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スクールカウンセラーから見えたこどものこころとからだ

学校に行きたい でも 体が


「悩みなんてないですよ 学校に行きたいんです でもからだの具合がわるいんです」
中学生の男の子はきっぱりとスクールカウンセラー(SC)に言う

学校を休みはじめて、2か月
朝、おなかが痛くなったり、頭が痛くなったり、などの症状が出るようになった
親もはじめのうちは、体調不良ということで休ませていたが、あまりに続くので、だんだん心配になってきた
じっさいに微熱が出ているし、トイレにかけこんで、苦しそうにうなるようすを見れば、うそをついているようには見えない
ただ、朝には具合が悪かったのに、午後になるとけろっとしてゲームをしている子どもの様子を見ていると、納得がいかないし、叱ってしまう
そうすると、母子でバトルになってしまう
困ってのSCへの相談だった
 

不登校はからだの問題?


不登校というと「こころの問題を抱えていて、学校に行けない」と思われるだろう
ただ、じっさいはからだの不調をうったえて休みはじめるほうが多い。
頭痛や吐き気、腹痛や微熱など
家庭からは「体調不良で休ませます」という連絡が入り、学校もそう記録する
病院につれていってしらべても病気は見つからない。医者によっては「どこも悪いところはない。気のせいだろう」と片づけられたりする
ただ、じっさいにからだの不調は続いているので登校はできない
からだのいたみや具合の悪さは、本人にしかわからない
親や先生から「さぼりたいから、仮病をつかっているのだろう」と疑われる。
からだのつらさはなかなか伝わらない
わかってもらえないとますますつらい
 
「お母さんや先生は、なにか悩みがあるのなら、カウンセラーさんに話しなさいって言うけど、悩みなんてないし、学校でいやなこともない」
「学校に行きたいけど、からだの具合が悪くなるから行けないんです からだをなんとかしてほしい それだけです」

くちぶりからも、まじめで一生懸命な性格だとわかる
彼は、学校に行けないからだについて、苦しんでいるのだ
 

悩まない不登校?


少し前から、「悩まない不登校が増えてきた」と言われるようになった
それだけ聞くと、まるで「学校に行かなくても気にせず楽しく家で過ごしている子」のようだが
じっさいにそんな「明るい不登校」がいるのだろうか?
 
「悩む」というのは、こころの中でおきることだ
「〇〇をしたい」とか「したくない」とか感じるこころがある
一方では、こころのままには行動できない現実がある
そういうプレッシャーの中で、悩みは出てくる
悩みはこころで感じて、ことばにできる
ことばをつかって考えたり、相談したりもできる
 
でも、からだのことは、なかなかそうはいかない
気持ちはあるのに、からだは思うように動いてくれない
からだが勝手に気持ちとはべつなことをしてしまう
 
それは、とてもつらい体験だろう
 
悩むよりも前に、からだレベルでしんどさを抱える子どもたちが増えている
 

からだに寄りそうカウンセリング


 思春期の「こころの問題」というのは、じっさいは「からだの問題」でもある
 
「学校に行きたい・行かなきゃいけないと思うけど、体調が悪くなる」
「食べたら太ると思っても、たくさん食べてしまう」
「ゲームのしすぎは良くないとわかっていても、ついコントローラーに手が・・」
「自分の体を傷つけるのはつらいけど、リストカットをしないではいられない」
「どんどん成長していく自分のからだに違和感をもってしまう」
「自分のからだが、人からどう見られているのか気になってしかたない」
 
思春期のこころは、変容する自分のからだと出あい、おおきく揺れている
 
SCは
からだで苦しんでいる子どもたちにたいして、
気持ちを言葉にさせようとはしない
「どうしたいの?」という問いかけもなるべくしない
あくまで、からだで感じているしんどさに寄りそう
 
たとえば、
「そうか、本当は学校に行きたいんだけど、からだが思うようにならないん 
 だね それはほんとうにつらいことだよね 」
「朝になると、きりきりとおなかが痛くなるんです」
「うーん それはきついな そんな中でも学校に行くなんて、ほんとうにえ 
 らいね ・・・学校に向かう途中でもしんどいんでしょう?  
 ・・すごく体が重く感じるかもしれないね まるで砂の袋をせおっている 
 みたいな感じ?」
「ほんとうにそういう感じです」

このように、からだで感じかたに話題をあわせていく
 
こういうしんどさは小学校のころからずっとあったらしい
「テストのときとか、運動会のときとか、なにか発表するときとかになると、体調が悪くなるんです 中学校になって毎日になってきました 学校は好きだし、がんばるんですけど、家に帰るとぐったりします 朝はからだがなかなか動かないんです 」
「そうか・・・ずっとしんどい思いをしていたんだね」
 
からだはずっとサインを出していたのだろう
 
SCは、からだの不調の波についてたずねる
いちばん調子が悪いのは、朝  そのあと じょじょに体が動くようになってくる
「じゃあ、すこしゆっくりめに登校すれば、いいんじゃない?」
「そんなことしていいんですか?学校は朝から行って、一日いないといけな    いと思います」
(この子はほんとうにまじめな性格なんだなあ)と思う
「うん  そうしたいのはわかるけど、今は体調がじゅうぶんではないから、すこしずつ からだを馴らしたほうがいいと思う 先生やお母さんには説明してあげるから、途中からでも来てみたら?」

すこし時間はかかったが、まわりの理解をもらって、まずはからだが動きやすい時間に登校するようにしていった
 
SCは、あらためてお医者さんに紹介した
思春期のからだの変化を理解して、話を聞いてくれるドクターだ
体の具合をしらべてもらい、血圧を調整する薬などを出してもらった
「すこしずつ、体調をととのえて、からだを動かしていこう」と助言されたそうだ
 

おわりに


カウンセリングというと「気持ちを言葉にする」ことだと思われている

しかし、からだがしんどい子どもたちに、言葉を求めるとかえって負担をかけてしまう

スクールカウンセラーは、子どもがこころとからだでどういう体験をしているのかによりそう

そのなかで、その子にあった支援をさがしていければと思う

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