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日米韓3カ国防衛協力の始まり〜キャンプ・デービッドの精神〜

(表題の画像の出典: 外務省HP)


はじめに

 最近、日米韓3カ国(トライラテラル)の防衛協力が加速度的に進んでいる。
 歴史的に、米国とその東アジアの同盟国との関係性はハブアンドスポークス型の同盟関係と形容されてきた。米国と日本、米国と韓国など、米国を中心とした強固な2国間関係が築かれているのに対し、米国の同盟国同士の間でのつながりはそこまで強くないという長年の同盟構造のことを指す。
安全保障の専門家の界隈では、「東アジア地域における西側諸国の安全保障体制はハブアンドスポークス型である」という理解が長らく通説であったことを踏まえると、近年の日米韓3カ国での防衛協力の進展というのは、特筆すべき事態なのである。
 そこで、今回はいつどのようにしてこの日米韓3カ国の防衛協力が加速したのか、それ以来その3カ国はどのような取り組みを行ってきたのかということを解説する。

キャンプ・デービッド首脳会談

 2023年8月、日本の岸田総理大臣、米国のバイデン大統領、韓国の尹大統領は、米国の大統領専用の山荘「キャンプ・デービッド」で首脳会談を行った。
 米国ワシントンD.C.を拠点とする中道派シンクタンク、戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies: CSIS)は、この首脳会談を「歴史的な首脳会談(the historic summit)」や「3カ国協力の新時代の幕開け(opening [of] a new era in trilateral cooperation)」と形容している
 というのも、冒頭でも言及した通り、戦後の歴史の中で、日韓2国間の防衛協力関係はそこまで強くなかった(より正確に言えば前進と後退を繰り返してきた)からだ。日韓の2国間関係は、長らく従軍慰安婦や徴用工などに関する歴史認識問題で大きな制約を受けてきた。関係性が多少改善したように見えても、時の政権の外交政策の方針で再度冷え込んだりと、とにかく浮き沈みの多い外交関係であった。
 こうした経緯を踏まえると、今回の会談で発表された2つの共同文書(「キャンプ・デービッド原則」と「日米韓首脳共同声明」)は、特殊であった。まず第1に、日米韓の首脳は、歴史上初めて3カ国の安全保障関係は「相互に絡み合っている(intertwined)」ことを認めた。もしかすると、ただの外交上のレトリックにしか聞こえないという感想を抱くかもしれないが、外交の舞台で互いに歪み合うことが多かった日韓の首脳が、米国の首脳を交えてこのように宣言するのは大きな一歩なのである。
 そして、3カ国は協力のさらなる制度化に向けた取り組みを提示する。具体的には、首脳会談や外交防衛の閣僚級の会議の定例開催や、複数年にわたる共同軍事訓練計画の策定、ミサイル警戒データの即時共有の実施、北朝鮮のサイバー活動監視のためのワーキンググループの設置や経済的威圧に備えた早期警戒システムの構築が合意された。

その後の取り組み

 上記のキャンプ・デービッド首脳会談から約1年が経過しようとしているが、上記の宣言はどれほど効果が出ているのだろうか。結論から述べると、上記の宣言は所謂「口だけ」で終わっていないと評価できる。
 まず特筆すべきは、北朝鮮が発射した弾道ミサイル発射情報のリアルタイムデータの共有メカニズムの運用開始である。リアルタイムデータの共有自体は、日本と米国、また米国と韓国の間ではすでにできていたが、3カ国の枠組みはなかった。これによって、日米韓3か国の間で常時継続的にミサイル警戒データを共有することが可能となる。特に、日本としては、北朝鮮から地理的に近い韓国の情報をより早く入手できるようになることで、これまで以上にミサイルの軌道を正確に把握できるというメリットがある。
 その他には、今年6月にシンガポールで開催された日米韓防衛相会議が挙げられる。この会議は、日米韓が抱くインド太平洋地域や朝鮮半島における安全保障上の具体的な懸念を共有する機会となり、複数領域(海空サイバーなど)における新たな3か国共同訓練を今夏に実施することや、地域の安全保障上の課題を議論するための机上演習を実施することが合意された。

(出典: 防衛省HP)

 キャンプデービッドでそれぞれの首脳が行った宣言の内容は着々と実行されていると言えよう。

おわりに

 以上に、日米韓3カ国の防衛協力の進展の度合いを見てきたわけだが、楽観的な見通しを立てるのはやや早計だ。というのも、これらの協力についての合意は、あくまで政治的な合意にすぎず、条約などのように国際法上の権利義務を発生させるわけではないからだ。つまり、今後の日米韓の政権によっては、すべての約束が反故にされることが100%ないわけではない。特に、今年11月に控える米大統領選の結果は今後の日米韓の枠組みにも大きな意味を持つだろう。
 とはいえ、すでにここまでの事項について合意し、その中のいくつかの計画については実施段階にまで移行しているため、そう簡単にここまで進んだ防衛協力関係を後退させるのは、どのような政権であれ難しいという見方も強い。
 インド太平洋地域、台湾海峡、朝鮮半島の安全保障環境がますます厳しくなる中で、今後日米韓3カ国はどのような新たな歴史の糸を紡いでいくのだろうか。引き続き注視していきたい。

参考資料

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