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期末試験

<あと5日>

 試験期間ほど憂鬱なものはない。カレンダーを見ては試験までの日数を数えてげんなりする。ただでさえ忙しい毎日だというのに、どうして定期試験などする必要があるのか。百歩譲って試験自体はいいとしよう。しかしこんなに回数が必要なのか? なんで試験直前まで部活があるんだ? この学校は頭がおかしいのか?

 今回は絶対に赤点を取るわけにはいかない。なんとしてもだ。猛勉強を積んで試験に臨まなければならないのは重々承知しているのだが、家に帰るとどうしてもだらだらしてしまう。疲労が脳を支配し、発生しかけたやる気を片っ端から潰していく。今日こそは少なくとも3時間はやるぞ、と意気込んで帰宅した今日も、夕食を済ませてからずっとテレビの前を動けずにいた。疲れと罪悪感のせいか、なんだか体調も優れない。こういう日には無理をしないほうがいい。風邪なんか引いてしまったら元も子もないし、今日はゆっくり休むことにしよう。まだあと5日もあるんだ、明日頑張ればいい。

<前日>

 試験前日の夜に毎回起こるこの現象を、なんと呼べばいいのだろう。極限まで追い詰められたときにだけ入るゾーンのような何か。どうしてもっと早く始めなかったのだと過去の自分を罵りながら、普段絶対に発揮できない集中力で暗記を進めていく。しかし、あらかた覚えただろうかという段階に至っても不安は拭えない。朝起きたら綺麗さっぱり忘れているのではないか、などと変な妄想をしてしまう。

 あんまり根を詰めすぎると明日のパフォーマンスに影響が出るし……などと思い始めたら速やかに寝るのが吉だ。そう考えている時点ですでに集中は切れている。よし、あとは神に祈るのみだ。ぐっすり寝よう、と布団に入ったもののすぐには寝付けないのもいつものことである。

<当日>

 試験開始までは落ち着かない。教科書とノートを開いて見直してみるが、この時間が試験に役立ったことはこれまで一度もなかった。今から新しいことを覚えることなど不可能なのだ。とはいえ他にできることもないのでそわそわしながらページをめくる。

 チャイムの音とともに、期末試験が始まった。目の前に座る生徒のシャープペンシルの音に緊張感を煽られ、周りに悟られぬよう呼吸を整える。誰かが消しゴムを落としたが、あえてそちらは見ない。何度か残り時間を確認し、全体のペース配分を考える。大丈夫だ。いつも通り。すべてを出し尽くしたところで、ちょうどチャイムが鳴った。

<結果>

「山田先生。この間の期末試験の結果です」

 手渡された結果通知の総合点の欄を見る。42点。赤点は回避したが、決して良い点数とは言えない。生徒ひとりひとりからの採点結果とコメントにも目を通していく。私にとってはいつも、一番見たくない欄だ。

・55点。ほとんど教科書とか手元のノートを見ずに授業を進めていたので、ちゃんと内容が頭に入っているんだなと感じた。信頼できるけど、特に授業が面白いわけではない。
・38点。授業が単調。板書はきれいだけど、写すだけになってしまっている。
・40点。事前に準備してきたことをただ話しているだけに見えました。
・60点。知識はあると思うし、教えるのもうまいと思う。ただ授業中に生徒に問題を出題するのは時間の無駄だと感じた。

 胃がキリキリと痛む。いいコメントをくれている生徒もいるにはいるが、批判的なコメントばかりがどうしても目についてしまう。私の欠点を指摘するひとつひとつの言葉が、私の弱気な心を餌にしてぶくぶくと膨らみ、私をすっぽり覆い隠して押し潰してしまう気がした。

 もう一度手元の結果通知に目を落とす。「0点」という文字が見えてしまって、一瞬視界から色が消えた。

・0点。陸上部の顧問なんだからもっと痩せるべき。

 結果通知が歪んで見えた。顔を上げると、校長の顔も歪んでいた。

「決して安くはない学費を頂戴しているんです。ぜひ、それに見合う授業を提供してくださいね。生徒様ファーストで行きましょう。でないとほら、経営が成り立ちませんから……」

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