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【映画感想】 『あのコはだぁれ?』 〜日本よ、これがJホラーだ。 とにかく怖い名作!

映画『あのコはだぁれ?』  清水崇 監督

丸の内ピカデリーで観賞。

警告⚠️怖いよ!ヤッター!

 交通事故で彼氏が意識不明の重症を負った女教師は、現場で彼氏を救助する際に「何か」に腕を掴まれる。それからすぐ彼女は臨時教師としてある中学校に転任するが、夏期補講を受け持ったその学校で、ありえない形での自殺が発生してしまう。実はその高校では、過去にも似たような自殺事件が発生していた…

純Jホラー不作の時代
 

 『呪怨』(2000年)の清水崇監督は、『リング』(中田秀夫 監督 / 1998)で大ブームとなったJホラーというジャンルを進歩させたレジェンド監督の1人です。  
 『リング』以降、現在まで無数のいわゆるJホラー作品が作られてきました。しかし、どのジャンルにも当てはまることですが、ブームが盛り上がるにつれ、作品の質は玉石混合になります。私はホラー映画好きとして、新作のJホラー映画が公開されるたびに、なるべく劇場での観賞を続けています。 
 しかし、本当の「当たり」に出会うのはなかなか難しい。『回路』(2000年)をはじめ傑作を連発する巨匠、黒沢清監督も、『岸辺の旅』(15)は、Jホラーの手法を使って愛を描いた映画。『ダゲレオタイプの女』(16)は、Jホラーの総決算と呼べる傑作ですが、フランスでフランス人俳優により撮られたフランス映画でした。

 現在、邦画ホラー界のトップを走る天才、白石晃士監督はコンスタントに傑作名作を作り続けていますが、白石晃士作品の真骨頂はカメラ目線で進行するPOV作品にあり、「普通のホラー映画だと思ってたら信じられない大変な出来事が巻き起こる」エンタメ映画であって、実はMCUやスピルバーグのようなハリウッド大作と並んで評価されるべき娯楽映画が多いです。

めちゃくちゃ凄い娯楽大作。もはや特撮

 Jホラーの本家、中田秀夫監督は、『クロユリ団地』(13)以降、Jホラーというよりも、昔ながらの怪奇映画といえる路線に舵を切ってしまいます。
 そして、自ら手がけた『リング』新シリーズ『貞子』(19)や、『事故物件 恐い間取り』(2000年)は、Jホラーではありますが、まるで「怖すぎるとお客さんが入らなくなるんで、ほどほどにしてくださいねー」などと映画会社のダメな人に吹き込まれたかのような(俺の妄想)、やる気のなさを感じる作品でした。 

序盤はいい感じだが、途中で匙を投げている


 そしてもう一人の本家、清水崇監督も、4DX専用の作品『雨女』(16)は良作でしたが、Jホラー界を新たに牽引するかと思われた『犬鳴村』(20)『樹海村』(21)『牛首村』(22)の村シリーズも、中田秀夫よりマシですが、上記と同じように怖さセーブの影が感じられる加減でイマイチ。『忌界島』(23)も、VRで再現された島と幽霊という設定の食い合わせが悪い残念な作品でした。しかし…




『呪怨』の監督、本気出す

アイドル忖度映画と思われたが、良かった

 『忌界島』と同じ昨年、清水崇監督がもう一本手がけた作品『ミンナのウタ』は、様子が違いました。
 『ミンナのウタ』は、EXILE TRIBEの音楽ユニット「GENERATIONS」のメンバーが本人役で主演する内容の為、そのファンに配慮して怖さを抑えた、単なるファンムービーになる可能性も危惧されました。
 しかし、その設定を逆手に取り、リアリティの境界が曖昧に感じられるような演出で、映画の世界に入り込みやすくしました。さらに、過去の名作ホラー映画『ザ・ショック』(1977 / マリオ・バーヴァ監督)や『呪怨 白い老女』(2009 / 三宅隆太 監督)などの映画史に残るホラー演出(観客を怖がらせるテクニック)の引用も積極的に活用するなど、久しぶりに怖さを緩めていない良作だったのです。実はもうひとりの主役である探偵役のマキタスポーツさんも良い。



 そして今回の『あのコはだぁれ?』です。『ミンナのウタ』で正気を取り戻した清水崇監督は、リミッターを解除しました。上映時間107分の間、怖いシーンの無呼吸連打で私たちを歓迎してくれます。

 今作の主演は、元NMB48でバラエティ出演も多い渋谷凪咲さん。映画初主演ですが、優しさと意志の強さを兼ね備えたその性格が、「優しさ故に心霊につけ込まれてしまうが、意志の強さで立ち向かって映画を進めていく」というJホラーの主役に非常にマッチしています。
 序盤こそ、TVでいつも見かける渋谷凪咲さんに見えますが、バラエティ番組では出せないような様々な表情や心情を見せ、いつの間にか役柄の中学校教師 君島ほのか に見えてきます。
 撮られ方も綺麗で、イタリアホラーの巨匠ダリオ・アルジェント監督作品の女優さんのような、王道のホラー映画ヒロイン的な魅力もあります。

立派なホラー俳優

 そんなかわいい渋谷凪咲さんを、わりと前半のうちから、本当に怖い地獄のようなホラー空間にノーガードで放り込んでしまう、容赦の無い作品です。

 『ミンナのウタ』を観た人なら分かりますが、『あのコはだぁれ?』は実は『ミンナのウタ』の続編と言える内容です。しかし、「2」と銘打ってないことからも分かる通り、前作を観ていない人も単独の映画作品として楽しめるように作られています。 
 むしろ、観ていると「あ、あれが来たー!」と予測できる部分があり、それはそれで楽しいですが、楽しみ方が純粋に怖さを楽しむのとは違う楽しみ方になるかもしれません。
 『ミンナのウタ』をまだ観ていない方は、無理に予習しようかなと思っているうちに『あのコはだぁれ?』を映画館で観る貴重なチャンスを逃すくらいなら、先に『あのコはだぁれ?』を観に行って、その後で『ミンナのウタ』を観て、もう一度『あのコはだぁれ?』を観ると、違った視点で2度楽しめます。

 ここ10年くらいの邦画ホラーの中では、白石晃士監督の超エンタメホラーを除くと、正統派の純Jホラーとでも呼べる作品は、『残穢-住んではいけない部屋-』(2015 / 中村義洋 監督)が最後の傑作だと思っています。『あのコはだぁれ?』は、それ以来、私が9年間待ち望んだ、純Jホラーの名作です!


 『あのコはだぁれ?』がヒットして、また本当に怖いJホラー作品が毎年沢山作られるような世の中になってほしい!

 ホラー映画ファンなのにまだ観に行ってないそこの貴方は、絶対に映画館で観てください!

今日行け!

私の2024年上半期映画ベスト10は↓こちら


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