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特許研究

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記事一覧

【特許研究】AR眼鏡用ガラス~光学ガラスの新たな戦場となるか~

AR眼鏡とはこんな装置表示装置の正面には回折格子があり、回折格子は正面から入射した光線をほぼ真横へぶん投げます。この光線は板ガラス内部で全反射しながら眼球の方向に伝播します。眼球の前まで到達した光は眼球の前面に設けられた別の回折格子によって眼球の方向に再び曲げられガラスから射出され、眼球の網膜上に結像します。これがAR眼鏡の原理です。眼球前面の回折格子を透明なものにすれば外界からの光に重ねて映像を

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トリウムガラス(2)

コダック1939年

この発明はホウ素40%ランタン60%の組成を持つ新種の2成分ガラスの発見が中核となっており、このガラスを多成分化した種々のガラスについて組成・光学特性が開示されている。多成分化の過程でトリウムを使用したガラスが試作されたのがトリウムガラスの起源のようだ。このトリウムガラスは、もっとも単純なもの(実施例T)では3成分だったが、ランタンガラスと同様に多成分化した実施例が多数開示さ

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1960-1970年代の高屈折率低分散ガラスの発展

1960年代から1970年代にかけての高屈折率低分散領域の光学ガラスの発展の流れについていくつかの特許文献を参照しながら記述しています。

背景1960-70年代は、これまで順調に一方へ向けて発展してきた高屈折率低分散光学ガラスが初めて大きな後退を余儀なくされ、その代替技術の開発に各光学ガラスメーカーが奔走したというある種特徴的な時代でした。

高屈折率低分散光学ガラスは、クラウンガラスに酸化バリ

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1971年のニコンのランタンガラス

1971年のニコンのランタンガラス

半世紀前の1971年に日本工学工業株式会社(ニコン)が出願した光学ガラスの発明です。ニコンとはかのカメラメーカーのニコンですが、ニコンは自社製品で使用するために光学ガラス部門を持ち、社内でガラスの開発・生産を行っていました。現在ではガラス事業は光ガラス株式会社に分離したうえで同社がニコングループの傘下に入る形になっています。

ランタンを主な高屈折率化成分とした高屈折率低分散ガラスについての発明で

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【特許研究】ショットの光学ガラスLaK22の1976年の特許

ドイツの光学ガラスメーカーのショット(Schott)が1975年に出願した光学ガラスの特許光学ガラスの特許は光学定数(屈折率とアッベ数)や物理・化学・熱的性質とそれを実現するための組成を、複数のガラス品種をカバーできるように広い数値範囲として特許請求するパターンが多いのですが、この出願では、光学定数・組成を狭い数値範囲でほぼピンポイントで請求しています。
屈折率1.650
アッベ数55.5±1.0

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【特許研究】1971年HOYAのランタン・亜鉛高屈折率低分散ガラス

1971年にHOYA株式会社が出願した高屈折率低分散光学ガラスの特許に関する記事です半世紀前の1971年に出願され審査の末に1978年に拒絶査定された発明です。

光学ガラスは、ガラスネットワーク構成酸化物(SiO2やB2O3が代表的)が構成する乱雑な分子ネットワークに高屈折率化や高分散化などの効果を持つ修飾酸化物が割り込んだ構造となっている。ネットワーク構成酸化物は種類が限られ、酸化ケイ素(Si

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【特許研究】シグマ35mmF2

出願者株式会社シグマ・出願2020年4月8日・公開2021年10月14日

「正・負・正」タイプのインナーフォーカスレンズ、一枚の非球面レンズのみからなる第2群がフォーカスを担う

実施例
・33.81mm F2.07,画角33.47度→公称35mm F2.0の範囲内
・像高21.6mm→フルサイズ用
・バックフォーカスが短い→ミラーレス専用
・インナーフォーカス式
・「正・負・正」で中央の負の第

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【特許研究】ガラス瓶メーカーが開発した光学ガラス

特許を検索していると、日本山村硝子という(自分にとっては)見慣れない企業が光学ガラスの特許を出願していました。この企業は名前の通りガラスメーカーなのですが、主力事業はガラス瓶でその市場では日本トップシェアだそうです。実際に、企業名で特許を検索するとガラス製品のほかにプラスチックキャップの発明なども多く出願されており、各種容器に用いられるガラス瓶が主力事業であることが伺われます。

そのような企業が

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【特許研究】伝説の撒き餌レンズEF50/1.8

【特許研究】伝説の撒き餌レンズEF50/1.8



キヤノンのEF50mm F1.8といえば、実用的な性能を備えた純正レンズでありながら非常に安価な製品で、ユーザーをレンズ沼へひきずりこむための撒き餌レンズとして有名です。このレンズの存在自体がEFマウントの大きなアピールポイントとなっています。

ここで紹介している特許は1985年10月14日にキヤノンが出願した古い特許です。
経過としては1987年4月22日に公開、1993年11月30日に特

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最新の交換レンズはどのような光学ガラスを使って設計されているのか


ひとつ前の記事ではRF50mm F1.8に関連すると思われる特許を紹介しましたそこには3つの実施例が掲載されており、そのうち実施例1と2のいずれかを製品化したのがRF50mm F1.8 STM なのではないかと推測しました。実施例にはガラスの屈折率やアッベ数も記載されており、そこから使用されているガラスの型番を特定できます。この記事ではこれら実施例がRF 50mm F1.8の原設計という仮定で、

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【特許研究】キヤノンRF50mm F1.8(と、今後登場するF1.4?)の特許が出願されています

【特許研究】キヤノンRF50mm F1.8(と、今後登場するF1.4?)の特許が出願されています

■出願日は2021年2月21日で、公開日はごく最近の9月9日です。

■構成図を見てみる

↑が特許文献中の実施例1に対応した図面です。STOは絞り面で、ここを挟んで正正負絞負正正と対称的にレンズが並んでいます。今時珍しい5群6枚構成のシンプルな光学系で、いわゆる変形ガウス型構成です。LFとLRはそれぞれ前群と後群を意味しますこのような群分けはフォーカスやズームの「駆動単位」として示されることも多

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