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引用と断片と挿話

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雑記帳、スクラップブック。忘れたくないこと。
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記事一覧

悪い夢

 想像力のない人の空想ほど危険なものはない。というのは、その空想がそのまま現実になるからである。

(エルヴィン・シャルガフ『人間の生の遺産』より)

多神教の現在

 現代の生物学思想や歴史主義思想は、彼ら自体いろいろな見方があるにせよ、宿命について今までにない苛誥な信念をいずれもつくり出している。今日では業の力も、星辰の力ももはや人間の運命を不可避的に支配するものではなくなった。むろん、いろいろの力が支配権を主張してはいる。しかし、よく見てみると、多くの現代人は、ちょうど帝政末期のローマ人が混合した神々を信じたように、 いろいろのカの混合を信じているのである

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歩み寄り

ふたりの学者

 昔、アフカルの古代都市に二人の学者がいて、憎しみ合い、互いに相手の学識について言い争っていた。一人は神々の存在を否定し、もう一人は肯定していた。
 ある日、二人は町の広場で出逢い、互いの弟子たちに囲まれて議論を始め、神々が存在するか否かを論じあった。長い論争の果て、ふたりは別れた。
 その晩、神々を信じない方の学者は神殿に赴き、祭壇の前にひれ伏し、己の片意地であったことの赦しを神

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哲学徒たち

 ザハロの父親。ポーランド人だ。十五歳のとき、一人の士官の横っ面を張り飛ばす。逃亡。カーニヴァルのある日、パリにたどり着く。持っていた僅かな金でコンフェッティを買い、それを売る。三十年後に莫大な財を成し、家庭を持つ。全くの文盲だったが、彼の息子が、たまに本を読み聞かせる。息子は彼に『ソクラテスの弁明』を読む。
「もうほかの本は読まんでいい。そいつがすべてを言いつくしている」
と父が言う。以来、彼は

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xxxしないと出られない部屋

Cuando despertó, el dinosaurio todavía estaba allí.
(彼が目を覚ましたとき、恐竜はまだそこにいた。)

(アウグスト・モンテローソ『恐竜』より全文抜粋)

追憶の観念史(または紀元前3世紀のエモ)

50.亡くなった友達との思い出は、快である。

(エピクロス『断片』第二集より)

既知の、あるいは未知の

 迷路の中で生まれた者は、出口を探すことがない。出口があることなど想像すらできないからである。

大昔から出口が探され、現在でもまだ探されているという事実は、われわれ全員の中に、かつては外界というものがあったのだ、というぼんやりした、埋もれた記憶が生き続けていることを意味している。

(エルヴィン・シャルガフ『世界史に対する嫌悪』より抜粋)