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暗殺オペラ

 ベルトルッチ2作目の紹介。(ベルトルッチは本当に紹介したい映画がたくさんある)

 もう私はこれを初めて見た時、オープニングで「絶対好きだ」って思った。しかしその期待を裏切られるのが怖くてドキドキしながら見た覚えがある。

  小説が原案だが、もともとはアイルランドの大英帝国からの独立運動についての話を、ベルトルッチがイタリアの反ファシズム運動に置き換えたものだ。舞台はエミリア・ロマーニャ州パルマ近くの架空の田舎町「TARA」(パルマはベルトルッチの故郷)。主人公は遠方から電車でやってくる。目的はその町にかつて住んでいた父の死の、その謎を解明すること。その町では父の名前の通りがあったり、銅像が至るところにあり、反ファシズム運動のリーダーであった父は町の英雄的な存在になっていた。会ったこともない父と主人公は瓜二つであることを知る。町民は皆大騒ぎする。父はファシズム派の人々に殺されたと伝えられているがどうも不可解な点が多い。謎を解明するために彼は父の元愛人(アリダ・ヴァリ)に会いに行くが・・・

 この映画は終始不可解なシーンが多く、最後まで曖昧な点も多い。まず物語に関して言えば、なぜ父の元愛人は彼を呼び寄せたのか、なぜ父は裏切ったのか・・・しかしそれよりも何よりも映像的に不自然なところが多い。例えば、父の回想シーンが時折混ざるのだが、父は主人公と同じ役者が演じている。なぜなら彼らは瓜二つだから。しかし回想シーンのはずなのに、愛人や友人は現在の老いている状態のままである。現在と過去の切り替えも曖昧なので、これは今なのか昔なのか一瞬分からなくなるし、主人公の服装を見て、あっやはりこれは過去だ、と一旦思ってもまたすぐ、いやこれは現在なのではないか、と考え直してしまう。これはもしかしたら、過去の話を現在の人々が演じているのではないか、とも思ってしまう。町の人たちもいたって不自然。不可解なことが起こっているのに、「みんな友達だよ」と言い、なんだか口裏を合わせているよう。もしかして町の人たちも劇のエキストラなのではないか?まるで町中がオペラの舞台に見えてくるのである。(演じているような演技をさせるため、ベルトルッチが細かな演技をしたのだろうことが安易に想像される)

 いつも映画の原題と邦題を比べて(だいたい邦題を批判して)しまう私であるが、この邦題はすごく好きだ。まず原題は”Strategia del ragno”、直訳すると「蜘蛛の策略」、蜘蛛の策略にハマって、巣から抜け出せなくなる様子が目に浮かぶ。(原案の小説のタイトルとは全く別)しかしこの邦題「暗殺オペラ」、まるで閉鎖的なこの田舎町全体でオペラを演じているような、そういう気にさせる映画であることは間違いない。ベルトルッチはヴェルディが大好きだ。この映画にはヴェルディの楽曲も使われているし、シェイクスピアのオペラのオマージュといえるシーンも多い。ストーリー全体をオペラのように見せる仕掛けをしていることは間違いない。当時の訳者、山寺宏一さんに拍手を送りたい。

 そしてなんと言っても映像美である。ベルトルッチは撮影のVittorio storaro(ヴィットーリオ・ストラーロ)にマグリットの画集を見せて「こういう映画にしよう!」と言ったという。(彼はその後、3度もアカデミー賞をとったカメラマンで、「ラスト・タンゴ・イン・パリ」「1900」「ラストエンペラー」などベルトルッチと組んで多くの名作を生み出した。)感覚ではなく、かなり色彩を計算尽して撮るタイプの人らしい。かなり不気味なシーンはビビットでグロい色で表し、郷愁漂わせる(おそらくベルトルッチが田舎を思い出す感覚)の緑が豊富なシーン、そしてもう一生終わりが来ることがないのではないかと思わせる日没直後の真っ黒ではない、深いブルーのシーン(これがなかなかシンボル的である)など、まさにこれは映画表現の骨頂であると言いたい。(個人的には、殺風景な街並みと、主人公の父の不自然な英雄像のシーンとかはマグリットっぽいと思っている)そしてどのシーンで切り取っても、美しいのである。

 アリダ・ヴァリは「夏の嵐」などにも出ているヴィスコンティファミリーの一人で、先日紹介した「高校教師」でも数分だがかなり強烈な役で出ているし、「サスペリア」にも女学校の先生として出演している。歳を取ってからの彼女は、酸いもあまいも知った気味の悪い女性を演じていることが多いように思う。何か企んでそうな、あの気味の悪い感じが本当匂ってくる。


 私をドキドキさせたオープニングは、Antonio LIGABUE(アントーニオ・リガブーエ)という画家の画集をずっとバックに写している。なのでこの絵は映画のために描かれたものではないのだが、やはりベルトルッチによって緻密に計算され、映画の解釈の伏線となっている。あと途中でちょっと忘れられなくなるような、ライオンの生け捕りみたいなものが出てくる。

 現在なのか過去なのか。英雄なのか裏切り者なのか。存在するのか、しないのか。その対義語の曖昧さ、ボーダーラインはなんなのか、そんなことを考えさせられる。私はFortissimoの歌声を脳裏に響かせ、なんとも高揚しながら見終えた。

 こちらはAmazon Primeでは無いけれど、WOWOWで見れるらしい。

 しかしここであえてDVDをお勧めしたいのは、2K修復版はなんと坂本龍一のインタビュー記事掲載の冊子がついているからだ。(!)仕事を長らく一緒にしてきた(ラストエンペラーなんか出演しているわけだし)彼ならでの撮影中のレアエピソード、彼の視点などは本当に本当に面白いので是非読んでみて欲しい。

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