玉井ひろ

スクールカウンセラーを20年やっています。学校や教育相談、病院などで、臨床心理の仕事を…

玉井ひろ

スクールカウンセラーを20年やっています。学校や教育相談、病院などで、臨床心理の仕事をしてきました。 学校での「心のケア」のありかたについてや学校の文化や風土への考察、また子どもの心の臨床について語っていきたいです。 資格は、臨床心理士・公認心理師・臨床発達心理士。

最近の記事

スクールカウンセラー、子どもの権利を考える

学校と人権 学校は【人権】という言葉が好きらしい 人権擁護週間とか人権ポスターとか スクールカウンセラー(SC)は、この言葉を目にするたびに気になっていた 学校の中での「子どもの人権」がどう扱われているのか・・・ 〝人権の標語〟が廊下に貼っている そこには「あいさつをきちんとしよう」と書いてあった (え?人権って、あいさつと関係があるの? もしかして、あいさつしない子には人権がないとか?) もやもやしたものがわきあがる 学校では、子どもたちの人権はどう扱われ

    • 不登校の子と「死」について話しあった

      スクールカウンセラーと死 スクールカウンセラーは「死」のテーマに出会うことがある 「死にたい」「生きていたくない」と語る思春期のカウンセリング 自傷行為や自殺願望を持つ子たちの向かいあう 対応に困っている親や先生たちにアドバイスすることもある 子どもの自殺は食い止めなければならない そのための努力は惜しまない それををふまえた上で、少しちがう目線で「子どもと死」について考えよう たしかに死は遠ざけたいことだ だからといって子どもが「死」を口にしたとき、黙らせてしまうのは

      • スクールカウンセラーが「ひきこもれ」という本を読んだ

        はじめに 今回のnote は、スクールカウンセラー(SC)の読書感想文という趣向です。 思想家の吉本隆明がひきこもりや不登校について、自身の人生哲学を語ったメッセージ。 学校で不登校支援をしている心理士の視点からこの本の魅力を語ります。 この本は、むしろ引きこもることの積極的な意味を「人生における価値」という見方で語っていますから、テイストは異色かもしれません ただ、それは実際的でないということではありません 当事者や支援者が気づくことは多いと思います 世間が「正しいこ

        • スクールカウンセラー、マスクについて考える

          みんなでマスクの学校 学校はずっとウィルスにおびやかされている 子どもたちはずっとマスクを着けている 小学低学年の子もけなげにマスクを外さない 大声で叫んだり、笑ったりすることもがまんしたまま3年がすぎた マスクなしですごせる学校はいつもどるのか みんなと同じようにマスクをしているのが良い子 マスクを忘れた子は申し訳なさそうに保健室にもらいに来る ウイルスを移さないように 迷惑をかけてはいけないから 肌の感覚が刺激に敏感な子どもたちもいる 鼻呼吸が苦手な子どもた

        スクールカウンセラー、子どもの権利を考える

          スクールカウンセラーから見えたこどものこころとからだ

          学校に行きたい でも 体が 「悩みなんてないですよ 学校に行きたいんです でもからだの具合がわるいんです」 中学生の男の子はきっぱりとスクールカウンセラー(SC)に言う 学校を休みはじめて、2か月 朝、おなかが痛くなったり、頭が痛くなったり、などの症状が出るようになった 親もはじめのうちは、体調不良ということで休ませていたが、あまりに続くので、だんだん心配になってきた じっさいに微熱が出ているし、トイレにかけこんで、苦しそうにうなるようすを見れば、うそをついているようには

          スクールカウンセラーから見えたこどものこころとからだ

          ハーモニーの影で:スクールカウンセラーが眺めた合唱コンクール

          合唱コンクールの再開 中学校に合唱コンクールがもどってくる 実に3年ぶりだ 新型コロナウィルスの影響で行事がしばらくできなかった 運動会や宿泊行事は、感染対策をしながら少しずつできるようになってきて 全員が声を出して歌う合唱も復活した 学校の日常がとりもどされつつある   ただ、3年間の空白は大きい 全学年の生徒たちがはじめて行事を体験するのだ 行事前のわくわくした空気はうすい。 練習している歌声もひびきが弱い 音楽の教師がぼやく 「みんな、声が出ませんね 歌い方を知ら

          ハーモニーの影で:スクールカウンセラーが眺めた合唱コンクール

          空白の学校を歩く スクールカウンセラーがコロナ禍で考えたこと ③

          失われた別れ 2020年春、新型コロナウィルスの感染防止のため学校が空っぽになった。 3月はしめくくりの大事な時期。学校にとってはとくにそうだ。 学年が終わりクラスも変わる。去っていく人たちとの別れ。 悲しみにひたって新しいスタートへ気持ちを整える時期。 セレモニーや心の交流、感傷的な雰囲気。 コロナはそれらをすべてふっとばしてしまった。 この時期世界中で起きていた悲惨からみれば大きなことではなかったかもしれない。 ただ、心の成長にとってそうした体験はとても大事だ。 「大

          空白の学校を歩く スクールカウンセラーがコロナ禍で考えたこと ③

          空白の学校を歩く スクールカウンセラーがコロナ禍で考えたこと ②

          みんな不登校? 2020年春、新型コロナウィルス感染拡大で日本中の学校が休校となった。 史上はじめての「学校の空白」は、その年の夏まで続くことになった。 授業も行事もなくなり、子どもたちの姿を見ることもなくなった。 空っぽになった学校で、スクールカウンセラー(sc)は呆然としていた。 SCのおもな仕事は学校に来られない子たちの援助だ。 今はすべての生徒が学校に来ていない。 みんな不登校・・・?。 いや、自宅学習ということになっているから登校扱いになっているはず。 すると不

          空白の学校を歩く スクールカウンセラーがコロナ禍で考えたこと ②

          空白の学校を歩く:SCがコロナ休校で考えたこと

          コロナ禍の学校 2020年の春。突然、学校が空っぽになった。 新型コロナウィルス感染拡大の影響で、政府がすべての学校に休校要請を出した。 私の働く中学校も、あわただしく授業や行事を中止し生徒たちは学校へ来られなくなってしまった。 子どものための学校なのに、子どもたちがいない。 学校の中は大混乱。 先生たちは連絡や後始末に右往左往している。 目前だった卒業式や謝恩会も中止。 中3の生徒たちは別れを惜しむこともできないまま、学校を去っていった。 学校はしきたりや行事を大切にす

          空白の学校を歩く:SCがコロナ休校で考えたこと

          スクールカウンセラー、学校を歩く

          異境を歩く 私は学校を良く歩く。 歩くことで、学校という異境が見えてくる。 臨床心理士というと、リクライニングチェアで静かに患者の語りに耳を傾けている。 そういうイメージが強そうだ。 ただスクールカウンセラー(SC)の私は、わりとよく動いている。 授業中の生徒や教師の様子。 部活動の雰囲気。 廊下や休み時間の、生徒たちの行動や会話など。 歩き回っていろいろと見させてもらう。 いろいろとおしゃべりもする。 ただぼんやりと散歩しているわけではない。 そこには、スクールカウン

          スクールカウンセラー、学校を歩く

          子どもの心理療法の世界

          はじめに 子どもの心理療法は奥深い世界です。 私は、臨床心理士として20年間、学校や教育相談施設などで、色々な子どもの心と触れ合い、悩みやしんどさと向かい合ってきました。 あるときは彼らの心の奥底にある豊かな生命力や表現力に心震える自分がいました。 また、小さなたましいに抱えきれない傷つきを目の当たりにしてなすすべもなくうなだれる自分もいました。 こうした子どもたちとの出会いによって、私はセラピストとして成長しやりがいを持って仕事を続けることができています。 今回は、私が出

          子どもの心理療法の世界

          “学校という異境”へ

          学校で心のケアをするということ 学校で心のケアをするというのはどういうことなのだろう? スクールカウンセラーになって20年。 仕事をしながら、よくこのことを考える。 今の学校では、不登校やいじめ、生徒の自殺など、様々な心の問題がある。 発達にかたよりがある子どもたちへの特別支援もまた重要な課題だ。 虐待的養育やヤングケアラーなど、家庭の影響も大きい。 そして近年では、教員たちの過労やストレスの問題も増えてきている。 学校での「心のケア」の必要性はますます重要視されている。

          “学校という異境”へ