石川裕二(編集者・ライター)

株式会社編まれた糸をほどいての代表です。『んぽちゃむ』が好きです。

石川裕二(編集者・ライター)

株式会社編まれた糸をほどいての代表です。『んぽちゃむ』が好きです。

最近の記事

好きなことで生きていかなくても、いい。

「好きなことで、生きていく」みたいな。あるじゃないですか。最近、その考え方が再び賛美されているように感じて、ちょっとこわいです。“好き”を生業にできなかった人が、まるで不幸だと言わんばかりで。穿った見方をし過ぎでしょうか。 でも、このキャッチコピーを目にする度に、胸が痛む人はいるでしょう。バンドでデビューを目指していたとか、漫画を出版社に持ち込んでいたとか。いろいろな人がいるはずです。だからやめろと言っているわけではないんですが、「好きなことを諦めた人もすごいんだぞ」と言い

    • ひとり出版社を目指して、法人成りしました。

      どうも、お久しぶりです。 なんと、タイトルの通り、法人成りしました。2023年7月の設立で、もうすぐ1期目を終えようとしています。個人事業主として独立したのが2011年で、当時26歳でした。12年間もフリーランスでいたものですから、このまま変わることなく、個人事業主を続けるものだと思っていました。 どうして法人化したのかと言えば、「個人でできることは、一通りやらせてもらった気がするから」です。メディアの仕事も企業の仕事も、知らない人がいないようなクライアントの案件に数多く

      • 幸せの根源にある「他人と比べないこと」

        毎日が幸せ、みたいに感じている人って、少ないのではないでしょうか。大体みんな、仕事や家庭の悩みを抱えていて、しんどいと思いながら生きているのだと思います。 そんな日常のなかにも、おいしいものを食べたとか、好きなテレビ番組を見たとか、好きな漫画の新刊が発売されたとか、好きなミュージシャンの新譜が発売されたとか、楽しみなことがぽつぽつとある。 そんな小さな、過ぎ去っていく日々にこそ、幸福は宿るのだと思います。 だから、人を羨んだりしても仕方がないと思うのです。もちろん、羨む

        • フリーの編集者・ライターになって10年が経った

          「会社に残って自社メディアに集中するか、自分のメディアで独立するか選びなよ」 ーー10年前に勤めていた、とある小さな出版社の代表から言われた言葉だ。当時、僕は自分のウェブメディアを立ち上げようとし、いくつかの取材を終えていた。選択を迫られたときに頭をよぎったのは、「取材をお蔵入りにさせることはあってはならない」という同代表の言葉だった。 東日本大震災が起きてから、初めて出勤した3月中旬の朝の決断。息子がようやく1歳になろうというタイミングだったが、僕は、2011年の5月1

        好きなことで生きていかなくても、いい。

          母の卒業アルバムに載っていた、名もなき詩の作者を探している

          「情は春の如く温かく 思いは秋の如く清くありたい」 ——70代の母の、高校の卒業アルバムに載っていた名もなき詩だ。 近年、母は物忘れがひどくなった。数分前に話したやりとりを1日に何度もする。それでも、特定の出来事はよく覚えている。毎日のように口にするのが、高校卒業後、大手デパートの呉服売り場に就職したことだ。 「●●さん(母の旧姓)はやればできるから」と担任教諭に勧められて面接を受けたところ、見事採用。祖母は鼻をふくらませてよろこんだと、うれしそうに話す。 そんな時、

          母の卒業アルバムに載っていた、名もなき詩の作者を探している

          好きな音楽を広められない編集者の無力感

          あまのじゃくなのか、自分のいいと思ったものが相応の評価をされていないと、すぐに「おかしいよなあ」と思ってしまいます。こんな出だしで紹介するのも失礼なんですが、昨日、BAROQUE(バロック)というビジュアル系バンドのライブを観るために、渋谷にあるオー・イーストまで行ってきました。約1300人を収容可能なライブハウスです。ビジュアル系と言っても、漆黒の衣装をまとって血糊を塗りたくり、月夜の下で「愛してるよ」と言いつつ恋人の眼球をくり抜くような曲のバンドではありません(そんなバン

          好きな音楽を広められない編集者の無力感

          世界が困らなくても僕はさびしい

          夏は弔いの季節なのだ、と誰かが言っていた。6年前の8月に旅立ってしまった、一人の女性を思い出す。 まりさんと出会ったのは、彼女の誕生日だった。僕がまだ大学2年生の頃のことだ。彼女は、僕が当時付き合っていた女の子と仲が良くて、飯田橋にあるカナルカフェで一緒にお祝いをした。 「ごめんね、入稿がおしちゃって」 予定の時間に40分ほど遅れてきたエディトリアルデザイナーの彼女は、口を開くなりそう言った。「入稿」という言葉と、高級そうな黒い服に身を包んだ彼女に、出版業界に憧れていた

          世界が困らなくても僕はさびしい

          32歳のうつ病フリー編集者が8ヵ月ぶりに髪を切った話

          昨日、8ヵ月ぶりに髪を切った。1年ほど前にうつ病になってからというもの、外出するのが億劫になってしまっていたのだ。もともと長めだった髪はさらに伸び、昔のキムタクばりのロン毛になっていた。「ここまで伸びたら、逆に切らないのもありですよね〜」なんて美容師さんが言ってきて、まあ確かにシャレオツなクリエイター業っぽい雰囲気かも!?!?!?と思ったが、さっぱりしたかったので予約通りにカットとパーマをお願いした。 不思議なもので、髪を切ると憑き物が落ちたように心が晴れた。で、楽しくなっ

          32歳のうつ病フリー編集者が8ヵ月ぶりに髪を切った話