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56万点の診療明細(写真あり)を手にした時【大学病院血液内科12日目】

『一度減ったのに、薬がまた増えちゃった』そう父がぼやく。

ステロイド、腸を動かす薬、利尿剤、眠剤…など父は数種類の薬を飲んでいるが、体調や検査結果の数値によって量を調節されながら服薬している。粉薬が飲みにくく錠剤にしてもらうなど、先生に相談しながら種類もいろいろ変わっているらしいが、今回は利尿剤の作用でカリウムの値が下がってしまったそう。アスパラカリウムというちょっと可愛い名前の薬が再び復活した、とのことだった。

だから私は、らくらく服薬ゼリーを買っていった。粉薬はさすがに難しいが、いくつかの錠剤をまとめることができるので水分でお腹がパンパンになるのは多少防げると思って。そうしたら今度はゼリーでお腹が苦しい…ということで早々に卒業するハメに。そりゃそうか、なんで気づかなかったんだろうな、自分。

笑顔で渡されるA4封筒

どこの病院もだいたい似通っているのだろうか?当月分の入院費用は翌月の10日頃に確定し、請求書が手元に届く。この時はちょうどお正月休みを挟んでいたから少し遅くなっていて『請求書いつ届くんだろうね』と父が良く言っていた。

ある日の面会が終わり、受付にお辞儀と挨拶をして帰ろうとしていた私を受付のお姉さんが呼び止めた。

『先月分のご請求書です。ご確認お願いします』

そう言って、父の名前と診察券番号が書かれたA4サイズの茶封筒を笑顔で手渡してくれた。

受付のお姉さんはどこの病棟の方も本当に感じがいい。いつも親切に事務手続きをしてくれるし、面会の帰り際には「ご苦労様でした〜」と笑顔で挨拶をしてくれる。特に請求書を渡す時「だから」笑顔だったわけではない。

(ついに、きた!)

帰ろうとしていた体の向きをくるっと翻し、封筒を手に父の病室へ戻る。カーテンを開け、テレビのイヤホンを付けようとしていた父に『お父さん、今、請求書が来たよ』と言って請求書を出して見せた。

父が1枚の請求書を見ている間、私は今月もご多分に漏れず分厚い診療明細書に目を通す。前回の明細は1枚250万だったもんなぁ…

父は、請求書の合計額を見て、それから内訳を見て、頭の上にちょっとはてなマークが浮かんでいた感じだった。前回、前の病院の請求書を見せた時はまだ症状が安定しておらず細かい説明を省いていたので、請求書の見方がよくわからないようだった。

それと、内訳の数字がちょっと非現実的な数字だったから、という理由もあると思う。

診療点数合計56万点の明細

『これ、結局いくらなの?』と父に聞かれる。

どれどれ…と父の持っている請求書に目をやると、右下の合計額には70,756円とある。『お父さん、これが請求額だよ』と伝えると、そうだよなとホッとした様子。

父を惑わせていたのは、診療点数の合計だった。

実際の請求額は、右側の「負担額小計(1),(2)」の合計になる。つまりその内訳はこの請求書だと、高額療養費制度の限度額(公費一部という項目)の57,600円と高額療養費が適用にならない(食事療養費)の11,040円、そして病衣代の2,116円になっている。

その小計の上にある「合計」欄には【562,871”点”】とある。おそらくこれが父の頭の上に浮かんだはてなマークの正体だと思う。

診療明細は点数で表示され、その1点は金額に換算すると10円になる、という話は前にも書いたかもしれない。そう、父の大学病院救命救急センターでの入院費は公費負担がなければ562万円だったのだ。

通常ならば健康保険の自己負担は父の場合3割。高額療養費制度を使っていなかったらなんと、187万円もの治療費が請求されるということになる。しかもこの金額は期間がまるまる1ヶ月ではない。父は12月中旬に大学病院に転院してきたので、およそ20日間強の間の治療に対する明細なのだ。

うち「包括診療」という項目が、救命病棟でのベッド代にあたる。集中治療や救急加算なども入れ、271,453点(約271万円)かかっているということになる。やっぱりざっと1泊13万円なのだ。以前、スター先生が『ここはベッド代が高くなるから』とおっしゃっていた意味がよくわかる。

その他、「手術料」という名目にある点数は父の場合、輸血になる。輸血も高額でしかも貴重。成分輸血ができなかったら父はどうなっていたかを考えると、輸血ができることは本当にありがたいことなのだと心から思っている。

ありがたや、健康保険!

父にこれらを説明し、『自己負担額以外の部分は全部、健康保険が病院に払ってくれるんだよ』と伝える。父と顔を見合わせ「本当にありがたいよね、健康保険」と、天に向かって手も合わせた。

高額療養費制度は「月ごと」「病院ごと」「入院・外来ごと」「医科・歯科ごと」で分かれている。同じ月に2つの病院に通ったり、同月に外来と入退院があるような場合、それぞれかかった治療費に対し限度額の負担が必要になる。

父はこの月、地元の総合病院と転院して大学病院と、2つの病院にお世話になったので、上の請求書のほかに退院した地元の総合病院に7万円ほどをすでに支払っていた。1ヶ月の治療費自己負担は14万円強ということになる。

それでも、もしも高額療養費制度が使えなかったら、父のこの月の治療費はざっくり800万円を超えるような額になっていた。健康保険の3割負担だとしても240万円。それだけ、集中治療、救命医療というのは高度なものだということ。

公的医療制度には本当に感謝しかない。特に若い頃は「病院行ってないのになんで払わなきゃいけないの?」とか思ったことがないわけじゃない。あの頃のいきがってた自分に平手打ちをお見舞いしたい。

この日無事に支払いを終え、父に報告した。

もちろん、1ヶ月7万円とか10万円を超える治療費は決して小さな負担ではない。まだまだ入院期間はかかると先生にも言われているし、外来治療に移行できたとしても数万円の自己負担が毎月のしかかってくるという話も聞く。

それでも。

父の命を救ってくれた集中治療が、それこそ何百万とかかるような高度な医療が受けられるということ。その上で自己負担に限度額を設け負担を軽減してくれていること。これはもう、ただただ感謝の一言に尽きる。

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