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「不完全な完全」2023年 晩夏/今、何処Tour東京公演(佐野元春&The CoyoteBand)

Now&Here #32
2023年9月3日 日曜日 晴れ
「今、何処 Tour2023」
LIVE at 東京国際フォーラム ホール A

きびしい残暑は続く。
真夏の街中がハレーション気味に
ギラギラっと立ち上がる情景に
ワクワクします。
とはいえ、こんなに猛暑が
長く続くとさすがにバテ気味..........。
でも、時折り吹く風に秋っぽさが
混ざってる気がする。

どうでもいいけど、
7月の終わりに人生初の骨折をした。
間抜けなことに部屋の入り口に
足の小指をぶつけてしまい、
ただの打撲だろうと思っていたけど、
痛くて痛くて腫れてもいたので
お医者さんでレントゲンを
撮ってみたら折れてた……。
大袈裟なギブスではなく、
足の外側を包み込むように
小型の石膏で固定する感じ。

お天気は夕方からは雨降りの予報。
折りたたみ傘を手にして、
もうほとんど痛みのない左足を
少しだけかばいながら
電車に乗り込む。

いつもの赤い電車を品川駅で
東海道線に乗り換えて東京駅まで。
東京駅の丸の内南口の改札を
抜けると美しく緻密なデザインの
天井が今日も世界中の旅人たちと
ビジネスマンを迎え、送り出している。

その天井の八角形の隅にある
干支のレリーフ。
そのレリーフは方角を
表しているらしい。

東京国際フォーラムは
有楽町駅からは目の前だけど
東京駅からは少しだけ南に下る。

開場前、フォーラムA入り口には
徐々に今夜の音楽を心待ちに
した人たちが集まってきていました。
スタッフの指示に従い列が
つくられ 入場の準備。
午後5時を少し過ぎてから入場。

おまけのTシャツを受け取り、
このツアーからは感染症予防の
手順は省かれた。

前回の静岡での公演で目につけて
いたグッズはひと通り手に入れて
いたのでまずは席の確認。
今回は藤田さん寄りのはじっこだけど
思っていたより見やすそう。

座席数は静岡の会場の5倍!
5,000人以上入るこの会場は
あらためて全体を見回すと
やっぱりデカい!!

午後6時が過ぎる。
開演時間定刻を10分ほど回ると
会場がスっと暗転。
アルバム「今、何処」
最後のタイトルサウンドが舞台のバック、
そして舞台の上両側に設置されれた
とても大きなモニターに「今、何処」の
文字と入り組んだイメージとが
相俟って映し出され、
バンドのメンバーが舞台に現れた。

はじまりのバンドサウンドに
少しずつにじり寄っていく。

佐野元春はエレクトリックピアノの
前に腰かける。
すると小松シゲルのドラムスが
ドッパッパパン!と転がり
コヨーテバンドのサウンドが
くっきりと立ち上がった。

「さよならメランコリア」

いっときたりとも留まる
ことのない世界。
文明が崩壊して荒れ果てた
情景さえも風化した砂漠。
もしくはもともと生命体の
存在しない見知らぬ惑星の
大地がモニターに映し出されている。

舞台の両脇上に設置された
デカいモニターにはバンドの奏でる
サウンドにリンクしたミュージック
ビデオやイメージの映像、
そしてタイポグラフィ。

1989年ナポレオンフィッシュツアーで
ジェイムズ マジオ氏との
共同作業で表現された
ステージを憶えている。
ハートランドのタイトなサウドに
リンクして粗削りだけれどもかなり
アグレッシブで抽象的な表現を駆使した
とても印象的なステージだった。

今回の「今、何処」ツアーでは
それらをさらにアップデートさせた
表現のように感じました。

バンドのリアルなサウンドが
うなりをあげている。
それを補うシーケンスのサウンドが
緻密な楽曲のイメージを
さらに奮い立たせる。
詩と唄とメロディから
導かれたサウンド、
絶妙なタイム感、流麗なタッチ、
信じられない指さばき、腕さばき、
高精細のたおやかな映像、
浮かび上がるタイポグラフィ、
そしてオーディエンスの高鳴る鼓動。
それらがすべて共振して
カタチのない波動が
何処までも舞い上がって
いるのが見えた。

「冬の雑踏」
コヨーテバンドならではの ”City Blues”
藤田顕の心象が刻むギターのカッティング。
深沼はヒトと時の波を
すり抜けてゆくかのように
コードを揺れて鳴らす。
高桑圭師匠と小松シゲルのリズム隊は
ビシッとしたタイトさとゆらっと揺蕩う
グルーヴを繰り出す。
すべてを抱きしめるシュンスケさんが
奏でる鍵盤の音色、
そして佐野元春が奏でるブルースハープ。

深い絶望。淡い悲しみ。
擦り切れた希望。尊い優しさ。
くじけない情熱。

濃く柔らかな鉛筆で描いたスケッチに
油性絵の具や水彩絵の具、
様々な具材の色を組み合わせて
色付けされて滲んだキャンバスから
浮かび上がった世界のようです。

中盤では
アルバム「ENTERTAINMENT!」
からシニカルでゴキゲンな
「エンターテインメント!」
タイトなグルーヴと素晴らしいコーラスの
「新天地」
ラッパがなくても揺れて踊れる「愛が分母」 

絶妙なサウンドが響き渡る空間に
圧倒されて思わずぼくは何度も
へたくそな指笛を繰り出した。

つづくコヨーテバンドが構築して
磨き上げたロックチューン!

「ポーラスタァ」 
「LaVita e Bella」 
「純恋」

そして
「ハルナツアキフユ。
風は光になって私たちはずっと共にいる」
心のそばでゆったりと奏でられた
「詩人の恋」

季節のまなざし。
まばゆい笑顔。
弾ける生命。
あの日見た朝の景色。
ここらでさようならと手を振る人。
残酷な日常を抱きながら
心の修繕を時に委ねて
今日も太陽と雨の洗礼を受ける。

場面が変わり再び高精細の
モニターに砂漠が映る。

「エデンの海」のビッグビートが
変わることのなく星が瞬く「君の宙」へと
続く路の上を翔け上がる。

流れるようにつづくロックサウンド!
「水のように」から継ぎ目なく
メドレーのように
小松シゲルのカウントで畳み込む
「大人のくせに」
何処かへ飛んで行ってしまい
そうな大好きな最高の
ロックンロールのサウンド!!

藤田顕の12弦のエレクトリックギター
深沼元昭のギブソンレスポール・ゴールドトップ
佐野元春は久しぶりに
フェンダー・ジャズマスターで
イントロのリフを奏でた「明日の誓い」

まだ出来立ての新曲として
披露してくれた川崎のライヴハウス
でのフォークロック感に
さらに磨きをかけてくじけそうな
ぼくやあなたの魂に灯をともす。

堂々めぐりの ”もどかしい世界。”
コヨーテバンドは強力なロックサウンド
「優しい闇」でこの瞬間を解放して
すべてのオーディエンスの心に
”ささやかな勇気”を焼き付けた。

アルバム「今、何処」の中でも
もっとも印象的で重要な楽曲
「永遠のコメディ」

ツアーのセットリスト本編に
この曲は入らなかった。
あえてこの楽曲を演らない選択を
することによる
「不完全な完全」

ないことによる不足を感じさせない
「今、何処」の
完璧なLiveパフォーマンス。

かえってその事が、この答えのない
さまようぼくらが通り過ぎていく今の
景色をぼんやりと浮かび上がらせて
いたようにも思います。

2度目のアンコール

「僕らは今、大滝詠一もPANTAも清志郎も坂本龍一もいない時代に生きている。彼らの新しい音楽は聴けないことはすごく寂しいです。でも僕はまだ、こうして続いている。彼らが遺してくれたものを忘れないように。よかったら次の曲、一緒に歌ってください」──佐野元春

印象的なコメントの後
奏でられた「SOMEDAY」


そしてその後にもう1曲!
バンドにこれやるぜ!って感じで
舞台をうろつきながらEのコードを
掻き鳴す棟梁、
そして、わかったぜって感じで
「アンジェリーナ」に
なだれ込むコヨーテバンドに
めちゃくちゃしびれたよ~!

帰りの駅のコンコース。
清らかに揺れる空気。
邪悪に揺れる空気。
揺れのない空っぽのただの
入れ物のような肉体。

激しい生存競争。
姑息な手口。
汚い取引。
利益のための愛想笑い。
都合のいい言い訳。
その場しのぎの勝手な思い込み。

精神的なカタワ
底意地の悪い自分にうんざりして…。

いたたまれなさを感じながら
小さなギブスを付けた足で
この世界をすり抜けていく。

この日、自分のぶっ壊れてる
左耳の調子が今ひとつだったけど、
今夜「今、何処」Tour2023
東京国際フォーラム公演まで
たどり着けた自分、

奇妙な日々をくぐり抜けてきた
佐野元春のことが大好きなみんな、

ヤバい音楽を更新続ける
佐野元春&TheCoyteBand!

そして、佐野元春が
アンコールでの印象的なコメントで
哀悼の意と更なる志を表した
偉大なるロックンロールアーチスト達に
心からの敬意を表して

ぼくは、帰りに家の近くの中華屋さんで
レバニラ炒めと生ビールを注文して心の中で
盛大に乾杯と献杯をしました...!

どうもありがとう!

しばらくは、その少しの勇気と儚い正気を
携えて奇妙な今をうろつきながら
眺め続けていたいと思います。


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