんの著作は、1年前に読んだ「古事記神話入門」以来。 最近は、ギリシャ神話と日本の神話をパラレルで勉強しているので、その類似性について一度整理してみたいと思っています。 そして最近感じるのは、神話というのは、全てがフィクションというわけでもなく、過去にあったエピソードを面白おかしく整理して、誰もが楽しめるよう編纂されたもの、つまり今でいえば歴史

「地形の思想史」 原武史著 書評

<概要> タイトルが小難しい印象にもかかわらず、内容はやさしくてかつ面白いので一気に読めてしまうエッセイ集。地形をテーマにしつつもそれぞれの土地を実際に訪れて土地土地にまつわる歴史的テーマを深掘りするので「あの土地にそんなことがあったんだ」的発見があって我々読者も、思わずその土地を訪れてみたくなってしまうという書籍。 <コメント> 私の生まれ育った実家(千葉県船橋市海神)も、「海神」という神話発祥っぽい地名が、ヤマトタケルとその妃オトタチバナにまつわる記紀神話(古事記&日本

「国家(下)」プラトン著 ー善のイデア編ー

<概要> (ポピュリズムが僭主独裁を生むみたいな)現代にも通用する政治思想のエッセンスに加え、価値の原理のルーツともいえる「善のイデア」や「芸術」「教育」に関して解説した壮大なる古典。これが2400年前に書かれたというのですから驚愕するしかない名著。 <コメント> 学習院大学で哲学を専攻していた作家の塩野七生さんが「哲学は古代ギリシア哲学を勉強すればそれで十分」と言っていましたが、本書を読むとその意味がよくわかります。 やっぱり解説書・入門書も大切ですが、原典にもちゃんと

「国家(上)」プラトン著 書評

<概要> 国家に必要なリーダーとリーダーが保持すべき魂とその詳細について対話形式で解説した著作。 <コメント> ■哲人政治について プラトンの政治論で有名なのは、いわゆる「哲人政治」ですが、実際に「国家」を読んでみると、哲人は我々がイメージしている哲学者のことではありません。 当時の哲人(哲学者)の概念は、 どんな学問でも選り好みせずに味わい知ろうとするもの、喜んで学習に赴いて開くことを知らないものは、これこそまさに、我々が哲学者(愛知者)であると主張して然るべきもので

「読まずに死ねない哲学名著50冊」平原卓著 書評

<概要> 著者が選んだ古代から現代に至る哲学の名著50冊をピックアップして今の言葉で、わかりやすく解説した著作。ブログ風に数ページずつに分かれて1冊ずつ書かれているので分厚い本である一方、どこからでも読める辞書的な著作。 <コメント> 本書を読んでいて感じるのは、本書でも紹介されている、近代言語学の始祖ソシュールのいう「言葉は生き物」という概念。我々が一番理解しやすいのは一番新しい言葉(本書は2016年出版だからもう4年経ってしまっていますが)。 私たちは、今に生きる言語

言語が生み出す本能(下) スティーブン・ピンカー著 書評

<概要> 言語(話し言葉)に関しての系統的領域、発生論的領域、脳科学的領域、進化論的領域に加え、言語の流動性に関して考察した書籍。 <コメント> 下巻も言語が本能から発したというその論拠を様々な領域から展開して、これでもかとばかりに解明していきます。 ◼️系統的領域 地球上には4,000〜6,000の言語があり、種の進化のように1つの祖先から言語が枝分かれしたのかと思ったらそうではなく、言語タイプに全く相関関係がない場合が多いらしい。言語は本能だからもともとからしてホモ・

「勉強の哲学」千葉雅也著 書評

<概要> ポストモダン思想の成果と今の私たちが使っているリアルな言葉に基づき、私たちが内面化している価値観(著者は「ノリ」と表現)を相対化した上で、新しい価値観に出会い、深く知るための勉強の考え方とその考え方に基づく具体的指南書。 <コメント> 「言葉は生きている」ということが実感できる著作。 本書は、言葉は常に変化していくモノだから、どんな読み物でも「今」の言葉で読むのが一番最適だということを認識させてくれる好事例です。本書をもし30年前の人に読ませたら「デフォルト」だ

「偶然の科学」ダンカン・ワッツ著 書評

<概要>世の中は予測可能な事象と予測不可能な事象があります。 物理学や数学は誰からみても同じ普遍的な法則があって、予測可能な事象ですが実社会は予測不可能な事象で、常識と思っていることでも偶然の結果が殆ど。 したがって現実社会を扱う社会科学系の学問は、普遍的法則を追っかけるのではなく、中範囲の法則や測定と迅速な対応による戦略によって法則を導き出すべきと提言した著作。 <コメント>自然科学と社会科学の根本的違いを紹介した著作。 自然科学は「対照実験(※)」によって仮説を立

コンビニ人間 村田沙耶香著 書評

早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付ければ全員が「店員」という均等な存在だ。 人間の価値観を切り出して、相対化する小説。 一見当然と思っている社会を、別の価値観から見ると、おかしなことに見えてくる。でも諸行無常の世の中、価値観はどんどん変化する。空間と時間の掛け合わせで価値観は変わっていくのだ。コンビニという価値観を使ってそれを見事に表現

「ヒンドウー教 インドという謎」 山下博司著 書評

<概要> 地学・地理学・歴史学的な見地から、ヒンドゥー教の外的環境を整理した上で解説していくので、非常に説得力があって興味深い。著者自身インドにも長期間滞在してきたこともあって、土着宗教であるヒンドゥー教の性格をよく捉えられていると思います。 *本書の構成は、思想が自然環境などと関連づけて述べられているなど「思想のテロワール的視点」が見受けられ、個人的に非常に共感するストーリー展開でおすすめです。 <コメント> ◼️ヒンドゥー教を生んだインドの環境と文化 インド亜大陸は、

ピダハン「言語本能を超える文化と世界観」書評

<概要> 言語学者でありプロテスタントの宣教師である著者が、アマゾンの狩猟採集民族ピダハンへの布教と新約聖書のピダハン語への翻訳を目的に長期間家族と共に滞在し、最終的には無神論者になった著者の記録。前半は著者の冒険記とピダハン族の文化紹介。後半はピダハン語の紹介と言語学的分析に加え著者自身の心境の変化についての記録。 <コメント>◼️ピダハンの価値観 これは数十年間にわたる著者の人生と信仰をかけた壮絶なる記録。本書はチョムスキーなど主流となっている言語学のセオリーとは異なる

単一民族神話の起源 小熊英二著 書評

<概要> 日本民族論に関して、戦後は植民地を失うことによって初めて単一民族神話が広まり、明治時代以降から戦前までは海外への進出への大義名分として混合民族神話が主流であったということを様々な一次資料を駆使して証明した現代の古典。 <コメント> 著者小熊さんの「日本社会のしくみ」を読んで以来、小熊さんのその徹底した資料収集と解読にもとづく分析力に驚嘆しておりますが、本書はその威力をいかんなく発揮している作品で、現代の古典と本書の「オビ」にある通り、現代の古典たる圧倒的読後感です