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【要約】ジェンダーと経済格差(著:筒井淳也)

本文は『ジェンダーの発達科学』の第18章より。

社会に埋め込まれたジェンダー問題

 ジェンダー研究はその系譜的に、「経験の言語化」により紡ぎ出される研究であり、日常経験と学問知が相互に影響し合うものであると言える。ジェンダーの問題化と社会とが関係を持ってきたということは、同時に、ジェンダーの問題化は時代や地域ごとに異なっていたということでもある。
 社会経済の構造は資本主義の発展、すなわち雇用労働の変化とともに変化したが、同様に家族の形態も、父親という経営者を頂点とする自営業的経営主体から、一家族の中で男女共に家族外の企業に雇われる形へと変化した。賃金格差の問題は現代においてジェンダー問題化されるべきものであり、雇用経済が浸透する以前における問題は、経営主体(男性)と隷属的な被雇用者(女性)の関係性にある。このように、時代背景や経済構造とジェンダー問題は密接な関係にあると言える。

労働のジェンダー格差を見る視点:「M字カーブ」を例に

※この節は、定量的な調査における数値の解釈の妥当性について、詳細な議論がされています。このnoteで内容を丁寧にまとめることが出来ません。是非本文を読まれることをお勧めします。

 労働におけるジェンダー格差が問題になるとき、格差を記述するために数値データが参照されることがままあるが、注意が必要である。例えば日本の行政においては長く女性の労働力参加率向上が目標とされてきた。しかしこれには2つの深刻な問題がある。1つは、1970年代以降にM字カーブの落ち込みが改善されたのは未婚化が進み就業が継続されたためであり、現実に即していない点である。2つめは、労働力参加率の集計方法にある。国勢調査をもとにした算定基準においては、調査期間(1週間)のうち少しでも「仕事をした」場合には「労働力状態」にあると判断される。このように、労働力参加率は解像度の粗い数値になっている。

「ジェンダーと労働」において何を問題にすべきか

先進福祉国家におけるジェンダー問題の多様性

 現在、先進福祉国家諸国の福祉・ケアの分野におけるジェンダー問題は下記のように異なっている。

  • アメリカ型
    民間雇用セクター主導。自国の経済優位性を前提として、女性移民や特定の民族の女性に家事育児・ケアを担ってもらう型。

  • 北欧型
    共働き夫婦を標準として、女性を公的機関が大量雇用することで賃金格差を抑えつつ、ケアを社会化する型。

  • 南欧・東アジア型
    性別役割分業を抑えつつ、家族によるケアを重視する。

 社会背景毎に問題とすべき労働とジェンダー問題は一様ではない。
では日本における労働とジェンダーの問題はどうであるか。

日本における労働とジェンダーの問題

 日本の優勝労働におけるジェンダー格差には、長時間労働や無限定的な働き方を求める「男性的働き方」が標準であることが背景にある。指導的地位に従事する女性は、性別分業役割としてのケア役割に加え、「男性的働き方」の二重の役割が求められる。また、社会保障体制が性別分業世帯(男性稼ぎ手夫婦)に照準を合わせたものになっているため、ケア役割と稼得役割を一手に担うひとり親が余裕のある生活を送ることが難しい。その結果、賃金において不利な女性のひとり親であるシングルマザーの貧困が深刻になっている。

こころと社会構造におけるジェンダー

 時代や社会において問題とすべきジェンダー構造が異なるのであれば、発達過程において問題とすべきジェンダーの問題も異なるはずである。ジェンダー研究においては、その時代・社会において置かれた「こころ」の文脈にも一定の理解が必要である。


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