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ハーモニーの影で:スクールカウンセラーが眺めた合唱コンクール

合唱コンクールの再開

中学校に合唱コンクールがもどってくる
実に3年ぶりだ
新型コロナウィルスの影響で行事がしばらくできなかった
運動会や宿泊行事は、感染対策をしながら少しずつできるようになってきて
全員が声を出して歌う合唱も復活した

学校の日常がとりもどされつつある
 
ただ、3年間の空白は大きい
全学年の生徒たちがはじめて行事を体験するのだ
行事前のわくわくした空気はうすい。
練習している歌声もひびきが弱い

音楽の教師がぼやく
「みんな、声が出ませんね 歌い方を知らないんですね 」
「発声の基本から教えないと・・、時間がないですね・・」
むりもない 3年間、声を出すことを止められてきた子どもたちだ
コロナ対策のために、人と距離をとり、大声でしゃべったり、わらったりすることもがまんしてきた
急に、先生たちの言うように大きな声で元気よく歌うなんてできるだろうか
コロナ前のようになるにはまだ時間がかかる

学校の日常はもどってきたが、私たちの心やふるまいは変わったのだ

学校とハーモニー

クラス単位で、合唱を競いあうコンクール
歌声にランクをつけるなんて奇妙なことだが
中学校はこの行事を大切にしている
 
「みんなで心を合わせ、美しいハーモニーをつくりあげよう」
という目標で、子どもたちが同じ方向につながっていく。
まとまりが生まれ協調性がはぐくまれる。
一人ひとりの肉声がハーモニーでまとまるプロセス
そこで生まれる感動や一体感の物語
それが学校のめざすところなのだろう

スクールカウンセラーもこの行事に関心を持っている。
理由は?
合唱コンクールの前になると不調になる生徒がふえるから
ハーモニーの輪に入れない子どもたちにも物語があるのだ

ハーモニーに入れない子どもたち

集団行動のペースやイベントのノリが苦手な子はそれなりにいる
ふだんはクラスのすみっこで静かに過ごしているが、行事になると学校の中が落ち着かない。全員参加だから「ひとりで居たい」とは言えない
休み時間や朝や夕方も歌の練習が入り休む時間もない
だんだん息がつまるようになり、保健室や相談室の利用がふえていく

ある少年は小さい時から大きな音が苦手だった
大きな声がとびかう教室にいるのは苦痛でたまらない
とびだしたくなる不快さを抱えて過ごしてきた
合唱のシーズンはゆううつになる
学校中に歌声がひびくようになるから
練習していると、クラスでもめごともおこる
先生も熱くなって、どなりだす
体がしんどくなり、気分もおちこんでしまった
けっきょく、コンクールがおわるまで学校を休むことになった
かれは言った

「 静かな所で勉強したいだけなんです 」
学校は勉強する場所だ
歌声の中に居られないというだけで、その場が失われてしまう

カウンセラーはハーモニーの外にある物語を聴く

ある女の子は、とにかく人前に出ることが苦手だった。
音読やスピーチのときは、下を向いてだまっていた
緊張や恥ずかしさで声が出なくなる

この人も「合唱コンクールのときはしんどい」と言う

かろうじてみんなと並ぶけど、口だけ開けて歌うふりをする
「がまんして、はやく歌が終わらないかなって思ってた」

「 歌はきらいなの? 」と聞くと、首をふる
「 歌うのは好き 家でボカロを聴きながら、大声で歌ってる 」と言う
「 でも、学校でみんなで歌わされるのは苦手 あの雰囲気もこわい 」

私はうなづく
「 そうだよね それぞれに好きに歌えればいいのにね 」

学校には多様な特性をもつ子どもたちがいるのだ

ハーモニーの影にいる子どもたちも見つめてほしい

ポリフォニーな心でも・・

みんなが、まとまりのある音色で歌うのはハーモニー
調和の美しさはあるが、そこから排除される声もある
いろいろな声があっても良いというのは「ポリフォニー」
カウンセラーをしていると、人の心はポリフォニーだなと思う
思うこと、感じることは、人によって多彩だ
世の中はそういうカラフルな心が折り合ってできている
無理に心をハーモニーに近づけなくてもいいはずだ

これはカウンセラーの夢想なのだけど
いっそのこと合唱コンクールのかわりに
自由参加の学校カラオケ大会にしたらどうだろう?
歌いたい人は好きな曲をに歌える
もちろん、ただ聴いているだけもOK
審査も順位もなし
そんなラフな行事でも許されるような学校だったら、息苦しい子どもたちも助かるかもしれない

人が声を出して歌うのは、わきあがる心のうごきがあるからだ
コロナ禍のなかで沈黙をしいられた子どもたちが、心から歌いたくなるにはまだ時間が必要かもしれない
それを待ってあげることも必要だろう

子どもたちには、自由に歌うことの楽しさを感じることから再スタートしてほしいと、カウンセラーは願う。


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