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心をコントロールする方法

感情のコントロールは、幸せな人生を実現する上でとても大切なものです。その理由は、自分の人生の多くが感情によって左右されるからにほかなりません。

感情というのは考え方一つで大きく変化するものではありませんが、少なくともそこに帯びる意味や価値を変えることはできます。感情をうまくコントロールするには、感情そのものを押さえたり変えようとするのでなく、そこに持たせる意味を変えることが重要だと私は考えています。

今回は私が実践してきて効果的だと考えた感情のコントロール法と、感情のメカニズムについて考察します。

※この記事は6,800文字です。

感情はそもそもコントロールできない

感情はそもそも自然発生的なもので、そう簡単にコントロールできるものではありません。親しい人が亡くなれば人は悲しみますし、うれしい出来事には喜びます。嫌なことをされたら苛立ったり怒ったりもするでしょう。ほとんど反射の心理現象です。

感情そのものを押さえたり変えたりするのは困難なので、それに挑戦する価値はあまりありません。大切なのは冒頭でお話しした通り、感情にどういう意味や意義を持たせるかです。

さて、感情といえば喜怒哀楽の4種類が代表的ですが、人間の基本感情は「喜び」「怒り」「悲しみ」「恐怖」「驚き」「嫌悪」の6種類とされています。米国科学アカデミー紀要(PNAS)にて掲載された感情にかんする研究論文では、34種類に細分化された感情を対象にした実験の結果、人間には計27種の感情カテゴリーがあることが確認できたと報告されました。米国科学アカデミー紀要とは、米国の学術機関である全米アカデミーズの一員である米国科学アカデミー(NAS)が発行する機関誌です。

参考:Self-report captures 27 distinct categories of emotion bridged by continuous gradients-PNAS

34種の感情の内訳は以下の通りです。

・喜び/Joy
・怒り/Anger
・悲しみ/Sadness
・楽しみ/Amusement
・恐怖/Fear
・驚き/Surprise
・安堵感/Relief
・軽蔑/Contempt
・失望/Disappointment
・不安/Anxiety
・畏敬/Awe
・嫌悪/Disgust
・嫉妬/Envy
・混乱/Confusion
・興奮/Excitement
・満足/Satisfaction
・懐かしさ/Nostalgia
・同情/Sympathy
・罪悪感/Guilt
・崇拝/Adoration
・称賛/Admiration
・誇り/Pride
・美的評価/Aesthetic Appreciation
・当惑/Awkwardness
・退屈さ/Boredom
・冷静さ/Calmness
・渇望/Craving
・共感的苦痛/Empathetic pain
・恍惚/Entrancement
・戦慄/Horror
・関心/Interest
・恋心/Romance
・色情/Sexual desire
・得意げ/Triumph

できるだけわかりやすく訳しました。

さて、コントロールすべき感情は基本的にネガティブな感情です。ポジティブな感情にも自制心が求められますが今回は除外します。上記34種の感情のうちネガティブなものをピックアップすると、以下の19種類に絞られます。

・怒り/Anger
・悲しみ/Sadness
・恐怖/Fear
・驚き/Surprise
・軽蔑/Contempt
・失望/Disappointment
・不安/Anxiety
・畏敬/Awe
・嫌悪/Disgust
・嫉妬/Envy
・混乱/Confusion
・同情/Sympathy
・罪悪感/Guilt
・当惑/Awkwardness
・退屈さ/Boredom
・冷静さ/Calmness
・渇望/Craving
・共感的苦痛/Empathetic pain
・戦慄/Horror

さらにここから加害性が低いものを除外します。なぜなら加害性の低いものは、コントロールの必要性における優先度が低いからです。

なおここでいう加害性とは、反射的動作などによる過失でなく、加害意思が伴う加害性を指します。

たとえば「怒り」は「人を傷つける」や「暴言を吐く」など加害意思に直結しやすい感情なのに対し、「戦慄」はそういった加害意思に直結しにくい(加害意思が生じにくい)感情なので項目から除外するといった具合です。すると以下の3種類に絞られます。つまりこの3つの感情こそ、コントロールの必要性における優先度が高い感情ということになります。

①怒り/Anger
②嫌悪/Disgust
③嫉妬/Envy

それでは①から順に、それぞれをコントロールする方法を解説します。

①怒りのコントロール

怒りの感情が生まれる原因はさまざまですが、怒りが生じたときの人の体の反応と経緯はほとんど共通しています。

まず人が怒りを覚える際は、必ず事前に不満を感じる出来事が起こっています。不満を覚える出来事が起こるから、人は怒るわけです。

このとき人の体内では、アドレナリン・ノルアドレナリンという神経伝達物質が分泌されて脳がそれを受け止めています。この物質は人を興奮させ、心拍数や血圧をあげる作用があります。士気が高まったりやる気が起きたりといった心理現象は、このアドレナリン・ノルアドレナリンによるものです。

この物質には、人を活動的にしたり大胆にしたりするポジティブな作用がある反面、攻撃性を増したり判断力を鈍らせたり思考力を低下させたり注意力を散漫にさせたりといった性質もあります。そのため、怒りの感情にとらわれそうになったときは、普段以上に物事を冷静に受け止める必要があります。

物事を冷静に考えられないようであれば、神経伝達物質の分泌が収まるまで時間を置く、いわゆる頭を冷やすための時間を設けるというのも賢明な判断です。

さて、アドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されていると人は攻撃的になったり感情的になったりしやすいですが、そういうときに物事を正しく判断するのに有効な考え方が「損得勘定」です。

以下の2点をポイントに感情をジャッジしてみてください。

①この相手には、自分の怒りをぶつける価値があるか?
②怒りをぶつけて自分に何かメリットはあるか?

まずは①をジャッジします。価値のある相手でしたら、怒りをぶつけてもいいかもしれません。それを問題提起として建設的な議論へ移行できる可能性があります。

しかし実際には、怒りをぶつける価値のある相手などほとんどいないのです。相手のために自分の貴重な時間を使い、本音を見せ、感情を分かち合う価値が、本当にその人にあるでしょうか?

怒りの衝動に駆られたときはまずここをジャッジしてみてください。そしてとてもシンプルですが非常に効果的なのが深呼吸です。①をジャッジしながら深呼吸をしましょう。

次に「②怒りをぶつけて自分に何かメリットはあるか?」ということについて考えます。

大体の場合、怒りをあらわにすることで自分が得をすることはありません。怒りというのは戦術的に使わないと価値を帯びないのです。このことは常に留意してください。

とはいえ、限定的な状況であれば怒りをあらわにすることでメリットが得られるケースもあります。たとえばスポーツなど競技において自分やチームの士気を高めるのに非常に有効でしょう。あるいは他者を制圧する必要がある場合にも同様です。意外と集中力アップに役立つこともあります。

いずれにせよ、メリットの有無を正しくジャッジすることで、理性的に怒りをコントロールしやすくなります。

以上、アドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されている状態でもこの2点に思いを馳せれば、自ずと怒りをコントロールできるようになっていきます。そしてこれが習慣化されると、やがては脳の状態を自分でコントロールできるようになります。必要に応じて自分の士気を高めたり、やる気を起こしたりができるようになるのです。あるいは緊張の緩和、挑戦意欲の向上などにも寄与します。こうして「怒り」という感情が、はじめて自分の武器になるのです。

なお、怒りは「我慢するもの」ではありませんので、我慢してはいけません。あくまでコントロールすることが重要です。そしてたまには怒りを表に出すのもまた健全な暮らしには必要です。怒りの感情を否定しないことです。

②嫌悪感のコントロール

嫌悪感は基本的にコントロールする必要がありません。対象をどう処理するかが重要です。

相手が人間の場合、嫌悪感を覚える人と無理に付き合うことはありません。離れてください。それで万事が解決します。嫌悪感を引きずる必要もなくなるので非常にコスパがよくお得です。

ここで問題なのは、この嫌悪感が「怒り」へ結びついた場合です。嫌悪感が怒りに転じてしまうと、やがては恨みつらみなどさらにややこしい感情にまで心をかき乱され、むだに消耗する羽目になります。ですからポイントは「嫌悪感を怒りに直結させない」ことです。

そんなわけで、怒りを覚える前にその相手から離れるのが一番の解決方法ということになります。

しかし嫌悪の対象がたとえば同僚の体臭や香水のにおい、マナーの悪さ、デリカシーのなさといった比較的ささいなものである場合は、それをソフトに指摘したり周囲の協力を得たりして改善を促すのがいいでしょう。

「部長のハゲ頭」に嫌悪感を覚える人もいるようです。それはもしかするとミサンドリーといわれる男性嫌悪の一種かもしれません。この場合、感情の処理に問題があるのではなくあなたの心に問題がある可能性があります。必要に応じてカウンセリングを受けるのでもいいですし、まずは部長を男性として見るのをやめ、一人の人間として見るよう意識することで改善される部分もあるかもしれません。

本筋から逸れるため心の病についてはここで言及しません。

③嫉妬のコントロール

認知心理学において嫉妬のメカニズムが言及される機会は少なくありませんが、脳科学的なメカニズムについては実はまだはっきりとわかっていません。認知機能を司る前帯状皮質と深く関係のある感情であることは確かなようです。学術的な解説はしかねますが、私なりの実績によるコントロール法をお話しします。

まず嫉妬の心理的なメカニズムを紐解くと、この感情の根本には承認欲求があることがわかります。つまり承認欲求が嫉妬心を生んでいるわけです。

たとえば「あの人はいつもキレイでずるい!」という女性の嫉妬心は「私だってキレイだと誰かに言われたい!」という気持ちの裏返し、つまり承認欲求が原因となっているケースが多いことが予想できます。

あるいは「いつも人気者のあいつが妬ましい……」という気持ちも、大元を辿ると「自分の魅力にも気付いてほしい」という承認欲求に起因するでしょう。

「あいつ、いい車を乗り回していていいなぁ」は、裏返すと「自分もああいう車を乗り回して、人から羨ましがられたり尊敬されたりしたいなぁ」という承認欲求です。

基本的には「いいなぁ」「羨ましいなぁ」と思う対象に自らを投影することで嫉妬が生まれるわけです。

親子間でも承認欲求に起因する嫉妬は生まれます。

たとえば子どもが正しい意見を言い、自分の意見が間違っていた場合。「ふん、まぁそういう考え方もあるわね」と吐き捨てたり「生意気だ」と切り捨てたり。こういう場合「親の自分が正しくありたい=自分が正しいと認めてほしい、認められるべきだ」という承認欲求が原因になっている可能性が高いでしょう。

逆にいえば子どもの正しい意見をちゃんと認めて尊重し褒めてあげられる親は、嫉妬心が弱い=承認欲求が低い=心のコントロールが上手──ということになります。

承認欲求が低いというのは、この社会においておおむね好意的に受け止められます。なぜなら承認欲求はたびたび客観思考を妨げ自己顕示欲を増長し人に判断を誤らせるからです。承認欲求の高低は、精神的成熟度を測る一つのバロメーターといえるでしょう。

「嫉妬」をもう少し科学的に解剖すると、人は誰かに嫉妬しているとき無意識的なストレスを感じています。このストレスはコルチゾールというストレスホルモンの分泌を促し、このホルモンは人体の免疫機能や中枢神経機能、代謝機能などに悪影響を及ぼすことがわかっています。つまり人に嫉妬すればするほど、名実ともに心身が病魔に蝕まれていくのです。

逆に人に優しくしたり愛情を注いだりすると、脳内で「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンという神経伝達物質が生成されます。この物質はストレスを軽減する作用があることがわかっているため、オキシトシンの生成が相対的に多数であれば、コルチゾールが少数に抑制されるという仮説が成り立ちます。

愛情で満たされた暮らしを送っている人が他人に嫉妬しにくいのは、こういうメカニズムなのかもしれません。

さて、話を戻しまして嫉妬をコントロールするには、承認欲求のコントロールを意識するのが効果的です。私は長い時間をかけ、自分の承認欲求を監視しました。そしてそれが発露しそうになると「今、自分がしたいことと真逆のこと」をするよう心掛けました。

たとえば「一つの作品を作るのにこれだけの時間と労力をかけた。この苦労を主張したい。わかってもらいたい!」と思ったときは、絶対に自ら製作過程の話をしませんでした。

人から技術的な指南を依頼されるときは「レベルの高い知識をひけらかして凄いと思われたい。尊敬されたい!」という気持ちと真逆のことをし、相手のレベルに合わせた言葉を選び、背伸びをしない論調を徹底しました。

BBQの際は自分の料理スキル、火おこしスキルなどを自慢して周りから「凄い!」と思われたいという気持ちに駆られますが、それもしません。

日常のあらゆる面でこうしてきたのです。これを長い期間で続けているうちに、ある事実に気がつきました。

承認欲求に任せて自己主張をすると人は離れていきますが、欲求と真逆のことをすると人から正当に評価される機会が増えるだけでなくチャンスが舞い込んですらくるのです。

このことに気づくと、承認欲求や自己顕示欲といった欲求は自分の中で無価値になりました。結果、嫉妬することもほとんどなくなったというわけです。

さらにいうと、これは欲求全般のコントロールにも効果的です。妻と結婚して十数年、たとえ誘惑があっても一度も浮気せずに済んだのはこうした鍛錬の賜物だと思っています。

習慣で感情をコントロールする

ここまでお話ししたことに加えて、私はある習慣をいつも心掛けています。それは、人を感情で否定しないということです。感情的な批判や非難もしません。もし否定、批判をするなら自分の正当性を客観的に提示できたり、代案を用意しておくべきだと考えます。なぜならこの習慣は、怒りや嫌悪感、嫉妬をコントロールする上でとても役立つからです。

ただしこれを心掛けるにあたって大切な心掛けがもう一つあります。

それは「争いを無理に避けない」ということ。

感情のコントロールはあくまで「自分自身の感情をコントロールし、よりよい人生を実現するため」の方法であり、決して「他人との摩擦や衝突を避けるため」のものではありません。ここをはき違えてしまうと、不必要な忍耐や譲歩といった負担が生じます。

人を否定しないし、非難もしない。しかしそれは非のない相手を責めてしまわないようにするための予防策であり、自分自身をうまくコントロールするための知恵です。他人のために使うスキルではなく、自分のために使うスキル。そのスキルを自分のために使うことで、結果的に他人のためにもなるというだけの話なのです。

習慣は、時間をかけて身につけていく必要があります。早急に成果を求めるのでなく、日ごろの心掛けが大切です。

まとめ

怒りをコントロールするには、以下の2点をジャッジしながら深呼吸すること。

①この相手には、自分の怒りをぶつける価値があるか?
②怒りをぶつけて自分に何かメリットはあるか?

嫌悪感をコントロールするには、ささいな問題の場合は直接的に問題へと切り込んで抜本的に解決すること。そうでない場合は怒りの感情を抱く前に離れること。

嫉妬をコントロールするには自分の中の承認欲求を監視し、それと真逆の振る舞いを心掛けること。

これらが習慣になると、醜い感情に振り舞わされることがなくなります。心身ともに楽にもなるでしょう。そしてもっと豊かで美しい感情にリソースを割けるようになるはずです。

私もまだまだ練習中ですが、この訓練は確実に心の負担を減らし、人生をいい方向に転換してくれます。時間はかかりますが、お金も手間もかからないとても合理的でコスパのいい投資ですので、ぜひ試してみてください。

皆さんの幸せを願って。




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