gingerpepper

#NINE STORIES #Diary

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最近の記事

水曜日の午前10時に思うこと

DIARY05  一昨日、久しぶりに山に登った。  よし、明日は山へ行こう。 彼の明るい提案に、三日間の仕事のイベントでくたくたなっていた私の体と脳が軋んだ。  とはいえ、彼の明るい笑顔を見ると断るわけにもいかず、トルコから帰ったあとは同じ休みの日でもどこかへ出掛け訳でもなかったので、承諾した。  楽しみだね、と話しながら晩ご飯を食べた。   旅行のあと、たくさんの野菜と果物でヘルシーかつ少しスリムになった私の身体も、疲れと忙しさのせいかひどいPMSに見舞われ、もの凄い食

    • 火曜日の夜 11時25分に思う事

      DIARY04  とても寒い。  朝起きてお湯を沸かし、ツボクサ茶のティーバッグをカップに入れる。いつもよりも床が冷たい。  寝ている間にいつものごとく脱いでしまったソックスは、おそらく彼の寝ているベッドのどこかに丸まっているだろう。裸足の足がひんやりと寒く、クローゼットから冬用の温かいスリッパを引っ張り出して履いた。青いチェックのスリッパは裏地がもこもこと真っ白で温かい。彼からの初めての冬のプレゼントだ。  土曜日の夜、仕事の終わりに友人のパーティに行った。早い時間からす

      • 日曜日 午後11時に思うこと。

        DIARY03  水曜日  久しぶりに友人と会った。  最後に彼女に会ったのは八月で、茹だるような暑さの中で小さな旧市街の小さなカフェでクリームあんみつを食べた。氷の入った冷たい焙じ茶が暑くなりすぎた喉にひんやりと心地よかった事を覚えている。  今日はふたりとも長袖を着て髪型も少しだけ短くなっており、会っていない期間の長さを感じた。  浅草駅はたくさんの外国人観光客で溢れかえっていて、改札を出て階段を上り、雷門辺りに着いたときは風景はとても日本なのに日本人より外国人が多

        • 水曜日の夜8時57分に思うこと 

          DIARY 02  二週間前に、雨上がりの坂道で転んだ。 ちょうど神社の縁日で、鳥居の中に入ろうとしたときだった。道路の段差にあったゴムの敷物にサンダルが滑ったのだ。薄いグレーのレギンスは左側だけ汚れ、左太もも、左肘、左腕、両手の膝は擦り切れていた。  スローモーションを見てるみたいだった。と彼が言っていた。  手水舎で両手と左肘をていねいに洗わせていただき、イカ焼きとゲソ焼きを買って神楽を観た。イザナミ神とイザナギ神の物語だった。 二週間後の夜。つまり今日。左肘はまだ痛

        水曜日の午前10時に思うこと

          月曜日の午前9時に思うこと 

          DIARY 01    アラームが鳴った。 ピピピピピピピピピピピピピピ。   手元にある携帯電話の充電器のコードを探し、手繰り寄せてアラームを止める。午前9時。そうか、今日は学校に行く日だ。  ソファから身を起こし、トイレへと向かう。  さっきまで、夢の中にいた。とても面白い夢だったのに今はもう覚えていない。何か広い部屋の中で、何人かの人がいて、何かについて皆で話し合っていて・・・何だったっけ。何かとても大切なことだったような気がする。  つい数分前まで現実だったことが

          月曜日の午前9時に思うこと 

          #眠れない夜に **********************************  五回目の寝返りをしたあと、あきらめて部屋の明かりをつけることにした。主照明では明るすぎるので、ベッドの脇のサイドテーブルの上にある、木彫りのフラミンゴのランプをつけた。フラミンゴと大きな草のような彫り物がしてあり、薄いピンクと、グリーンと、イエローでできている。  ヴィンテージの洋服なども取り扱っている、家から少し離れた場所にあるその小さな家具屋は、古いアメリカの家具を揃えてある。キッ

          ナイン・ストーリーズ Ⅸ ペッパーの憂鬱

          ペッパーの憂鬱 私はね、いつもあの人の側にいるのよ、本当は。 彼女は私を思い出しては、いつも泣いてばかりいるけれど。 彼女は私を思い出さないように、私のことを考えないようにしているの。失礼しちゃうと思わない?  そんなことをしなくても、私はいつも彼女の側にいるし、彼女の足元やお気に入りのテーブルや私の爪痕のついたソファの上で、いつも彼女と一緒の時間を過ごしているのよ。  彼女が眠る時は、自慢の長いしっぽで寝てる彼女の顔をいつも撫でているし、彼女が帰れば足にすり寄ってお帰りな

          ナイン・ストーリーズ Ⅸ ペッパーの憂鬱

          ナイン・ストーリーズ Ⅷ  泡沫のひと時

          泡沫のひと時  もう三晩も泣き続けて、いよいよ涙も枯れ果てたと思っていたのに、4晩目の今夜、また涙が溢れてきた。わたしの涙袋には、まだまだ涙が溜まっているらしい。 ティッシュペーパーは足元に丸まり、暗い部屋に溜まり続けている。 ふと壁のなかの自分と目が合った。 眼は真っ赤に充血し、顔はむくみ、涙袋がぱんぱんに腫れている。真っ白でぶよぶよと心許なく、一昔前の映画に出てきたエイリアンのようだ。 涙袋を指で押すと、止まったはずの涙がまた溢れてきた。  彼と最後に会ったのは先月

          ナイン・ストーリーズ Ⅷ  泡沫のひと時

          ナイン・ストーリーズ Ⅶ  午後

          午後  昨晩、思いついたとても良い小説の話を、朝起きたらすっかりと忘れていた。  あまりにも良い話なので絶対に忘れることはないだろうと踏み、メモを取らなかった。後悔は先に立たない。  朝からハサミに糸を巻いたり、お風呂に入ってみたり、逆立ちをしてみたりしたがどうにも思い出せない。思い出したのは、あまりにも良い話だったと言うことだけ。仕方がないので諦めて、朝食をとる事にした。  冷蔵庫を開けるとハムと胡瓜と、使いかけのトマトパサータがあった。キッチンに転がしていたゴーヤと、

          ナイン・ストーリーズ Ⅶ  午後

          ナイン・ストーリーズ Ⅴ  シルバーリング

           シルバーリング  だって私、ケイちゃんの事が好きだもん。結婚したい位好き!  咲はまだ子供だからなー。あと3キロ痩せたら考えてやるよ。  もー!すぐ子供扱いするんだから!  あはは、とケイちゃんは爽やかに笑った。  ケイちゃん。じゃあ、手、触っていい?  ケイちゃんは細い目を三日月の形にして、いいよ。と言った。  ケイちゃんの手の甲はすべすべして柔らかく、草原みたいだった。 草原みたい。 ケイちゃんは、行ったことない。と笑った。  テーブルの上の、ジェリ

          ナイン・ストーリーズ Ⅴ  シルバーリング

          ナイン・ストーリーズ Ⅵ  ダイ・インザ・ブライト

          DIED IN THE BRIGHT 緑が死んだと聞かされたのは、月曜日の午後4時を過ぎた所だった。  私は受話器を持ったままぼんやりと、二階のクローゼットの奥にかかったままの黒いワンピースの事ばかり考えていた。  去年の夏、おばあちゃんの葬儀の時に着た以来なので、クリーニング屋のビニールを被せられたままくしゃくしゃになっている筈だ。ホコリは平気かしら。匂いとか・・・  「K、聞いてる?」  隆の声で我に返った。  「○○教会だからな。仕事、はねたら迎えに行く。」

          ナイン・ストーリーズ Ⅵ  ダイ・インザ・ブライト

          ナイン・ストーリーズ Ⅳ  空と海の物語

          空と海の物語  わたしの言葉を紡ぎなさい  これは 貴方への呪縛  わたしの言葉を紡ぎなさい  これは 貴方への呪縛  波の音が聴こえる。  ゆっくりと柔らかく、ゆっくりと、優しく。  目を開けると、目の前に海が広がる。あまりにも、圧倒的で美しい、青い海。  波が立ち、きらきらと、光が溢れる。眩しくて僕は、また目を閉じそうになる。  ふいに、思い出す。あぁそうか、僕は海に来ていたんだ。 「大丈夫?」  彼女の声が聞こえる。 「大丈夫だよ。ありがとう。」  僕は答

          ナイン・ストーリーズ Ⅳ  空と海の物語

          ナイン・ストーリーズ Ⅲ 虹

          虹  「あ、虹が出てる。」  陽が言ったので慌てて外を見ると、真っ青な秋空に確かに一筋、虹が出ていた。それは色と色の境目のグラデーションまで肉眼で見る事が出来そうな、はっきりとした色彩の大きくて正しい虹だった。陽はベランダの淵に肘を付いて頬づえをついて、空に架かった虹を見ている。奥二重で睫毛の長い瞳をきらきらと輝かせながら。  「紅茶、飲む?」  うん。とぼんやりした返事が聞こえる。  テーブルに手を付いて立ち上がると、木のテーブルの淵がぎしっと軋んだ。スリッパを履き、優し

          ナイン・ストーリーズ Ⅲ 虹

          ナイン・ストーリーズ Ⅱ ワールズ・エンド

          ワールズ・エンド  タケルはHANESのTシャツを着てソファに座り、TVショーを観ている。私はソファの橋に座り、TVショーを観ているタケルの細くてきれいな指先を見ている。HANES のTシャツは身体に良く馴染んで着心地がとても良い。タケルのTシャツは小柄の私には丁度良く、ワンピースみたいになる。タケルが空のグラスを持ったまま、席を立った。  「あ!”うすはり”頂戴!」  タケルは私を少しだけ見つめ、O・Kと呟いてキッチンへと向かった。  シャラシャラシャラ。  キッチンの入

          ナイン・ストーリーズ Ⅱ ワールズ・エンド

          ナイン・ストーリーズ Ⅰ 森のなかで

          Ⅰ. 森のなかで   朝、目が覚めると、背中に白い羽が生えていた。  それは私の肩甲骨の辺りから生えているようだった。  鏡をみると、私の後ろに大きな白い羽がいた。  夢の続きかと思い頬をつねって壁に頭をぶつけてみたけれど、鏡の中には白い羽を携え、頬とおでこを赤くした自分が映っているだけだった。まるで教会のモザイク画のようだ。おそるおそる羽根を触ってみると、それは生き物のように柔らかく震えた。着ていたパジャマが羽に押されて申し訳なさそうに肩のあたりで皺だらけに留まっている

          ナイン・ストーリーズ Ⅰ 森のなかで