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骨太の方針2024から見る今年の科学技術トレンド

はじめに

 今年6月、政府は「骨太の方針2024」を閣議決定した。同方針は、政府の経済財政政策の基本方針や翌年度の予算編成の方向性を示すものである。 毎年政府より発表されている骨太の方針であるが、今年のそれは科学技術分野への言及が例年と比べて多かった印象を受ける。
 そこで今回は、セキュリティやテックの見地から骨太の方針2024を紐解いていく。そして、今年や来年の日本の科学技術の大まかな動向を掴むことを試みる。

そもそも骨太の方針とは

 骨太の方針とは、毎年6月ごろに政府が閣議決定する方針で、年末の予算編成に向けて、政権の重要課題や政策の基本的方向性を示す。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」であるが、かつて宮沢喜一財務相が同会議の議論を「骨太」と表現したことから、骨太の方針と呼ばれるようになった。
 その趣旨からも分かる通り、この骨太の方針は、少なくとも今後1年の政府にとってのいわゆる「ホットな話題」を盛り込んだものとなっている。つまり、ここに記された政策分野においては、今後の1年で何かしらの動きが必ずあるといっても過言ではないだろう。

骨太の方針2024に示された主な重要技術分野

 骨太の方針2024では、以下の分野に関して言及がなされた。

AI、半導体

 AIの分野に関しては、競争力強化と安全性確保が政策目標として掲げられている。そのための方策として:

  • データ整備を含む研究開発力の強化や利活用の促進

  • 計算資源の大規模化・複雑化に対応したインフラの高度化

  • 個人のスキル情報の蓄積

  • 可視化を通じた人材の育成・確保

  • ガードレールとなる制度の在り方や安全性の検討

  • 偽・誤情報の対策

  • 知的財産権等への対応

  • 国際的な連携・協調に向けたルール作り

が挙げられている。AIがもたらす経済的なポテンシャル及び潜在的なリスクについてはさまざまな場所で指摘されている通りであるが、世界的なAIトレンドに乗り遅れまいとする政府の姿勢が窺える。
 半導体の分野に関しては、産業競争力と経済安全保障が目標として掲げられ:

  • 大規模かつ計画的な量産投資

  • 研究開発支援等の重点的投資支援

  • 支援手法の多様化の検討

が方策として挙げられた。このデジタル化がますます進む世の中において半導体の不可欠性はもはや言及するまでもない。1988年に世界シェアの50.3%を占めていた日本の半導体は、今や台湾・韓国のそれにとって代わられ、2019年時点では10%にまで落ち込んでいる(出典:経済産業省「半導体戦略(骨子)」)。
 地政学的リスクが年々高まる中で、社会経済活動に不可欠なファクターを過度に他国に依存している状況は望ましいとはいえない。かつての半導体大国としての地位を取り戻さんとする政府の意志が表れているといえよう。

宇宙

 宇宙開発利用の安全保障上の重要性については以前の記事でも紹介した通りだが、骨太の方針の中でもその重要度は高まっていると言える。特に、この宇宙分野に関しては、ただ研究開発を推進するのみならず、「実証・社会実装までを戦略的に推進する」と述べられている。そのための方策として、(やや総花的ではあるが)以下の事項が方策として取り上げられている:

  • 次世代技術の開発・実証の支援

  • 衛星データの利活用の推進

  • 基幹ロケットの高度化や打ち上げの高頻度化及び民間企業のロケット開発の支援

  • 準天頂衛星システム(注:日本版GPS)の7機体制の着実な整備と11機体制に向けた検討・開発

  • 宇宙戦略基金について、速やかな、総額1兆円規模の支援

  • 宇宙開発戦略本部を司令塔とした、世界的な宇宙利用の拡大に対応した円滑な審査を可能とする体制の整備

 各国の宇宙開発が加速度的に進む中で、日本もとにかくスピード感を重視していることが随所でうかがえる。「研究開発・実証・社会実装」のサイクルをどれだけ早く回していけるかがこの1年の宇宙開発利用のカギとなるだろう。

サイバーセキュリティ

 サイバーセキュリティの分野では、「欧米主要国並みにサイバー安全保障分野での対応能力を向上させること」が政策目標として掲げられた。そのための方策として:

  • 政府のサイバーセキュリティを強化

  • 能動的サイバー防御の実施に向けた法案の早期提出

  • その適切な運用に必要となる体制の整備

  • 国産セキュリティ技術の活用

  • 官民連携による重要インフラの演習

  • 実践的侵入テストを通じた対応方針の見直し

等が挙げられている。ここのところ、JAXAKADOKAWAといった官民を問わないさまざまな組織へのサイバー攻撃による被害のニュースが跡を絶たない。サイバー攻撃は、情報漏洩といった被害に留まらず、我々が普段用いているインフラの機能停止といった、最悪の場合には人命に関わるような被害をもたらしかねないものである。サイバーセキュリティについては、特にこの1年急ピッチで取り組みが進められていくことだろう。

骨太の方針2024の特徴

 骨太の方針2024には、以上のようないわゆるセキュリティテック分野についての詳しい言及があったが、今回は特に詳しく具体的な取り組みを示していると評価できる。  というのも、2023年の骨太の方針を振り返ってみると、随所にAIや宇宙、サイバーセキュリティについての言及はあったものの、一段落での説明に終わるなど、大雑把な方針は決まっていても具体的な取り組みについては議論の形成途中という印象を受けるものであった。  そういった意味では、セキュリティテックを扱うものとしての見地からは、今年の骨太の方針には今後の動向についてのさまざまなインプリケーションがあったと言えるだろう。

おわりに

近年の骨太の方針は、あまりに総花的すぎて、経済財政運営の焦点(コア)が見えにくくなっているとの批判を受けることが多い。確かにさまざまな政策分野が詰め込まれているという印象はある。しかしながら、総花的になるということは、政府が主導となって対応すべき政策分野が広がっているということの表れであり、それだけ社会課題が多様化・複雑化しているという見方もできるだろう。
そして、セキュリティテックをはじめとした科学技術分野もその例外ではない。引き続き世界の安全保障動向や技術動向を注視されたい。

参考資料

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