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テクノロジーで寝たきりの先の生き方を拡張する WITH ALS武藤将胤×平野裕加里×吉藤オリィ

こちらのnoteでは、「オリィの自由研究部」(通称オリィ部)で配信した対談、ゲストトークなどをテキストでお届けしていきます。
今回のゲストは27歳でALSを発症しながら、視線入力によるDJとVJを組み合わせたショー等をプロデュースしているWITH ALSの武藤将胤さん、進行役は「世界ALSデーin Nagoya みんなでゴロンしよう!」というALS(筋萎縮性側索硬化症)啓蒙のイベントを主催されているアナウンサーの平野裕加里さんです。
ALSになり、手足も動かせず今年1月には声も失ってしまった武藤さんですが、あらかじめ残しておいた声で合成音声化し、視線入力で「普通」にコミュニケーションをとっている様子や、武藤と考えているその先の未来をお楽しみください。

◆テクノロジーで寝たきりの先の生き方を拡張する WITH ALS武藤将胤×平野裕加里×吉藤オリィ

オリィ 平野さん、本日はよろしくお願いします。

平野 よろしくお願いします。今日は、武藤さんともお話ができるということで楽しみにしてきました。

【profile】
平野裕加里(ひらのゆかり)
有限会社LIBRA代表/アナウンサー中部日本放送アナウンス部を経て有限会社LIBRA設立。難病ALSの啓発イベント「世界ALSデーin Nagoya みんなでゴロンしよう!」総合プロデューサー。
また、様々なジャンルで活躍する方をゲストに迎えるトークライブ「学ばない学び舎」や「人生を変えるプレゼン塾」主宰。テレビやラジオなどメディアの仕事や、司会や講演などの他、女性の働き方や町づくりなどの提言など活動は多岐にわたる。

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*「みんなでゴロンしよう」という活動とは?
ALSは運動神経がおかされ、体がだんだん動かなくなる難病です。5分間だけみんなでゴロンすることで、体が動かないとはどういうことなのか、ALS患者の方の気持ちを体験するイベントです。その間は痛くてもかゆくても動けません。毎年6月に名古屋で開催し、オリィさんや武藤さんも登壇者として毎年参加してもらっています。

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オリィ よろしくお願いします。今回は私の盟友中の盟友、一般社団法人WITH ALSの武藤将胤さんに来ていただきます。
武藤とはもう5年位の付き合いで、SAVE VOICEプロジェクト、分身ロボットカフェ、MOVE FES. 、共同講演、ラジオ放送での共演など、さまざまな挑戦を一緒に行ってきました。私は武藤を本当に尊敬していて大好きで、一緒にいると楽しい仲間です。私にとって、WITH ALSの活動は一つの楽しい休息のような感覚です。
平野さんが主催されている「学ばない学び舎」にもゲストで参加していますよね。

平野 私は、武藤さんの音楽センスとファッションセンスの大ファンです。武藤さんの「EYE VDJ」を見たくて、名古屋に来ていただき、そこからのお付き合いです。
「みんなでゴロンしよう!」にも毎年ゲストとして参加していただいています。

オリィ では、まず一般社団法人WITH ALSとはどのような団体かについて、武藤本人の声で紹介してもらいます。
武藤は、ALSの気管分離手術により2020年1月に声を失ってしまいました。しかし2019年に武藤と共に実施した「ALS SAVE VOICE プロジェクト」によって彼の声が保存されており、我々は、この先も失われる前そのままの武藤の音声を聞き続けることができます。その合成音声で読み上げますのでお聞きください。


武藤の合成音声 一般社団法人WITH ALSは、ALSの課題解決を起点に、全ての人が自分らしく挑戦できるBOARDERLESSな社会を創造することを目指し、エンターテインメント、テクノロジー、ヒューマンケア(介護)の分野で活動しています。

オリィ お聞きいただいたのが武藤の合成音声です。実際の声を聞いたことがない方はわからないと思いますが、本人の声にかなり似てます。

平野 本当の武藤さんの声と変わらないですよね!

オリィ のちほど、彼の肉声の動画も出てきますので聞き比べてみてください。それでは、本日のゲスト、WITH ALS武藤さんに登場いただきます。どうぞ

【profile】
武藤 将胤(むとうまさたね)
一般社団法人WITH ALS代表/コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。J-WAVE「WITH」ラジオパーソナリティー。
1986年LA生まれ、東京育ち。(株)博報堂/博報堂DYメディアパートナーズで「メディア×クリエイティブ」を武器に、様々なクライアントのコミュニケーション・マーケティングプラン立案や新規事業・コンテンツ開発に従事。2013年に難病ALSを発症、2014年に宣告を受ける。(ウェブサイトトップの日数は、宣告を受けた時からの時間をカウントアップ。)現在は、ALSと闘病を続けながら一般社団法人 WITH ALSを起業し、活動を続ける。
※J-WAVEラジオ番組は、レギュラー放送は終了し現在は不定期での特番放送となります。

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武藤の合成音声(以下、武藤) 今日は盟友オリィくんと一緒にお送りしますね!出会ってもう5年以上になります。たくさんの挑戦をともにしてきました。僕はALSという病気の影響で声がでないけれど、ありとあらゆるテクノロジーを駆使して、主に目を使って挑戦を続けています。

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オリィ この声はOriHime eyeで視線入力した文章を武藤さんの合成音声で読み上げています。録音ではありませんよ。どうやって視線入力しているかものちほどライブでお見せしますね。

平野 オリィ部のチャットの方からも、沢山の方から「武藤さんこんばんは!」というコメントが入っています!

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◆社会をクリエイティブの力で明るくする

武藤 僕の仕事はALSの課題解決を起点に、社会をクリエイティブの力で明るくしていくことです。コミュニケーションツールの企画開発やユニバーサルファッションのプロデュース、訪問介護事業所など多岐にわたるプロジェクトを行っています。目でできるクリエイティブの限界に挑み続けています。
今日はせっかくなので、少しでもライブ気分を味わってもらいたいと思い、僕が演奏した様子を少しだけお届けしますね。

オリィ では、視線入力VDJ、WITH ALSの「MOVE FES」をご覧ください。

武藤 また開催できるようになったら、皆さんも遊びにきてくださいね。

オリィ 昨年は、私も平野さんも登壇しました。平野さんは総合司会をされていましたよね。

平野 素敵なアーティストがたくさんいらっしゃっていて、本当に素晴らしいイベントでした。

オリィ 本当に豪華なイベントでしたよね。会場は、新木場のSTUDIO COAST(スタジオコースト)。もちろん車椅子の人たちもいるし、大きなミラーボールや照明のいい感じの雰囲気の中で楽しいイベントでした。

平野 すごくいいイベントですよね。今年はなかなか人が集まることは難しいですが、MOVE FES.はとにかくおしゃれなイベントなので、ぜひ皆さん覚えておいてくださいね。

オリィ 次回は、オリィ部の皆で押しかけよう!

◆話せなくなっても「自分の声」を残す

武藤 今の僕の新たなコミュニケーションスタイルもオリィくんとの長年の構想を形にしたものなんです。まずは、動画をご覧ください。

オリィ こちらのプロジェクトについて、昨年クラウドファンディングをさせていただきました。
これまで、私達はMOVE FES.や分身ロボットカフェのように、支援してくださった方にチケットをお送りするなど見返りがあるクラウドファンディングは何回か実施したことがありましたが、このプロジェクトはご支援してくださった方への見返りはほぼありませんでした。「果たして見返りなく支援を集めることができるのだろうか」という意味でもチャレンジではありましたが、予想をはるかに上回るご支援をいただく事ができました。
後押しをいただいて、「早く進めなくては!」ということで加速的に開発を進め、製品化を行う事ができました。感謝申し上げます。

武藤 このプロジェクトで、多くのALSの仲間が未来に自分の声を残し、話し続けてほしいと思っています。

オリィ 最近、このプロジェクトで声を残したALSのお父さんが、「家族と会話ができて、家族の名前を読んだらほんとに俺としゃべってるみたいだって。ほんとうに俺の声だよ!」とブログに喜びを書いていらっしゃいました。私もすごく嬉しくなりましたね。
私はたくさんのALSの患者さんにお会いし、なかには6〜7年の付き合いの方もいます。しかし、1度も声を聞いたことがない方も多くいて、むしろ合成音声が元々その人の声のような気がすることさえあります。

たしかに、呼吸器を付けるか付けないかという段階で、声を残すということは贅沢だという考え方もあるかもしれません。でも、自分の声って、自分の顔みたいなものじゃないですか。皆さんも自分の顔を失ったら辛いと思うんです。自分の体の一部を残すことには大きな価値があると本気で思っています。

平野 声って、その人のぬくもりというか温かさが伝わりますよね。

オリィ このプロジェクトが始まる前にも声を残す技術はあったんですよね。でも30万円~100万円くらいかかったんですね。これが無料になるという開発ができたのは、呼びかけ人の武藤と協力をしてくださった東芝デジタルソリューションズの金子さんとクラウドファンディングにご支援くださった皆さんのおかげです。では、武藤さんがどうやって文字を入力しているかと一緒に、その成果をお見せします。

オリィ これが、武藤さんや多くのALSの方に開発に協力をしてもらって作り上げたシステム「OriHime eye」です。45万円で購入できますが、必要な方には購入補助制度が適用されて4万5千円で購入でき、全国のALS患者さんに使っていただいています。
「コエステーション」はiPhoneアプリで無料です。声がまだ話せるうちに残しておくとこのようにOriHime eyeで使えるので、是非トライしてほしいですね。

真ん中に文字が寄ってきているのがわかりますか。透明文字盤はALSの患者さんが普段使っているインターフェースと同じ動きをしているんですよね。

武藤 日々このような感じで会話していますよ! 

オリィ ね。しかも、感情を乗せることができます。

平野 それがすごいですよね!

武藤(嬉しい声) オリィの自由研究部をみんなで盛り上げていきましょー!

オリィ ちなみに悲しい感じだとどうなる?

武藤(悲しい声) オリィの自由研究部をみんなで盛り上げていきましょー! 

一同 笑

オリィ 盛り上がらない(笑)

平野 悲しいバージョンもあるんですね(笑)。感情がきちんと乗るからすごいですね!

オリィ 今までは、合成音声で冗談を言っても、本気に聞こえてしまうということがあり、そうなると後で「冗談だよ」と言わなくてはいけませんでした。コミュニケーションにロスが発生していたんです。このように意思伝達装置に感情を乗せることができる点は世界初ですね。

武藤(嬉しい声) これがいいんです!

平野 ノリノリで言いましたね今!これがいいんです!(笑)

オリィ 武藤さんは、2020年1月に話すことができなくなってから使いこなしているので、もはや私よりも操作がスムーズですね。
開発中は、フィードバックをもらいながら改善を続けました。予測変換機能を導入したり。スピーチや自己紹介、よく使う言葉などをあらかじめ定型文として登録して呼び出すこともできます。これを使って講演・プレゼンテーションもできます。

ちなみにこれは、分身ロボット「OriHime」を遠隔操作しながら使うこともできます。もともと2013年にスタートしたOriHime eyeのプロジェクトは、視線で文字を入力するためではなくて、視線でOriHimeを動かすためにスタートしたプロジェクトだったんですよ。

武藤 コロナも怖いけれど、頑張っていこうね。

オリィ 頑張っていきましょう!
あ、そうそう、視線で動かせて立ち上がれる車椅子も順調に開発中です。武藤さんに乗ってほしいと思っていますが、コロナの状況下なのでなかなか会えていませんが、近々是非乗ってほしいですね。

◆クールなヘルパー事業所を目指す

武藤 今、WITH ALSが注力をして取り組んでいる社会課題が介護の人手不足の問題なんです。現在、仲間を募集しているので、まずはこちらの動画をご覧ください。

オリィ 今、このヘルパーさん不足については、非常に大きな課題を感じています。WITH ALSでは「WITH YOU」というヘルパーさんを多くの方々に届かせる活動をしています。ヘルパー人材を募集していますので、ご興味がある方がいらしたら一緒にやりましょう。

武藤 皆さんも、コロナの影響でなかなか自由に身動きがとれずにもどかしい思いをされていると思います。その悩みと同じように、介護の人手不足もコロナの影響でさらに深刻化しました。実は、重度訪問介護は2日間の研修で資格取得ができるんです。うちでも、未経験で入ってくれた大学生が活躍しています。週に1度からでも検討していただける方は、ぜひサイトからご連絡ください。一緒に冒険しましょう。

平野 重度訪問介護の資格を2日間で取得できることは知りませんでした。自分の中の新たな一面も発見できるかもしれないですね。週に1度からでもいいというのも、すごく魅力的だと思います。

オリィ 我々テクノロジー界としては、テクノロジーで補えるところは補っていきたいと思っています。ただ、機械だけではどうしても解決しないこともあります。当事者のプレイヤーがいて、ヘルパーや家族がいて、我々のようなツールを作る研究者がいて、この活動を応援・支援してくれる応援者の方々がいる。それにより、初めて目標は達成できるし、世界が広がっていくと思っています。そういった世界を広げる仲間を募集しているので、もしヘルパーに「我こそは!」という方がいたらWITH ALSのサイトを見てください。

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武藤
 僕たちはテクノロジーとともに人が持つ可能性を広げ、全ての人が自分らしく挑戦できるBORDERLESSな社会を目指しています。これだけ素晴らしいテクノロジーがあるのに、まだまだ実際の生活への普及が追いついていない現状があります。せっかく導入しても眠らせてしまうことも多いという問題もあるでしょう。
介護という視点からも、いかにテクノロジーを有効活用していくかが、人手不足を攻略していく上でもこれからは重要になっていきます。そのためには、当事者とテクノロジーのハブになってくれるパートナーがとても重要なんです。そういう人が周囲にいるかどうかでできることが劇的に変わっていきます。一緒に不可能を可能にしていきましょう。

オリィ 本当に様々な技術があります。こういった技術があることを多くの方に普及させ、さらに使い方も知っていたいです。
例えば、今日OriHime eyeや、自分の声を残せるようになった事を知っていただけたので、もし近くに困っている方がいたら選択肢としてご紹介してもらえると嬉しいです。それが新たな希望に繋がっていきます。
人間の生身では無理なことでも、テクノロジーとうまく融合しながらサイボーグ化していくものを開発していきたいと思っています。

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◆TECHヘルパープロジェクト始動

武藤 オリィくんと前々から話していたTECHヘルパープロジェクトもスモールスタートから実験していきたいと思います。
介護の視点からも、テクノロジーの活用で今後の介護現場をよりよくしていく、TECH専門ヘルパーを創出していくことを目指したプロジェクトです。
有効なテクノロジーを活用し、導入サポートや日常生活での周囲の介助者のテクニカルサポートができる人材をもっと社会に増やしていきたいと思っています。
テクノロジーに興味があり、介護の仕事に挑戦したいと思う方は、是非ご連絡ください!

オリィ 当事者がどれだけ機器に詳しくて使いたくても、周りの人が「USBって何?」といった状況だとなかなか難しい。周りの人が知っていることで進んでいくことがあります。

平野 ヘルパーから入った人がTECHを学んでもいいし、TECHから入った人が介護を学んでもいいですよね。入り口が2つになるのはいいですね。
TECHヘルパーがいると、よりできることが増えると思います。彼らが、ハブになるという感覚かもしれませんね。

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吉藤のものづくりゼミ 武藤もアイデアや意見の参考に参加

オリィ 「福祉×テクノロジー」の領域はプレイヤーが少ないですからね。この先多くの方が必要となる領域です。モノを作ることができるまでいかなくとも、テクノロジーを知って、使いこなせて誰かを助けられる人になっていただけるだけでも、すごく多くの人に求められます。

武藤 今年はOriHime eyeで、EYE VDJのオリジナル作品作りにも挑戦していきます。オンラインで観てもらえるように頑張っていきますね!

第2回 分身ロボットカフェの動画。この動画も武藤のクリエイティブチームが制作している

オリィ 平野さんはALSの支援をしてこられて、武藤さんは当事者として様々な活動行ってこられて、「チーム ALS」という感覚があります。ALSだけでなく、人は様々な病気や年を重ねることにより寝たきりになります。寝たきりにならないのは、それ以前に亡くなった人だけです。テクノロジーの力を使えば、寝たきりになったとしても、自分の声で話し続けたり、目だけで音楽を奏でたり、仲間と働いたり、楽しく生きていくことができます。

平野 私自身も知らないことがたくさんあります。私はテクノロジーに詳しくはないので、新しいことを知り「こんなことができるんだ!」という喜びがありますし、それを知った興奮を私や私の周りの人に伝えることで誰かのためになると思うんですよね。ぜひ皆さんも、今日ご覧になったことを「今はこんなことができるらしいよ」「武藤さんって人はこんなことをやっているよ」と伝えてもらえるといいなと思います。

武藤 ちなみに、僕が着ているファッションもサイトから買えるからストアも見てね。
全ての人が、自分らしく挑戦出来るBORDERLESSな社会を目指して、「障害の垣根を越えて、すべての人が、快適にカッコよく着られる服。」をコンセプトにしています。

オリィ 武藤さんと私は、自分の着たい服は自分で作るという共通点があります(笑)

さて、そろそろ時間なので今日はこんな感じで。今後も色々なチャレンジをしていきましょう。
武藤さん、平野さん今日はありがとうございました!

平野 ありがとうございました!
武藤 皆さん、またお会いましょうね。ありがとうございました!

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MOVE FES.2019 主宰の武藤、平野、吉藤、出演者の仲間達と。


オリィの自由研究部とは

「孤独の解消」を目指し、車椅子や分身ロボットなど発明を続ける吉藤オリィと、そこに集まるものづくり仲間、当事者、それを応援する人達のオンラインコミュニティ。
月額1000円の支援が開発費になり研究開発を加速させると共に、最新の研究の紹介、発明ライブ、OriHimeやVRを使った交流会、上記のようなゲスト対談などをご覧いただけます。



いつも応援ありがとうございます。ご支援を励みに、頑張ってまいります!