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コロナウイルス連作短編その213「きみはひとり」

改札で
きみは彼の右手を握る
その指は意外なまでにほそいんだけども
力はとにかくえげつなく強い
こちらの骨がいたくなるほど

きみと彼はハグをする
日本人はあんましないが、きみらはする
彼の僧帽筋を
肩甲挙筋や小菱形筋、大菱形筋ごと
コカインをブチこみまくったクマさながらに
抱きしめてやりたいのさ
「今生の別れかよ?」
彼は難しい言葉を使って、笑った

そしてきみに
背をむけ
改札を
ぬけて
階段をのぼる
実はきみも
彼が背をむけた時点で
彼に背をむけ
逆方向へむかっている

彼の
けっこうしなやかなに
グクッと
首からうかぶ
胸鎖乳突筋
もうすでに恋しい
ままにきみはファミマに行く
186円の焼酎220mlボトルを買うためだ
ちなみに25度

レジに行こうとしたら
アイスをあさっている男2人
きみよりもたぶん10歳くらい若いんじゃあないか
だいぶほそい、彼にくらべれば誰だってまあ、そうだが
でも胸鎖乳突筋だけは別だ
どんな人間も胸鎖乳突筋は
かなりデカい
その筋肉に互いにすぐキスできるような距離感に
彼らはいて
チョコモナカジャンボとか
ブラックサンダーのチョコミント味のやつとか
持ってはしゃいでる

もう家だ
きみはひとり
べつに、愛はおわる
きみも何回もおわってきた
これ、いったい何回つづけんだろうな?
焼酎の封をビリビリやぶいて、フタあけて
飲む、とりあえず
口とか鼻とかあたりの粘膜が
もえるみたいになる

タブレットでSpotifyでもひらいて
音楽、きくんだ
青葉市子でもマネスキンでも
ボーイ・ジーニアスでもいい
なんでもいい、ききながら、よいながら
ひとりで踊る
クラブは好きじゃない、ひとりで踊る
コンビニのほうが酒もやすい
ひとりで未来について考えることができる
怒りについてだってね

そしてきみはひとり
でもさ、見てみなよ
ソファーの近くに
ほら荘子itがいる
そっちにはキャロライン・ポラチェック
窓んとこにはデュア・リパと折坂悠太
あそこにはリナ・サワヤマ
フィービー・ブリジャーズとフィービー・ウォーラー=ブリッジも
ボン・イヴェールも
250もOmega Sapienも
そこにいるんだ

そしてきみはひとり

何にしろ
みんな胸鎖乳突筋にかんしては
たくましい
でかいんだよ、どんなやつのも
かなりね

私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。