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3Dプリンターでつくる道具と環境 / IoTとFabと福祉セミナー③

レーザーカッター、IoT、AIなどデジタル技術が発展していく中で、福祉現場はその技術をどのような想いで、どのように日常生活に取り入れているのでしょうか。さらには、今後どのような展開を期待しているのでしょうか。

積極的に技術を活用している福祉現場と、機材や機器を開発しているメーカーと、両者が顔をあわせて率直に議論することで、福祉×技術の可能性をひろげることができると考え「IoTとFabと福祉セミナー」を開催します。

第3弾は、

福祉現場: ファブラボ品川
メーカー: ユニチカ株式会社

ファブラボ? 品川?

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「ファブラボ(FabLab)」とは、「Fab」と「Lab」が組み合わさったワードです。

Fab(ファブ)は「Fabrication=ものづくり」と「Fabulous=楽しい、愉快な」の2つの意味が含まれた造語で、あらゆるものづくりに関わる行為の総称です。Labは「Laboratory = 実験室、研究室」の略称です。

ざっくり言うと「FabLab = 愉快なものづくりの実験室」でしょうか。

ファブラボの由来は『How to Make(Almost)Anything =(ほぼ)あらゆるものを作る方法』という大学の講義です。マサチューセッツ工科大学でNeil Gershenfeld(ニル・ガーシェンフェルド)さんが教える非常に人気のある講義です。

2000年に始まったこの講義は当初、学生がさまざまなデジタル工作機械の使い方を習得できるように機会を提供するためのもので、より幅広く学生たちがデジタル工作機械にアクセスできる場所として「ファブラボ」を作ることになりました。

これをきっかけに、学生以外の人たちにも講義内容が公開され、ボストンのスラム街や、インドの田舎町へとつながっていき、全世界の活動にひろがっています。2021年4月現在、オランダ、スペイン、アフガニスタン、インドなど100ヵ国1,500ヵ所以上で大小様々なファブラボがあります。

日本では「ファブラボ鎌倉」が2011年5月に最初に開設され、現在18カ所のファブラボが日本国内にあります。

「ファブラボ品川」もその1つで、ここは“作業療法士のいる市民工房”としても非常にユニークで先駆的な活動をされています。子どもから年配の方までふらっと立ち寄れるように場所がひらかれているのはもちろん、3Dプリンタの導入からレクチャー、ワークショップの開催など、多くの知見やノウハウを蓄積しています。

とくに、3Dプリンタを使って自助具(病気による麻痺、加齢による身体機能の低下などを原因とする困難を補うための道具)を誰もがつくれるようにと、『Fab Care Japan』という仕組みを整備されています。

「できる」の土台をつくる

『Fab Care Japan』は「自分自身の生活にとって大切で必要な道具」に誰もがアクセスできるコミュニティです。食事、家事、更衣、コミュニケーション、整容、移動など、さまざまな生活のシチュエーションにあわせて150種程度の道具がウェブサイトに登録されています。

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目薬をさすための道具、ペットボトルを開けるための道具など、医療、ケア、リハビリテーションの現場で活用できそうな3Dモデル(3Dプリンタでつくるためのデータ)を共有しています。

道具を1から作る必要はなく、誰かがシェアした知恵に、それぞれのアイディアや想いでアレンジし「つくれなかったものがつくれる」「できなかったことができる」の土台をみんなで作っています。

3Dプリンタ?

ところで、実際に「3Dプリンタで何かが出てくる」シーンに出くわしたことがある人はまだ多くないかもしれません。

3Dプリンタは、樹脂などの素材を熱で溶かしながら、ソフトクリームのように下から上へと積み重ねて立体物をつくります。たとえば、奈良県香芝市にある「Good Job!センター香芝」では、ホットドッグをモチーフにしたキャラクターを立体造形しています。

このときの素材はフィラメントと呼ばれます。フィラメント (filament) とは、細かい糸状の構造を指す用語で、ラテン語で糸を意味するfilumに由来しています。

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ないものを一緒につくる:新しい素材の共同開発

ファブラボ品川とユニチカ株式会社が共同し、新しい素材(フィラメント)を開発しました。

ユニチカ株式会社は1889年(明治22年)に紡績会社として創業し、現在はフィルム、樹脂、不織布などさまざまな機能素材メーカーとして暮らしと技術を結びつけています。

共同開発したのは「TRF+H」と呼ばれるフィラメント。特長は、3Dプリンタで出力後、ドライヤーなどで45℃以上に温めると柔らかくなって形状を変えられることです。

これによって、一人一人にぴったりな形にフィッティングすることが可能になったり、3Dプリンタによる道具づくりのハードルを下げたり、さまざまな利点が生まれます。

今回の「TRF+H」をつくるにあたって、ファブラボ品川は共同研究者として日本国内35名の作業療法士へのヒアリング評価を行い成果を学会発表しています。ユニチカ株式会社が開発・製造を担当し量産体制が整えています。

開発のきっかけから、販売にいたるまで、どのような経緯や課題があったのでしょうか。また、今後はどのような展開を考えて、継続的な関係を結んでいけるのでしょうか。

2021年9月4日(土)に開催する「IoTとFabと福祉セミナー」では、ファブラボ品川を運営する濱中直樹さんと、ユニチカ株式会社の中谷雄俊さん、おふたりを招いて実例発表&ディスカッションを実施します。

技術をただ使うではなく、技術を一緒につくっていくことも福祉現場の役割の1つではないでしょうか。そのヒントとなる事例をぜひご視聴いただき、ご自身の現場にご活用ください。

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(text:一般財団法人たんぽぽの家 小林大祐)

【引用】
■創造的生活者による創造的都市へ ファブラボ鎌倉における実践と可能性
https://www.sci-japan.or.jp/vc-files/member/secure/speakers/20210423.pdf

■Fab Care Japan
https://www.fablab-shinagawa.org/archive/
https://www.thingiverse.com/groups/fabcarejapan/things


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