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台湾の重金属汚染の恐怖「テクノロジーグリーン牡蠣」

2004 年末、国立台湾大学海洋研究所のLin Xiaowu教授によると、新竹の象山地域のカキの銅含有量は 世界平均の40倍に匹敵する、1000ppm に達していたという。

テクノロジーグリーン牡蠣は2014年に桃園県でも報道されている。


台湾の人々は、この原因を新竹サイエンスパークであると指摘した。しかし、サイエンスパーク側は、排水が国家基準に準拠しているとするデータを提出し、意義を唱える意見を無視。そこで、台湾のニュースメディア『我們的島』は問題を調査した。

テクノロジーグリーンオイスター 『我們的島』より

元々、新竹は養殖牡蠣の名産地であり、100年以上の歴史がある。しかし、牡蠣の収穫にあたった養殖業者は、牡蠣が不自然な青緑色をしていることに気づいた。これらの青緑色の牡蠣は、収穫しても売れず、新竹の漁業従事者は大きな打撃を受けた。そして現在、新竹の牡蠣養殖業者はほとんど廃業している。


調査によると、これらの牡蠣に含有されていた高濃度の重金属は、新竹サイエンスパークの排水が原因である可能性が非常に高いという。
確かに、サイエンスパークの排水の銅の含有量は0.03ppmであり、国の基準である3ppmよりもはるかに低かった。

しかし、問題は排水中の濃度ではない。

いくら排水中の重金属の濃度が基準を満たしていても、排水量が多ければ重金属は蓄積されるのである。

国立台湾大学のLin Xiaowu氏は、「排出される廃水は基準を満たしているものの、1日に9万トンの廃水が蓄積されるというのは恐ろしい数字であり、象山海域の自浄作用の範囲を超えている」と述べている。さらに、水質検査を担当する地元の環境保護機関である新竹市環境保護局も、「象山の牡蠣(の重金属の含有量)は長年の(重金属の海域への)蓄積の結果である」と指摘している。

インジウムとガリウムという重金属がある。これらの金属は、半導体製造工場で使用される特徴的な重金属である。
清華大学分析環境科学研究所のヤン・シュセン教授による同エリア付近のインジウムとガリウムの調査によると、2007年にガリウムもインジウムも10mg/L前後だった値が、2022年時点ではガリウムが60〜120mg/L、インジウムも20〜60mg/Lに増加していたという。アメリカ地質学会によると、地球の平均値はガリウムが19mg/L、インジウムが0.1mg/Lであることを考えても非常に高い値である。
工場の排水には、調査されたガリウムやインジウム以外の重金属も含まれていた可能性が極めて高い。
つまり、新竹サイエンスパークにおいて半導体工場の排水が重金属汚染の原因の一つであった可能性が高いことを示している。

台湾メディアの『新新聞』によると、この緑の牡蠣は2000年にも新竹で発生しており、台湾においては「テクノロジーグリーンオイスター」と呼ばれることになったという。

新竹サイエンスパークといえば、TSMCなどの半導体工場が工場を構える地域である。

半導体の製造プロセスで使用される重金属は、銅、ガリウム、ヒ素、ベリリウム、カドミウム、水銀、鉛、亜鉛、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、セレン、インジウム、テルル、マンガン、タンタル、モリブデン、タングステンなど、挙げるときりがないほどである。これらの重金属はそのものが有害であるものや、化合物になるとさらに有害性が増すものもあり、強毒性のひ化ガリウムなどは半導体製造の工程で多く使用されている。

この膨大な種類の重金属類が含まれる排水が、大量に河川に放出された場合、海洋に流れ出る重金属の総量は計り知れないほど莫大な量となる。

さらに、重金属は比重4と重く、土壌に吸着されやすく、水にも溶けやすい。そのため、金属汚染は土壌でも分解されず、地下水に浸透して土壌・地下水をともに汚染する。


TSMC熊本工場(JASM)から排出される汚染水は、菊陽町の下水道を通って熊本県の北部浄水センターに一旦溜められ、県の中心を流れる坪井川に流され、有明海へと流れていく。県によると、汚染水の調査には水質汚濁防止法と下水道法が適用されるというが、重金属類の調査品目数は、実際に使用される品目数に対して、ごくわずかである。

つまり、調査対象外の多くの重金属類は、下水道から河川へ垂れ流され、河川そのものと周辺の土壌、地下水を汚染し、海へ垂れ流されることになる。

TSMC熊本工場は70%の水をリサイクルしていくとしているが、それでも一日1.2万トンの地下水を汲み上げ、年間約438万トンの地下水が使われることになるという。つまり、排水も相当な量になる見込みだ。

また、熊本県は第二工場の誘致も進めており、排水量はさらに増えるだろう。

さらに、台湾で進められていたTSMCの工場拡張プロジェクトにストップがかかり始めている。この拡張プロジェクトの規模の半導体工場が、熊本県に場所を変えて建設された場合は、単純計算による試算であるが、JASMと拡張計画の水の使用量を足し合わせて、最低でも一日24.2万トン、年間8,833万トンの地下水を汲み上げることになる。そうなると排水量は、想像を絶する量だ。

有明海は湾であり、閉鎖性海域であるため、汚染物質が滞留・蓄積しやすいことが考えられる。そのため、汚染の酷い台湾の西海岸よりも条件が悪く、被害がより深刻化する可能性が高い。

海産物の重金属汚染は、海洋の生態系はもちろん、地域住民の健康を脅かす重大な問題である。
熊本県は、過去に水俣病も経験している。
様々な問題を放置して、TSMCの工場の誘致を進めることは、過去の被害を超える公害を巻き起こすのではないかと恐怖を覚える。


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