テクノロジーの力で、すべての人に、表現の自由を。一般社団法人WITH ALS 武藤将胤さんインタビュー
今回インタビューしたのは、<一般社団法人WITH ALS>の武藤将胤さん。
武藤さんは2013年に身体の異変に気づき(ALSを発症し)、2014年にALSと宣告を受けたのち、2015年からYouTubeやFacebookあるいはイベント開催を通じてALSに関する発信を始めました。
その後、難病ALSの啓発活動を通じて、治療方法や支援制度を向上させることを目的として2016年2月18日に<WITH ALS>を設立しています。
WITH ALS を立ち上げられた想いは、書籍『KEEP MOVING 限界を作らない生き方:27歳で難病ALSになった僕が挑戦し続ける理由』に詳細が書かれているので割愛しますが、一部抜粋で紹介させてください。
WITH ALSとテクノロジーの軌跡
武藤さんをはじめ WITH ALS の活動の特長の1つに、テクノロジーの開発や活用があります。「テクノロジーの力で、すべての人に、表現の自由を。」というメッセージにも象徴されるように、さまざまな取り組みを実施されていますが、ここでは5つの事例を簡単に紹介します。
① EYE VDJ[2016年~]
音楽ライブなどで曲を選曲したりアレンジしたりするDisk Jockey(DJ)と、DJの後ろに流れる映像を表現するVisual Jockey(VJ)、この2つの操作を1人で、さらには視線の動きでおこなっているのが「EYE VDJ」。武藤さんは現在もアーティストとしてプレイしている。
② 働く TECH LAB[2017年~]
病気、育児、介護、物理的距離、様々な制限を抱える方の『働く』意志をテクノロジーの力で支援する。ロボットクリエイター吉藤オリィさんと立ち上げ、未来の働き方を研究、創造し、様々なロボットテレワークの可能性を開拓している。
③ ALS SAVE VOICE プロジェクト[2019年~]
自分の声を失ってしまうALS患者の声を救うプロジェクト。東芝デジタルソリューションズの音声合成プラットフォーム「コエステーションTM」と、オリィ研究所の目を使った意思伝達装置「OriHime eye」を組み合わせて開発。
④ BRAIN RAP[2019年~]
ALSの最終的段階には、TLS(Totally Locked-in State、完全な閉じ込め状態)になり、眼球運動やまばたきなど、全ての筋肉が完全に停止して、周囲との意思伝達を奪われてしまうことがある。そのとき意識や五感、知能の働きは正常のままのため、脳波を使って意思を伝え続けることができる希望を届けるよう、脳波を通じたラップという新しいエンターテイメントを実現。
⑤ NOUPATHY[2019年~]
ALSをはじめ全ての人が、脳波で意思を伝え続けられる未来をめざして、BRAIN RAPの技術をより多く人に展開。簡易型脳波計とタブレットを使って脳波を検出して、「飲み物を飲みたい」や「トイレにいきたい」など選択したい意思を選ぶ事ができる。
世界初の挑戦に、希望の後押しを
そして2022年、ALSの未来を明るく変えていくために世界初で取り組むのが「BRAIN ROBOT STORE」です。これは脳波と分身ロボットのテクノロジーの力を掛け合わせ、武藤さん自身が脳波で分身ロボットを操作してお店で接客をするというもの。
「そんなことできるの?」と疑うのではなく、「そんなことできるの!」と希望を感じるプロジェクトです。クラウドファンディングで応援を募っていますので、ぜひ、未来を明るくする希望ある挑戦を後押しください。
テクノロジーとともに、全ての人の表現の自由をめざしている武藤さんに、
・テクノロジーでアイデアを形にするためのチームづくり
・テクノロジーで課題に感じていること
・表現すること大切さ
をインタビューしましたので、ぜひみなさんの活動にお役立ていただければ嬉しいです。
武藤将胤さんインタビュー
最近だと東京パラリンピックの開会式でデコトラに乗っていたラスボスキャラクターで記憶に残っている方もいるかもしれません。
僕は Eye Tracking など様々なテクノロジーを駆使してクリエイティブ活動をおこなっているクリエイターです。DJとして音楽活動やボーダレスなフェスの企画プログラムをプロデュースしたり、ユニバーサルファッションのブランドのデザインなどをやっています。
また、さまざまなテクノロジーの研究開発プロジェクトもやっているので、日々、自分が使うデバイスは開発段階から当事者のクリエイターとして参加して開発しています。本日はどうぞよろしくお願いいたします
テクノロジーでアイデアを形にしていくためのチームビルディングで、僕が共通して意識している3つのポイントをお話します。
まず一番目に大切なのは、ワクワクするボーダレスな未来像を相手に提案することです。これはただただ障害者支援を一方的にお願いするというアプローチでは、やっぱり相手の心はなかなか動いてはくれないのです。重要なのは相手にも一緒にその未来にワクワクしてもらえるかなんです。
例えば、僕のこれまでのプロジェクトの例で言うと、Eye VJDJプロジェクトはとても分かりやすい例なのですが、「御社のテクノロジーでALSを支援してください」ではなく、「御社のテクノロジーで世界初の視線入力だけでDJ/VJのライブパフォーマンスを成功させてみせます。そして、そのアプリケーションはさまざまなハンディキャップを抱えている方に向けて公開します」という自主プレゼンをしたことで実現したプロジェクトなんです。やっぱり一緒に夢をみることって重要なんですよね。
2つ目に重要なのは、事前にそのテクノロジーついて調べたり、市場について徹底的にリサーチをして、相手がそのプロジェクトを進めやすい土壌を準備することです。
例えば、「ALS SAVE VOICEプロジェクト」を提案したときには、どこの会社の音声合成技術と視線入力のソフトウェアを掛け合わせれば社会に普及させることができるという道筋も大まかに描いてから提案しているので企業側としても話を前に進めやすいのです。座組がはっきりしているとネクストアクションも明確になりますからね。
テクノロジーの開発プロジェクトで言えば、提案前に既に開発会社を見つけて、プロタイプを開発してしまってから提案するというパターンもあります。
3つ目に重要なのは、相手側の企業や、開発者側のメリットをしっかりと事前に考えて提案していくことです。
例えば、企業に対してであれば、このプロジェクトに参加することで見込める企業側のバリューを広告に換算した場合のシミュレーション金額を提示したりすることもあります。
また、開発会社に対しては、いくらこのプロジェクトに共感してくれたとしても具体的に稼働してもらうためには稼働予算の捻出を考えていくことが大切です。僕自身のプロジェクトでもクラウドファンディングなど予算捻出のシミュレーションがとても重要なのです。
これは仲間のオリィ(吉藤オリィさん)のシステムを僕がアレンジして演奏しています。マウスでいうところのクリックのみ指先のボタンを押していて、あとは全て視線入力で操作しています。目だけでも演奏可能なシステムを作りましたが、スピードの速い演奏や細かい演奏には指先も使うようにしています。
MOVE FES 2021 のときには音楽を耳の不自由な人にも楽しんでほしくてontenna(オンテナ)も使っていました。光の赤色とか青色とか、振動の強弱などは僕がプログラミングで仕込みをしました。音楽の音に合わせて、光の色や振動の強弱を指示しているのです。僕は作曲もするので、音楽自体にオンテナ用の微細な周波数の信号を組み込んだのです。
開発チーム自体も音楽好きを集めて、アイデアを出しあって作ってきました。ちなみに、いま演奏しているDJは、一般の人が使うDJソフトを僕がひたすら視線入力で練習しています。
初めは視線入力用のもっとシンプルなインタフェースを作って演奏していましたが、今は表現の幅をひろげるために、一般的なDJが使っているソフトを練習しているんです。
最初に公開したインタフェースは、スマホのアプリになっていて、DJだけでなく、写真撮影や照明のコントロールなどもできるものなので、いろんな方々が使っておられます。
TECHヘルパープロジェクトについては、仲間の吉藤オリィと僕の構想段階のプロジェクトです。
現段階では、弊社に所属している介護ヘルパーに対して、テクニカルな知識や最新情報をレクチャーしたりしている段階です。将来的には、テクノロジーに強い専門性の高い介護ヘルパーを輩出していけるとよいと考えています。
ただし現在の課題は、ただでさえ介護人材不足のなかで、より専門性の高いTECHヘルパーを持続的に排出するためには、専門性に対する評価と給料の仕組みづくりの必要性をとても感じます。
専門性に対する国の支援は現状ないので、持続可能なものにするビジネスモデルの確立が今後重要だと考えています。もちろん、ボランティアで患者をサポートしたりすることもありますが、ボランティアだけだと何事も持続可能性に欠けてしまうと思うのです。
国の補助金を人材の枠組みに対してもっと出してもらえるといいですが、専門性に対する支援が今のところ日本にはないんです。そこを課題に感じているんですよね。
純粋に重度訪問介護サービスだけの給料だとなかなか厳しいので、WITH ALSではテクノロジーの販売代理店を併行しておこなうことで、TECHヘルパーへの支援金を捻出できないかなど試行錯誤の実験中なんです。時間はかかっても突破したいテーマの一つですね。
「表現することの大切さ」というテーマで最後はお話させていただきます。
これはALS患者の前に、僕は一人のクリエイターであり、表現者であるという思いが強くあります。なので、どれだけALSによって機能が奪われようと、試行し続けられる限り、あらゆるテクノロジーを駆使して表現者であり続けようと思っています。
僕のすべての作品やプロジェクトに共通するメッセージがあるんです。それは「NO LIMIT, YOUR LIFE」、全ての人の人生にきっと限界はないんだというメッセージです。僕の人生をかけてこのメッセージを表現し続けていきたいと思っているのです。
僕を通じて、誰もが自分らしく表現すること、挑戦することを諦めなくていいんだと思ってもらえるように、僕は挑戦を続けていきます。
僕は、日頃から障害を抱えた仲間たちとたくさん接しますが、その人の障害というのは、その人を成り立たせているほんの一部に過ぎないので、その人の個性と向きあうようにしているんです。誰もがかけがえのない挑戦者であり表現者だと僕は思うのです。
テクノロジーは誰もが表現できるようにするためのツールだと考えているので、僕らの研究開発したテクノロジーは、これまでも開放するようにしてきました。僕の挑戦を通じてやってみようと思えた人たちへの武器を僕は残していきたいんです。
結局はどんな挑戦も、挑戦を重ねて、開発者やチームメイトと信頼関係を育んでいくことです。自分自身もふくめ、そのチームの歯車をまわしていくためには、自分からビジョンを掲げて行動し続けて、火を自分でおこしていくことが大切だと思います。
僕のプロジェクト推進のポイントは、圧倒的な熱量で自主提案し続けていくことなんです。それをやり続けていくと「武藤のプロジェクトなら参加してもいいかも」と手を差し伸べてくれるようになるんです。結局そこは地道な行動の連続です。
僕もいろんな打合せに出ていますが、どんなプロジェクトでも僕が先に提案をつくって提示することがほとんどですよ。こういう社会プロジェクトでは、お見合いになってしまいがちなので、誰かが必ず熱量を持って前に進めようとする人間が必要なんです。
武藤さんそしてチーム「WITH ALS」の取り組みとインタビューはいかがでしたか。
ALSをはじめ世界には多くの難病や課題があります。それぞれに向きあっている当事者(本人、家族、支援者など)が、自分たちからアクションし始め、行動し続けるために、 <WITH ALS>の活動は希望ある参考事例だと思います。
最後に、2018年に制作されたミュージックフィルムを(筆者が好きすぎるため)紹介させてください。「20年後の未来、必ずALSは治る病気に。」をテーマに制作されたものです。
個人的に好きなのは、2038年の子どもたちが「How we ended ALS(私たちはどうやってALSを終わらせたのか)」と学んでいるシーン。
ケアとアートとテクノロジーが一緒にできることはまだまだあり、そんな「Art for Well-being」な取り組みが、誰もが自由に表現することを支え、一人ひとりの生き方や、私たちの在り方にもつながっていくのではないかと希望を感じています。
(一般財団法人たんぽぽの家 小林大祐)
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