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【特許研究】キヤノンRF50mm F1.8(と、今後登場するF1.4?)の特許が出願されています

出願日は2021年2月21日で、公開日はごく最近の9月9日です。


■構成図を見てみる

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↑が特許文献中の実施例1に対応した図面です。STOは絞り面で、ここを挟んで正正負絞負正正と対称的にレンズが並んでいます。今時珍しい5群6枚構成のシンプルな光学系で、いわゆる変形ガウス型構成です。LFとLRはそれぞれ前群と後群を意味しますこのような群分けはフォーカスやズームの「駆動単位」として示されることも多いのですが、この出願では単に光学系内のサブグループを示す群であって駆動単位というわけではないようです。下がRF50mm F1.8の仕様表に掲載の構成図です特許文献中にはフォーカシングに関する記述はなく、全群繰り出し方式として構成を単純化しているようです。

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これはキヤノン公式サイトに掲載されているrf50/1.8の構成図ですが、完全に一致という感じですね。後群の凸レンズに非球面が図示されていますが、特許中にもオプションとしてこの位置に非球面を使用できる旨が記述されています


■実施例のデータを見てみる

この出願には3種類の数値実施例のデータが記載されています

上図:実施例2は50mmF1.8で実施例1に似るが、微妙に異なる別物。

その内容を見てみましょう。まずは焦点距離とF値では3種類の実施例がそれぞれ50mmF1.8、50mmF1.4、70mmF1.8ですね。数値データは50/1.8・50/1.4・70/1.8の三種類ですが図面・収差図はなぜか50/1.8・50/1.8・70/1.8になっています。2つめの50/1.8はスペックは実施例1と同じですが、収差や曲率・面間距離などは微妙に異なっており同じ設計基準で設計された別物のように見えます。表にはあって図では消えてしまったF1.4クンは、邪推になりますが、収差図的にお見せできない部分があったのかもしれません。

■どのマウント向けなのか

現在のキヤノンのカメラマウントは3種類あります

EFマウント(フルサイズ一眼レフ)
EF-Mマウント(APS-Cミラーレス)
RFマウント(フルサイズミラーレス)

次に注目したい項目が像高です。これはイメージサークルの半径に相当し、センサーの対角長の半値に相当します、実施例に記載のイメージサークル半径21.64mm135フィルムやそれに準じた所謂フルサイズセンサーの対角長半値に一致します。そのため3つの実施例はいずれもフルサイズカメラ向けです。

次にバックフォーカス(BF)に着目しましょう。フルサイズ一眼レフでミラーボックスとの干渉を避けるために必要なバックフォーカスは35mm程度です。フルサイズ一眼レフ用マウントのフランジバックは40-45mm程度ですがレンズの後端が数ミリマウント内に陥没することが許容されるので実質的な許容バックフォーカスはこれより少し短く、35-40mm程度になります。ミラーレスカメラ用交換レンズはバックフォーカスはこれらよりかなり短くできます

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バックフォーカスBFは実施例1・2が25-26mm、3が37mmです。このことと先述の像高から実施例1、2はフルサイズかつミラーレス(RFマウント)用の標準レンズを意図した設計と思われます実施例3はバックフォーカスが長く一眼レフで使用可能ですが、70ミリという見慣れない焦点距離を採用しています。実施例3はミラーレス用として開発した光学系の焦点距離を伸ばしてバックフォーカスに余裕を持たせて、この出願が一眼レフ向けレンズでも一応は適用可能なことを実証する実験的な設計だと推測します。この焦点距離まで延ばせば一眼レフでも使える、逆に言えばこれより有意に短い標準レンズとしてはこのタイプの構成は一眼レフでは使えないということですね。


■どんな製品になのか? 

発明が解決しようとする課題として「小型かつ軽量で大口径の光学系を提供する。」と書かれており、すでにRF50mmF1.8で具現化されているような小型軽量志向が前提のようです。


RF50mm F1.8はすでに製品化済みですが、RF50mmF1.4はまだです。この実施例のまま製品化されるのでしょうか?もしそうなればコンパクト志向の製品になりそうです。

実施例のデータを見ていきましょう。ここでいうレンズ全長は撮像面(センサー)から前玉(の中心点)までの長さのことで、製品化された場合どのくらいのサイズの製品になるか予想できます。製品の長さは普通、マウント基準面からの突出長としてあらわされますので、レンズ全長から撮像面ーマウント基準面までの距離、つまりマウントのフランジバックを差し引いた値が凡その製品全長となりますレンズ全長ではなく製品全長の短縮という点ではフランジバックの短いミラーレスはむしろ不利なのです。RFマウントのフランジバックは約20mmなので実施例1は製品全長約40mmでRfF50/1.8のスペック40.5mmと一致します。同様にして実施例2は約42mmと予想できます。実際にはフィルター枠は前玉より少し前に出るのでこの数字に数ミリを足した長さが実物の製品全長になるでしょう。この光学系がそのまま実用化されれば、RF50/1.4はRF50/1.8とほぼ同じコンパクトさでF1.4の明るさ、という製品になりそうですね。よく、「フルサイズミラーレスは本体が小さくてもレンズが大きくてちょっと…」という声を聞きます。それは写真レンズがガラスによって光線を屈折させて所望のイメージサークルを得るというアナログな原理を用いている以上仕方ない面もあるのですが、今回の実施例はf1.8/1.4ともにかなりコンパクトにまとまっており、コンパクトなフルサイズミラーレス用レンズを求めるユーザーに対して訴求力のあるものとなっています。

■現行製品との比較

これらの予測される製品全長は現行製品と比べてどのような位置にあるのでしょうか。

現行のEFマウント用50mm F1.8が製品全長39.3mmで、50mm F1.4は50.5mmなので今回の実施例はF1.8はそれとほぼ同じサイズ、F1.4は10mmほどの薄型化ができそうです。製品全長の短縮にはショートフランジバックの方が不利にもかかわらず、です。なおEF50/1.8をアダプターを通してRFマウントで使うとアダプターの厚みがプラスされて約60mmの長さになり、今回の実施例の優位性は明確になります


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この表は実施例1・2とキヤノンの現行50mmレンズの比較です。(斜体は推定値)

RF F1.2はレンズは構成が複雑でサイズも巨大な、明らかな高性能志向のレンズであることが読み取れます

レンズ全長は前玉からセンサーまでの総延長で製品全長はマウント基準面から図った製品の長さですセンサーからマウント基準面はすなわちフランジバックのことなので、レンズ全長=製品全長+フランジバック長になります。上の表ではフランジバック長は便宜的にEFマウントが40mm、RFマウントが20mmと仮定して計算しています。こう見ると今回の実施例は製品全長で見れば50mmF1.8に並ぶ最薄グループで、レンズ全長を基準にみればキヤノンの全てのフルサイズ用標準レンズの中で最もコンパクトなことがわかります。レンズの構成枚数を見ても、Lレンズで高性能志向であるF1.2レンズとは異なり、EF50/1.8や50/1.4に近い位置づけの製品となりそうです

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