見出し画像

『AIと共にビジネスを進化させる11の提言 超デジタル社会で人間はどう生きるべきか』第一章・無料全文公開

書籍『AIと共にビジネスを進化させる11の提言 超デジタル社会で人間はどう生きるべきか』より、第一章「むやみにAIを恐れない」の無料全文公開!
下記リンクはAmazonストアでの商品ページになります。書籍の概要や目次もこちらでご覧になれます。

■量子コンピュータは実現するのか

つい最近まで、巷ではAI(人工知能)やサイバー社会の脅威が叫ばれていた。AIの本質を考えることは、コンピュータと人間の関係を見直すことであり、人間そのものの存在に対して何らかの答えを持つことが求められる。
しかし、ここにきて局面は、さらに進んできた。AIが、気づいたときにはサイバー空間で人間の能力を超えていたように、これまで夢物語といわれていた「量子コンピュータ」が、いよいよリアル社会に姿を現わすという。

2015年から2018年に至る期間、ビジネス市場ではAIがつくる未来図についての議論や考察がなされ、2045年に来るといわれるシンギュラリティ、すなわちAIが人間の能力を超える日への危惧(ないし夢)が語られた。同じように、2019年から2022年に至る期間、ビジネス市場では量子コンピュータがつくる未来図についての議論や考察がなされ、今度は2040年に「シンギュラリティが前倒しでやってくる」と語る人々が現れることだろう。
しかし、2015年から2022年という期間に限っていえば、ほとんどのAI専門家は「サイバー空間で強いAIは囲碁や将棋では実力を発揮するものの、リアルな世界では実力を発揮できず、シンギュラリティはない」と信じていることに変わりはない。
量子コンピュータにしても2022年には、それらしき機能を持った機械が、極めて特別な、絶対零度に近いという異様な環境下で、極めて短い期間に、スーパーコンピュータの1万倍のスピードで、複雑な現象の「最適化」を図る計算をしたという報道がなされることだろう。

しかし、それはリアルな世界で威力を発揮するスーパーコンピュータの性能を凌駕する機械の登場ではない。量子コンピュータの原理について、特別な場合には成立していることを実証しただけにすぎないと、私は考えている。
それは、数学の事例を出して申し訳ないが、4次元方程式を解くときに、一次元の方法で解くのか、あるいは若き天才数学者エヴァリスト・ガロアが発案した「群論」を使って一気に解くのかという違いに似ている。

量子コンピュータは「0」と「1」という異なる状態を「同時」に満たすという量子力学的発想を使って計算をすると信じられているが、それは「たとえ」に他ならない。量子状態においては、その状態が「0」なのか「1」なのか、物理的な観測では決められない。
そこで、確率的な手法で処理することでしか、状態を把握できないというのが、量子力学のコンセプト。しかし、確率的な状況で何かを決定づける方法の他に、リアルな量子状況を記述する(説明する)論理的な手段がないわけではない。

それが『超弦理論』であり、群論という行列を使う数学を駆使して、10次元の時空というものを想定し、量子のリアルな状態を把握しようとしている。

量子コンピュータは、私たちからみれば、「0」と「1」を同時に満たしてしまい、論理破綻を起こしているようにみられるだろう。
だが10次元の行列を使えば、一気に計算を進めていくことで、私たちが生きているリアルな時空で量子がどのようにふるまうか、確率論ではなく、明確な「未来」として、すなわち時間の関数として記述できることになる。

ただ、10次元の行列で「解」を見出すのは、とてつもなく難しい。人間の脳の処理能力を超えている。だからこそ、スーパーコンピュータのような機械を使って計算させる。たとえば数学の超難問であった『4色問題』が、スーパーコンピュータの登場によって解けたように、これから、いろいろな難問が量子コンピュータによって解ける時代が来るだろう。

しかし、それは決してコンピュータが人間を支配するような、シンギュラリティという世界ではないはず。なぜなら相変わらず、量子コンピュータも「0」か「1」かという、サイバー空間の住人であって、10次元のような行列を使って計算する、とんでもない優れものではあっても、リアルな世界のすべてを記述でき、支配するようなものではないからだ。


■リアルな世界は、謎のまま続く

私たちが住むリアルな世界が、デジタル化した高度な計算能力をもつスーパーコンピュータや量子コンピュータを駆使したAIによって「記述される(理解される)」ことが、現実問題として、起こるのかどうか。
それはサイバー空間で出された結果と、リアルな世界で起きている現象を比較することでしか検証されない。

その意味では、いくらコンピュータが進化し、その原理が「0」か「1」の二進法を発展させたスーパーコンピュータから、「0」と「1」の配列をもつ「行列の計算」を一気に行う量子コンピュータに代わり、計算のスピードが飛躍的に上がったとしても、それをもって、リアルな世界のすべてが記述できると考えるわけにはいかない。

私たちの住むリアルな世界が、コンピュータが作り出すサイバー空間と「相似」ではあってもピタリと一致する「合同」であるという保証はない。そのことを前提に、では、仮にスーパーコンピュータの計算性能をはるかにしのぐ量子コンピュータが誕生したとして、超高速な計算能力をもってAIを動かしたとして、そこから生まれる未来の形が、リアルな世界と一致するかどうか。
それは慎重に判断されるべき事象となる。
ここで慎重というのは、こういうことだ。
リアルな世界でも、囲碁や将棋のようにデジタル化できるものについては、サイバー空間のシミュレーションは、100%の確率で一致する。ところが、もともと「0」か「1」という二元論的な方法では記述できないリアルな出来事を対象とした場合、いくら量子コンピュータの性能が驚異的でも、その性能はリアルに近づくことはできない。どこかで一気に、破綻することになる。

以上の考察を経て、改めてリアルな世界に生きている人間の五感を統合的に感受している「脳」の思考力について、改めて驚嘆している私がいる。
人間の身体も、脳も、まだまだ捨てたものではない。その理由は、AIの特徴を考えることで、より鮮明となっていく。


■リアルな時空間の秘密

AIが生きているサイバー空間と、私たちが生きているリアルな世界には、決定的な差がある。それは「時間」の取り扱いだ。
サイバー空間では、時間は「0」から「1」というように不連続に変化するものの、「可逆的」となっている。すなわち、ビデオを逆まわしするように、サイバー空間に存在する時間は、逆流することができる。

それに対して、リアルな世界では時間の逆流はない。それゆえ、リアルな世界は、常に一定方向に変化していて、二度と同じ状況を作り出すことはできない。どんな論理構成で、そのような世界が実現しているのかは謎のままだが、何らかの方法で、時間が一定の方向にしか進まないような構造となっている。

それゆえ、サイバー空間で検証したことを、リアルな世界にあてはめるときには、特別な注意が必要となる。二度と同じ現象が起きないにもかかわらず、私たちは、日常的に、たとえば工場では同じ製品を大量に生産しようと試み、スポーツの試合でも練習と同じような成果を期待してしまう。
しかし時間が異なれば、リアルな世界では、まったく別の状況となる。

もともと「同一のモノ」という概念そのものが、誤差を前提としている。机の上に置かれたラーメンは、時間が経てば麺は伸び、やがてスープを吸ってふくれあがり、もっと時間が経てば口にできないモノと変化している。

固いモノでも、周囲の状況が異なれば、そのモノの意味も変わっていく。それがリアルな世界の原理原則に他ならない。サイバー空間は、時間という概念を外した世界。それに対して、リアルな世界では、いつも変化している時空間の世界なのである。


■超デジタル社会は、どんな世界か

量子コンピュータの実現で、特別な命題については、超高速な計算能力をもってAIを稼働させることで、これまではとてもできなかったタイプの事象を解明し、未来予測を試みることが可能となる。そこまでは、ここ数年のうちに明確になる未来図だ。
しかしこれまで述べてきたように、それはあくまでもサイバー空間の出来事であり、リアルな世界に応用しようとすれば、何らかの工夫と検証が必要となる。

それゆえ、私たちは冷静に、「人間のできる仕事は何か」「量子コンピュータの時代になっても、成立する仕事は何か」「どんなタイプの技能(スキル)が求められるか」など、より広く多方面から、より深く人間存在の根底まで降りて、自問しなければいけない時代となりつつある。

デジタル化が進んだデジタル社会までは、素早く反応するタイプの才能が求められたが、量子コンピュータが登場して超高性能AIが普及するような『超デジタル社会』では、じっくり考えるタイプの才能が求められる。
 デジタル社会は、「0」と「1」の思考を進めるために、頭の回転が速いことが求められた。考えるよりも、パッと反応してしまうことが重要だった。

そういうタイプの訓練を積むことで、偏差値が高くなり、いい大学に入れ、一流の大手企業に就職することができた。
だが超デジタル社会では、そのようなパッと反応しなければいけない出来事については、すべて量子コンピュータを使ったAIがそつなくこなしてくれる。

人間はそのようなパッと反応することが重要な出来事については、コンピュータに任せるようになる。リアルな世界で起こることは、サイバー空間のシミュレーションで把握できることよりも、それこそ無限に多く存在する。サイバー空間で把握できることは、リアルな世界を真似た、特別な環境下で起きる出来事に過ぎない。
そのことを意識しながら、量子コンピュータ時代に求められる技能や才能について、2軸を使ってポジショニングをしてみよう。


■超デジタル社会のポジショニング

ここでポジショニングに使用する軸の一つは「時間」という、リアルな世界を特徴づけるモノサシ。これを横軸にとって、左が「短い時間」であり、右にいくほど「長い時間」ということにする。

時間は明確な「物理量」なので、本来は「秒」などで数量化できるが、ここでは「主観的時間」とみていただきたい。すなわち、自分が「短い」と思えば「短い時間」であり、「長い」と思えば「長い時間」となる。
次に縦軸のモノサシだが、こちらも主観的なモノサシであり、底辺が「低い次元」で、上に行けばいくほど「高い次元」となっている。
たとえば、何かを制作する技能(スキル)が低い場合は「低い次元」であり、熟練するにしたがって「高い次元」に移行していく。アマチュアレベルは「低い次元」で、プロになれば「高い次元」となるだろう。
そのようにしてポジショニングをすると、主観レベルとなるが、ある人物にとって4つの領域が存在する。左下の領域(Dゾーン)は「短い時間」で「低い次元」、そこからスキルを挙げていければ「短い時間」で「高い次元」に進むことができる。

たとえば『受験』という世界を考えたとき、受験生は「短い時間」で問題に反応しなければならない。その訓練を積んでいくと、「短い時間」でスラスラと問題を解いていき、高度な問題が融けるような「高い次元」に達することができれば、共通一次試験などで、高い点数が得られるだろう。それが左上の領域(Aゾーン)となる。

もう一つ、右下の領域(Cゾーン)は「長い時間」をかけなければいけないけれど、まだスキルが「低い次元」にとどまっている場合となる。
仕事でもスポーツでも、何をするにも「長い時間」がかかり、その積み重ねとともに「高い次元」に向かっていく。その結果、「長い時間」で「高い次元」の領域(Bゾーン)となるだろう。また、100m走のプロはAゾーンで、マラソンのプロはBゾーンにいると考えてもいい。

ここで『将棋』を例に考えてみよう。
将棋を覚えたてのころは「短い時間」で3手詰めの詰将棋などで勉強する。これはDゾーンの領域となる。詰将棋のレベルがあがり、練習将棋をサクサクと指せるようになると「高い次元」のAゾーンになるだろう。このAゾーンでは、プロの棋士も入ることになる。
一方、アマチュアが持ち時間を長くして指す将棋は「長い時間」で「低い次元(失礼)」であり、Cゾーン。そしてプロ棋士が戦う名人戦や竜王戦などのタイトル戦になると「長い時間」の「高い次元」でBゾーンとなる。

AIと共にビジネスを進化させる11の提言_img01


左上のAゾーンは、瞬発力を利用して高い次元の仕事をする。感性を研ぎ澄ますことで、一気に完成させる。右上のBゾーンは、持久力を利用して高い次元の仕事をする。リアルな世界では、時間を味方につけると次元を高められる。

右下のCゾーンは、持久力はあるものの、技術がまだおいついていない段階。一定の品質があれば、そこそこの仕事はできる。左下のDゾーンは、技術、修練が足りなければ、感性があっても空回りする。技術を身体にしみこませていくと次元が上がる。

このポジショニングは、あらゆる仕事に活用できるので、試していただきたい。


■考える人が生き残る

超デジタル社会では、リアルな世界のあらゆる場所に「センサー」が取り付けられ、画像監視が行われ、ビッグデータとしてクラウドのデータベースに収められる。
そして量子コンピュータに支えられたAI(人工知能)が、ビッグデータを常時分析し、何か不都合な未来につながるリスクがある現象をピックアップして、行政サイドに報せることになる。

社会秩序を乱す可能性のある「行動」はすべてチェックされ、「疑わしきは、まずチェック」ということで、怪しい人物の元に係官がすっとんでくる。あなたは尋問され、やはり疑わしければ、その場で収監されることもある。係官がみて「挙動不審」なら、いったんは収監するからだ。そこでIDチェックやDNAチェックが行われ、しかるべき処置が行われる。

そのような超デジタル社会がいいか悪いはかは別として、いずれ人類は、そのような環境におかれることになる。そのとき、AIの奴隷にならず、仕事としてもビジネスとしても、人間らしく生きていく方法はあるのか。あるとしたら、どのような考え方をして、どのような領域で、何をして生きていけばいいのだろうか。
それが本稿の主要テーマである。

*   *   *

第一章はここまで!
続きを読みたい方は、各電子書籍ストアにて発売しておりますので、是非お買い求めください。
下記リンクはAmazonストアでの商品ページになります。書籍の詳細と目次もこちらからご覧になれます。
書籍『AIと共にビジネスを進化させる11の提言 超デジタル社会で人間はどう生きるべきか』

プロフィール

廣川 州伸

1955年生まれ。都立大学卒業後、マーケティング会社に就職。1990年、広告制作会社にプランナーとして転職。1998年合資会社コンセプトデザイン研究所を設立。現在、地域活性化事業を推進しながらベンチャー企業のブランド戦略、新事業コンセプト開発などを推進。2009年12月より一般財団法人WNI気象文化創造センター理事。著書は「現代新書・週末作家入門」「ゾウを倒すアリ」(講談社)「世界のビジネス理論」(実業之日本社)「偏差値より挨拶を」(東京書籍)「仕事でシアワセをつかむ本」(秀和システム)「なぜ、ヒツジが空を翔べたのか」(IDP新書)など30冊を超える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?