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【凡人が自伝を書いたら 96.やむおえずに】

タバコをふかしながら、上司と2人で静かに缶コーヒーを飲んだ。

コロナ禍でこんなシーンは、結構お決まりとなっていた。

こんなことを言うと「嫌煙家」には怒られるかもしれないが、タバコを嗜むもの同士、タバコをふかしながらだと、何だか打ち解けやすいし、腹を割って話すこともできる。タバコミュニケーション(そのまますぎてすいませんん。)そういうものもあるのだ。

かと言って、普段のコミュニケーションができないというのはNGである。普段は大事、ただ、たまに酒を飲みに行って、腹を割って話すのも良い。

そういうことだった。


「お前には申し訳ないけど、、やっぱ、ここの店の営業に俺が入って、人件費浮かすくらいしか、もう方法が無いよなぁ。」


以前から同じようなことを言っていたが、以前と今では、僕の受け取り方が変わっていた。

以前は、ただそれが「簡単で」ある意味「楽」だから、そんなことを言っているのだと思っていた。

そんな感じだったのに、今の上司の状況、その他色々な事情を知った上で聞くと、それが理由ではないように思えてきた


会社からは、利益を求められ、結果が出せなければ降格させるなんて、脅しをかけられている。

一向に回復しない売上、コストを極限まで削ったとしても、計算上大幅な赤字が確定している。

赤字幅を削ろうにも、部下の多くがついてこない。

自分が入り込もうにも、そもそもお客が少ないから、売上上昇など見込めず、ただ他のスタッフの手が余るだけで、あまり意味がない。


それであれば、比較的売上が高い僕の店で営業に入って売り上げを伸ばしたり、自分の分の人件費は本部持ちだから、そこで利益率を上げたり、そういう判断がしたくなる気持ちは理解できた。

僕も同じような状況に立たされ、追い詰められれば、そうするかもしれなかったので、今までのように強く反対することも無かった。


これが「付け焼き刃」であることも、「その場しのぎ」でしかないこともよく分かっていた。おそらくそれは上司自身も同じだろう。

「本当は俺もこんなことはしたくない。」そういう思いが伝わってきた。

普通に考えれば、エリアマネジャーという「管理職」の立場にある人が、その店のスタッフを押し除けてまで、営業に入りたいわけがない。

それだけ会社が厳しい状況であるということが、ひしひしと伝わってきた。


そうして、「やむを得ずに」エリアマネジャーがうちの営業に入ることとなった。

スタッフたちは、「え〜毎日居るんですか〜。」的な不満は聞かれたが、べつにそこまで深刻なわけではなく、何だか気が進まないくらいの話だった。

会社が苦しい時に、全ての人が満足するような、「円満」なんてものはないんだろうな。必ず何らかの形で歪みは出てきて仕方ない。

べつにスタッフをクビにしろなんて言われているわけではないのだから、これくらいのことは仕方ないのかもしれないな。

今は耐え、売上を回復させ、こういう状況を改善していこう。

そういうことを思うことのできるようになっていた。


つづく


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