Guardian Tech Lab

安全保障×テクノロジー。この2つが重なる分野を中心に、防衛・サイバーセキュリティ・先端…

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安全保障×テクノロジー。この2つが重なる分野を中心に、防衛・サイバーセキュリティ・先端技術に関する動向を幅広く発信しています。 技術の進化に伴い顕在化するリスクから、クニ・ヒト・モノ・カネ・情報を守り抜く。

最近の記事

ウクライナの反撃~露宇戦争の現在地~

はじめに ロシアは8月6日、ウクライナと国境を接するクルスク州がウクライナ軍の越境攻撃を受けたと発表した。数百人のウクライナ部隊が6日朝にクルスク州の町スジャ付近の国境を越え、戦車11台、装甲戦闘車両20台以上が攻撃に参加していたとされている。ウラジミール・プーチン大統領は、今回の攻勢を「大規模な挑発行為」と非難した。  この一報は、米国をはじめとする西側諸国にも驚きを与えた。従前の多くの専門家の認識は、この戦争は膠着状況に陥っており、ウクライナは明日にでも敗北しそうなほど疲

    • バングラデシュ政治危機:内政への影響と国際関係の変容

      はじめに 2024年8月、南アジアの重要国であるバングラデシュで政治的混乱が発生し、シェイク・ハシナ首相の辞任と国外退避という劇的な展開を迎えた。この事態は単なる一国の政治問題にとどまらず、南アジア地域全体の国際関係にも影響を及ぼす可能性がある。本稿では、この危機の背景やそれによる内政や外交への影響を概説する。 危機の背景と経緯 今回の政治危機の直接的な引き金となったのは、公務員採用における優遇枠の問題だった。1971年の独立戦争で戦った人々の子孫に対する公務員採用枠の優

      • イスラエルのDefense techランドスケープ最新版と実例(Wiz編)

         イスラエルは、グローバルな安全保障環境が変化し続ける中で、その防衛産業が課題に対応し続けていることから、地政学的な潮流を捉えるのに適した位置にある。必要性に駆られ、強固な基盤と実践的な環境に支えられて発展してきたイスラエルの防衛技術セクターは、今や堅牢なエコシステムへと進化している。  このセクターは、軍事と民間の応用を巧みに融合させ、革新的な技術、スタートアップ、そして世界的に認知された航空宇宙・防衛企業を含んでいる。ダイナミックなスタートアップと国際協力に支えられ、イス

        • 中東の行末〜全面戦争か回避か〜

          はじめに 米国防総省は2日、中東地域に海軍艦艇や戦闘機を追加派遣すると発表した。これについて、オースティン国防長官は「米部隊防衛を向上し、イスラエルの防衛に対する支援を強化し、米国がさまざまな事態に対応できるようにするため、米軍の態勢調整を命じた」と述べている。  ここで提起される疑問は「なぜ米国はこのタイミングで軍の追加派遣を決定したのか」ということだろう。結論から述べると、イスラエルとイランを中心とした「抵抗の枢軸」との間で、より広範かつ破滅的な戦争が起こるリスクがかつ

        ウクライナの反撃~露宇戦争の現在地~

          国家から人間、そしてまた国家へ~ウクライナ侵攻が変えた安全保障の概念~

          はじめに   なぜ今国防なのか。  Guardian Tech Labでは、「技術の進化に伴い顕在化するリスクから、クニ・ヒト・モノ・カネ・情報を守り抜く」の理念のもと、これまで安全保障とテクノロジーの分野の動向を幅広く発信してきた。  その中でもとりわけ重点を置いてきたのが、防衛・国防の分野である。具体的には、防衛省をはじめとした政府機関の発行する文書の解説や、国際的な防衛協力の動向に関する発信を行ってきたが、なぜ防衛・国防の分野が重要なのだろうか。  今回の記事では

          国家から人間、そしてまた国家へ~ウクライナ侵攻が変えた安全保障の概念~

          日米韓3カ国防衛協力の始まり〜キャンプ・デービッドの精神〜

          (表題の画像の出典: 外務省HP) はじめに 最近、日米韓3カ国(トライラテラル)の防衛協力が加速度的に進んでいる。  歴史的に、米国とその東アジアの同盟国との関係性はハブアンドスポークス型の同盟関係と形容されてきた。米国と日本、米国と韓国など、米国を中心とした強固な2国間関係が築かれているのに対し、米国の同盟国同士の間でのつながりはそこまで強くないという長年の同盟構造のことを指す。 安全保障の専門家の界隈では、「東アジア地域における西側諸国の安全保障体制はハブアンドスポー

          日米韓3カ国防衛協力の始まり〜キャンプ・デービッドの精神〜

          2024年防衛テクノロジー最新動向:VC投資、主要プレイヤー、そして地政学的影響

          現在、Defense Tech分野は、緊張の高まっている地政学的状況と急速に進化し続ける技術革新の交差点に位置している。PitchBookが2024年7月5日に発表した最新のVertical Snapshot: Defense Tech Updateは、この分野における米国での最新のトレンド、投資動向、そして主要なプレイヤーに関する貴重な洞察を提供している。本記事では、このレポートの主要ポイントを解説し、日本の防衛産業や政策立案者にとっての示唆を探る。 VC投資動向:安定し

          2024年防衛テクノロジー最新動向:VC投資、主要プレイヤー、そして地政学的影響

          骨太の方針2024から見る今年の科学技術トレンド

          はじめに 今年6月、政府は「骨太の方針2024」を閣議決定した。同方針は、政府の経済財政政策の基本方針や翌年度の予算編成の方向性を示すものである。 毎年政府より発表されている骨太の方針であるが、今年のそれは科学技術分野への言及が例年と比べて多かった印象を受ける。  そこで今回は、セキュリティやテックの見地から骨太の方針2024を紐解いていく。そして、今年や来年の日本の科学技術の大まかな動向を掴むことを試みる。 そもそも骨太の方針とは 骨太の方針とは、毎年6月ごろに政府が閣

          骨太の方針2024から見る今年の科学技術トレンド

          イスラエル発AIロボットシステムMentee roboticsの紹介

          はじめに近年、人工知能(AI)とロボティクスの進化は目覚ましいものである。特にイスラエルは、テクノロジーとスタートアップのハブとして、その先進的な技術革新で注目を浴びている。イスラエル発の最新AIロボットシステム「MenteeBot」もその一例であり、Mentee Robotics社によって開発された。このヒューマノイドロボットは、家庭や倉庫での利用を想定して設計されており、AI技術を全面的に搭載している。シミュレーションから実世界への機械学習(Sim2Real)やNeRFベ

          イスラエル発AIロボットシステムMentee roboticsの紹介

          宇宙×ドローン~衛星技術を用いたUAVの可能性~

          はじめに2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻。この戦争は、様々な点において従来の戦争に対する考え方を一変させるものであったが、その大きな特徴の一つとして指摘されているのが「ドローンの活用」である。数千台の無人航空機(Unmanned Airial Vehicle: UAV)が上空を飛び交い、敵の部隊を追跡したり、砲弾を標的に導くために使われている。 このように、軍事分野にも応用が進むドローン技術であるが、最近では宇宙に関する技術との組み合わせによってさらなる進化

          宇宙×ドローン~衛星技術を用いたUAVの可能性~

          イスラエルが産んだ巨大サイバーセキュリティスタートアップWizの紹介

          はじめに イスラエルは、世界的に見てもサイバーセキュリティ分野で著しい成果を上げている国の一つである。その中でも、Wizは特に注目される企業だ。Wizは、クラウドセキュリティの新たな標準を打ち立て、多くの企業に信頼される存在となっている。本記事では、Wizの沿革と事業内容、そしてその成長過程について詳しく紹介する。また、サイバー攻撃の実態と分類についても考察し、その攻撃フローと攻撃の種別を明らかにすることで、読者に対して包括的な理解を提供することを目指す。 Wizの沿革

          イスラエルが産んだ巨大サイバーセキュリティスタートアップWizの紹介

          「防衛技術指針2023」から読みとく国防における民間企業の役割

          はじめに昨年6月、防衛省は「防衛技術指針2023」を公表した。これは、2022年12月に策定された国家安全保障戦略等3文書(防衛三文書については過去の記事を参照)の「防衛技術基盤強化の方針を具体化」という戦略的アプローチを踏まえたものであるが、今回の策定の趣旨として「省外に防衛省が重点的に研究開発等を進める技術分野を示すことで、企業等の予見可能性を高めるとともに、省外との共通認識を醸成し、技術的な連携の基盤構築を目指す(強調は筆者)」と記述されている。つまり、「防衛技術方針

          「防衛技術指針2023」から読みとく国防における民間企業の役割

          新たな領域のセキュリティ - 宇宙安全保障(後編)

          ※前編はこちら はじめに前編の記事では、日本政府の宇宙領域に対する現状と課題の認識について解説した。今回の後編の記事では、宇宙を取り巻く諸課題に対応すべく政府はどのようなことを行なっているのか、ということについて解説していく。 目標達成のための戦略的アプローチ「宇宙安全保障構想」の策定の背景には、宇宙空間をめぐる競争、宇宙空間における脅威とリスクの拡大、民間イノベーションの進展、という3つの現状/課題があったということは前回確認した通りである。 それでは、このように現実

          新たな領域のセキュリティ - 宇宙安全保障(後編)

          新たな領域のセキュリティ - 宇宙安全保障(前編)

          はじめに近年、政府が宇宙開発に関連してさまざまな動きを見せている。特に、防衛省は、スタートアップを含む民間企業との契約を次々と締結している。これは、政府が宇宙という分野を国防の重要な一領域と捉えていることの顕れだろう。 ところで、「宇宙安全保障」という言葉を聞いたことはあるだろうか。スター・ウォーズシリーズのようないわゆる「宇宙戦争」の世界を思い浮かべるだろうか。結論から述べると、実態はその世界とは少し違う。 そこで、誤解を解く目的も兼ねて、今回は宇宙安全保障をテーマとして

          新たな領域のセキュリティ - 宇宙安全保障(前編)

          サムアルトマンから資金調達をしたイスラエル発CSスタートアップ「Apex」の紹介

          はじめにサイバー攻撃は現代のデジタル社会において重大な脅威となっており、その影響は個人、企業、政府にまで及ぶ。サイバー攻撃の手法は年々高度化しており、攻撃者は巧妙な技術を駆使して情報を盗み、システムを破壊し、社会全体に混乱をもたらそうとしている。特にイスラエルは、サイバーセキュリティの分野で世界的に著名であり、多くの革新的なスタートアップが生まれている。 本記事では、イスラエル発のサイバーセキュリティスタートアップ「Apex」について紹介する。Apexは、2024年5月にサ

          サムアルトマンから資金調達をしたイスラエル発CSスタートアップ「Apex」の紹介

          日英伊の次期戦闘機共同開発と防衛装備移転原則の緩和(後編)

          前編はこちら はじめに前編の記事では、日英伊の次期戦闘機の共同開発の概要について解説した。今回の後編の記事では、今年3月26日の次期戦闘機の第三国への輸出の容認するという今回の政府による決定が一体どのような意味を持つのか、ということについて考察していく。 武器輸出三原則等による武器輸出の事実上の禁止実は、以前の日本政府は、国際紛争などを助長することを回避するという「平和国家」としての基本理念に基づき、武器や装備品一般の輸出について長年かなり慎重な立場をとってきた(参考:

          日英伊の次期戦闘機共同開発と防衛装備移転原則の緩和(後編)