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批評家は芸術の寄生虫だ!
批評家は芸術の寄生虫だ!
こんなこと言われて、ムキになって“そんなことはない!”と反論しだす批評家が多いこと多いこと。マジに落胆するよ。
いやさ、批評家っていうのはむしろ“ふむ、まあそういう意見もありますね。ですけど、例えばEuhaplorchis californiensisという寄生虫は魚の神経系を操作するような脳内物質をバラ撒き、その魚の行動を操作することができるという驚くべき生態があ
コロナウイルス連作短編その221「さぞ鮮やかな血潮」
実久塁がショッピングモールを歩いていた時,ある人間を視覚的に認識した.
見てくれが雑な短髪,妙につるんとした顔立ち,網膜剥離を引き起こすような鮮烈な橙のシャツ.カーキ色の短パンから伸びる足は吐き気を催すほど白い.
塁はその人間が“男装している”と直感した.
こういった違和感の塊のよう人間を見るとTwitterで“ボーイッシュな格好してたら,それだけでもうトランス男性とか言われなきゃいけない
コロナウイルス連作短編その220「Bucharest Decadence」
梅時マダリナは“Tokyo Decandence”という本を読んでいる.表紙には猫耳のついた仮面に,黒いニップレスが描かれており,なかなかに煽情的だ.
これはRyū Murakamiという日本人作家が書いた短編集で,今年ルーマニア語に翻訳されたばかりだった.母親であるシミナが話題にしたのを機にその存在を知り,日本からブカレストに帰ってきた後,気まぐれにその本を手に取ったんだった.
Ryū M
コロナウイルス連作短編その219「誰なんだよ」
「ご飯できたよ!」
王木美鈴がそう言ってから、娘の王木めぐが自身の部屋から出てきたのは十数分後のことだった。
それは勿論、彼女がいつものように“昼寝”をしていたからだ。だが実際、午後6時7時まで眠っている睡眠を“昼寝”と呼称するべきなのか、美鈴には疑問だった。“夕寝”という新たな言葉を作るべきかもしれない。もしくはただ“睡眠”と呼ぶべきか。
「ご飯もう冷えちゃいましたけど」
これくらいの皮肉
コロナウイルス連作短編その218「素朴な疑問」
「“黒人”って言葉を使ってるとき、そいつ自分のことを“黄人”とか言ってないでしょ。日本人とかアジア人のこと、黄人って呼ばなくない? それと同じ。私たちのこと、軽く“黒人”とかいわんでほしいわ。せめて“アフリカ系”とか言えっつうの」
黄川田日々は同じクラスの由伽田ビネテがそう言っているのを、横で鼻を穿りながら聞いていた。この女がこんな知的なことを言うはずがない、おおかたどこかの意識高い系アクティビ
コロナウイルス連作短編その217「広背筋、大円筋や僧帽筋など」
西東薫は,今バガンド・ガジイェフという男に自分の首筋が荒々しく貪られている状況が夢のように思えた.こんなにも筋骨隆々で,オーバーヒートする巨大な精密機械さながらに息遣いも野太く激しく,輪郭を取りまく髭も爆ぜているかのごとく鬱蒼たるこの同性愛者の男に求められているという事実は,自分が男であることを何よりも雄弁に証明してくれているように思えたからだ.
細胞を1つ抹殺するかのような注射の鮮烈な痛み.
コロナウイルス連作短編その216「どこか、より安心できる場所」
とうとうですよ
湖東優
とうとう
妻の湖東釈
妹の騎子
彼女のパートナー富士見野わかば
彼らに
今日の新年パーティーのメインディッシュを披露
「これが酸湯肥牛だ!」
酸湯肥牛は
四川料理における定番の汁物
高菜や大根
生姜の塩漬けと野山椒の混ざり合ってできる
酸い辛さが特徴
そこには大量の牛肉も
優はスタミナをつけたい時
職場近くの中華料理店で
これをよく貪る
だけども今回
池袋の中華食材店で
買
コロナウイルス連作短編その215「Uatași ua Cristian desu」
そうして梅時クリスがボールをシュートしようとする瞬間,やはり現れるのは松崎セイドゥだった.視認するや否や,クリスは体を引いてボールを死守しようとする.
セイドゥの足が蜂の針さながら突っ込んでくるのを見計らい,フェイントをかけた.だが瞬刻,セイドゥの足は獲物を捕食するタコの足さながら暴力的なまでにしなやかに蠢き,気付いた時には既にボールは奪われている.
そこからセイドゥはチーターさながら,逆方
コロナウイルス連作短編その214「彼女は男が好きだから」
それから三島新後は母である三島安乃から新しくできた恋人を紹介されるのだが、それが男性であったことに凄まじく驚かされた。
新後は安乃と鈴酒おもという2人の母親に育てられてきた。彼女たちは関係性の破綻の後、新後が中学2年生であったおととしに別れたのだが、新後の誕生以前も含めるなら20年連れ添っていた。新後はその様を最も近くで見てきたが、ゆえに自然と安乃はレズビアンであると思ってきた。だが飯島秀男と
コロナウイルス連作短編その213「きみはひとり」
改札で
きみは彼の右手を握る
その指は意外なまでにほそいんだけども
力はとにかくえげつなく強い
こちらの骨がいたくなるほど
きみと彼はハグをする
日本人はあんましないが、きみらはする
彼の僧帽筋を
肩甲挙筋や小菱形筋、大菱形筋ごと
コカインをブチこみまくったクマさながらに
抱きしめてやりたいのさ
「今生の別れかよ?」
彼は難しい言葉を使って、笑った
そしてきみに
背をむけ
改札を
ぬけて
階段
コロナウイルス連作短編その212「狐の嫁入り」
晴れたのだが,雨は未だに降り続けている.
狐の嫁入りだな,政銅一木はこう思う.今年,8月に入って5回目のことである.
太陽が燦々と殺人的に照りながら,雨もまた降り続けているというのは,少なくとも彼が子供時代には珍しい事象だった.虹が出るよりも,台風で木々が切り刻むよりも珍しかった.
だが今は違う.一木にとって,この狐の嫁入りを網膜であったり,彼の剥き出しになった禿頭であったりに叩きつけられ
コロナウイルス連作短編その211「Solarisの由来」
舞花あさぎはLINEで友人の芳山笹と話している。外からは豪雨の音が聞こえてくる、鼓膜を無数の針で突き刺され続けるような心地だ。少し高揚を覚える。
“昨日Bumbleで話してた男に”
笹がそう言う。Bumbleとは笹が登録しているマッチングアプリのことだ。あさぎも笹に薦められ、実は登録している。
“XGのCOCONAに似てるって言われたわ。どうよ?”
そう尋ねられるが、その“XGのCOCO
コロナウイルス連作短編その210「明日もまた生きていく」
真南茶織は自宅のトイレに籠り、ただ壁を見つめている。
数年この部屋に住んでいるが、この黄ばんだ壁を真剣に見据えるたび、シミでできた不気味な顔面が新しく見つかる。今日は両目と口を構成する3つの茶色いシミが、過剰なまでに縦に伸びている。
気味が悪い。そして誰かに似ている。だが分からない。
今日は厭な1日だ。あのLGBT法案が国会で可決されてしまった。修正前の法案ならまだしも現法案が通ってしまっ
コロナウイルス連作短編その209「日本人男性、白人男性、日本人女性」
塩野義星野が道を歩いていると,向こう側からカップルがやってくるのに気づいた.そしてそのカップルが白人男性と日本人女性で構成されていることを一瞬にして認識せざるを得ない.
顔半分がマスクに覆われているとしても分かるのだ.あの彫りの深さや頑健な額,そして風になびく金色の髪は白人男性のそれであり,あの人口甘味料だけでできたような甘ったるい目許は日本人女性のそれだと.
その組合せが網膜に映っているだ
コロナウイルス連作短編その208「無償の愛」
植木口津は居酒屋で会ったばかりの男に自分の考えを話し続けていた.
「僕の恋人が選挙行け選挙行けってうるさいんですよ.だから結局行きませんでしたね,はは」
口津はその口にレモンサワーを有らん限りにブチ込んでいく.この居酒屋に来た時は毎回“超濃いめレモンサワー”を彼は頼んでいる.
「恋人もそうですが,ああいうネットで活動家気取りのやつらは選挙行け選挙行けと言うだけで,それで選挙行った人々が自分の支
コロナウイルス連作短編その207「桃色、黒色、黄色」
「今日もまっピンクの服着てんな!」
待ち合わせ場所にやってきた川田神牙公のド派手に過ぎるピンクのジャケットを見て,西塔越智子はそんな叫びを投げ掛けた.これを聞いた牙公は両手を広げながら,胸をドンと張る.
彼のジャケットは果てしなく濃厚なピンク色に包まれている.眼球がこれを視認した瞬間に色彩そのものが網膜へと強襲を仕掛けてくると,そんな重みすら感じさせる代物だった.その圧力によって視覚を司る細胞