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六本木WAVE 昭和バブル期⑥

l  猫を預かった話 キャンディちゃんから電話

 私の仕事場は四ツ谷駅のほど近くでバスターミナルから雙葉学園に向かう道を右に曲がったそこにあった。住所で言うと六番町である。そこの古いテナントビルは本社の持ち物でその一階を支社としていた。

広いスペースの半分を別の部署がシェアし、残りの半分が私の部署であった。所長が1名、営業部員がバイトも入れると4名、私は制作チーフで部下の女性が二人いた。一人は同い年の女子大卒、一人はパートで経験者だが10歳年上のいわゆるお局様であった。私も頭が上がらない、仕事の上ではキャリアも年も上なのだったから。それ以外に高卒で入ったばかりの庶務の女性が一人いた。彼女はなかなか賢くて周りの空気をいつもしっかり読んで気遣いも完璧であった。

 全員比較的年が近かったせいか、本社のような官僚的な張り詰めた雰囲気は無く、所長の人柄のせいかのびのびとした笑いの絶えない職場であった。ただ制作の仕事柄、〆切前などは徹夜も辞さないほど残業続きであった。

 そんなちょうど忙しくなり始めたある日の夕方 ちょっとしたハプニングが起こった。

 現代のように携帯の無い時代であったから、当然仕事以外でも皆、プライベートな用件でも会社の電話にかかってくることは普通の時代であった。たいてい庶務の女性が電話を取っていたがその日はたまたま他の電話に出ていたので好奇心旺盛の夕子という部下の女性が取った。

「はい、(株)〇〇でございます…はい 少々お待ちください」

そういって保留になった電話を彼女は私につないだ。

「北りん!」

夕子は皆の名前の下に「りん」をつける癖があった

「2番にキャンディちゃんから電話!!」

といつになく大きな通る声。

狭い事務所である。皆が一斉に反応し注目した。

 お局様もぴくッと反応

「ん? キャンディ…!」

 庶務のエミちゃんが取ってくれていたらうまくつないでくれたであろうに…と思ったが時すでに遅く、慌てて動揺を隠せずに目の前の電話の2番ランプを押して私は小声で出た。(つづく)

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