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もし巨大な嵐がきて、僕の体がバラバラに吹き飛んだとしても、最後に好奇心だけはつかんでお…

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もし巨大な嵐がきて、僕の体がバラバラに吹き飛んだとしても、最後に好奇心だけはつかんでおきたい。

最近の記事

しゃべる人間、しゃべらない犬、うごかない石ころ

ぼくは18年間、犬とともに過ごした。犬とは一度も言葉で会話することはなかった。犬は言葉は喋らないからだ。それは当然ぼくだけではなく、人類すべてに共通する経験かと思う。 ぼくは犬が言葉を18年間もしゃべらず、会話が一度もできなかったにもかかわらず、犬に対して「なんで喋らないんだ!」と憤ったことも、残念に思ったこともない。 それはぼくだけでなく、たいていのひとはそうだとおもうけど、犬に対して、しゃべる、ということを期待していないからだ。犬がものすごくがんばったとしても言葉を発

    • 星に手が届く

      僕は高校生だった頃、九州の小さな街に住んでいた。小さな街といっても街の中心部に行けば、高くはないけどたくさんの建物が立っている。そんな場所に僕の通う高校はあって、いつも街の中を自転車で通学していた。 その頃は、冒険に惹かれていた。ぼうけん、その言葉の響きはどこか知らない世界に自分を連れて行ってくれるわくわくと、少しの怖さを含んでいる。ちょっと怖いけど、わくわくしてしまう気持ちというのは、たぶん人間が大昔から持っているんだろう。 自分は小さい街に住んでいる。この街の外には、

      • 時のエレベーター

        今、この瞬間に僕以外にも75億の人間が存在していて、たしかに同じ時を生きている。その中の1人は昨日生まれた赤ん坊かもしれない。またある1人は明日には死んでしまうのかもしれない。また、75億のうち、僕が面識を持っている人はほんのわずかだ。75億のほとんどの人間を知らない。 僕は同時代のひとたちと生きる時間を共有することを、エレベーターのようだと思う。僕は1985年の階からエレベーターに乗り込んだ。そのときにはすでに50億人が同じエレベーターの中にいた。それから2019年の階に

        • 0円のあそび

          友だちと新宿や渋谷で会って、食事をして、まだちょっとした時間があるときに、さあどうしようか、となる。周りをぐるりと見渡せば、たくさんの看板やネオンがこっちに来いよ、と誘う。じゃあ、とりあえずあそこのカフェにでも入ろうか、それとも映画でも観ようか。 僕はあそびにお金を使えば使うほど、小さなクエスチョンマークがお腹のあたりに塵のように溜まっていく。何か純粋にあそんだ気がしない。あそんだことはあそんでいるんだけど、100%あそび切ったと言える自信がどこかない。お金を出せば、用意周

        しゃべる人間、しゃべらない犬、うごかない石ころ

          スキマ都市美術館

          基本的に都市は余白を嫌う。少しでも余白があれば、そこには何かしらの物体が詰め込まれる。それが都市だ。 縦の空間に隙間があれば、いずれそこには上限いっぱいまでの高層建築がそびえる。それはまるでテトリスのようだ。テトリスの世界では隙間は美とされない。横の空間に隙間があれば、それが数十センチだろうと見逃されない。いずれは自動販売機が設置されるかもしれない。それはまるでジグソーパズルだ。ジグソーパズルの世界でもやはり隙間は美とされない。 ときどき、都市の隙間を、単なる隙間以上の存

          スキマ都市美術館

          地球の上を滑る

          旅好きの僕はこれまで何度も飛行機に乗ってきた。だけど、陸地に足をつけていることに安心するタイプの僕にとって、飛行機は何度乗っても慣れることはない。何しろ地上から10,000mも上を飛ぶのだ。その高さは、僕の身長で言えば、5,882人分に当たる。5,882人分の高さに向かって飛行機が離陸していくとき、同時に現実世界とも離れていくような気がする。普段であれば、僕と日常は強力な磁石でくっ付いている。でも、飛行機はそれを引っぺがす力を持っているのだ。 離陸して、日常からも浮遊した僕

          地球の上を滑る

          金魚タウン

          平均的なことは安心感を与えてくれる。逆に、偏りや狂気じみたものは、心の内をゾクッとさせる。人間が日常に安心を求める中で、スパイスのような少しのドキドキも求めるのは、人間の好奇心が強いからだろう。僕はよくスパイスを求めてグーグルマップを眺める。見つかるほとんどは平均的な街だ。繁華街があり、住宅地や農地があり、大小の道路がそれらを結ぶ。だけど、ときどきヘンテコな街を見つけるのだ。 あるとき、僕は異常に池の多い街を見つけた。最初は農業用水を貯めるための池かと思ったけど、それにして

          金魚タウン

          カウントダウンは突然に

          人でも、街でも、人生でも何かとの関係性があと何日、何ヶ月、何年でもう明確に終わるんだと知ったとき、カウントダウンのタイマーを突然手渡される。すべてのものごとはタイマー付きでこの世に現れる。でも、たいていのことについて、そのタイマーの残り時間がどれだけなのかは知らされていない。でも、何かの出来事をきっかけにその残り時間を知らされるのだ。ときには、タイマーされ渡されず関係性が終わることすらある。 最近、そういう出来事が2つあった。 ひとつは、来月に引越しが決まったことだ。引越

          カウントダウンは突然に

          この硬いマシュマロは食べられますか?

          もう驚きはないだろう、と思われる物事にも、まだ驚きが潜んでいることがある。そういう驚きにこそ、僕は一番わくわくする。もうゲームは決まったと思われたオセロの終盤で、突然に形勢が逆転して、それまでの白黒の景色が反転するような驚き。 イギリスに知り合いがいて、僕たちは定期的に贈り物をし合っていた。イギリス人の彼女は、日本人の僕が喜びそうなものを考えて贈ってくれていた。彼女がイギリスやヨーロッパの他の国に旅行したときに買ってきたお土産や、イギリスのお菓子なんかが多かった。僕は僕で考

          この硬いマシュマロは食べられますか?

          カラスのともだち

          街を歩いていると、嫌われ者と出会う。その嫌われ者は自分が嫌われていることを知っているのか、僕たちに心を閉ざしているように見える。 ある日、電車のホームに一羽のカラスがいた。彼はホームにエサを見つけたのか、その場所をなかなか離れようとしない。僕がホームの狭い場所を歩いていたとき、彼のすぐそばを通り過ぎようとした。彼は警戒したのか、僕が近づいてくるのを確認すると、すぐに飛び立ち、近くの電線に降り立った。僕がその場所を通り過ぎると、彼はまたすぐに元の場所に戻って来た。だけど、その

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          地球サイズのベッド

          ベッドはある程度大きい方が寝ていてラクだ。ベッドに寝ているときでも、人間は無意識センサーでベッドから落ちないように注意しているはずで、ベッドが大きければそのセンサーを使う必要性が減るのでカラダは喜ぶのだ、理論だ。夢は一方方向への永遠の寝返りだ。コロコロコロ。 ある日、芝生の整備された河川敷で散歩していた。気温は低いけど、すばらしい冬晴れの日で、ポカポカ陽気。風も吹いていない。これはもしや、と思い、僕は不意にその芝生の上に寝っ転がった。予感は的中し、とても気持ちいい。僕は大の

          地球サイズのベッド

          G帝国へ休戦協定のご提案

          僕はG帝国との戦争を数十年続けてきた。本当は、G帝国と戦争をしたいわけではない。たぶん、G帝国も、僕も含めて人間たちと戦争をしたいわけではないと思う。お互いに戦争をしたくないはずなのに、G帝国と人間との戦争は止む気配がまったくない。 僕はゴキブリたちのことを、あまりゴキブリと言いたくない。背中がゾッとするような、むずむずする嫌な感じが全身を巡るからだ。誰がゴキブリにその名前をつけたのかは知らないが、その印象をものすごく適切に表してるネーミングだと思って感心する。 あるとき

          G帝国へ休戦協定のご提案

          地図を編む

          東京には数え切れないほどの電車の駅がある。ちょっと距離のある場所で何か用事があるとき、たいていの人は電車を使って目的地に向かう。そして、電車の中ではスマホを眺める。 僕は最寄りの駅から電車に乗って、目的地の街の駅に降り立つとき、ちょっとしたワープ感を味わう。電車が僕の体を目的地に運ぶ。その間、僕は何も考えなくていい。何も考えず、また特に体を使うわけでもなく、目的地に到着すると、もう僕はこんな場所にいるの?と自分でも気づかないくらい小さな違和感を持つ。 点と点を結ぶ。これが

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          うんちマジック

          なぜか僕は、うんちのことをときどき考える。うんちという存在は僕を惹きつける。真面目にうんちに向き合う、というとなんだかおかしいけど、たぶん僕は80才になってもうんちから離れることはできないだろう。 ある日、お腹が減ってコンビニに行った。ずらっと棚に並んだあらゆる種類の食べものを品定めしていたとき、ふと思った。ここに並んでいるどの食べ物を選んで食べたとしても、それは最後にはうんちとなる、ということだ。ラーメンを食べても、パンを食べても、うんちという物質にしてしまう僕らの体。僕

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          歌う人、書く人、踊る人

          僕はよくラジオを聴く。ラジオは音だけの世界だ。ラジオからは、音楽が流れてくることもあれば、誰かが何か面白い話をしたりするのが聞こえてくることもある。 ある日、ラジオでとてもつまらない話をしている人がいた。その人はとても普通の内容のことをとても低いテンションで話している。とてもじゃないけど、聴き続けたいとは思えなかった。だけど、実はラジオでは時々、とてもつまらない話をする人たちがいる。 そのつまらない話をしている人たちは、実は歌がすごくうまいのだ。なぜなら、その人たちはアー

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          学校の外の黒板

          人間が原始時代に生きていた頃、暮らしている環境の99%は自然だっただろう。だけど、人間は時間をかけて人工的な都市を作り上げていった。今の時代、都市に暮らしていると環境の90%くらいは人工物で出来ているんじゃないかと思う。空を見るときと、雨が降ってきたとき、住宅のわずかな植栽、それくらいしか身近な自然を感じる機会がない。 自然というのは、あらゆる余白を含んでいる。しなやかで、常に変化していて、多様性に富んでいる。人工物のかたまりである都市というのは、大げさに言えば、かたくて、

          学校の外の黒板