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「エンジニアの教育に手が回らない」スタートアップあるあるに、先輩CTO/VPoEはどう対応した?

新卒や若手エンジニアを採用してぶち当たるのが育成の問題。教育のために多くの時間が取られたり、コードのクオリティが保てなくなってしまったりと、人数が増えてもかえって生産性が下がってしまいがちです。

スタートアップの技術領域の方に向けた勉強会「GBIL Tech Meetup」。後編では、Speee VPoEの大場光一郎氏に加えて、エステートテクノロジーズ CTOの池上俊介氏、元Wantedly CTOであり現在はグローバル・ブレイン株式会社のVenture Partnerである川崎禎紀氏も迎えて行ったパネルディスカッションの内容をお届け。三者が持つ実践的な育成ノウハウが語られました。

前編はこちら


新卒で見るべきは「能カ」か「カルチャーフィット」か

※モデレーター:グローバル・ブレイン(GB) Value Up Team 二宮啓聡

──大場さん、キーノートありがとうございました。それでは池上さん、川崎さんにも加わっていただきパネルディスカッションを始めていきたいと思います。自己紹介からお願いいたします。

池上俊介氏(以下、池上):エステートテクノロジーズの池上と申します。AIやビッグデータを使って、不動産情報を解析する事業を行っています。GBさんから投資を受けており、また今日のモデレーターの二宮さんにはアジャイルコーチとして支援をしてもらってます。今日はよろしくお願いいたします。

川崎禎紀氏(以下、川崎):初めまして、川崎と申します。去年まではWantedlyでCTOをしていまして、今はGBのVenture Partnerとしてスタートアップの方々のお手伝いをしています。新卒採用もかなりやっていたので、大場さんの講演に通じる話もいろいろできればなと思っています。

──早速、参加者の方からいただいている質問をもとに話をしていければと思います。まずはこちら。「新卒採用では実務経験のある人よりも地頭がよくカルチャー吸収してくれそうな人を採用するのが結局いいのではないかという気がするのですが、皆様は新卒のハードスキル・ソフトスキルをどのように定義して、どう母集団を探していますか」。

大場:まさにおっしゃる通りで、育成しやすい・成長しやすいみたいな観点だと内定時点で学んでいるスキルってあまり関係なくて。スポーツやってる元気な子、みたいな方のほうが成長しやすかったりします。なので技術経験も見るんだけど7〜8割ぐらいはカルチャーフィットを見てますね。もちろんどちらも重視はしてますが。

川崎:Wantedlyではプログラミングができるっていう条件はもちろん置いてたんですけど「どれくらいの期間でできるようになったのか」も見ていました。たとえば、中学生から十何年とやっている人と、ここ1~2年で同じことができるようになった人を同じ基準で比べるのはちょっと違うのかなと。

あとはやっぱりカルチャーですね。うちのカルチャーで活躍できそうかを見るために一番良かったのはやはりインターン経由での採用ですね。50人規模ぐらいまでは通年でいつでもインターンを受け入れる形にしていたので、その中で自社と仕事の仕方が合っていそうな子に「受けない?」と話をしていました。会社ごとに仕事の仕方や活躍するタイプって絶対違うと思うので、インターンで確かめるのは良いのかなと。

(写真左から)GB二宮、大場氏、池上氏、川崎氏

池上:弊社では「週末に自分でプログラムを書いてますか」っていう質問は必ず入れてます。やっぱり単に仕事としてやってる人と、技術が好きで自分で作ってる人とでは取り組み方が違うと思うので、できれば趣味でも作っている人を採用したいかなと。ちなみに、Wantedlyさんは就職市場において一定のブランドがおありなのでインターンの方もひっきりなしに来られるんですかね?

川崎:知られてない会社ではないですけれども、それでもメガベンチャーのDeNAさん、グリーさん、サイバーエージェントさん、リクルートさんに比べたら全然知名度は低いので、結構力を入れて宣伝してました。大学を回ったり、先輩から後輩を紹介してもらったり。

あとこれは新卒採用Tipsみたいになっちゃうんですけど、インターンの情報が集まる「魔法のスプレッドシート」っていうのが世の中に出回っていて(笑)。各社のサマーインターンやスプリングインターンの会社名、条件が一覧になるシートがあるんです。そこに自社の情報を追加しておくと流入が一定確保できます。そこから来た子はいろんな会社を見てきているので、その後の採用で競合がめっちゃ増えてしまうというデメリットはあるんですが、そういう方法もあるかなと。

3社の事例で考える、新卒採用のベストタイミング

──ありがとうございます。続いて「新卒や第二新卒を採用することになった経緯やフェーズ、その際の課題感について教えてください」という質問です。

池上:弊社は、IT人材の採用が今後ますます難しくなるという課題感からですね。人材の取り合いが起こる中で、中途だけではなく新卒の方にも魅力付けをして来てもらう必要性を感じていました。

余談ですが、私はサッカーが好きで、漫画の『アオアシ』に出てくる好きな話があるんです。主人公チームの監督は、チームの選手をほとんどを自分たちで育ててきた選手で固めているんですね。そうしたほうが個々の特性がわかって配置もベストなものにできるので、外から優秀な選手を採るよりもチームとしては強くなるんです。うちもそういう感じで新卒・第二新卒でチームを固めて、この局面を乗り越えていきたいなと思ってます。

川崎:Wantedlyは2012年にサービスが始まって、2016年に新卒1期生が入社しているので、かなり初期から新卒採用をやってました。何か課題があって始めたというよりは、戦力として活躍してくれている子がいたから採用したという感じです。中途の方よりも新卒の子たちの方ができるんじゃないかと思うこともあったので、積極的に新卒を取っていこうと。

会社全体の年齢層も若かったので、下の子たちが入りやすい雰囲気もあったかなと思います。この辺は各社それぞれかと思いますが、ある程度の人数に達するまでは同じような属性の人が集まっている方が圧倒的に会社は運営しやすいです。最初からダイバーシティを求めすぎると厳しい面もあると思うので、すでに若い人たちが多い会社であれば新卒をもう始めてしまうというのは選択肢としてあるんじゃないかなと。

大場:逆にSpeeeは課題感があって新卒採用を始めました。実は僕が入社する前の2016~17年にもエンジニアの新卒採用をやっていたんです。やっていたんですが、やっぱり運用が大変だし、受け入れの環境も整ってないという事情で新卒採用を全部やめて、中途に振り切ったんです。即戦力重視で業界内で知られているスターエンジニアを採ったり、技術カンファレンスに協賛して認知を増やしたりして、中途採用だけを進めていました。

そんな中、2017年卒で入社してくれてた方が在籍8年目ぐらいになるんですが、本当にSpeeeを代表するようないいリードエンジニアに成長してくれて。でも、彼には後輩がいないんですよね。やっぱり人って、他人に教えるとさらに成長するじゃないですか。なので、この彼が育成をする機会やチャンスを奪ってきてしまったんじゃないかという課題感がすごくあった。こんなに立派に成長してもらったのに、次の世代に引き継げないのは長い目で見て大きな損失だと感じたのもあって、先ほどもお伝えしたように21卒から仕切り直して新卒採用を始めたんです。

川崎:今の話は、全体のテーマの「若手の育成」という話にすごく通じるなと思ってて。どこかの段階でメンバーの子をチームリーダーやマネージャーにしていくタイミングって来るじゃないですか。そういう時にいきなり「4~5人を見てください」ってやると、アドバイスやメンタリングの仕方も分からないんですよね。

なのでWantedlyでは、育成する側の準備段階としてもインターンシッププログラムを使ってました。若手の社員に「サマーインターンの子1人の面倒を見てください。その子が活躍するための手助けをしてください」とお願いするんです。すると、何をしたらこの子が成果を出せるんだろうって考える機会ができる。その子が成果を出せなかったとしてもメンターの社員に責任はないんですが、そういう風に考えてもらう実践の場としてインターンシッププログラムを使ってました。

若手ばかりの“カオス”、どう対応するか

──会場からの質問で「若手を増やして全体に占めるジュニアの比率が増えると1対1で指導できなくなる時がくると思いますが、そういった場合の育成方法についてお聞かせください」と来ております。

大場:これね…どうしようもないんですよ(笑)。身もふたもないですが。僕らもこの状況にならないよう頑張ってます。たとえば、新卒なら入社時期の順番を少しずつズラして入社できるように内定者アルバイトで受け入れをする、というようなこともしています。オンボーディングをズラすことによってこの事態を避けると。ただ、さっきお伝えしたように24卒は過去最大の人数が入社することもあり、いくら分散してもダメなので、どうしようかと対策してるところです。

池上:最近二宮さんにアジャイルコーチとして入っていただいてやっていることが、実はすごく育成にいいんじゃないかなと思っています。互いに自分の課題をカードで出していって、そこで話し合って解決していくんですね。プロジェクト推進のための仕掛けだと思うんですが、実はそれ自体が育成になっていて他の人と互いに補えるんですよね。

──少し補足すると、私はスクラムの一環で輪読会などもお勧めしていまして、そうした点も含めてスクラムは育成に良さそうだとおっしゃっていただいたのかなと思います。

川崎:たしかに同じレベルの人たちで教え合うというのは育成の1つの手ですよね。Wantedlyでも新卒同期で輪講などをやって、チームが違っても同じようなことで悩んでるときに解決しあってました。「同期のつながり」って日本的ですけど結構良いなと思います。

大場:ジュニア比率が上がりきる手前で、マネジメントに必要なものをある程度テンプレート化したり型化したりすることで、カオスをちょっとでも抑えられたらいいのかなと思ってて。目標設定はこうするとか、振り返り面談はこうするとか、エンジニアリングマネージャーがどうすればいいかみたいなのを、次の世代に渡しやすくする事前準備ができれば対策できるんじゃないかなと思います。

会社って「事業」と「人」と「ファイナンス」という3つの成長軸があると思うんですけど、伸びるベンチャーってだいたい最初に事業がバーンと跳ねて、それで焦って人をドーンって採って、あとからお金がついてくるみたいな。全部が均等に伸びるっていうタイミングはないと思うんで、皆さんどこかでこの壁には当たるんじゃないかなとは思います。

新人にどこまでのクオリティを求めるか問題

──避けたほうがいいけれども、どこかでは壁に当たるというのはわかる気がします。では次にいきましょう。「ジュニアに求めるべきクオリティをどう考えるべきでしょうか。ソースコードが規約に従っていなかったり構造が不適切であったりなどが多発した場合、双方ともに負担になるケースがあります」とのことですが。

川崎:1回のレビューで終わりじゃないので時間をかければいいのでは、というのが単純な回答です。ただこの具体例でいうと、規約はコードレビューではなくてフォーマッターで指摘すべきだし、設計が不適切ならペアを組んでいるシニアの仕事の振り方も考えた方が良いのかなと。本来はコードになる前の段階でこの助けを出すべきなんですよね。なのでこの相談がシニアから出てきているんだったらそういうアドバイスをしないといけない。

結局、継続して同じチームで開発していくので、最初にどれだけコストを払ってもクオリティが一定以上で担保されるようにすべきなんじゃないのかなというのが自分の考えです。ここでちょっと手を抜いたところで永久に大変になり続けるだけなので、ちゃんとやりましょうよと。

大場:川崎さんがおっしゃることは本当にその通りだなと。僕なりに補足すると、チームとしての必要なクオリティというのは下げてはいけないと思います。入ってきた新しいメンバーに合わせて下げちゃうとそれだけで負債が広がっちゃうんで、チームのコードのクオリティは変える必要はないと思います。

じゃあ何を変えるかというと、ジュニアに対して渡すスコープを変える。切り出した一部から入ってもらうとか、あるいは期間をめっちゃ短くして1〜2日でできるところからやってもらうとか。いきなり大きな領域をポンって渡すと、そりゃチームにオンボードしきれていない人のコードはlintに引っかかるでしょうし、マージできるクオリティにならないと思うので、スコープの階段みたいなのを作ってあげるといいんじゃないかなと思ってます。

池上:弊社もそうしています。ペアを組んで2時間くらいを目処にして、小さいプログラムを書いてもらって手直しして、その時間をだんだん伸ばしていく感じでやっていますね。

川崎:これはFacebookの中の人に聞いた話なんですけど、Facebookでは新卒に限らず新しく入った方には最初の1ヶ月で「ブートキャンプ」というのをやるらしくて。イシューリストが用意されていて、それをやると一通りFacebook社でのコーディングからリリースするまでを体験できるらしいんです。そのイシューは、絶対やったほうがプラスなんだけどクリティカルじゃないタスク、なんだそうです。やったほうがいいけど今はやれない、みたいなタスクって各社無限にあるじゃないですか。この新入社員にデプロイまでの一連のフローを体験してもらいながら、直す時間がない雑多なバグを解消するというのは、結構いいプラクティスなんじゃないかなと思ってました。

新卒がいる中で「中途」に期待したいこと

──ありがとうございます。時間も迫ってきたので、最後に会場からこれだけは聞いておきたいことがある方いたら手を挙げてください。

参加者:新卒をたくさん採っている場合、中途で採用するメンバーの位置づけや求める資質は分けていますか?

大場僕らは分けてないですね。基本、同じカルチャーの中で同じ船に乗れるメンバーを採用していくという方針なので。ただ一方で、会社ももう17年目で新卒から長く勤めてる社員も多く、「新卒文化」なカルチャーにもなってるんです。そこに中途でポンって入って活躍する難しさもあるとは思うんで、そこはオンボーディングを丁寧にしたり、採用の中でこういうカルチャーですよと伝えたりはしてます。そういうことを積み重ねているので、カルチャーが合いつつ経験値がある方はしっかりエンジニアリングマネージャーになっていただけていますね。

川崎:Wantedlyでは10〜20人規模くらいの頃は、中途は「会社にない技術を持ってきてくれる人」という位置づけでした。モバイルとかWebのフロントエンドに関して、会社の誰よりも詳しいものを持ってる人、大きく変えてくれる人というような基準ですね。50人くらいになってからは、ある程度カルチャーもエスタブリッシュされてくるので、そこに合う働き方ができる人というのが大前提でした。規模が大きくなるにつれて新卒も「スタートアップで成長したい」という意欲のある方が増えてくるので、中途にはそういう人たちを引っ張っていってくれるエンジニアリングマネージャー的な役割を期待するようになっていきましたね。

池上:うちではその方自身が活躍できるかももちろんですが、やっぱり周りに対する影響みたいなものもすごく期待したくて。その人がいることで新卒のメンバーも刺激を受けてステップアップできるような中途の方を求めたいなと。でもこれって諸刃の剣で、外の文化を知らない新卒に「外にはもっと楽しいところもあるぞ」みたいな話をされちゃうと集団転職に繋がっちゃう(笑)。

一同:(笑)

池上:でもやっぱり新しい血を入れていかないとガラパゴスになって、外では普通にできていることが全然できなくなってしまうので、やはり中途の方も適度に入れて盛り上げていきたいなとは思ってますね。

スタートアップも育成からは離れられない

──ありがとうございます。お時間になりましたので、最後に一言ずついただけますでしょうか。

大場:自分がやってきたことを改めて言語化したり、質問を投げかけていただいたことで自分自身も理解が深まったなと感じます。上手くいった話しか伝わってないかもしれないですが、僕たちも本当にいろいろな失敗をしてきました。今日のお話を通じて、皆さんが同じような失敗をせず、育成して活躍できるエンジニアが増える一助となればと思っています。本日はどうもありがとうございました。

池上:エンジニアって、ちょっと前まではどれだけ個人でやっていけるかみたいな感じでしたよね。育成もジェダイみたいに師匠と弟子のような感じで。でもスクラム中心の時代では、チームの中でいかに育成できるか、チーム全体がうまくいくかが大事になってくるので、求められる人材像がまた変わってきてるのかなと思います。AIやChatGPTなどが出てきてるというのもあり、職人気質だったエンジニア像がどんどん変わってきそうだなと。すごく面白い時代だと思いますので、皆さん一緒に楽しんでいきましょう。ありがとうございました。

川崎:スタートアップとかスモールビジネスって、少人数でできる人だけでやっていくのが楽しいしそれでもいいんですけど、先ほど池上さんが仰ったとおり人材不足なので、業界全体のことや会社の将来を考えていくと育成って絶対離れられないんですよね。なので皆さんも今のうちから力を入れてやっていっていただくといいのかなと思います。何らかの失敗はしてしまうと思うんですけど、そういうのを繰り返していく中でその会社にあった育成の方法が身についていくのかなと。そして、これはすごく時間がかかります。なので今のうちから少しずつ育成を考えていっていただければ、将来会社が大きくなった時も急に慌てなくて済むんじゃないかなと思います。ぜひ一緒に業界全体の底上げをやっていきましょう。本日はありがとうございました。

スタートアップ業界を支えるために

自社のエンジニア組織を強くし、より良いスタートアップにしていこうという意欲のある方たちが集う場となった本イベント。会場には、現役CTOやエンジニアリングマネージャーなど多くの方がご来場されました。

GBではこのように、これからのスタートアップを作っていく方々を支える試みを多数行っています。

本イベントを主催した「GB Innovators Lounge(GBIL)」の運営もその1つです。

GBILは、これからスタートアップでの活躍を希望される方に向けた無料のキャリア相談サービスです。求職者に対する中長期的な機会の提供を目指しており、ご希望のキャリアや働き方などを伺った上で、300社を超えるスタートアップネットワークから求職者のニーズにマッチした求人のみをご紹介いたします。

今回のような各種スペシャルイベントへのご招待もございます。詳細は公式サイトをご確認ください。

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