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31.朝7時のコール

会える日も会えない日も
主人は毎日電話をくれた。

決まって朝7時に。

治療に入るときに
『毎日 電話するから!』
その言葉を守ってくれていた。
私はその時刻までに 家のことをこなし 
主人からの電話を待っていた。

ある日、
喧嘩した。

『こんな状況でも電話で喧嘩する?』
『ありえない!』
と 皆さんからの声が聞こえて来そうですね。


主人に万が一の時の話
意を決めて相談した時の事だった。

でも その提案に
主人は
『ありがとう。でも それは頼めない』
と言われ、その返事は 私は 寂しくさせた。

こんな状況なのに
私の気持ちをわかって貰えないのかと
寂しさが怒りに変わってしまっていった。

いつものように 翌朝も電話があった。

わざと でない。

何日も、
何日も、
何日も・・・。

1か月以上 電話に出なかった。


ショートメールが届く。

『電話に出てよ』

『話さなければわからない』

時が経つにつれ
『お願いします。話したいので電話に出てください。』

そんな文面に変わっていった。
こんな渦中なのに 私は嬉しく感じていた。

”子供みたい!”
そうかもしれない。

でも
拗ねられるのも
喧嘩するのも
心配してもらえるのも
主人がいるからこそ
だと思っていた。
いなくなったら できないのだから。

これが  私の考えた主人に対しての普通の態度だったのかもしれない。

今まで通り 家に居たら 
当たり前に

『ねぇ』

って声を掛ければ
その相手は 間違いなく主人で。

今は “電話をかける”行為をしないと
話ができなくなっている歯痒さ
私の中の寂しさを増幅させていってしまった。

当たり前って 感覚は 怖いですね。

結婚したての頃 
ご主人を事故で亡くした 友人の話を思い出していた。


その日の朝、珍しく旦那と喧嘩したのよ。
朝から 喧嘩なんかするもんじゃないから、いつもはガマンできるんだけど その日はね、なぜか我慢出来なかったの。
旦那は、『行ってきます』と出て行ったけど、
その日は『行ってらっしゃい』が言えなかった。
その1時間後、事故にあって...。
帰ってこなかったの。
出かけるってどんな事が起こるかわからないんだから、
朝から、喧嘩しちゃダメよ!絶対、ダメ!どんなにアタマにきても
『行ってらっしゃい』って声をかけるのよ。
一生後悔するから。

友人の話

思い出してはいたのに 
こんな時に”喧嘩”なんかするもんじゃないってわかっていたのに
ストッパーは外れたままだった。

病気になる前は 喧嘩をすれば 
もちろん、お互い口を利かない日もあった。

こんな時に
怒っている私を 
”面倒くさい”と思う日もあれば、
体調の悪い日もあったと思う。

それでも 主人が いかなる時も
私に電話してくれたのは
何故だったのだろう。

事実を知った時 
このことは
頭を混乱させる一つでもあった。

これを“愛情”というなら
なぜ
主人が残す必要のないこと
残していったのか・・・。


謎しか残らない。


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