好きな音楽を広められない編集者の無力感

あまのじゃくなのか、自分のいいと思ったものが相応の評価をされていないと、すぐに「おかしいよなあ」と思ってしまいます。こんな出だしで紹介するのも失礼なんですが、昨日、BAROQUE(バロック)というビジュアル系バンドのライブを観るために、渋谷にあるオー・イーストまで行ってきました。約1300人を収容可能なライブハウスです。ビジュアル系と言っても、漆黒の衣装をまとって血糊を塗りたくり、月夜の下で「愛してるよ」と言いつつ恋人の眼球をくり抜くような曲のバンドではありません(そんなバンドいるのか)。記事の最後に、彼らのオフィシャル動画へのリンクを貼っておきますね。

BAROQUEのライブに行くのは、14年振りでした。ライブには足を運んでいなかったものの、音源はずっと追い続けていたので、ファンと自称していいと思います。事実、彼らのつくる音楽が好きです。ボーカルの怜(りょう)さんは1982年生まれ、ギターの圭(けい)さんは1984年生まれで、今年33歳になる私とは同年代。その波乱万丈なバンド人生を見続けてきたこともあり、一緒に歳を重ねてきたような思いすら勝手に抱いています。それと、10代の頃に新星堂北千住店のインストアイベントで2人に握手してもらっています。「お、おおお、応援しています」と緊張して吃(ども)る私に、圭さんが「男うれしいっす!」とあたたかい声を掛けてくださったことに感動しました。立派なバンギャ男(お)でしたね。あはは。

で、どうして14年振りに彼らのライブに行こうと思ったのかといえば、理由は3つあります。1つは、先日、PIERROT(ピエロ)とDIR EN GREY(ディルアングレイ)のジョイントライブ「ANDROGYNOUS」を観に行ったのですが、そこで仲良くなった方と往年のビジュアル系トークをして気分が盛り上がっていたこと。好きなものやことについてワイワイ話すのって、どうしてあんなに楽しいんでしょうね。

1つは、自分が昨年5月にうつ病と診断され、過去に適応障害を乗り越えた怜さんの存在が気になっていたこと。彼は2009年に『鬱病ロッカー』という著書も出しています。

1つは、2015年5月に彼らがリリースしたアルバム『PLANETARY SECRET(プラネタリーシークレット)』が非常に好みだったからです。音楽はもっぱらダウンロードで購入するようになりましたが、わざわざCDを買うほど良かった。良かったんです。「これは売れてほしい」とまで思いました。

しかし、オリコン週間チャートでは初登場73位。まあ、このご時世にオリコンチャートを持ち出すのもどうなのよ、という意見はあるでしょうが、一つの指標にはなるでしょう。私は、この順位を見て、思いっきり肩を落としました。スマホを見ながら、「えぇーーーっ」と口を開けて言いました。ちなみに、2013年4月発売のアルバム『ノンフィクション』は同7位です。

約2年の間に何があったのかと言えば、4人いたメンバーの内2名が脱退しています。これは、なかなかの衝撃でした。というのも、このBAROQUEというバンド、2004年に一度解散して、2012年に再結成しているんです。復活に際して行われた無料ライブのレポートを読むと、怜さんの「もう止まらないよ。ずっとドキドキさせてやるから」という言葉があり、4人の強いきずなを感じたものです。さらに、復活後初のリリースとなる3枚同時シングルは、オリコンチャート3〜5位に並び、順風満帆だと思っていました。ところが、2012年6月にベースの万作(ばんさく)さんが失踪し、後に脱退。次いで、2013年にギターの晃(あきら)さんが脱退します。

再結成前も、ドラマーが2回脱退したり、素行不良を理由にバンド活動停止を言い渡されたり、結成から約2年での武道館ライブという華々しいメジャーデビューから約1年で解散したりと、まあ、いろいろあったのですが、往年のファンからしたら「ここに来て、メンバーの脱退はさすがにきつい……」という気持ちがあったのかもしれません。私なんかは、主に音源を追い続けてきたのでショックが少なかったです。さすがに驚きはしましたが。でも、彼らはアーティストなので、作品とライブこそが正義だと思っています。むしろ、音楽活動を続けてくれることこそが、私にとっては最大の幸せです。

「幸せです」と言い切りはしましたが、好きなアーティストには大きい舞台に立っていてほしいと願うのも、ファンの性(さが)ではないでしょうか。バロックは、衰退しつつあったビジュアル系ブームにおいて、薄めのメイクにカジュアルな衣装で“オサレ系”というジャンルを打ち出した元祖とされ、絶大な人気を誇りながらも活動期間がわずかだったことから、“伝説のバンド”とも言われる存在です。

そのバンドのツアーファイナルが、好きな箱とは言えども1300人規模のライブハウスでは物足りない、と思ってしまった。失礼なのは承知の上ですな、彼らの描く世界を存分に表現できるステージでもライブをしてほしいじゃないですか。ライブ会場で大勢の観客を目にして、「自分と同じ音楽を好きな人が、こんなにもいるのか」と思いたいじゃないですか。景色と化した私たちファンの姿を、メンバーの目に焼き付けてもらいたいじゃないですか。彼らが10代の頃から長年にわたって研ぎ澄ましてきた音が、もっと遠くまで飛びたがっているように聴こえました。

たとえば、イチローが家の前の壁に向かってレーザービームを投げていたら、窮屈そう。すごい球を投げることがわかっているんだから、もっとスタジアムの端から端までグイーーーーーーーン、と伸びる球の軌道を見たいじゃないですか。で、おーパチパチ、としたい。

動員数だけじゃない、販売枚数だけじゃない、それはわかっています。大きなお世話なのは、承知の上なんです。でも、BAROQUEかっこよかったんだもん。もっと、たくさんの人に共有してもらいたいじゃないですか。

おれはね、昨夜のライブで、彼らの音に溶けきることができなかったんです。自分は10年も編集者・ライターという仕事をしていながら、どうしてBAROQUEのことを伝える努力をしてこなかったんだろうという自責と後悔が、ライブ中もずっと胸の中にあって、もう、そんなことばかり考えていて棒立ちですよ。自分は音楽畑の人間ではないので、彼らに取材する機会がなかったわけですけど、著名人やミュージシャンの取材は数え切れないほどしているわけで、それは言い訳であり、怠慢でしかなくて、ステージを観て「うわ、かっこいい」と思うと同時に、「はあ。おれってやつは……」となってしまいました。

それでも、2004年の解散ライブの最後の曲「グラフィックノイズ」の演奏が始まると、心が一気にステージに連れ去られました。同ライブのライブDVDを何度も何度も繰り返し観た私にとっては、とても思い入れのある曲です。当時、行きたくても行けなかったライブの、聴きたくて仕方がなかったあの曲を、いま、目の前で弾いている、歌っている。そう思うと、目の奥から熱いものがこみ上げてきました。そして、フラッシュバックするDVDの映像とは比べものにならないほどの洗練された音に、表現に、心に触れて、こんなにもかっこいい彼らのファンであることを誇らしく思いました。……で、冒頭の「おかしいよなあ」に戻るわけです。

この仕事をしていると、こうして、とてつもない無力感に襲われることがあります。せめて、彼らの力になれずとも、何かの形に残しておきたいーーそうすることが、自分なりの誠意のように感じています。というか、昨晩、彼らからもらった感情があふれてしまって、文章にせずにはいられませんでした。次のアルバムのリリースが、ただただ楽しみです。

https://youtu.be/4dm5kyftn3E

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