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【Creative Journey】北山孝雄さん(前編)画一化の時代、デザインに価値はある?

戦略クリエイティブファーム「GREAT WORKS TOKYO」の山下紘雅による対談連載企画。さまざまな分野のプロフェッショナルの方との、クリエイティブな思考の「旅」を楽しむようなトークを通して、予測不能かつ正解もない現代=「あいまいな世界」を進むためのヒントを探っていきます。

第1回のゲストは、株式会社北山創造研究所の代表・北山孝雄さん。80歳を超えた今もなおクリエイティブの第一線に立つ北山さんとともに、現代におけるデザインの価値や、ビジネスとクリエイティビティの追求に必要な視点などを語り合いました。

対話を重ねるなかで、山下の心に浮かび上がってきたのは、「AIで70点のアイデアが簡単に出せる時代に、人間ならではの創造とは?」という問いでした。この問いに行き着くまでの思考の過程と、北山さんのお答えは記事のなかに。ぜひ、ご覧ください。

プロフィール

北山孝雄(きたやま・たかお)さん
1941年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナーだった20代の頃に、ライフスタイルプロデューサーの浜野安宏氏が代表を務める株式会社浜野商品研究所の副社長に就任。以来、企業、計画、デザイン活動を軸とする集団創造をデザイン・プロデュースという領域で確立。一貫して、自分たちの生活実感をもって、素人の視点に立ち、そこに「どんな生活を実現したいか」をテーマに活動している。1993年、浜野商品研究所を北山創造研究所に商号変更し、代表に就任。つねに人から商品を考え、人から界隈や建物を考え、人から企業のありかたを考え、そして人からまちづくりを考える姿勢で臨んでいる。

山下紘雅(やました・ひろまさ)
1982年生まれ、東京都出身。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了後、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社に就職。2012年、住所不定無職で1年間の世界一周旅行へ。スタートアップ参画を経て、2015年に「ビジネスの世界に、もっと編集力を」との想いから、株式会社ペントノートを設立。2020年、グレートワークス株式会社取締役社長に就任。ロジックとクリエイティブのジャンプを繰り返す“戦略的着想“を提唱し、クライアントが抱えるさまざまな課題解決をサポートしている。


■人生の大先輩に学びたい、たくさんのこと

山下 今日はゴルフに行かれていたんですよね。

北山 18ホール回って、今帰ってきたところですわ。

山下 お疲れのところ、ありがとうございます。少し休まれますか?

北山 いや大丈夫、このまま始めてええですよ。

山下 さすがですね。私なんか、ゴルフに行ったら帰りはもう、ヘトヘトですけどね。

北山 そうなの? それで、今日は何を話せばええんやろ(笑)?

山下 北山さんが長年のキャリアのなかで経験してきたことや、その上で今お考えになっていることをお聞きしたいと思っています。私は北山さんと、一昨年に東急ハンズ関連の仕事で初めてお会いしてから、北山創造研究所が主宰する「エナジーリンク」に出席させていただいたり、たびたびオフィスにうかがってお話をさせてもらったりしてきました。北山さんの一つひとつのお言葉が、いつもすごく刺激的で。

北山 それはそれは。ありがとう。

山下 北山さんが過去に提言されていたことって、今の時代にたくさん実現していますよね。「オフィスはハウスである」なんて、リモートワークの普及で、オフィスの役割が見直された今をまさに言い当てている。数十年前にそんなことを言っていた人は、ほかにいなかったんじゃないかなと想像するんです。

北山 いやあ、そうでもないですよ。一部の人は言っていたんだけど、それがマイナーな発言として捉えられていたんやな。まあ、適当に新しいことを言っていかないと、仕事が来なかったわけやね。

山下 そう言いながらも、独自の発想術をお持ちだと思うんです。それが一体どんなものなのかという点もぜひお聞きしたいです。あとは、経営者の先輩としてもお話をうかがいたくて。北山創造研究所の代表に就かれたのは、確か50代の頃ですよね。

北山 53歳の時ですね。浜野安宏さんが代表をしていた浜野商品研究所を引き継いで、北山創造研究所になった。浜野さんが「探検家になる」と言って辞めて、カナダへ行ってしまったんです。あれからもう30年も経ちましたね。

山下 30年間、組織を引っ張ってこられたわけじゃないですか。ほかにもお聞きしたいことはまだあって、たとえば社会におけるデザインの価値の変化。20代からグラフィックデザイナーとして活躍されて、今も現役でデザインに携わっていらっしゃる立場からすると、今のデザインやクリエイティブの役割ってどう見えているんだろうと。

北山 ずいぶんいろいろやなあ。どれも、大したことは考えてないんやけど。

山下 そんなことはないはずです(笑)。では、改めてどうぞよろしくお願いいたします。


■デザインが夢あるものではなくなってしまった

山下 私は、北山さんのことを稀代のコンセプトメーカーだと思っているんです。それぞれの時代を捉えたコンセプトを創造し続けて、80歳を超えた今、社会に対してどのようなことを感じていらっしゃいますか?

北山 まず、デジタルに対する恐怖感をすごく感じますね、アナログな人間だから。

山下 そうなんですね。今はAIもすごく進化していますから、デジタルの扱いが苦手な人のことも、いずれはテクノロジーがケアしてくれると思うんですが。

北山 テクノロジーが進化しても、僕という人間は進化しないでしょう。デジタル上で問題が解決できたように見えても、「本当にそうなのか」と信用ができない。それに、AIの普及にも問題はあると思いますよ。極端な話、知恵を絞らずに10人いたら10人が同じ答えを出せてしまうわけやから。

山下 全世界の情報から、帰納法で確度の高い答えを出力するので、ほとんど同じ結果になりますね。

北山 AIが象徴的やけど、世の中はどんどん平均化されて、画一化されてるよね。どこもかしこも監視カメラが付いているような管理社会やし、言いたいことも好きに言えわれへん。テレビなんかを見ていても、記者が政治家に恐る恐る、当たり障りのない質問をしてるように感じませんか。

山下 それに対する政治家の受け答えも、まるでAIみたいな調子ですよね。

北山 教育も個性をスポイルするようなやり方やしなあ。そんな社会から、世界に羽ばたく人材や産業を生み出そうなんていうのは、無理な話でしょう。「多様性を大事に」って声高に言われていて、矛盾してると思いますわ。

山下 デザインの価値も、社会の変化と無関係ではいられないですよね。

北山 そうやね。60年前は、社会にモノが足りなくて、つくれば売れるという時代。そこでモノの付加価値を高めたりするには、デザインが必要だったわけです。それが今は、モノがあふれていて、食器ひとつにしても、捨てるためにつくられているような感じでしょう。するとワンポイントで付けられたマークすら、「そんなんいるか?」っていう風に見られるから。今はもうデザインの時代ではないのかもしれませんね。少なくとも昔のように夢のあるものではなくなった。

山下 確かに今、デザインと夢は近い関係にはないですよね。それこそ生成AIを使えば、誰でもある程度のものはつくれるくらいです。

北山 デザインの相対的な価値が下がっている。都市建築にしても、技術が進化したことで、今はもう70点くらいのアイデアは簡単に出せてしまう。

山下 確かに、各地でまちづくりが行われていますけど、パッと見は良い感じでも、これといった特徴がなく、同じような景色ばかりになっている気がします。70点を超えるためには、何が必要なんでしょうか。

北山 思想とかコンセプトでしょうね。特にこれからは、社会の課題をいかに捉えて、解決のために何をするのかということが大事になっている。まちづくりでいえば、パブリックスペースの価値が見直されているでしょう。これからのブランド価値は、社会への貢献度も含めたものになるし、数字に置き換えられない価値を生み出せる人が評価されるようになるはずです。まあ現状では、社会性が高い仕事ほど、報酬が安くなりがちなんやけど。

山下 そうなんですよね。今後は、社会性と収益を結びつけていかないといけない。

北山 そんなことを考えていると、自分がこれまでやってきたことが間違ってたんやろか、とも思いますよ。「儲かりまっか」「利回りナンボや」。そんなのばっかりやってきたから。

山下 でも、そういうビジネスの視点があったからこそ、北山さんの手掛けられた仕事は今も形に残っているわけですよね。

北山 それはどうか知らんけど、まあ大阪人の気質なんやろなと思います。


■無難を求める世の中でチャレンジを貫くには

山下 先ほど、「誰でもある程度のものはつくれる」という話がありましたが、私もたまに虚しくなってしまう時があるんです。120%の仕上がりをめざして、細部までこだわり抜いたアイデアを提案しても、もしかするとクライアントは90%で満足なんじゃないか、こだわりは自己満足なんじゃないかって。

北山 ある程度の出来でも通ってしまうのは本当ですよね。お客さんが皆、良いものを見極める目を持っているわけではないやろうし。

山下 あとは、「多様性」にも思うところがあって。その言葉が時に、当たり障りのない結論に着地するための、言い訳として使われているような気がするんです。世の中を見渡しても、全方位に気を配った結果、コンセプト不在になったクリエイティブがあふれているように感じるんですよ。

北山 最終的には合議制で判断されてしまいますからね。トップダウンなら通る提案も、合議制では収益中心での判断になり、通らないことが多い。

山下 そうなんです。とにかく、クライアントに自分の提案を認めてもらい、報酬をきちんといただくのは簡単ではないなと。今は今でやりづらさを感じることも少なくないわけですが、北山さんが若い頃は、また別のご苦労があったんじゃないですか?

北山 それで言うと50年くらい前は、デザインに対価を支払うっていう考え方すら一般的ではなかったからね。

山下 そんななかで、どうやって提案を認めてもらい、利益につなげたんでしょうか?

北山 ひとつは強気でいくことですかね。何も言わんのに向こうが勝手に納得してくれることもあるんですよ。とある文具メーカーの会社のロゴタイプをつくる時、予算書に「デザイン料 500万円」と書いたわけ。「デザイン料なんてものがあるんですか?」っていうところから話は始まったんやけど、当時の社長は、「分かりました。毎月1万円払って年間12万円。50年使うなら600万円ですから、500万円は安いのかもしれませんね」って言ってくれて。実際に50年くらい使ってもらって、よかったなあと思ってます。

山下 その時は強気に、「デザイン料 500万円」で提案したのが功を奏したのでしょうけど、一方で、北山さんが手掛けたプロジェクトの資料を拝見した時に、すごく細かく予算の内訳が書かれているのに驚いたことがあります。

北山 サラリーマンを説得しようと思ったら、やらなあかんかったんですわ。それといろんな職種の人たちを集めてプロジェクトのメンバーに据えるということもやってましたね。税理士やら弁護士やら科学者やらがいて、一人頭いくらって細かく分けていくと、1千万円くらいに思えるプロジェクトが、1億円になったりする。新しい領域に仕事をつくれば、こういうやり方が通る時もある。

山下 無形資産の中長期的な価値を、しっかりとした説得力をもって売り込む。北山さんが過去にやっていたことは、今の私が身に付けるべき力のような気がします。


■アイデアは定時内に出てきてくれるものか

山下 クライアントに対してこだわりを貫くのも難しいですけれど、組織としてクオリティを追求していく大変さも、よく感じていて。たとえば、締め切り直前なのにアイデアが生まれていないなら、私自身は睡眠時間を削るのもいとわないんです。でも、部下に「一緒に徹夜して考えようぜ」とは……。

北山 そりゃあ言えんでしょうな。でも、アイデアは会社の定時内に出てきてくれるもんでもない。

山下 そこが難しいんです。今の時代に求められる働き方は理解していますが、クリエイティブにおけるプロフェッショナリズムとは、どうしても相容れない部分がある。それに、北山さんたちの世代が、本当に血のにじむような努力をして仕事をしていたことを考えると、自分たちはまだまだ甘いなと。

北山 昔は無理やりエネルギーを出させるようなやり方も当たり前やったけど、それはもうできませんからね。僕も若者とのコミュニケーションには気を遣ってますよ。

山下 そうですよね。あと、これは部下についての話ではなく、世の中の若者たち全般の話なんですが、彼らは何をモチベーションにして生活しているんだろうと、よく考えるんです。私は今41歳ですけど、自分の生きた証を残したいとか、社会への違和感や既存の仕組みへの反発とか、若い頃からそういう感情をモチベーションにしてきたんです。でも、今の若い世代にそういう意識はあまり感じられなくて。北山さんの目には、彼らがどう映っていますか?

北山 うーん。自分を認めてほしいんやろなあ、とは思いますかね。

山下 ちょっと意外なお答えです。そのように見えますか?

北山 うん。生き方を認めてほしがっているように感じますな。

山下 ああ、なるほど。「世の中に自分の価値を認めさせてやる」ということではなく。承認よりも共感に近い欲求なのか、「ありのままを受け入れてほしい」という感じ。

北山 そうそう。名声を得るとか金銭を稼ぐとかは、優先順位があまり高くない。

山下 そういう価値観は、もちろん認められるべきですけど、社会への諦念とも通じている気がします。創造性とは縁遠く思える世の中ですが、これからどんな人が新しいクリエイティブをつくり出していくんでしょうか。

北山 やっぱり、そんな社会に対する問題意識を持つ人やろうと思います。もしくは強い感謝を抱く人かもしれない。あとは、五感のいずれかが優れていたり、ほかの人とは違う感じ方ができる人。たとえば、知的障碍者のアート作品をとりいれたプロダクトを展開している会社があるけど、あれなんかは、何かに対する「深いこだわり」という感じがするね。新しいデザインという創造領域の感じがします。

山下 確かに、五感は生成AIが捨てている部分ですよね。そこにこそ、人間が生み出すクリエイティブの面白さがある。

北山 うん。これからは間違いなく、深いこだわりのある「五感の時代」やと思いますよ。

後編に続く)

2023年12月14日、北山創造研究所にて。
編集・執筆:口笛書店
撮影:嶋本麻利沙

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