『セントオブウーマン/夢の香り』

奨学生としてベアード校という名門に通う、田舎育ちの純朴な高校生チャーリー。彼は、クリスマスへ故郷に帰る旅費を稼ぐため、数日だけ盲目の退役軍人フランク中佐の世話のバイトをすることに。
バイト初日、いきなりチャーリーをニューヨークへ連れ出し、高いホテルや高いレストランで豪遊するフランク。あまりの突拍子のない行動に理由を問うと、彼は「最後は死ぬつもりだ」と話した。好きなことを好きなだけして、自殺したいと言うフランクに、チャーリーは戸惑いながらも付き合わされ、彼の孤独や絶望、そして人間としての魅力に触れていく。

以上が、なんとなくのあらすじです。
そしてここからは、ネタバレ有りの感想。

なんといっても、フランク中佐がカッコイイ。気難しくて女好き、突拍子もないことばかりする盲目の退役軍人というなんとも癖強な人物。
戦争の中で、様々な体験をし、様々なものを見て、ひとつの事件によって視力を失う。そのせいで、深く広く先の"見えない"苦しみを味わうことに……。
たった3時間ほどのフランクしか知らないのに、どんな価値観で長い人生を生きてきたのかが真に迫ってくる感じがした。
アル・パチーノ氏の演技力が光り輝いてる。
情緒的に不安定なのは、自殺を試みる人間の不安や孤独によるものなのかな。他人に頼るのを嫌がり、毅然としていようと踏ん張っていると思えば、「時には案内をしてくれる人が必要だ」と悲しげに零す。スポーツカーをとんでもないスピードで乗り回して大興奮していたかと思えば、焦燥して一人無謀に横断歩道を突っ走っていく。
その危うさや、『軍人』であり続けようとする頑なさ。伊達に歳を食ってるわけじゃない、大人としてのチャーリーへの助言の強さ。そして、その生き方故に脆い精神状態。
キャラクターとして魅力が渋滞してる。
わりと序盤で、旅の最後には死ぬつもりだと言われて、観てる此方もハラハラさせられる。え、死ぬの?
そうやって、チャーリーと二人で色んな経験をする姿を見ているうちに、どんどん感情移入していく。
だからこそ、チャーリーが自殺を止めるべく必死に説得するシーンには心を打たれまくった。ここに、名言が詰まってた。

『足がもつれても踊り続けて』
──これは、中盤で魅せたフランクのタンゴのシーンに通じる。盲目でも華麗に女性をリードして踊ったフランクに対して、チャーリーが人生も同じなんだと諭す名言。
『俺が生きていい理由があるなら言ってみろ。ひとつでいい』
──視力を失い、家族にも半ば見放されたフランクの孤独が一気に爆発した言葉。焦点の合わない視線で、それでもチャーリーを真っ直ぐに見詰めて所在なげになるフランクの哀しみがよく表れてる。この後にチャーリーが言う、『ふたつ言います』もよかった。
『お前のせいで死ぬ勇気がなくなった。また明日考えよう』
──説得され、死ぬことをやめたフランクの言葉。きっと、人生はこれの繰り返しなんだと思う。とりあえず今日は生きていよう、とりあえず今日は、とりあえず今日は、とりあえず今日は。

さて、そんな風にして生きる道を選んだフランク。チャーリーの問題を解決すべく、ベアード校に乗り込みます。
チャーリーが抱える問題とは、校長の車に対する悪質な悪戯を見てしまい、犯人を密告するか沈黙を貫くか。密告すれば、望んでいた大学への切符を手に入れられる。けど、友人からは密告しないよう言われる。友人のジョージは、密告しないと言いながらも親の権力を盾にして保身を図った。……という、高校生にしてはわりとヘビーな内容。
そして行われる、チャーリーとジョージへの、校内集会のような尋問会。全生徒集合。
校長に詰め寄られ、あわあわするチャーリーの元へ駆けつけるフランク。
そして、フランクのスピーチという名の独擅場が始まる。ここはもう、何かの授業で見たいくらいの名シーン。数分にわたる大演説は、やはり圧巻で。

『貴方は何を"馬鹿げた"と言うのかご存じないようだからお見せしたいが、私は目が不自由だし、歳もとってるし、疲れすぎてる』
──フランクの失明の原因は、親族曰く"馬鹿げた遊び"のせい。きっとそれを自嘲しているんだと思う。でも、今のフランクにとってそれは決してネガティブなものではなくなったのではないかと。もしかしたら、フランクの失明も、"馬鹿げた"なんてものではない何かがあったのかも。ついで言うなら、そんな馬鹿げたことさえできていたフランクは、きっと明るくて楽しい人だったのだろうと推測できる。この口早な言葉にも過去が詰まってた。
『潰れた魂に義足はつかない』
──戦争で見た、手足を失ってもなお気高く生きていた少年少女を想っての言葉。そういうものを見てきた壮絶な体験や、それによって培われた生き方が垣間見える。
『私は何度も岐路に立たされきました。そして、とるべき道はいつもわかってた。分からなかったことは一度もない。でもとらなかった。何故か? それは険しく困難な道だからだ』
──チャーリーが悪戯の犯人を言わなかったことが善行か悪行かはわからない。けれども、フランクにとってその沈黙は気高く、自身が逃げてきた"正しい道"への一歩だった。退役軍人が言うからこそ、常よりも重みのある言葉になっていると思う。
『私を信じて』
──何も言うことはない。フランクはチャーリーを、その未来を信じた。

などなど、とにかく名言のオンパレード。
(⚠上の台詞は、記憶を元に書き出したため、実際と異なります。ご確認は、本編で。)
スカッとしたのは、校長の車に悪戯した悪ガキどもがフランクにクソッタレと罵られてビックリしてたとこ。やーいやーい。
そして、ダメ校長もなんやかんやで恥かいてたし。フランク、口が達者で羨ましい。
二人はきっと、これから先も年の差のある友人として良好な関係を積み上げていくんだろうなと思った。そうあってほしいと。

長い映画だけど展開も無理なく早く、テンポもいいからスっと観れた。名言名シーンの沢山ある素晴らしい映画でした。
この拙文では魅力が十分に伝わっていないはずなので、ぜひぜひ本編をご覧ください。

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