コンビニ人間 村田沙耶香著 書評
早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付ければ全員が「店員」という均等な存在だ。
人間の価値観を切り出して、相対化する小説。
一見当然と思っている社会を、別の価値観から見ると、おかしなことに見えてくる。でも諸行無常の世の中、価値観はどんどん変化する。空間と時間の掛け合わせで価値観は変わっていくのだ。コンビニという価値観を使ってそれを見事に表現した小説ですね。
この小説は確かに傑作です。芥川賞で殆どの選者が推したというのも納得です。私は文藝春秋の中で読みましたが、可笑しくて、納得して一気に読んでしまいました。
人間の本質を見事に表現している。仕事に追いやられて疲れている人にも、精神衛生上、役に立つ本でもあります。
結局のところ、
「人間は、自分が絶対と思って逃れられない価値観の世界の中で生きている」
と勘違いしている、
と私は思っています。現実は、実は「虚構」の世界で「仮想現実」と思ってもいいぐらいです。
この仮想現実は、くるくる変わり、人間は立場立場に合わせて、自分をジャストフィットさせていく。つまり、その場その場で自分の居場所をフィックスすべく、自分を演者として、無意識にカメレオンのようにその価値観を変化させながら生きていくのが、まさに人生そのもの。
それを可笑しなこととして、外の目線から見ているのが主人公「古倉恵子」です。
「今の自分の環境を絶対と決して思わない」
「自分の居場所は他にもある」
「逃げ道はいくらでもある」
つまり現実というのは、その程度のものなんですね。これに気付くとほんとうに生きるのがラクになります。
個人的には、ちょうど私が現象学関係の本を読んだ時と同じような「腑に落ちた感覚」を味わえた実に素晴らしい読書体験。
超オススメの本です。
*写真:2016年夏 北海道 ニセコ 神仙沼
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