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【前編】企業の人材育成の悩みをゼロにする『人材育成マネジメントの教科書』 ~社員も企業も成長する人事評価制度と人材育成面談のコツ~

今後の人材育成マネジメントのあるべき姿

日本の人口減少問題

総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推移計人口 平成30年度推計」によると、日本の総人口は2015年から2045年までの30年間で約2000万人減少し、さらに2050年には約1億人になるといわれ、労働力人口減少が加速する見込みです。

そして、厚生労働省によると、日本の総人口や労働力人口は少子高齢化のピークに達した後、元には戻らない予測です。

このような労働力人口減少により企業の人材確保が今後ますます困難となる中、企業の人事担当は、社員の「人材育成」に力を入れることが大切になります。

人事担当が抱える人材育成の悩み

人材育成とは、企業に貢献できる人材の育成を意味します。

人材育成を行ない社員の生産性や能力を高めることで、企業業績の向上が期待できる。つまり、社員の育成は企業の成長にとって必要不可欠なものであり、人材育成は企業の長期的な成長のために非常に重要といえます。

一方では、多くの企業の人事担当は「人材育成の悩み」を抱えています。

「社員に対して管理職や経営者育成のために外部研修などに参加させているが、うまく育成が進まない」

「指示待ちの社員が多いために、社員が自発的に業務や能力向上に取り組むように、さまざまな研修、ミーティング、面談などを行なってきたが、うまくいかない」

「社員も企業も成長するように人事評価制度を構築・運用しているが、うまくいかない」

などです。

人材育成を成功させ、社員も企業も成長をさせるためのポイントは、①目標の明確化、②社員の自発性を引き出す環境づくり、③実践させることの3つです。

社員と企業の成長の方向性を合わせ、3つのポイントを実行することで、多くの人事担当が抱える人材育成の悩みは解決できます。

今後の人材育成マネジメントのあるべき姿

これまでの人材育成や人の管理は、どのように企業に合わせるのか、または、従業員も企業に自分をどう適用させようかという意識が強かった時代でした。

しかし、現在は、終身雇用制が崩れ、働く従業員も一生この企業で働くという意識は低くなり、この企業で自分は本当に成長できるのかという自分の満足度を常に意識する時代に変わってきています。

今後の人材育成マネジメントのあるべき姿は、「どうしたいのか、どうすればより成長できるのかということを社員一人ひとりが自覚」し、それを「企業がどのように活用できるのか」ということを考えていくことであるといえます。

人材育成マネジメントの出発点は「人間大事」

ただし、社員一人ひとりが「どうしたいのか」「どうすればより成長できるのか」ということを自覚し、自発的に業務や能力向上に取り組めるようになるだけでは、企業は成長できません。

社員も企業も成長するためには、まず、全社員の方向性を合わせるための「経営理念」を社長がつくることが大切になります。

「経営理念」の根幹は「人間大事」です。

私は慶應義塾大学法学部の大先輩であり、松下幸之助先生の側近として23年間仕事をされてきた元株式会社PHP研究所社長である江口克彦先生から人材育成について学びました。

以下は、江口克彦先生の著作『最後の弟子が松下幸之助から学んだ経営の鉄則』(フォレスト出版)からの引用です。

「松下幸之助さんは、常に、『人間から出発する発想』である。『人間大事の発想』である。社員も人間、お客様も人間、大衆も人間。だから、『社員を大事に、お客様を大事に、大衆を大事に考える』のが、『松下幸之助の経営』の根本。決して、『売り上げ大事』、『利益大事』とは言わなかった。『売り上げから出発する発想』もなかったし、『利益から出発する発想』もなかった。『いいものを、安く、たくさん』という考えも、『大事な人間に、手抜きの製品を売りつけるのは失礼だろう』、『大事な人間に、暴利を貪る価格は、失礼だろう』、『大事な人間に、十分にいきわたるように、商品を提供しなければ、失礼だろう』という発想。決して、売らんがため、儲けんがための発想ではない」

最後の弟子が松下幸之助から学んだ経営の鉄則』(フォレスト出版)

 明治以降、日本の企業が世界的に大きくなったのは、「人間を大事にする経営」を行なってきたからであるといえます。

労働力人口減少が進む令和の時代においても、「人間大事」を経営理念の根幹にし、会社の発展に貢献できる質の高い人を育てることが大切です。経験や知識に基づいた知恵を出せるような人材を育成し、事業目標を達成、また、新規事業を創造することが企業の長期的な成長に非常に重要になります。

そのために「社員も企業も成長する人事評価制度と人材育成面談のコツ」に絞り、わかりやすく説明します。

人事評価制度の構築と運用

「人事評価制度」のゴールに近づくためには?

 「人事評価制度」のゴールは、評価結果を昇給や賞与に反映すること、あるいは、賃金で頑張った人のモチベーションアップを図ることではありません。

企業が成長するためには、社員一人ひとりと企業の成長の方向性を合わせ、共に成長する仕組みの構築と運用が必要不可欠になります。

「人事評価制度」を構築・運用し「人材育成」を行ない、会社の経営目標達成を目指し、経営目標達成後に「社員全員が豊か」になることが「人事評価制度」のゴールです。

なお、賃金は社員が成長した結果と組織への貢献度を金額に変換したものという位置づけになります。

「人事評価制度」のゴールに近づくためには、まず、経営層が社員全員の目標となる山の頂上(経営理念)を示し、山に登るルートである戦略や計画(ビジョン、経営計画、組織行動計画)を作成していきます。これらと連動する「人事評価制度」を構築することが重要です。

さらに、「人事評価制度」を運用することが何よりも重要になります。その中で最も大切になるのが人材育成面談です。人材育成面談で、社員一人ひとりの興味・価値観・能力を軸にした成長の方向性を明確化します。その後に、組織が個人へ期待する役割、仕事レベル、能力を伝え、社員と組織の成長の方向性と合わせることにより、社員一人ひとりのモチベーションアップ、仕事や能力開発への積極的な取り組みを促します。

「人事評価制度」の運用を通して、全社員が経営計画に関わる各自の役割を実行することにより、組織行動計画を達成し、経営計画の目標達成の確率を高めるのです。

「経営理念」「ビジョン」とは

 経営理念とは、自社は何のために存在するのか、会社が目指す最終目的地です。

たとえば「社員を大切に、お客様を大切に、社会を豊かにするために」という人間大事の発想を活かしたものになります。

経営層は、厳しい経営環境で将来も不透明な状況の中、事業の舵取りをしながら長く続けていく必要があり、「一本筋が通った心に強く思う考え」が必要です。

ビジョンとは、経営理念に到達する過程の企業の姿です。

5~10年後の企業の将来像、展望、見通し、どうありたいかになります。

たとえば、5年後に〇〇業界で社員とお客様が地域NO.1と誇れる企業になる、多店舗展開する、脱下請けを図るなどです。または業績目標(数値目標)であれば、5年後に売上高〇億円、営業利益〇千万円、経常利益〇千万円になります。

経営層は全社員に明るい未来を見せるという役割があり、展望なので明るい見通しが良く、「期限」と「達成レベル」が必要です。

「経営計画」とは

 「ビジョン」を考えると「現状」との差である、さまざまな問題点が出てきます。問題点の中から自分がやると決めたテーマである課題が出るのです。その課題をいつやるのか計画にまとめ、その差を埋めて行くものが「経営計画」となります。

自社を取り巻く外部環境(顧客、競合、技術、政治、経済、流行など)の状況や自社の内部環境(自社の経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報)がどうなっているのかについてプラス面とマイナス面に分けて分析し、事業を伸ばしていく方向性や解決すべき課題を考える「SWOT分析」を行ない、ビジョンを達成するための現状分析を行なうことが重要です。

たとえば、現状分析を行なうと、お客様が自社に期待していること(技術、商品、サービスなど)や自社の強み(技術力、サービス力、顧客リストなど)がわかり、新しいアイディアが生まれます。それをもとにビジョンの達成を目指して、既存事業の見直しや新規事業(多店舗展開含む)を決めることができます。

一方では、事業を行なうために必要な人材不足が明確化するため、経営層、管理職、有資格者などの人材育成計画が必要になります。

また、ビジョンを実現するための方法論である「戦略」が重要になります。

社員は、目標達成のための行動の方向性がわからないと、個々人で考えバラバラに行動します。または、社員は自分の目の前の仕事しか見なくなります。

戦略がある企業は、社員が目標に向かって同じ方向性で行動しようとするため、ビジョンが達成しやすくなります。

たとえば、「管理職の計画的育成」(戦略)の場合、管理職に必要な能力(目標設定・実践力や部下育成・指導力など)、研修内容(目標設定・進捗管理研修や人材育成面談研修など)、研修日時を決め、実践する内容になります。

ビジョンと現状との差を測るためには、SWOT分析を活用した現状分析が必要です。その結果をもとに、既存事業の見直し、新規事業の創出、人材育成計画、それらを実現する戦略などを考え、計画にまとめたものが「経営計画」になります。「経営計画」は、ビジョン実現に向けて社員と企業が同じ方向性で行動し、社員も企業も長期的に成長するために非常に重要です。

「組織行動計画」とは

 組織行動計画は、戦略内容を「誰が」「いつ」「何をするか」をスケジュール化し、進捗管理していくものです。

たとえば、「管理職の計画的育成」(戦略)の中の目標設定・進捗管理研修の場合、研修担当者、研修時期、研修準備の推進手順(会場・機器、講師、研修案内、配布資料など)をスケジュール化し、毎月の会議にて進捗確認を行ないます。そこで、課題があるときは課題共有、解決策検討、計画修正などを行ないながら、戦略を実践していきます。

特に中小企業は、忙しく、第三者のチェックも働きづらいため、組織行動計画を作成し、毎月の進捗管理、P(計画)D(実行)C(確認)A(改善・再実行)サイクルの運用をすることが重要になります。

社員も企業も成長するためには、経営層がお客様のニーズを取り入れアイディアを出しながら経営計画を決定し、会社の目標を全社員に示す。そして、会社目標に到達するための行動方針となる具体的な戦略を定めて組織行動計画を作成し実践することがポイントになります。また、社員が自発的に成長できるようにするために、人事評価制度を構築して運用し計画的に人材育成に取り組むことが重要になります。

人事評価制度の構築

 人事評価制度を構築するときに重要となる項目は次の2つです。

(1)育成ステップを設定する。

たとえば、企業に入社したあと、どのようなステップを踏んでいくと、役職がない社員から主任、係長、課長、部長へステップアップしていくのかを考えます。そして、役職がない社員が主任になるまでに何段階のステップが必要になるのか、企業の実態に合わせて人材育成のステップを考えながら育成ステップを設定します。

さらに、育成ステップごとに「求められる役割」「求められる仕事レベル」「必要となる知識・技術・免許資格」を設定します。

たとえば、役職がない社員に求められる仕事レベルを設定するときには、①上司に指示された業務を上司や先輩の指導やアドバイスを受けながら実行できるレベル、②担当する基本的な仕事を一人でできるレベルなど、育成ステップごとに仕事レベルがイメージできるようにします。


(2)「経営計画」に連動した「評価基準」(4つ)を設定する。

①会社全体、部署、個人の業績目標(数値目標)
②業績向上のために各自で必要な役割や仕事、組織行動計画の重要項目
③各部門で求められる役割や仕事を実行し、業績目標を達成できる人材に成長するために必要な能力、知識、技術、免許・資格
④仕事をする上で正しい姿勢や考え方を明確化した項目(経営理念など)

人材育成を成功させるためには、社員が成長するための目標を明確化することが重要です。企業の規模に応じて育成ステップを決定し、育成ステップごとに企業が期待する役割・仕事レベル・能力を設定することも必要です。また、経営計画に連動した評価基準を設定し、企業と個人の成長の方向性を合わせて、社員が自発的に仕事や能力開発に取り組む環境作りをすることが大切になります。

人事評価制度の運用

 下記①~⑤の順序で、人事評価制度を運用し、継続的して計画的に人材を育成することが大切になります。

①目標設定面談の実施

社員が自発的に仕事や能力開発に取り組むことができるようにするために、社員の成長の方向性と企業が社員へ期待する役割・仕事レベル・能力の方向性を合わせて、目標設定を行なうことがポイントになります。


②中間面談実施(毎月実施)

社員の中には、目標設定後も目の前の仕事ばかりに取り組み、自分だけでは目標に取り組まない人たちもいます。毎月1回、上司が社員と中間面談を行い、進捗確認や必要に応じてアドバイスを行ない、目標に取り組む環境をつくることが大切です。


③評価の実施

社員自身に仕事レベルを適正に把握できる力をつけてもらうため、自己評価を行なってもらいます。上司2人で評価し評価結果に客観性をもたせる必要があります。


④評価会議の実施

評価会議は企業が目指す方向性や考え方や指導方法を評価者と共有する役割を持つ場になります。評価会議では評価に差異がある項目はすべてすり合わせを行ないます。


⑤フィードバック面談の実施

評価結果のフィードバック面談は、評価結果だけを伝える場ではありません。評価者が社員に評価結果を伝え、次期の課題や成長するための目標を明らかにし成長のための取り組みを社員と共有する場です。


人材育成を成功させるためには、社員が自発的に仕事や能力開発に取り組むことができるように目標設定を行ない、実践させることが大切です。

そのためには、目標設定、中間面談、フィードバック面談で「人材育成面談」のコツを活用することが非常に重要なポイントになります。

次回に続く

著者プロフィール

竹下友浩

人材育成コンサルタント。「人事に強いキャリアオフィス」主宰。
社員と企業の成長にコミットする「人材育成」のプロとして活躍。企業の経営顧問として、90%以上の社員のモチベーションアップを図り、5年後の売上高目標を大幅アップに変容させた実績を持つ。慶應義塾大学法学部卒業後、主に三菱商事グループ会社で人事制度プロジェクトリーダー、リクルートグループ会社では、本社人事部マネージャー等の立場で、人事系の経験と新規事業の立ち上げまで「企業の中枢」で経験を積んできたことが大きな強み。現在は企業の経営顧問や、佐賀商工会議所セミナーでは、キャンセル待ちの人気講師を務め、佐賀経済同友会の競争力ある産業・人財づくり推進委員会他委員として活躍中。

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