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新たな領域のセキュリティ - 宇宙安全保障(後編)


※前編はこちら

はじめに

前編の記事では、日本政府の宇宙領域に対する現状と課題の認識について解説した。今回の後編の記事では、宇宙を取り巻く諸課題に対応すべく政府はどのようなことを行なっているのか、ということについて解説していく。

目標達成のための戦略的アプローチ

宇宙安全保障構想」の策定の背景には、宇宙空間をめぐる競争、宇宙空間における脅威とリスクの拡大、民間イノベーションの進展、という3つの現状/課題があったということは前回確認した通りである。
それでは、このように現実に対応するために、どのような戦略的アプローチをとっているのか、また、取る予定なのだろうか。「宇宙安全保障構想」を参照すると、①宇宙からの安全保障、②宇宙における安全保障、③宇宙産業の支援・育成、の3つが挙げられている。

(出典:内閣府「宇宙安全保障構想の概要」)

まず第1のアプローチ:宇宙からの安全保障は、「安全保障の宇宙システム利用の抜本的拡大」、すなわち、宇宙空間の国防への応用を目指すものである。その具体的方策としては、衛星を用いた広域・高頻度・高精度な情報収集態勢の構築や、衛星測位機能の強化、衛星システムを活用したミサイル防衛等が取り上げられている。
第2のアプローチ:宇宙における安全保障は、宇宙空間の安定的利用の維持を目指すものである。その具体的方策としては、宇宙空間にある衛星等の資産に危害を及ぼしうる宇宙物体を観測するための宇宙領域把握の充実・強化、宇宙デブリの発生を防ぐための国際的な規範・ルールづくりへの主体的貢献等が挙げられている。
第3のアプローチ:宇宙産業の支援・育成は、「安全保障と宇宙産業の発展の好循環の実現」と銘打たれている。つまり、上記のアプローチを可能にするような産業・技術基盤を整えようという趣旨だ。そのために、JAXAの機能の強化や、民間イノベーションの活用等が示されている。
このような戦略的アプローチを通じて、究極的には以下の画像のような「宇宙エコ・システム」を構築することが目指されている。

(出典:内閣府「宇宙安全保障構想の概要(案)」)

防衛省の取り組み

ここまでで、政府がどの方向に進もうとしているのか、何を目指しているのかは明確になった。それでは「安全保障」を所掌する実働部隊たるところの防衛省・自衛隊は、どのような取り組みを行なっているのだろうか。

宇宙状況監視(Space Situational Awareness: SSA)の強化

(出典:防衛省HP

 まず、防衛省・自衛隊は、航空自衛隊を中心として、米軍などと連携しつつ、宇宙空間の安定的利用を妨げるリスクの監視及び回避のための宇宙状況監視(SSA)の強化を進めている。これには、スペースデブリや衛星などの監視のみならず、軍事衛星や他国の宇宙物体監視も含まれている。

宇宙を利用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上

(出典:防衛省HP

防衛省・自衛隊はまた、複数の小型衛星をネットワーク化して運用する小型衛星コンステレーションの利用による衛星画像の取得や、Xバンド防衛通信衛星の活用などによる、宇宙を利用した情報収集、通信、測位などの各種能力の向上を進めている。これは、「宇宙からの安全保障」、すなわち宇宙空間の国防への利用という考え方を反映したものといえよう。
そのほか、防衛省・自衛隊は、衛星を介した通信手段の多重化・多様化など、宇宙利用における抗たん性強化を図っているとしている。

おわりに

今回は、前編・後編を通じて、「宇宙安全保障」の基本的な考え方と、戦略上の目標達成に向けた政府の具体的な取り組みについて解説した。スター・ウォーズシリーズのようないわゆる「宇宙戦争」の世界とは、その様相をかなり異にしていることがわかっただろう。
日本の宇宙安全保障はまだまだ始まったばかりだが、今後も宇宙に関する世界情勢と合わせて、日本政府の宇宙安全保障に関わる動向を注視していきたい。

参考資料

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