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詩)げんちゃんタクシーはもう運行不能です

老夫婦の姿に見入ることが最近よくあります
夫のスマホに覗きこむ妻さんとか 
マスクしているので目だけで話している姿とか
二人で公園のベンチに腰掛けて真っ直ぐ前をみてじっとしている姿とか
電車の中で学生たちに挟まれて 黙ってじっと佇む姿とか

あの頃
まだお互い独身で 
川崎で遅くなって 寮の門限ギリギリで
バスじゃ間に合わない
それで僕のチャリに二人乗り
げんちゃんタクシー出発!
川崎駅から武蔵中原までガタンガタン ゴトゴトガタガタ
飛ばして飛ばして
チャリはママチャリだし
空気はいつも抜けっぱなし。
しっかりつかまってね!って ほんとは漕ぐの必死だったんだけど
げんちゃんタクシーが好きとか言われて
漕いで漕いで

今の時代は顔の半分をマスクで覆って
話さないことが日常
スマホの画面でしか対話してない
繋がっているような いないような
会話しているような いないような
車窓に映る自分 色のない世界が流れ流れて
うまく歳をとれてないなあと思ってみたり

老夫婦の姿を
じっと見入ってしまうことがあります
その前に あの頃の僕たちが
一生懸命話をしていて
老夫婦がいることに気がつかない僕たち


今は もう僕たちも老夫婦かな
あんなふうに見えたらいいな


あの頃の僕たちに

そうそう
もう
げんちゃんタクシー
空気がぬけて
運行不能
になっています。

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