抜井宏樹

海外在住歴約30年、言語学博士の筆者が、グローバル人材、外国人とのコミュニケーション、…

抜井宏樹

海外在住歴約30年、言語学博士の筆者が、グローバル人材、外国人とのコミュニケーション、多文化共生、ヨーロッパ文化、ポーランド情勢なとについて日頃考えていることを綴っていきます。

最近の記事

英語の発音改善には音声治療?!

英語だけでなく、各言語にはそれぞれ特有の発声・発音体系があり、長年母国語だけ話して生活している一般人に場合、声帯、喉、舌、口などの発声器官がこれに固定されてしまうらしい。 また、聴覚についても同様で、長年母国語のみに囲まれた環境で過ごしていると、母国語では使われない音素が識別できなくなり、外国語習得時に、聴覚的に新しい音に慣れる必要性がある。 これを前提に、ネイティブ英語の習得を目指すことを考えると、母国語とは全く異なる発声・発音をするためには、固定化された発声器官のリハ

    • 体制転換期の経済構造の変化(2)

      3)産業構造 産業構造も大きな変化を遂げた。 計画経済が崩壊した1989年時点では、全産業に対する第一次、第二次産業就労者の割り合が60%を越えており、サービス業は未発達であった 。しかし、10年後の1999年には、第一次産業27.5%、第2次産業27.8%、第3次産業44.9% という大きな変化を遂げている 。 また、全就業人口に対する鉱工業部門就労者のシェアは、1989年の29%から2000年の20.7%へ減少。農業部門では、就業者減少幅は小さかったが、EU加盟を果たす

      • 体制転換期の経済構造の変化(1)

        体制転換により経済は制度面における変革に成功しただけでなく、構造面においても大きな変化遂げている。 1)民間企業が主役へ 1980年末期には国営企業がGDPの約70%、鉱工業生産の約90% を創出していた。体制移行後には、GDPの民間企業シェアは1990年の31%から2001年の72%へと拡大している。また、小売総額に関しては、1989年に民間セクターが創出したのは全体の約60%であったが、2001年には約98%にまで達した。 2)貿易の重心は東から西へ 共産主義時代には

        • アメリカ人発音矯正専門家の分析

          ハリウッドで活躍する日本人俳優・女優の英語の発音指導などを手掛けているスコット・ペリーという人物がいる。30年近く日本人を対象にして、ネイティブ英語への矯正を指導している。 ネイティブ英語を目標としている点で、「グロービッシュ」や「訛り英語」で十分とする筆者の立ち位置とは異なるが、日本人の発音に関する根本的な課題については共感するところが多い。 ベリー氏は「日本人が英語の発音に悩む3つの理由」として、以下の3点を挙げている。 1.口の筋肉トレーニング不足 2.間違った

        英語の発音改善には音声治療?!

          体制転換後の国際社会復帰(1)

           今でこそ、ポーランドが共産主義国であった事実は昔話となりつつあるが、体制転換からまだ30年程度しか経過していない。この間、共産主義・計画経済から民主主義・資本経済への大転換を遂行する同時に、EUとNATOといった西欧社会の枠組みへの復帰や、世界的潮流となったグローバル化への対応を迫られるなど、まさに激動の時代を歩んでいる。 前体制下の経済概要 約半世紀続いた共産主義体制の末期、80年代には経済の一部自由化も試されたが効果を表さなかった。旧体制下では、国営セクターがGDPの

          体制転換後の国際社会復帰(1)

          日本語の発音の特徴:音の作り方の違い

          これまで、ネイティブ英語を目指す必要はなく、母国語訛りがあっても英会話は十分通じるということ点を、色々と切り口を変えながら説明してきた。 しかし、英語だけでなく、外国語全般を考えたとき、日本語特有の発音の仕方がコミュニケーションの障害になると思われる点が多々ある。 英語の発音と聞くと、どうしても「th]や[v]の音、 [r]と [l]の違いなどを個別の音の問題がまず思いつく。「舌を上下の歯の間に入れる」、「下唇を噛む」、「巻き舌で発音する」、「下を上あごから離さない」など

          日本語の発音の特徴:音の作り方の違い

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(4)

          体制転換から西欧復帰 共産主義体制崩壊後には、経済の建て直しを図る「ショック療法」を皮切りに、諸制度の改革が短期間で断行された。一時は急激な変化による副作用も招いたが、大筋ではポーランドは政治・経済的に安定した発展を遂げている。 体制転換後の内政面に目を転じると、政治、行政・社会基盤・経済制度、医療制度、年金制度、教育改革など、歴代政府は改革に次ぐ改革を余儀なくされた訳だが、このように劇的に変化する変革期の混乱の渦中、政界・官界の汚職や腐敗は長期間改善されず、市民の政治に

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(4)

          訛り英語の方が分かりやすい!?

          我々は概ね、日本人の英語はどこに行ってもわかってもらいないと思いがちだが、強ちそうでもないようだ。 東アジアの英語ノンネイティブにとり、日本人が話す英語は、英語ネイティブスピーカーより分かりやすいという調査結果がある。つまり、ノンネイティブスピーカーが大半をしめるような組織やグループ内では、ネイティブレベルの英語の発音は絶対条件ではないだけでなく、逆に理解度を下げてしまう結果を招きうるということを示している。 発音はまた、アイデンティティと深く結びついていて、ナイジェリア

          訛り英語の方が分かりやすい!?

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(3)

          共産主義から西欧復帰へ ポーランド統一労働者党による実質的一党支配、共産主義、計画経済が45年間続いたことで、国情は 「社会は効率的で確かな労働、独立した考え方を忘れてしまい、非常に多くの者が企業精神や困難を自分で克服する能力をも失ってしまった」 (Eisler. p224) と形容される状況に陥った。 計画経済もまた体制末期には窮地に追い込まれている。状況改善を図った当時政府は、80年代に経済の部分的自由化を試みたが、国内の危機的な状況は一向に改善せず、皮肉にもかえっ

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(3)

          ネイティブ英語ではなく明瞭性、理解性を目指す

          英語学習者、とりわけ日本における英語学習の方向性がネイティブ英語を目指している点については、以前の投稿で幾度か疑問を呈してきた。 外国語教育の専門的な知見からすると、母語話者の発音を目指す母語発音原則(nativenss princeple)と、いわゆる外国語独特の訛りを容認したうえで、「通じやすい」発音を目指す明瞭性原則(intelligibility principle)のアプローチがある。 発音の枠を超えて、語彙使用や文法も含めた上で、母語話者が聞いてどれだけ理解で

          ネイティブ英語ではなく明瞭性、理解性を目指す

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(2)

          地域間発展格差の要因 前述の3分割、第二次大戦後の国境変更という歴史的要因が今日の地域間格差問題の根底にある。 大過を招いた第2次世界大戦後の復興を共産主義体制下で遂行することになるが、戦後もまた茨の道であった。 戦後から70年代に渡る約30年間、国家の工業化は確かに進んだが、この裏で政府指導部は農業セクターに対して「搾取的態度」を示し続けた。70年代に入りようやく農民を配慮した農業政策へと変換され、70年代後半には一般労働者と同等の社会保障制度も導入された。80年代入り

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(2)

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(1)

          現在ポーランドや欧州近隣地域で起こっている事を理解するため、この大前提となる歴史的バックグラウンドを簡単にまとめてみたい。 分割時代 ポーランドは18世紀末期に、当時の欧州列強であったロシア、プロイセン、オーストリア3国により国土を分割支配された苦い歴史を持つ。1772年、1793年の第一次、第二次を経て、1795年の第三次分割により独立国家としてのポーランドは完全消滅。その後、半独立状態にあった期間を経て、1918年に完全に国家独立を取り戻すまで123年間にわたり列

          現代ポーランドの歴史・地理・社会的背景(1)

          ポーランド情勢を見る視点:前書

          18世紀末から20世紀初頭にかけ欧州列強諸国により国家主権を蹂躙され続け、第二時世界大戦後にはソ連の衛生国と化し、約半世紀にわたり共産主義単独政権により国家支配を受けるという屈辱的な歴史を経験し、本来のポテンシャルを押し殺されて生きたポーランド。今、中欧の大国として注目を集めつつある。 同国のポテンシャルを実証した史実がいつくか欧州史に刻まれているが、現代史においても東欧民主化の端を開いたのはまさに同国であった。 第2次世界大戦後の共産主義体制下、体制自体に内在する矛盾や

          ポーランド情勢を見る視点:前書

          パワーディスタンス・権力格差とは?(1)

          ホフステッド6次元モデルにパワーディスタンス、つまり権力格差と指標がある。 これは上下関係のことであるという説明を一部ネット上で見かけるが、やや誤解を招く恐れがあると感じるので、原著に基づいてひも解いてみたい。 権力格差を説明するにあたり、原文ではまず、世界各国でみられる権力格差や社会的不平等について触れられている。ホフステッドモデルの次元として権力格差(PDI)は、以下のように説明される。 社会的弱者から見た場合の権力格差に対する期待と受容。つまり、権力者、成功者、上

          パワーディスタンス・権力格差とは?(1)

          国民文化の「文化」って何だろう?

          一口に「文化」といっても、正直何を指しているのかあまりピンとこないという人が多いのではなかろうか? 学術的な定義もあるが、分野によって異なるのが事実だ。 国民文化比較の先駆者・ホフステッドは文化を「思考のプログラム」と位置付けている。分かりやすく言えば、考え方や行動、態度を形成するベースとなる国民特有の癖や傾向だ。 初期の文化指標を国際企業の研究から抽出しただけに、組織文化についても考察している。 一人の人間の「思考のプログラム」は階層的で、国民文化は家庭環境や地域文

          国民文化の「文化」って何だろう?

          日本と中欧は意外と似ている?

          ホフステッド全6指標を考慮して文化間の異なる度合いを分析した場合、非常に大雑把に結果を説明すると、日本との距離がもっとも近いのが中央ヨーロッパ諸国になるらしい。これに対して、距離がもっとも遠いのが北欧諸国となる。 秀逸な分析結果を見つけたので、ぜひこちらを参照していただきたい。    参照:http://blog.brainpad.co.jp/entry/2014/11/28/211728 ただ、国民文化比較で注意したいのは、たった6つの指標に基づいて、ある国の平均的な

          日本と中欧は意外と似ている?