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『心理学と統計分析が最強の武器になるマーケティング戦略』第一章・無料全文公開

書籍『心理学と統計分析が最強の武器になるマーケティング戦略』より、第一章「マーケターのための心理セオリー9 基本編」を発売前に特別で無料全文公開!
下記リンクはAmazonストアでの商品ページになります。書籍の概要や目次もこちらでご覧になれます。

マーケティングに必要な心理学と統計分析

私が持っているマーケティングの教科書には、消費者心理やマーケティング・リサーチについて書かれています。マーケティングに顧客心理・顧客視点の理解が必要であることはマーケターの常識ですが、心理学や統計分析が使用できるマーケターはほとんどいないのが現状です。

【心理学導入事例:セブン-イレブン】

セブン-イレブンの創業者である鈴木敏文氏に以前インタビューをしたとき、「これからは心理学だ」と言っていました。それを聞いて、何を言っているのかわかりませんでした。
その後、新製品のヒットが続くなど、セブン-イレブンの快進撃が神がかっていたことは、あなたもご存じでしょう。
セブン-イレブンは、POSシステム(販売時点情報管理)を開発し、性別・年齢層・時間帯・地域という膨大なデータを集めました。このデータを統計分析して顧客の行動を予測し、顧客ニーズを抽出できたのです。統計分析を使用して顧客の心理をつかむという戦略が、「セブン-イレブン流の心理学」だったということですね。


【現代のマーケティングには心理学の活用が不可欠】

マーケティング・コンセプトの歴史から見ると、生産志向・製品志向・販売志向の時代を過ぎ、今や顧客志向・社会志向に移りつつあります。つまり現代のマーケティングには、顧客視点や社会視点が重要です。社会視点とは「顧客の総意」と言い換えることができますので、人間の心理の理解が不可欠だということになります。

顧客のニーズや購買パターンがわかれば、セブン-イレブンの戦略のように、ライバルに勝っていくことができるでしょう。
ちなみにセブン-イレブンはPOSシステム構築のために600億円を投資したそうですが、あなたはこんな大金を払う必要はありません。心理学のセオリーと統計分析を応用すればよいのです。

心理学では、購買意欲を促進する方法、商品価値を高める方法、顧客をコントロールする方法、顧客の注意を向けさせる方法、効果的なコピーライティング法など、マーケティングに利用できる研究が進められています。これらのセオリーを駆使するか否かで、勝てるか負けるか大きな差が出てくるでしょう。

つまり、現代においてマーケティングで勝つためには、心理学の活用が不可欠なのです。


【統計分析は航海の海図や羅針盤】

統計分析を導入していない企業経営は、海図や羅針盤のない航海のようなものです。これらを持たず未知の大海原に漕ぎ出すと、いくつもの問題が生じます。自分の船がどこにいて、どちらの方向に進み、いつ頃目的地に到着するのか、そのためにクルーは何をすべきかなどがわからなくなるのです。海図と羅針盤があれば、これらの問題点は解決するでしょう。

統計分析を導入した場合、事業戦略構築(取り組みの方向性や優先性)、マーケットリサーチ(顧客のニーズや動向など)、事業予測(営業部門・店舗の売上げなど)、事業の効率化(効果確認、コストダウン)という効果が得られます。つまり、自分の会社がどこにあり、どちらの方向に進んだらよいか、いつ頃目標に到着するか、そのために何をすべきかがわかります。まさに統計分析は、未知の大海原を安全・効率的に乗り切るための海図や羅針盤にあたるものであり、マーケティング部門のみならず経営戦略にとっても重要なのです。

統計分析の導入にあたっては、高いハードルがあるのも事実です。統計分析を実施するためには専門的な知識が必要であり、さらに高額の費用が必要な場合もあり、これらが導入の障害となっていました。しかしエクセルの分析ツールと統計ソフトが開発されたことで、そのハードルは低くなりました。
本書での統計分析とは、分析ツールと統計ソフトを使い、高等数学の知識不要の方法です。

統計分析は他にもよい点があり、マーケターの仕事が評価されにくいという問題点を解決します。たとえば、これまで売上げに及ぼす広告効果を測定することができませんでした(ただしウェブでは、コンバージョン率などを効果と見なした取り組みは進められています)。しかし統計分析を駆使すれば、効果測定が可能になります。つまり、統計分析はマーケターが正当な評価を得るツールにもなるのです。
多くの企業が統計分析を導入していない今、導入してライバルに差をつけ、あなたの立場を強固にするチャンスにもなります。


【スキルを身につけるために】

私が得た教訓は、「習うより慣れろ」です。本章は、マーケティングに求められる心理セオリーを駆使するスキルを身につけてもらうことを目的としています。そのためには、読者が自分のこととして課題を解く努力をする必要があります。そこで各節の終わりに「ワーク」を用意しましたので、チャレンジしてください。「ワーク」に対する回答例は「購入者特典」として用意しています。巻末の案内より、ぜひダウンロードして答え合わせをしましょう。

本書は一章ごとに読み進めると理解が深まり、レベルアップしていく構成になっています。したがって、「つまみ読み」ではなく、一気通貫で読むことをオススメします。

心理セオリー① 価値を高める「行動経済学と参照点依存性」

設問1:RIZAP(ライザップ)の広告が受け入れられたのはなぜか。

人間はどのようなとき、商品やサービスに「価値」を感じるのでしょうか。これを理解することは、マーケターにとって重要になります。どのようなときに価値を感じるのかを研究したのが、行動経済学の「参照点依存性」で、商品や会社の素晴らしさを伝えられる方法です。

【行動経済学】

行動経済学は心理学を導入した経済学です。18世紀頃には心理学と経済学は分離できないものであり、経済学者は心理学を重視していました。たとえば、アダム・スミス(イギリスの経済学者)は経済性と心理面との関係について述べ、20世紀に入ると、ジョン・メイナード・ケインズ(イギリスの経済学者)が心理と経済との関係について述べています。

その後、経済学は心理学と別の道を歩むことになりました。しかし心理学の発展もあり、心理学と経済学は再び融合し、「行動経済学」という分野が研究されるようになったのです。
2002年には、ダニエル・カーネマン(アメリカの心理学者)とエイモス・トヴェルスキー(イスラエル出身の心理学者)が共同研究し、カーネマンは行動経済学によりノーベル経済学賞を受賞。おもしろいのが、心理学者なのに経済学賞を受賞したところです。


【参照点依存性】

行動経済学の中で一番特徴的なのが、人が価値を感じるための「参照点依存性」という判断の仕組みです。参照点依存性とは「価値は参照点(原点)からの変化またはそれとの比較で認識され、絶対的な水準が価値を決定するものではない」というものです。
簡単にいうと、たとえば買い物に慣れていない人が大根を買いに行っても、手に取った大根がよいものかどうかわかりません。ですが、他店の大根を比較すれば、どちらがよいものかがわかります。大根を選ぶときに、重さが何グラム、太さが何センチ、長さが何センチ––––という絶対的な水準で判断していません。

ここで冒頭の設問を考えてみましょう。
ダイエットのCMといえば、RIZAP(ライザップ)をイメージする人も多いと思います。このCMでも見られるように、ダイエット前の姿とダイエット後の姿を比較することが、ダイエット業界全体で頻繁に行われています。ダイエット前の姿が参照点で、ダイエット後の姿との差が「価値」ということです。百の説明より前後の比較で視覚に訴えるほうが効果的なのです。


【損失回避性】

カーネマンとトヴェルスキーは行動経済学の中で、「損失回避性」という理論を導き出しました。損失は同額の利得より大きく評価され、その数値は利得の2.25倍強く評価されることを示しています。どういうことかというと、100万円を失ったダメージは、225万円を獲得した喜びに匹敵し、損失を極端に嫌うということです。
「逃がした魚は大きい」といいますが、手に入れることのできなかったショックは大きいのです。


【バイアス】

行動経済学では、「バイアス」についても論じています。バイアスとは、自動的に行われてしまう認識の誤りのことです。
たとえば「確証バイアス」というものがあります。「コロナはただの風邪だ」「店での飲食がダメなら路上で飲めばいい」というように、都合のいい情報を信用するという心理です。政府・自治体・マスコミなどは、GoToイートのキャンペーンで飲食を推奨していました。人々には、このときの情報が記憶に残っています。他にも、国のリーダーたちが会食をしていました。これらが「リーダーが会食するのだから、私たちも会食してもいい」という確証バイアスの原因にもなっていると考えられます。


【参照点依存性を使うときの裏ワザ】

消費者に商品の価値を感じさせる方法としては、比較させることがよいということになります。たとえば新商品発売のとき、従来商品と新商品の性能や機能の比較をするのです。参照点依存性は、商品やサービスの優位性など、さまざまな状況で活用できるマーケティングテクニックです。

ワーク1:参照点依存性を利用したCMには、どのようなものがあるか考えてみましょう。

心理セオリー② 好意を受けると好意で返したくなる「返報性の原理」

設問2:ホワイトデーが受け入れられた心理的な理由は何か。

人は他人からなんらかの好意を受けると、「お返しをしなければならない」という意識を抱きます。こうした心理を「返報性の原理」といいます。これは顧客の購買行動を促進するために、マーケターにとって必要な心理テクニックです。

【返報性の原理の実験】

「返報性の原理」の実験を紹介しましょう(『図解雑学 社会心理学』より/著・井上隆二、山下富美代/ナツメ社)。この実験では2つのグループに分けて、被験者たちへ次のように伝えました。

Aグループ:これから会う人に好かれていると信じ込ませる
Bグループ:これから会う人に嫌われていると信じ込ませる

そして10分間、実験者と話し合いを行い、その結果Aグループでは好意が増しました。これに対してBグループでは、好意が増すことはありませんでした。好意には好意をもって、お返ししたのです。


【返報性の原理の威力】

1985年3月のイラン・イラク戦争中、イラクのサダム・フセイン大統領は「イラン上空を飛ぶ航空機はすべて撃墜する」と世界に通告。各国は自国民を脱出させる旅客機を手配し、国民を安全に脱出させることができましたが、日本だけ対応ができなかったために、216名の日本人がイランに取り残されてしまいました。するとトルコ政府はトルコ航空をイランに派遣し、日本人すべてを脱出させてくれたのです。
トルコには日本人を助ける義務はありません。なぜこのようなことが起こったのでしょうか?

事の発端は、1890年の出来事。トルコ帝国の軍艦エルトゥールル号が和歌山県串本町沖で遭難した事件が起こりました。住民は総出で救命にあたり、貧しい中、食料や衣類を提供しました。この事件は死亡・行方不明者数587名という大惨事でしたが、日本全国から義援金が集まり、住民たちの協力もあり69名の方が生還できたのです。

このときのことを恩義に感じて、トルコ政府が日本人を助けてくれたという感動の物語でした。まさに100年後の恩返しで、「返報性の原理」が働いたのです。大変大きな力があることが、わかっていただけたでしょうか。


【返報性の原理とホワイトデー】

ここで冒頭の設問を考えてみましょう。
バレンタインデーでチョコレートをもらうと、ホワイトデーにお返しをしなければならない、と考えるようになります。昔はホワイトデーなんてありませんでした。お菓子メーカーが「返報性の原理」を巧みに利用してホワイトデーを提案したのならば、発案者は素晴らしいマーケターです。


【返報性の原理を使うときの裏ワザ】

「返報性の原理」が働くのは、モノをもらったときだけではありません。褒められたり、信頼されたり、尊敬されたり。さらには、笑顔を向けられたとき、話を聞いてくれたとき、SNSでの「いいね返し」やグットサインも同じように働きます。「情けは人のためならず」––––善行は自分に返ってくる、いわゆるブーメランです。また「ギブ・アンド・テイク」のことであり、ギブ(与えること)が先行することが裏ワザです。

ワーク2:あなたの身の回りにある「返報性の原理」を考えてみましょう。

心理セオリー③ 大勢の行動や意見に従う「社会的証明の原理」

設問3:「ゴミを捨てないで」と書いてあるのにゴミを捨てるのはなぜか。

「多勢に無勢」という言葉があります。たとえば会議のときでも大勢の人には逆らえません。人間には、「多数の人の意見が正しい」と考える傾向があります。これが「社会的証明の原理」です。マーケティングに応用すると、顧客の購買意欲を促進できます。

【社会的証明の原理】

S.ミルグラム(アメリカの心理学者)の実験によると、雑踏の中で何人かで空を見上げると、それを見た通行人も立ち止まって空を見上げるといいます。その人数が増えるほど、立ち止まる人が増えるのです。人間は他人の行動に影響され、極めて敏感に反応することが実証されました。


【悲劇を起こした理由】

「社会的証明の原理」を示す事例として、1964年にアメリカのニューヨークで起こったキティ・ジェノヴィーズの事件があります。
アメリカ人女性のキティ・ジェノヴィーズが暴漢に襲われ、何度も刺されて惨殺された事件です。ショックなことに、38人もの目撃者がいたにもかかわらず、誰も助けようとせず、警察にも通報しませんでした。その理由は、目撃者が誰一人ジェノヴィーズさんを助けることや警察に連絡をしなかったからというものでした。犯人による仕返しが怖くて、目撃者たちは「見て見ぬふり」をしたわけではないようです。

この事件を契機に、さまざまな研究や実験が行われました。そこで判明したのが、「社会的証明の原理」の心理が働いてしまったということです。つまり目撃者同士が牽制し合っていて、救出する行動に出なかったのです。


【社会的証明の原理の事例】

ここで冒頭の設問を考えてみましょう。
ゴミが無断投棄されていると、投棄されるゴミの量がどんどん増えていきます。「みんながゴミを捨てているから、自分もゴミを捨ててよい」と判断したもので、「社会的証明の原理」が原因です。古いビルの窓ガラスが1枚割れていると、次々に窓ガラスが割られていくという「割れ窓理論」も同じ心理です。

ロバート・B・チャルディー(アメリカの社会心理学者)によれば、ニコリーン・スショット(アメリカの放送作家)は、定石的セリフを変えることで、20年ぶりに販売新記録を更新したと述べています。「オペレーターがお待ちしています。今すぐお電話ください」というそれまでお決まりだったセリフは、オペレーターが暇そうにしている姿を想像させると、スショットは考えました。そこで「オペレーターにつながらない場合は、恐れ入りますが、繰り返しお電話ください」と変更。このセリフが、顧客が続々と電話をしてくる姿をイメージさせたのです。イメージでも「社会的証明の原理」が働くという事例です。

ワーク3:社会的証明の原理を利用したCMにはどのようなものがあるでしょうか。

心理セオリー④ 自分が言ったことには逆らえない「一貫性の原理」

設問4:無断キャンセルを防止する裏ワザとは何か。

「一貫性の原理」とは、一旦コミットしたことには逆らえなくなる心理です。
人間の信念を変えて、洗脳してしまうほど強く作用するのが「一貫性の原理」です。他社の顧客を自社のファンにするほどの力を持っています。優良顧客を確保したいマーケターには必須の心理セオリーです。

【洗脳も可能にする一貫性の原理】

洗脳の心理が明らかになったのは、1950年から1953年の朝鮮戦争にさかのぼります。朝鮮戦争で捕虜になった多くのアメリカ軍人が、祖国のアメリカを裏切り、敵である中国共産党に協力したのです。つまり洗脳されてしまったわけです。

ウイリアム・E・メイヤー(アメリカの心理学者)は、朝鮮戦争後、中国共産党の捕虜になったアメリカ軍人1千人の調査をしました。アメリカ軍人捕虜を寝返らせたのは、「一貫性の原理」の力であり、アメリカ軍人捕虜が祖国を裏切るまでのプロセスは、次のようになります。

①尋問では、共産主義と民主主義の問題点をアメリカ軍人に認めさせることから始まります。共産主義にもよさがあり、民主主義にも問題はありますので、捕虜も認めコミットしたのです。

②次に、民主主義の問題点や共産主義の利点についてのディスカッションを行いました。中国共産党は、これらの利点について書かせることもありました。これを拒否したアメリカ人捕虜に対して、「いつも話をしていることだから、いいじゃないか」というと、捕虜は反抗できませんでした。

③その文章はアメリカ軍宛のラジオ番組で放送されてしまいました。自分がアメリカを裏切り、共産党に協力することを天下に示したのと同じです。

こうしてアメリカに忠誠を誓う軍人に戻ることはできなくなり、寝返らざるを得ない状態になっていました。簡単なコミットを繰り返すことで洗脳されたというわけです。
(『衝撃の実話! 人間のありえない行動はなぜ起こったのか?』より/著・村田芳実/ごきげんビジネス出版)


【一貫性の原理の応用】

アメリカの社会心理学者ロバート・B・チャルディーニの著書『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房)には、次のようなことが書かれています。
電話予約を受けたとき「変更があるときはご連絡ください」と伝えることでしょう。アメリカのあるレストランでは、「キャンセルされるときはご連絡くださいね」と念を押すようにして、相手の反応を待ったそうです。予約者は「はい」や「わかりました」と答えるもので、この何気ない一言が重要になります。無意識にコミットさせることになり、「一貫性の原理」が働いて無断キャンセルが1/3に減ったというのです。

またアメリカでクーリング・オフが実施されたとき、その件数が多くて頭を悩ましていました。そこで考えついたのが、「説明をしっかり受けた」という欄に署名をしてもらうことです。結果、契約撤回の申し出が激減。署名をしてもらうことにより、「一貫性の原理」が働いたのです。


【一貫性の原理を使うときの裏ワザ】

相手がコミットしたときに「一貫性の原理」が発動します。あなたの行うことは、念を押すことです。たとえば、相手が商品や会社を褒めてくれたときには、「どうもありがとうございます」と念を押すことです。また、その理由を聞くと効果は強くなります。

ワーク4:一貫性の原理が働くシチュエーションを想定してみましょう。

心理セオリー⑤ 権威の意見には逆らえない「権威への服従原理」

設問5:コロナワクチンの接種希望者が増加したのはなぜか。

私たちは、医師の言うことには従います。これは、権威には逆らえない「権威への服従原理」という心理があるからです。たとえばオピニオンリーダーの発言を用いて、顧客に商品の優位性などを納得させるために効果的なテクニックです。

【大量殺人の犯人は平凡な市民だった】

他人の命を奪うことは許されるものではありません。しかし権威者の指示があると、積極的に従うようになってしまいます。
その例のひとつが、ナチのホロコーストにありました。ユダヤ人収容所に輸送する最高責任者であったアドルフ・アイヒマンは、数百万人のユダヤ人を収容所に送りました。数百万人もの殺人に加担したアイヒマンは、誰もが異常人格者だと考えました。ところが不思議なことに、裁判で明らかになったことは、彼は人格異常者などではなく、まじめに職務に励む平凡な市民だったのです。
(『衝撃の実話! 人間のありえない行動はなぜ起こったのか?』より/著・村田芳実/ごきげんビジネス出版)


【権威への服従原理の実験】

S.ミルグラム(アメリカの心理学者)が、この不思議な事象を明らかにしました。
実験は二人ひと組で、一人が教師役、一人が生徒役。教師役はミルグラム博士から、「問題を出して、答えが間違ったら、電気ショックを少しずつ強くして罰を与えるように」と命令されました。また「最大出力で通電すると死亡する恐れがある」と説明もされました。実験が進むほどに、生徒役は「痛い」と悲鳴をあげ、中止を懇願するようになり、教師役が生徒役の苦痛の訴えに応じて実験を中止するか最強の罰を与えるまで行われます。
実は生徒役の参加者はサクラであり、通電などしていません。悲鳴をあげ、中止を懇願したのは、あらかじめ研究者たちが考えたセリフだったのです。

その結果、62.5%という大勢の参加者(教師役)が、生徒役が死亡する可能性のある罰を与えました。このように権威者の命令には逆らえないことが明らかになったのです。


【権威に従う理由】

ロバート・B・チャルディーニ(アメリカの社会心理学者)は、「権威者の命令に従うことは、常に私たちに実質的な利益をもたらしてくれます。(……中略……)親や教師(権力者)の忠告に従えば自分のためになることを学習しています」と述べています。つまり経験則が影響しているというわけです。


【権威への服従原理を使うときの裏ワザ】

日本において、当初はコロナワクチンの接種希望者は多くいませんでしたが、日を追うにしたがって増えていきました。テレビなどで医療関係者は接種を勧めていたのです。これが「権威への服従原理」の効果です。

「権威への服従原理」を使うために「権威者」の意見を紹介することですが、権威者というのは学者に限りません。業界のオピニオンリーダー、若い人たちにとってはインフルエンサーがいます。さらに権威者は、人間ばかりではありません。テレビや新聞なども第三者の立場から正確な報道をするという経験則がありますので、権威者と同じ効果をもたらします。

ワーク5:「権威への服従原理」を使用したCMや広告には、どのようなものがあるでしょう。

心理セオリー⑥ 少ないものに価値を感じる「希少性・心理的リアクタンス」

設問6:ロミオとジュリエットが恋に落ちた理由は何か。

金やダイヤモンドが高価とされるのは希少だからです。「希少性・心理的リアクタンス」は価値を高める心理セオリーであり、顧客の購買意欲を促進する心理セオリーでもあります。マーケターとしては必須のテクニックです。

【心理的リアクタンス】

人間は商品が品薄になることで、購入意欲が促進されます。これを「希少性」といいます。「希少性」には「心理的リアクタンス」が関係しているといわれ、J.W.ブレーム(アメリカの心理学者)が提唱しました。
この現象の生起メカニズムを説明するものとして、高圧的な説得を受けると、自分の自由が迫害されたと感じ、その結果、自由を取り戻そうとする行動として、説得方向とは逆の方向に態度を変えるというものです。購入の自由が侵害されることにより、購入しないという態度から購入する態度に変わると説明できます。競争状態にあることで、この効果はさらに促進されます。


【ステファン・ウォーチェルのクッキーの実験】

希少性の効果について、ステファン・ウォーチェル(社会心理学者)がクッキーの実験を行いました。実験は被験者に瓶の中からクッキーを与え、それを味見して質を評価してもらうものです。

①参加者の半数には、10枚のクッキーが入った瓶から1枚を取り出して与えました。
②残りの半数には、2枚しか入っていない瓶から1枚を取り出して与えました。

②のグループでは①のグループよりも、「また食べたいと思う」「商品として魅力的」「高級感がある」と評価されたのです。

さらに、もうひとつ注目すべき実験が行われていました。

Aグループ:はじめに10枚のクッキーが入った瓶を与えられ、その後2枚入った瓶に交換されました。たくさんあったクッキーの数が減ってしまうのを目のあたりにしていたのです。

Bグループ:最初からクッキーが2枚しか入っていない瓶が与えられました。

この結果、Aグループのほうがクッキーに対する評価が高かったといいます。つまり、ただ単に少ない状態ではなく、どんどん減っているところを目の当たりにすることで評価は高まるということです。


【ロミオとジュリエット効果】

ロミオとジュリエットは、敵同士の家に生まれたために、恋愛を禁止されたことで、逆に情熱は燃え上がりました。これを「ロミオとジュリエット効果」と呼んでいます。芸能界の不倫報道が絶えませんが、不倫や浮気といった禁断の恋は燃え上がります。これも「心理的リアクタンス」のなせる業です。


【古今東西の神話・童話に見られる心理的リアクタンス】

禁止されたときの人間心理と人間行動についてですが、古今東西さまざまな神話や昔話があります。紐解いていくと、人類共通の強い反応であることがわかります。

たとえば、神話のアダムとイブは、神様から禁止されたリンゴを蛇の誘惑で食べずにいられなくなりました。神は怒り、アダムとイブを楽園から追い出してしまいます。

童話の浦島太郎は、乙姫が「開けてはならない」という玉手箱を開けてしまいました。禁止されると玉手箱の中身に好奇心が膨らんでいきます。

また夕鶴の若者は、妻から「絶対、覗かないでください」と言われたにもかかわらず、機織り場を覗いてしまいます。あなたは覗かずにいられますか?


【心理的リアクタンスを使うときの裏ワザ】

「心理的リアクタンス」を使用するときは、品薄であることをイメージさせることです。行列ができるラーメン店の「スープがなくなったら閉店」というフレーズは、「心理的リアクタンス」をONにします。テレビ通販の「○○限り」というのも同様の効果狙いですが、あまり心に刺さりません。意図的である点が視聴者にミエミエだからです。

ワーク6:心理的リアクタンスを利用したシチュエーションを考えてください。

心理セオリー⑦ 承諾率を9倍にする「問題解決型ストーリー」

設問7:提案する場合、問題解決型がよいとされるのはなぜか。

ウェブサイトや広告の担当者は、なんとかして成果に結びつけたいものです。破傷風の予防接種で「あること」をすると、接種した人が9倍になるという実験があります。その方法とは、ターゲットに脅威を与えてから解決の情報を提案するというものでした。これは広告マンやマーケターにとって不可欠なテクニックです。

【破傷風予防注射の実験】

ハワード・レーベンタール(社会心理学者)は、破傷風の予防注射を促進するために何をするべきかという実験を行いました。
破傷風のような脅威に接したときに私たち人間が取る行動は、①見て見ぬふりをする、②脅威に立ち向かう––––この2つに1つであることを明らかにしたのです。
脅威に対して対処法がないときは「①見て見ぬふりをする」道を選び、②脅威に立ち向かうことを選択させるためには、ソリューションである予防注射についての情報を与えることを見出しました。

脅威を与えてソリューションを与える効果はどのくらいになるか。実験によると、効果は9倍になるというのです。実験は次のような結果に。

①破傷風の恐ろしさについて書かれているパンフレットを読ませたところ、予防注射を受ける意思のある人がほとんどでした。
②しかし、1か月後に予防注射を受けた人は3%にすぎませんでした。
③そこで予報注射を受けられる場所と時間を知らせたところ、注射を受けたのは28%になりました。

恐怖を与えれば、予防注射を受けると考えがちですが、恐怖を与えただけでは、受ける人はほとんどいないことになります。見て見ぬふりをするということです。恐怖を与えるだけでなく、解決方法を紹介するだけで、脅威に立ち向かう人は9倍にもなることがわかりました。

つまりターゲットに脅威を与え、問題解決法(ソリューション)を提示することで、9倍以上の効果があることになります。提案する場合、問題解決型がよいということです。


【問題解決型ストーリーを使うときの裏ワザ】

ソリューションを提案する場合、強く恐怖を与えることと、恐怖を取り除く手段を明確に示すことが効果的です。たとえば、「マーケティングに心理学を導入しないと、マーケティング戦に勝てませんよ。でも、この本を読めば心理学を使えるようになります」という具合です。「新型コロナは恐ろしい伝染病ですが、マスクをすれば大丈夫」というメッセージが効果を表して、マスクが普及しましたよね。

ワーク7:「問題解決型ストーリー」を利用したCMには、どのようなものがあるでしょう。

心理セオリー⑧ 楽しいことは癖になる「オペラント条件付け」

設問8:ドラゴンクエストに熱中する理由は何か。

ユーザー会やセミナーを主催しているマーケターも少なくないと思います。開催にあたり、経営サイドから出席者数を増やすように指示されることもあると思います。そのようなときに使えるのが「オペラント条件付け」です。これは、いいことがあると、その原因となったことを繰り返す心理です。

【オペラント条件付け】

犬や猿に芸を仕込むときに餌を使いますよね。芸ができたときにはご褒美として餌を与えます。すると、餌が欲しいために芸をするようになるのです。このように、餌により動物をコントロールするような方法を「オペラント条件付け」といいます。
人間も同様で、ある行動をして他の人から褒められることで嬉しくなり、その行動を繰り返し行うようになります。先生から「絵がうまいね」と言われれば、その生徒は積極的に絵を描くようになり、このときの心理です。また、他の人から否定されることや叱られるなどの罰が与えられると、その態度や行為を改めるようになります。「自分は褒められて育つタイプ」という人がいますが、基本的に人間は褒められて育つのです。

「オペラント条件付け」は、「道具的条件付け」「スキナー型条件付け」とも呼ばれます。B.F.スキナー(アメリカの心理学者)によって定式化されました。スキナーと後継者によって行動療法やプログラム学習などの応用領域が開拓され、現在では運転などの技能訓練、嗜癖や不適応行動の改善、障害児の療育プログラム、身体的・社会的リハビリテーション、Eラーニングなど幅広い領域で応用されています。


【RPGとオペラント条件付け】

『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』(スクウェア・エニックス)などのロールプレイングゲーム(以下:RPG)は、「オペラント条件付け」を上手に利用しています。レベルアップしたときやボスキャラを倒すことで、ワクワク・ドキドキしたことは多くの人が経験したのではないでしょうか。レベルアップしたときやボスキャラを倒すことが「報酬」となり、楽しくて夢中になり、寝る間も惜しんでやめられなくなるのです。

脳科学のアプローチからRPGがやめられなくなる理由を解説すると、私たちの頭の中にはドーパミンという神経伝達物質があります。快楽的な刺激を受けると、ドーパミンが放出されて、脳が快感を覚えるという仕組みになっているのです。レベルアップなどは快楽的な刺激として作用します。つまり快楽を求めるためにゲームがやめられなくなるわけです。


【オペラント条件付けを使うときの裏ワザ】

「オペラント条件付け」を使うコツは、顧客を喜ばせることです。
ではマーケティングに応用する方法はどうするかというと、エンターテインメント業であれば、顧客を感動させたり笑わせたりして、楽しませることでリピーターにできます。ユーザー会やセミナーについては、顧客の欲求を満足させることで参加者は嬉しくなり、リピーターにできるということです。カスタマ・ディライトや顧客満足というマーケティング戦略の構築には、「オペラント条件付け」を熟知する必要があります。

ワーク8:パチンコがやめられなくなる理由を考えてみてください。

心理セオリー⑨ 記憶・イメージの仕組み「感覚記憶・短期記憶・長期記憶」

設問9:私たちがモノを購入するまでの心理プロセスとは何か。

マーケティングにとって記憶の仕組みは重要です。顧客へ商品の記憶を促進させ、購入につなげるのが記憶のプロセスだからです。

【記憶の仕組み】

記憶の機能としては、記銘(覚える)・保存・想起(思い出す)があります。
次の「記憶の仕組み」の図をご覧ください。

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音や映像などの刺激は、耳や目などの感覚器で感覚記憶として受け入れられますが、記憶の保持時間は非常に短く、1~2秒で消え去ってしまいます。感覚記憶のうち注意を向けられたものについては、短期記憶として保存されます。
しかし、この記憶もまた数秒から十数秒で消えてしまうのです。感覚記憶に残った記憶のうち、記憶すべき情報を何度も復唱することや必要性のある場合などは、長期記憶に保存されます。
必要に応じて長期記憶から関連する刺激が取り出され、短期記憶に移り、これが想起です。そして、そのデータを使用することになります。

ちなみに長期記憶の情報貯蔵量には制限がありませんが、短期記憶では5桁~9桁の数字しか覚えられません。このように短期記憶の保持時間は短く、記憶量も意外と少ないものです。ですから、長く覚えておくためには長期記憶で貯蔵する必要があります。


【知識のでき方】

ここで知識のでき方を体験してみましょう。
「A+B=C」「A+C=D」ならば「C+D」はアルファベットの何にあたりますか?

Aはアルファベットの1番目、Bは2番目、Cは3番目、Dは4番目、Eは5番目にあたります。「A+B=C」は「1番目+2番目=3番目」ということになります。「A+C=D」は「1+3=4」です。したがって「C+D」は「3+4」ですから、答えは7番目の「G」となります。

それでは「あ+い=う」「あ+う=え」なら「い+う」のひらがなは何でしょうか?

あなたはもうわかっていることでしょう。2番目の「い」と3番目の「う」をプラスしていますから、答えは5番目の「お」になります。

これが知識獲得のプロセスです。あなたはアルファベットの計算という知識を得て、ひらがなの計算に利用しました。このようにして利用可能な知識を獲得していくのです。これは問題解決のプロセスでもあります。知識獲得や問題解決のプロセスを体験していただきました。


【SNSを見て行動に移すまでの心理プロセス】

私たちは、さまざまな情報にさらされています。情報が機能するためには、まず情報による感覚記憶を短期記憶に移行させることが必要です。そのためには情報に注目させることになり、もともと長期記憶として保存されていて興味のある事柄については、長期記憶から想起されます。つまり注意を向けさせるためには、商品などの記憶があり、興味があることが求められるのです。そして情報の内容と長期記憶のマッチングにより、その商品を買いたいとなれば、長期記憶に記銘(記憶)することになります。

これを整理すると、ものを購入するまでの心理プロセスは次の通りです。
長期記憶(興味) → 注意 → 短期記憶と長期記憶のマッチング → 欲求 → 長期記憶 → 購入


【画像優位性効果】

次に画像の効果についてです。

話し言葉での伝達では、72時間後には10%しか記憶に残らない。
そこに画像を加えると、65%の記憶が残る。

この結果はジョン・メディナ(脳科学者/『ブレイン・ルール』著者)による、話し言葉と画像ではどちらが思い出しやすいかを研究したものです。

人間は多くの刺激にさらされており、五感といわれる感覚器で、それらの刺激を受け取ります。人間の場合、五感あるうち視覚優勢だといわれ、印刷物のほうが話し言葉よりも思い出せるという結果が得られたと考えられます。
絵と単語を覚えさせる実験では、絵のほうが後でよく思い出され、理解されやすくなるのです。これを「画像優位性効果」と呼んでいます。つまりプレゼンなどには画像を使う必要があるわけです。

ワーク9:AIDMAと実際の心理プロセス違いはどこにありますか?

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第一章はここまで!
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著者プロフィール

村田 芳実

日本心理学会認定心理士。
一部上場の機械メーカーでマーケティングを立ち上げ、ブランディング・顧客満足・ユーザー会の立て直しのミッションを受ける。そこで心理学の必要性を感じ、大学に再入学。卒業と同時に認定心理士の資格を取得。その後、恋愛心理学やビジネス心理学についての研究を行い現在に至る。MXテレビ「5時に夢中」に認定心理士として出演。大手化粧品メーカーの情報サイトの心理学についてのインタビューに対応。その他、大手通信会社や主婦向け出版社のライターの経歴もある。心理士としてのアドバイス件数は約6,000件。

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